ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(短編小説の色々なカタチ!)コラム/ショートショートのタイプ(後編)

ショートショートのタイプ(後編)

ショートショートのタイプ分けですが、今回は主に『物語を展開する人数』に対するものになります。

『応用』として小説以外、『ブログ』等の記事を想定した事柄についても書いてみました。

 

 

【CONTENTS】

 

一人で展開するタイプ

 

主人公の行動によって展開します。描写範囲が限定される場合があり、構成を工夫する必要があります。

作品例(あとがき)全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

【構成】

場面転換がない場合は、主人公は移動せずに物語を進める事も可能です。

ただしその場合、他の登場人物の動きは、主人公と接触した人物からの伝聞と言う形になる為、インパクトが弱くなる可能性があります。

 


【応用】

通常、ブログはこのタイプが最も多いと思います。ブロガーさんが元となる記事について色々と情報を展開していく訳です。

 
ブログの書き方などで、記事についての展開方法などがよく書かれていますが、これは小説の起承転結とよく似ているのではないでしょうか。

 
文章中にこの様な展開がある事によって、同じ内容でも読まれやすい記事と、読まれにくい記事に分かれてしまう訳ですね。

 

 


二人の掛け合いが主なタイプ

 
主人公を含む主要の二人によって展開します。事情を知る人と、それを聞く人に分かれて物語が進行します。

作品例(五点着地)全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com


【構成】

多くの場合、物語の中身を知っている人物が、それを知らない人物に対して説明するような展開になります。

これは、必ず一方が多く知っている必要はなく、双方が同じ位の割合で相手に情報を伝え合っても問題ありません。

 
伏線の張り方としては、一人が間違った情報を信じて行動する事で、自然な流れが生まれてミスリードが確立される訳です。

 


【応用】


吹き出しなどを使って、二人が会話をしながら記事を進めているタイプがこれにあたると思います。この場合、一人目が教える側で、二人目が教わる側と言うような役割で、記事が進むのが一般的ではないでしょうか。

 
この場合、実際に記事を書いているブロガーさんは、そのネタについて全てを知っている訳ですから、いかに教わる側の立場で書けるかがポイントになると思います。

 

 

 

 

 


三人以上で展開するタイプ

 

主人公を含む主要の二人以上の人物が登場します。広範囲の展開が可能な分、各人物の行動を理解しやすく書かなければ、混乱を招く可能性があります。

作品例(GIFT)全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

【構成】

主要となる人物を、それぞれ展開に必要な場所に配置し、それを少しずつ伝えていくと言う形での展開が可能です。

 
物語の展開は比較的書きやすいタイプです。ただし、登場人物が多いので、誰が何をしているのか理解しやすく書く工夫が必要です。文中の不要な部分はカットして、シンプルな表現にする方が良いでしょう。

 
各人物を区別しやすい様、名前は音の響きや文字数に変化をつけると良いと思います。

 

名前の付け方に関する記事はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

【応用】

 
例えば旅行の記事などで、複数の人について書く場合がこのタイプになると思います。可能であれば、それぞれの人達の好みや習慣、その他の行動等がバラバラな方が面白いと思います。

 
周囲の人から理解されない様な行動をとる人が居て、よくよく本人に話を聞くと『ああ、なるほど!』となる様なエピソードがあれば、面白いのではないでしょうか。

 

そして最後に

 

小説における書き方等で、特に『起承転結』は全ての書き物に通じる部分があると思います。

特に意識せず書いてしまうと、文章はリズムを失い、読む人の集中力にも影響すると思います。頑張って書いた文章なので、多くの人に読んでもらいたいですよね。

 

 

次回は、ショートショート『挨拶の品』の創作プロセス公開です。

 

 

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(解説から学ぶ小説書き方ブログ)今回の作品/GIFT、コラム/ショートショートのタイプ(前編)

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GIFT

平日の夕刻に宅配便で夫宛の荷物が届いた。送り主は妻が名を知る女。冷めかけた夫婦関係の中、真面目だった筈の夫に突如湧いた浮気の疑惑。妻はある行動に出るが……。

ショートショート『GIFT』全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 


【CONTENTS】

 


テーマからの発想

 

今回のテーマは『贈り物』です。

贈り物と言えば、ストレートにお歳暮やお中元、または誕生日のプレゼントなどが思い浮かびます。

ちょっとひねりをきかせて、宅配便で何か怖いものを送ると言うような話も面白いかもしれません。

 

 

発想からのキーワード選出

 

プレゼント、贈答品、お中元、お歳暮、宅配便

 


POINT1:タイトル

  

タイトルは『GIFT』です。シンプルですが、実は深い意味があります。

 

 

POINT2:書き出し

 

 見覚えのある女の名で夫あての荷物が届いたのは、火曜日の夕方の事だった。アサミはその事が無ければ、今日が何の日か気付かなかった。夫であるタツヤの誕生日だ。

 

冒頭から何やら怪しい雰囲気でスタートさせました。この時点で、すでに夫婦仲があまり良くないと言うことを表しています。

 

 

 

POINT3:ユーモア

  

 夫にまるで興味のない妻と、そうでもない夫と言う構図で物語を描いています。

この話の展開としては、これ以降の夫に対する妻の変化してゆく対応が伏線になっているのですが、そのあたりを楽しんでいただけるのではないかと思います。

 

 

POINT4:前半のストーリー

 

宅配便で夫宛に、見覚えのある名前の女から荷物が送られてくる。

 


女からのプレゼントがネクタイだとわかるが、夫はそのネクタイを次の会議の時に付けていくと言う。妻は夫と女との浮気を疑い始める。

 

 

POINT5:展開〜オチ

  

夫に対し既に興味を無くしかけていた妻だったが、浮気相手と思しき女の出現によって、夫を奪われまいと巻き返しを図ろうとする。

 

妻の冷めつつある態度に気付いていた夫は、なんとか二人の仲を元に戻そうと、知人の女性社長と共謀し、妻に嫉妬心を抱かせるよう仕掛けた。

 

  

総合的なポイント

 

今回の作品でオチとも密接な関係があるのですが、この夫婦がスタート段階でどのような状態なのか、先に読者の方に伝えておく必要があります。

 

最初の時点であまり良くなかった夫婦関係が、更に悪化するかのような物語の進め方が必要です。それが悪い方向であればある程、オチの効果が現れる訳です。

 

 

コラム/ショートショートのタイプ(前編)

 

ショートショートには色々なタイプがあります。それは主に展開の部分についてなのですが、実際の物語を例にご説明したいと思います。

 

 

【一人で展開するタイプ】

主人公によって展開します。物語が現在であれば、主人公が動く事によって他の登場人物を描写する形になります。又、物語が過去であれば、主人公の回想なども含めた描写になります。視点などの問題から、場合によっては他の登場人物が描きにくく、構成を工夫する必要があります。

作品例(カメラがある時)

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

【二人の掛け合いが主なタイプ】

主人公を含む主要の二人によって展開するタイプです。他の登場人物は主に二人の掛け合いによって描写されます。

伏線は二人の内、一人がミスリードするパターンが書きやすいでしょう。

作品例(ハロウィンの夜) 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

【三人以上の人物で展開するタイプ】

主人公を含む主要の二人以上の人物が登場します。広い範囲での展開が可能な分、視点を含めた描写は、読者の方が混乱しない様、理解しやすく書く必要があります。推敲の際は、『分かりやすさ』に重点を置いた方が良いと思います。

作品例(あなろぐ) 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

さらに詳しい方法については、 次回、ショートショートのタイプ(後編)でお話したいと思います。 

 

 

 

 

 

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(初心者必見! 小説の書き方のルール)番外編/投稿済み作品集(1)

投稿済み作品集(1)

 

この作品集は小説コンテストサイト『時空モノガタリ』様に投稿、掲載されていた物ですが、当ブログでも閲覧出来る様、掲載させて頂いているものです。

後に当ブログにて、創作プロセスを順次公開してゆきます。

 

【CONTENTS】

 

 

 

GIFT

 

  見覚えのある女の名で夫あての荷物が届いたのは、火曜日の夕方の事だった。アサミはその事が無ければ、今日が何の日か気付かなかった。夫であるタツヤの誕生日だ。

 結婚して九年目だった。お互い二度目で子供は居ない。日々を何となく過ごし、二人で出かける事も殆ど無くなった。それはタツヤが転職した事で、出費を抑える必要が出来たからだ。結婚して四年目の事だった。

 転職後、タツヤの仕事は順調だったが、以前ほど収入は見込めないし、昇給も期待できなかった。

 タツヤは女性を惹きつける魅力の持ち主ではない。しかし、賭け事や女性問題が無く、経済面と精神面の安定が再婚時の決め手だった。

 今は経済面が不安定になった。大事な要素の一つが欠けたのだ。この先、タツヤと一緒に居て大丈夫なのかと思う。

『空気の様な存在』。いい意味ではなく、悪い意味でタツヤはそれだった。アサミはタツヤから離れてゆく心を感じずにはいられなかった。

 アサミはパートに出ることにした。久々の勤めは順調だった。仕事を覚えるのが早いと褒められた。しかし一週間が過ぎた頃、周囲とのズレを感じ始めた。

 周りは同じような年頃の子供を持つ親ばかりで、共通の話題が無かった。子供が欲しかったアサミには辛い事だった。コミュニケーション不足は、居場所を徐々に狭くした。

「無理に勤めなくてもいいさ。俺が頑張って稼ぐから」

 タツヤの言葉を有り難いと思う反面、勤めに出た理由を考えると複雑だった。悩んだ結果パートを辞めた。

 アサミにとってタツヤの魅力は真面目さだけになった。少なくとも女性関係の問題は無い事を願った。しかし、最近になって女の影が見え始めたのである。

 女はタツヤの会社の客である。小さな会社を経営しているようだ。

「営業担当でもないあなたがどうしてその女と会わなきゃいけないの?」

「さあ、それは向こうが指名してくるそうだから……」

 何とも曖昧な返事だった。アサミが疑うのも無理はない。女とは既に二回も会っている。それも、夜の時間帯に二人きりでだ。

 その矢先に届いたのが女からの贈り物。しかもタツヤの誕生日に。

 アサミは女からの贈り物を睨みつけたまま、タツヤの帰りをじっと待った。

「ただいま」

 ほどなくしてタツヤが帰って来た。何故か、いつもよりも帰宅時間が早く、どこか様子が変だ。何かやましい事があるに違いない。

「それ、俺あての荷物かな?」

 まるで届くのを待っていたかの様、タツヤはそれを持って隣部屋へと消えていった。

 しばらくして戻ってきたタツヤは「先に風呂に入るよ」と、アサミの返事も聞かずに行ってしまった。

 隣部屋にはスーツが用意してあった。見たことのないネクタイも一緒だ。女からの贈り物はこれに違いない。滅多にスーツを着ないタツヤは、いつも早めに準備をする。シャツとネクタイをセットして。

 タツヤが風呂からあがるなり、アサミはネクタイの事を聞いた。

「ねえ、近々会議でもあるの? そこにあの女からもらったネクタイをつけて行くわけ?」

「ああ、そのつもりだけど。でも、俺が着る服に興味持つなんて珍しいね」

「そうじゃなくって、とにかくアレが嫌なのよ!」

 アサミは次の日、百貨店に来ていた。開店とほぼ同時だった。

 女のネクタイは、それほど高い物ではない。経営者のくせにお金を渋るなんて、タツヤへの想いも知れたものだ。

 アサミはそれの三倍の値はするというブランドから、タツヤ好みのネクタイをじっくりと選んだ。お金に余裕も無いのに、何故こんな事をしているのか、自分でもよく分からなかった。

 アサミはその日の夕方、買ってきたネクタイと、手間をかけた料理をテーブルに並べ、タツヤの帰りを待った。

「あれ? どうしたの、これ」

 帰ってきたタツヤは、驚いて声を発した。

「あら、あなたの誕生日じゃない」

「え? 誕生日は昨日じゃ……」

「おめでたい事は後でも良いっていうじゃない? 一日長く生きたのよ。早く着替えて、ここに座ったら?」

 何年振りだろうか。こんな感じで声を掛けたのは。結婚当初は、こんなやり取りもあった筈だ。その日は久々にワインを開けた。

「あの女には、もう会わないで欲しいわ」

「わかったよ」

 タツヤはアサミの選んだネクタイで会議に出るそうだ。女からの贈り物はいつか処分してやろうとアサミが持っている。

 ゆったりとした時間が流れ、結婚当初に戻ったような気分になった。

『空気の様な存在』

 普段あまり意識しないが、無くてはならない大事なもの。アサミは改めてタツヤの事を想った。

 翌日、タツヤは例の女社長と一緒に居た。

「ねえ、どうだった? 私からの贈り物」

「お陰様で、上手くいきました。結婚当初のような感じです」

「でしょ? 女って他人に奪われると思うと、結構燃え上がる人が多いのよね」

 

 

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挨拶の品

 

  半年ほど空いていた隣の部屋に、新しい住人がやって来たのは、日曜の午後の事だった。久々に私の部屋のチャイムが鳴ったのだ。

「ごめんください」

 ドアを開けて声の主を確かめてみると、それは二十代後半と思しき綺麗な女性だった。

「すみません突然。私、隣に引越して来た者なんですが、ご挨拶にと」

「ああ、そうでしたか。それはご丁寧に」

 最近では引越しの挨拶も珍しくなった。特にこのマンションは、ワンルームの割に広めではあるが、住人の殆どは単身者のようなので、おそらく挨拶に回った者も少ない事だろう。

 女性は私と短い挨拶を終えた後、同じフロアにある他の二軒も訪ねたいと言い出したので、一軒は会社の事務所に使っている様だし、残りの一軒も滅多に住人を見かけないので、挨拶は要らないのではないかと伝えた。

「そうですか。どうもすみません、ご親切に」

 そう言って軽く微笑む女性の目は、とても優しい印象だった。挨拶の品として、私はのし紙付きの石鹸を受け取った。

 それから数日後、仕事帰りの私は女性と通路ですれ違った。その隣には男性の姿があり、女性が軽く会釈した後、二人は部屋の中へと消えていった。その時の雰囲気からして、二人は恋人同士なのだろうと、私は思った。

 このマンションは三階建てで、ワンフロアが四軒、全戸十二軒の小さな建物だ。最上階にあるこの部屋は、階下の音は上がってこないが、隣同士は多少音漏れがあるようだ。これは以前隣に居た住人が、音楽を結構な音量で聴いていて、それが時々聞こえてくる事があったので知っていた。

 数日後、夜中に隣から大きな声がした後、乱暴にドアを閉める音、そして大股で歩く靴音が廊下に響き、それは徐々に遠ざかっていった。隣の二人は喧嘩をしたに違いない。

 次の日は平日だったにも関わらず、帰宅後しばらく経ってから、隣の女性が訪ねてきた。

「昨日はすみません。とてもうるさかったんじゃないですか?」

「いいえ。特に気にならなかったですよ」

 音漏れに気付かないフリも出来たのだが、いずれ分かる事だったので、正直に答えた。

「とにかく、すみませんでした」

 もう一度頭を下げた女性は、私に菓子包みを差し出した。それは引越しの時よりも少し大きい物だった。

「なんですかこれは?」

ちょっとした喧嘩の物音ぐらいで大袈裟だと思ったので、あえてそう聞いた。

「ご迷惑をおかけしたので、お詫びの品です」

「そんな。これぐらいの事で……」

「いえ、私の気が済みませんから、どうか受け取ってください」

 その言葉におされるまま、包みを受け取った。女性が帰ったあと中身を見てみると、高級な洋菓子のセットが入っていた。こんな時に単身者に渡すには、あまりにも高価な物だった。

 さらに数日後、今度は夕方にドスンと大きな音がして、同時に少し床が揺れた気がした。

 声は何も聞こえず、隣の女性も訪ねては来なかった。きっと家具でも動かしている最中に誤って倒しでもしたのだろうと私は思った。

 しかし、内心女性の訪問を期待している部分が少しあった。綺麗な人に会えるのは嬉しい事だ。だからと言って日常の物音ぐらいでお詫びに来る筈も無く、これは我ながら馬鹿な考えだと思った。

 次の日、仕事から帰ってしばらくすると、結局女性はやって来た。手に持っていたのは、前回と同じ高級洋菓子の包みだったが、更に少し厚みを増している様に見えた。

 正直なところ女性の訪問は嬉しかったが、過剰な気遣いは遠慮するべきだと思った。

「昨日は済みませんでした。とても大きな音を立ててしまって」

「そんな、全然気に……」

「いいえ! 絶対に聞こえていた筈です!」

 私の話を遮って、女性は大きな声で言った。

 その目には最初の時に見た優しさはなかった。

「いいんです、仕方ありませんから。聞こえてしまったものは。でも、もう大丈夫です。大きな声も物音も、今後は一切出ませんから」

 私に話す隙を与えないまま、女性は菓子の包みを押し付けて帰って行った。

 以前にも増して気になった包みを開けてみると、前回と同じ菓子のセットの底の部分から、封筒に入ったお札の束が出てきた。

 私はしばらく思案した末、女性が渡した菓子包みの本当の意味を悟った。

 その日以来、大きな声も物音も無くなり、女性も全く訪ねて来なくなった。その後は何の変化も無い平穏な日が続いた。

 唯一、変わった事と言えば、女性が数回に分けて大きなスーツケースを運んでいた事ぐらいだ。

 

 

 

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帰れない

 

 「両親はもう居ないの」

 初めてケンイチに会った時、ミサキはそう話した。

 本当の事は客であるケンイチには勿論の事、周囲の誰にも伝えていない。夜の世界に生きていれば不思議な事ではなかった。

 高校生の頃、ある時期を境に両親と不仲になり、卒業を待たずして家出した。

 ミサキが住んでいたのは、他人にプライベートが簡単に知れ渡る様な小さな町だった。

 家出する前には『不良』や『非行』などと呼ばれる行為は一通りやった。

 その後すぐに都会に出て色んな仕事をやってみたが、自分には夜の仕事が一番合っていた。

 今の仕事は五年になる。出会いの様な事は一度だけあって、偶然にも同じ様な境遇で育った男性と同棲したが、半年ほどで別れた。

 ケンイチが初めて店に来たのは、会社の同僚と一緒だった。あまり慣れていない様子が新鮮で印象深かった。

 それから数日後、ミサキ目当てでケンイチが来店した。一人だったのは意外だったが嬉しかった。その後は度々来店する特別な客になった。 

 ケンイチから何度か食事に誘われ、外で会うようになった。ミサキはケンイチと話していると、とても楽しかった。ケンイチは真面目で純粋な人だ。二人の気持ちは既に恋人同士だったが、その関係はまだ深くなかった。

「ミサキちゃん。僕は君の事を真剣に考えているんだ」

「ええ、それはとても嬉しいわ。でも私達は、まだ……」

「ああ、そういう話? 僕は君の事をとても大事に思ってるから、そんな事は結婚してからでいいと思うし」

「結婚? それはもっと早いわ。だって私達まだ知らない事も多いし。それに……。結婚なんて、乗り越えないといけない大きな壁があるわ」

 ケンイチはその言葉を聞きながら、ミサキの目をじっと見つめて言った。

「じゃあ、先ずは君の両親に会いたい」

「え? 両親はもう居ないって……」

「ちゃんと居るんだろ? 本当は。さっき壁があるって言ったじゃないか」

「ああ、それは……」

 真っ直ぐなケンイチの目には、全て見透かされているような気がした。嘘はつけない。本当の事を話すべきかと少し迷った。

「ごめんなさい。両親はちゃんと居るの。でも、すごく田舎の町だから」

「そんなの気にしなくていいよ。とにかく会ってみたいんだ」

「分かったわ。近々実家に連絡してみる」

 ケンイチの熱意にミサキの心が動いた。

 何年間も音信不通だった自分を、母は受け入れてくれるのか。父はどうなのか。考えれば気は重くなる一方だった。

「僕だって長らく電話しなかったけど、親なんて声を聞けば、嬉しくなるもんだよ」

「そうかしら……」

 ケンイチの言葉に強く後押しされる形でミサキは実家に電話した。

「ああ、母さん……」

 ミサキの予想に反して、母の反応はとても良かった。

「ごめんね、母さん」

「いいのよ、謝ったりしなくって」

 電話の向こうで喜ぶ母の顔が目に浮かんだ。やはり会いに行こうとミサキは思った。父は不在だった。母から上手く話してもらった方が良さそうだ。

 長い期間、連絡出来なかった訳を一つずつ話していった。母は『うんうん』と、優しい声で応じてくれた。そして全てを受け入れてくれた。ケンイチの事を話すと、少し驚いていたけど、しばらく後に『わかった』と返事した。先ずは両親と会おう。ケンイチの事はそれからだ。

 以前の同棲相手は境遇が同じだったが、ケンイチは若い時代を普通に生きてきた人だ。ミサキを受け入れられるだろうか。一緒に暮らせるなら理想的な話だが。

 数日後、ミサキは休みを取って実家に帰った。すっかり変わった自分に母は少し戸惑った様子だった。

「あら、キレイになったわね……」

 父は今日も不在だと言うが、実は会いたくないのだと思う。

「あの部屋はあなたが出て行った時のままにしてあるの。もちろん掃除はちゃんとしてるけどね」

 母に促されて自分の居た部屋へと向かった。

「部屋の中って何も変わってないの?」

「そう言えば……。写真が一枚増えてるわね。近所の写真屋さんに頼んで、あなたが写ってるのを大きく伸ばしてもらったの。机の上に飾ってあるわ」

 かつてミサキが学生時代を過ごした部屋に入ると、母が言ったように直ぐに目に付く場所に写真が飾ってあった。高校の入学式の後、学校の近くで母が撮ったものだ。この頃はまだ両親との仲がそれほど悪くなる前だ。ちょっとした事がきっかけで、徐々にミサキの生活は乱れ、ついには家を出る事になった。

 部屋のドアには大きなキズが残っている。あれはミサキが怒って物を投げつけた跡だ。両親もこの家もミサキの全てを知っている。ここに来れば全ての過去を知られてしまうのだ。

 やはりケンイチを連れてここには帰れない。ミサキはもう一度、母が飾った高校生の頃の写真を見た。

 そこには学生服を着た、かつて男子高校生だった頃の自分が居た。

 

 

 

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(小説でのリズムのいい文章の書き方)コラム/文章のリズム(後編)

文章のリズム(後編)


【CONTENTS】

  

『例文/ショートショート(アイちゃん)より』↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

反応による感情

 

他者に対してとった態度によって、本人の感情の状態を描く事が出来ます。

それは笑ったり怒ったりと言った直接的な表現ではなく、感情を表に出さない動作などによるもので、これは全体的なものとして現れます。

 「アイちゃん」

 小学生ぐらいの女の子が声をかけてきたので、私はニッコリと微笑んだけど、その後は何もしなかった。そもそも『アイちゃん』は、私の本当の名前ではない。

 

●女の子に対するアイちゃんの反応は、実にあっさりしています。これは女の子がパンフレット配布の対象外で、特に何かする必要が無い為です。

この様な場合、一連の動作を句点を使わず読点のみで区切って一文で書きます。

 

 

【リズムを変えた場合の例】

 「アイちゃん」

 小学生ぐらいの女の子が声をかけてきた私はニッコリと微笑んだでも、その後は何もしなかった

 そもそも『アイちゃん』は、私の本当の名前ではない。


●文章のリズムが少しゆったりしましたね。その分、あっさりした感じも和らぎました。しかし、そうすると『そもそも』以降の文章に違和感が出て来ます。文章の繋ぎとしてしっくり来ないので、『そもそも』を抜く等の、修正が必要になります

 

 


興味と緊張感


人が何かに興味を示したり、置かれている状況に対し緊張している場合も、それは微妙な動作に現れます。その多くは動作から動作へのタイミングの部分です。

 「アイちゃんかあ

 でっぷりとお腹の出た中年男性が呟いた後、私の前で立ち止まる。ジロジロと顔を眺めた後、ゆっくりと名刺を所定の場所に差出した。受け取った名刺を直ぐにスキャンするのも私の仕事だった。

 

  ●中年男性はお腹が出ていて、動きが少しスローなイメージで描いています。

セリフ自体をこういう風に書くことで、その動きを表している訳です。

この男性は、実際に企業からの訪問者として来ているのですが、半分は興味本位の部分があります。

この男性がなぜジロジロと見ていたかという事は、オチで明らかになる訳ですが、ここでは伏線の一つとして書いています。

 

立ち止まった動作を『立ち止まる』としているのは、お客さんによって対応を変えなければいけない、アイちゃんの緊張感を表現しています。

こうする事によって、それ以降の動作が一連のものとして流れて行くのです。

 

 

【リズムと人物像(スローでない人)を変えた場合の例】

 アイちゃんか……

 中年男性が呟いた後、私の前で立ち止まった。ジロジロと顔を眺めた後、名刺を所定の場所に差出した。受け取った名刺を直ぐにスキャンするのも私の仕事だった。

 

●もう少しスリムな男性が、普通の早さで動作しているイメージになりました。アイちゃんの緊張感も無くなっているのが分かります。

 

 

 

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他者の反応による自身の状態

 

他者がとった行動によって、自身がどう映っているかを想像する事が出来ます。

通常は一連の動作である筈の中に、リズムの乱れが生じた場合です。

「ご来場いただきありがとうございます。こちらが弊社のパンフレットでございます」

ふむ……。ありがとう」

 そう言いながら、中年男性はもう一度私の顔をじっと眺めてから去って行った

 パンフレットは一般客なら『総合』のみ、既存客なら『新製品』のみ、新規の企業なら両方を渡す決まりになっている。

  

●中年男性のセリフですが、パンフレットを受け取った後に少し間があります

これは男性が製品自体にはあまり興味がなかったと言うことを表しています。

それは、パンフレットを受け取る段階では時間の流れがゆっくりになり、しばらく眺めた後、すぐに立ち去っています。

これは興味が製品ではなく、他のことにあった事を表しているのです。

 

リズムによって、登場人物の心理状態を表すことも可能です。

通常、読者の方は読んだ文字で物語の状況を把握しますが、同時に文章のリズムによって、その雰囲気を感じ取っているのです。

 

 

 【他者の反応を変えた時の例】

「ご来場いただきありがとうございます。こちらが弊社のパンフレットでございます」

ふむ、ありがとう」

 そう言いながら、中年男性は去って行った

 パンフレットは一般客なら『総合』のみ、既存客なら『新製品』のみ、新規の企業なら両方を渡す決まりになっている。

 

●中年男性は製品にもアイちゃんにも、あまり興味がない感じになりましたね。こうなると、オチへの伏線も無くなったに等しくなる訳です。

 

 

ショートショートの書き方』を、作家の視点で詳しく『超解説』‼

 

 

興味の強さ

 

文章の語尾の処理によって、意味の強さや重さにも変化が出ます。例えば一つの事柄に対して、その人が持つ重要度の違いなどです。

   この仕事もすっかり慣れたが、やはり気になるのは『アイちゃん』だ。私の本当の名前ではなく、愛称? ニックネーム? まあ、そんなところだ。これだけ毎日この名前で呼ばれていると、本当の名前を忘れてしまいそうになる。

  

●アイちゃんが気になっているのは『アイちゃん』と呼ばれている事であり、それが『愛称』かどうかについては興味がありません。そして、もっと重要なのは『本当の名前を忘れてしまいそうになる』事です。

 
この場合、重要な事は長く、そうでない事は短く書く事で、重要度に差をつけた表現をする事が出来る訳ですね。

 

 

【重要度を平均化した場合の例】

この仕事もすっかり慣れたが、気になるのは『アイちゃん』だった。私の本当の名前ではなく、愛称かな? ニックネームなのかもしれない。 

これだけ毎日この名前で呼ばれていると、本当の名前を忘れてしまいそうになる。

 

 

オチの処理

 

ショートショートの場合『オチ』はとても重要です。様々な伏線を張って、最後の数行で『ネタばらし』となる訳ですが、『ネタばらし』がとても短いのは理想的で、とてもスマートです。

しかし、全ての作品がその様にかける訳ではなく、今回の『アイちゃん』は、ネタばらしに多くの文字数を必要とするタイプのお話です。

「HP-04S」

 一瞬、何の事だか分からなかった。

「HP-04S!」

 人型パンフレット配布ロボット、四号機スペシャ。顔には人工皮膚を用いて、豊かな表情を作る事が出来る。最新の人工知能を搭載し、記憶・判断・学習において、もはや人間に迫る能力を持つと評される。

 所定の位置に置かれた名刺を自動でスキャンし、データベースと照合する機能も新たに追加され、パンフレット配布だけの集客ロボットから、データベースを用いた顧客管理やパンフレット配布の絞り込みによる経費削減など、付加価値を生み出し多くの予約注文を抱えている。

「HP-04S!!」

 

●アイちゃんの持つ機能を淡々と説明しているのですが、あえて読者の方が直ぐに理解がしづらい様に書いています。その方法として、

概略 → 特殊機能 → 市場でのポジションと進めていますが、これが『アイちゃん』である事を徐々に明らかにする為です。そして、最終的には『アイちゃん』こそが製品であり、会場でデモンストレーションを行なっていたのだと分かる訳です。

 
では、お腹の出た中年男性は何故来たのか? そう、名刺のスキャン機能を試したり、アイちゃんの表情を確認したかったのです。だから、じっと見ていたんですね。

 

 
【良くないオチの明かし方】

 「HP-04S」

 一瞬、何の事だか分からなかった。

「HP-04S!」

 アイちゃんは人型パンフレット配布ロボットの、四号機スペシャルだった。顔には人工皮膚を用いて、豊かな表情を作る事が出来る。最新の人工知能を搭載し、記憶・判断・学習において、もはや人間に迫る能力を持つと評される。

 所定の位置に置かれた名刺を自動でスキャンし、データベースと照合する機能も新たに追加され、パンフレット配布だけの集客ロボットから、データベースを用いた顧客管理やパンフレット配布の絞り込みによる経費削減など、付加価値を生み出し多くの予約注文を抱えている。

「HP-04S!!」

 

 ●先にネタをばらしてしまっているので、残りの数行は詳しい説明になってしまいます。伏線からのオチの説明としては問題ないのですが、それでは単なる伏線の回収作業になってしまい、物語の面白さは半減します。

 

人型パンフレット配布ロボット、四号機スペシャ

とだけ書くと、一瞬なんの事だかわかりません。先ずはこのキーワードだけを読者の方にインプットしてしまう訳です。そして、後の文章によって詳細を明らかにしてゆく訳ですね。

 

所定の位置に置かれた名刺を自動でスキャン

そして、この様な情報も盛り込んでゆく事で、これが『アイちゃん』の事だったと言うのがはっきりと分かってくる訳です。

 

小説に限らず、どんな文章でも句読点の位置や数量、その他三点リーダー『……』も有効な方法ですので、上手く活用してみられてはいかがでしょうか。

 

 

次回は、ショートショート『GIFT』の創作プロセス公開です。

 

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(初心者必見! 小説の書き方のルール)番外編/創作プロセス公開済み作品集(4)

創作プロセス公開済み作品集(4)

この作品集は既に創作プロセスを公開したものですが、当ブログでも作品を読んでいただける様に編集したものです。

 

【CONTENTS】

 

 

カメラがある時

 

 あの時カメラがあったらって、私は本当にそう思うんですよ。

 え、何の話かって? ああ、以前にこの辺りで起きた殺人事件の話ですよ。知りませんか? そうですか。じゃあ、お話して差し上げましょう。

 ある日、二人の男が喧嘩になって、その挙句に一人が殺されたんです。でも犯人は捕まらないまま、迷宮入りになって……。

 この事件は証拠が殆ど無かったそうです。とても人通りが少ない場所なんで、なかなか有力な情報が得られなかった。でも事件から二週間が経った頃、目撃者がやっと一人だけ現れたんです。ところが、その目撃者の証言が曖昧でね。だから、あの時カメラがあったら、色んな人の人生が変わってただろうなって、私は思うんですよね。

 スマホですか? とんでもない。まだ普通の携帯電話すら世の中に無かった時代の話ですよ。だからさっきからカメラがあったらって言ってたのは、そういう意味なんです。

 勿論、そんな時代の話だから、カメラは当然デジタルじゃなくって、フィルムを入れるヤツですよ、先に言っておきますけれど。

 ああ、それは言わなくても分かりますって? そりゃ、失礼しました。ちなみフィルムは白黒じゃなく、カラーの方で。それも分かってるって? そうですか。

 アハハって、あなた随分笑ってますけどね、これってこの事件ではとても重要な事なんですよ、実は。

 カラーフィルムって、結構前から世の中にはあったんです。勿論、この事件の時にもね。

 最初にカメラって言いましたけど、カラーフィルムも一緒に無ければ意味がないんです。何故かって言うと、色が違ってたんだなあ、色が。目撃者の証言と、実際に着てた服の色がね。

 この話って初夏の出来事だったんですけど、事件当日のその時刻は既に空がもう明るくて、犯人の服の色なんて誰が見たって間違う様な事じゃなかったんですがねえ。

 オマケに、大体の身長の事も話したそうなんですけど、いい加減だったみたいで。これじゃ何のための証人だか分かりゃしないですよね。そう思いませんか? お陰で無関係な人が、何人も取り調べ受けたって話を聞きましたけどね。だからそこにカメラがあって、ちゃんと写真でも撮ってりゃ、間違う事なんて無かったろうし、犯人だって逮捕出来たと思うんですよ。

 でもね、もう手遅れなんです。この事件は、既に時効が成立してますから。

 それにしても、人の記憶って曖昧なもんですよね。特にこういった特殊な状況の場合には。テレビの番組でそんな事言ってましたよ。ナントカって名前の教授が。ほら、あの有名な教授の事ですよ。あれ? 誰だっけな? 私の記憶も曖昧だな。アハハ。

 そうそう、肝心な喧嘩の原因ですがね、目が合ったのどうのって、些細な事らしいですよ。でも、最初に手を出したのは被害者の方だったんです。だから犯人の方も、それで頭に来ちゃったんでしょうね。口喧嘩だけで済んでりゃ、殺人事件なんかにならなかったのにね。

 その後二人は殴り合いになった。素手だったら被害者の方が強かったでしょうね。なんせ体格が良かったから。筋肉質だったし。

 だけど実際は違ってた。たまたまあったんだよね、凶器になりそうな角材みたいなの。犯人はそいつを振り回して被害者を殴った。思いっきり、何度も何度も……。

 怖かったんだよ、きっとね。相手が強そうだったから。大体、一発でも殴られりゃ、相手が強いかどうかって分かるでしょう?

 必死だったんだよ。とにかく、このままじゃやられちゃうって。だけどやり過ぎだよね。相手は死んじゃったんだから。

 正当防衛? 今回のケースは無理だろうね。だって、防衛にしたって過剰だし、殺意もあっただろうし。角材で威嚇するだけでも良かったのに、興奮してやり過ぎたんだね。

 大して強くもないのに、闘争心だけは人一倍激しいもんだから、それを自制出来なかったんだよ。だから、殺すまでになっちゃった。

 貴方よくそこまで知ってますねって?

そりゃそうですよ。だって、喧嘩の相手は、この私だったんだから。

 あれ? もう行っちゃうんですか? ゆっくりしていけばいいのに。

 私達がこの場所で出会ったのも何かのご縁ですから、どうです? 一緒に記念写真でも撮りませんか?

今、ここにカメラありますから。 

 

 

 

 

創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!

先ずは『試し読み』をどうぞ↓↓↓

 

 

  

虹色

 

 虹色をした球体はタケルの手からわずか数十センチの距離で、パッっと弾けて空へと消えた。

 カメラを構えたままのタケルは、モニターとナオミの顔を交互に見た。そしてナオミと目が合った。

「ねえ、タケル。やっぱ無理なんじゃない?」

「そんな事ないよ、絶対に出来る。いや、撮りたいんだ」

「だって、シャボン玉は飛んでるんだよ。で、私はここでじっとしてるの。だからタケルは動かなきゃいけなくなる訳よね?」

「そうだよ」

「タケルは動きながらピントも合わせて、構図も決めるのよ。そんなサーカスみたいな事が出来るの?」

「サーカス? 例えが変だよ」

「とにかく無茶な事しようとしてるって事よ!」

「そうかなあ……」

 以前、雑誌で見た写真の事をタケルは忘れられなかった。父の影響で十歳から始めたカメラはもう十年ほどになるが、未だに自分で納得できる写真は撮れていなかった。

 雑誌の中で見つけた一枚。それはタケルが撮りたいと思っていた理想の写真だった。人の真似でもいいから先ずは撮ってみたい。そんな衝動に駆られた。

 その写真にはモデルが必要だった。空中に浮かんだシャボン玉の中に、上下対称の人影が映っている。この撮影は簡単ではない。それに協力してくれる誰か。色々考えてみたけど、結局ナオミぐらいしか思いつかなかった。ナオミは半年前に別れた元カノだ。

 ナオミとは写真を通じて知り合った。スマホで写真を撮る楽しみを知り、本格的にカメラを使い始めたカメラ女子だ。コンパクト系の一眼をお洒落なストラップで首から下げ、歩きながら目に止まった被写体を捉える。ナオミが直感で撮るスナップ写真はとても魅力的だった。

 タケルは共通の知人から『写真のプロ』と紹介されたが勿論アマチュアで、月間誌での佳作が何度かある程度の腕だった。

 写真を教えると言う名目で何度か一緒に撮りに行った時、ナオミの方から何となく付き合おうと言われた。

 それから二カ月ほど経ったある日、突然ナオミから別れを告げられた。その時、首から下げたカメラはもう無かった。別れの理由は今でもわからない。タケルはナオミがきっと飽き性な人間なのだと思っている。

 その後、時々メールのやり取りはあったが、会う事は無かった。

 カメラから離れたナオミにモデル依頼など無理かと思ったが、一応連絡してみた。

「写真のモデル? ああ、いいわよ。どうせ暇だからね」と、意外にも二つ返事で引き受けてくれた。

 近所の公園での撮影だった。ここは広いわりに利用者が少なく、写真を撮るには好条件だった。百円ショップで買ったシャボン玉セットとカメラを持って。

 既にもう数えきれない程のシャッターを切っていた。しかし、思った通りの写真は撮れていない。

「タケル、まだ撮るの?」

「いいとこまで来てるんだよ。もう少しで撮れそうなんだ」

「でも、もう暗くなってきてるわよ。背景をボカしたいんだったら、明るい時じゃなきゃブレるんでしょ? タケルが教えてくれたんだよ」

「ああ、確かに陽が落ちてきてる」

「来週も暇だから次にすれば?」

「本当に?」

 ナオミとは、来週またこの公園で会う約束をした。方向が同じなので途中まで自転車で一緒に帰った。二人で話す中、ナオミはタケルと別れた後も一人でいる事が分かった。

 一週間後、タケルは同じ公園でナオミが来るのを待っていた。約束の時間を過ぎても現れず、先週よりも遅いスタートになりそうだった。陽が落ちるまでの時間は二時間程度だろうか。それまでに撮れるかは分からなかったが、写真に対するこだわりは捨てたくなかった。

 ナオミには二度目の依頼だ。だから今日は何としてでも上手く決めたかった。

「ゴメンね、バイトが長引いちゃって」

 ナオミは軽く息を切らしながら続けた。

「とにかく始めましょう。また陽が落ちちゃうよ」

 先週と同じ様に何度もシャッターを切った。しかし、頭に描いているイメージには程遠い。

「ねえ、やっぱりシャボン玉は固定した方がいいんじゃない? タケルが撮ろうとしてるのって、たぶん難し過ぎるのよ」

「ダメだよ。シャボン玉はちゃんと宙に浮いてなきゃ」

「やっぱ、こだわるわねえタケルは。人の意見も聞かないし。だからダメになったのよ、私たち」

「え?」

 ナオミの言葉の意味がしばらく分からなかった。

 時間は刻々と過ぎ、次第に陽も落ちてきた。

「ねえタケル。次にしたら? 来週また来てもいいよ」

 その時タケルが見つめるモニターには、まさに撮りたい瞬間が映っていた。今すぐシャッターを切ればいい。しかし、今日はナオミの意見を聞く事にしよう。来週また会いたい。ナオミもきっと同じ気持ちの筈だ。

 次の瞬間、タケルの指はシャッターではなくシャボン玉に触れた。

 虹色をしたシルエットが弾け、その向こう側には、笑顔のナオミが待っていた。 

 

 

 

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(ズバリ、小説を書く・ショートショートを書くコツと手法)/番外編まとめ記事(1)

小説の書き方(1)

 
小説の書き方に関するコラムのまとめです。ショートショート作品ではなく、記事をメインで読みたい方の為にまとめてみました。

コラムは通常、前編と後編に分かれていますが、今回はメインとなる後編のみを、

十記事掲載しています。

 

【CONTENTS】

 


スランプからの脱出

 
小説やブログの記事を書いていて、突然何も書けなくなった経験はありませんか?

それはきっと『スランプ』です。

『スランプからの脱出方法』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

出版の実際

 
小説を書いている方、一度は本を出版してみたいと思った事はないですか?

過去に私が電子書籍を出版した時の原稿のやり取りや、審査等についてのお話。

『出版の実際』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

イデア発想法


文章を書く為に、やはりイデアは必要ですよね。突然ひらめく時もあれば、長時間かけてもダメな時もあります。私が普段実践している

『アイデア発想法』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 


カメラアングル

 

小説において人物の描写はとても重要な事です。映画等と違い、小説は文字だけで様々なことを表現しなければなりません。頭の中にあたかも映像を見ているかの様な、場面を描くための方法。

『カメラアングル』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 


小説キャラクターの作り方

 
小説の中でキャラクターが生き生きしていると、物語はとても面白い物になります。平凡になりがちなキャラクターは、実在の人物を借りて作りましょう。

『小説キャラクターの作り方』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

 

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Novelist's brainとは何か


ブログタイトルであるNovelist's brainは、『作家脳』と言う意味です。これは小説を『書き進める為の思考』です。

『Novelist's brainとは何か』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 


名前の付け方

 
小説に登場するキャラクターには、通常名前を付けますが、どんな名前でもいいのでしょうか? 名前を付けるにも、ひと工夫あります。

『名前の付け方』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 


原稿の推敲

 
誤字や脱字は勿論の事、読み易さなどのチェックの為、推敲は必要な作業です。

しかし、チェック漏れもゼロではありません。いかに効率良く正確に作業を行うか。

『原稿の推敲』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 


文字数の合わせ方

 
小説をコンテストに応募する場合、文字数や原稿枚数の規定がある場合が殆どです。出来上がった作品の文字数を、上手く規定内に収める為の方法。

『文字数の合わせ方』はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 


ストレスシート

 

多かれ少なかれ、ストレスは誰でも感じるものだと思います。普段はマイナス要素であるストレスを書くために生かしてみませんか?

『ストレスシート』の利用方法はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

ショートショートの書き方』を、作家の視点で詳しく『超解説』‼

 

 

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時空モノガタリサイト閉鎖に伴う掲載方法変更のお知らせ

記事の掲載方法変更のお知らせ

 


これまでショートショート作品の投稿、掲載でお世話になっていました、小説コンテストサイト『時空モノガタリ』様が、

2019年12月31日でサイト閉鎖との発表(2019年9月27日付にて)があり、作品の投稿受付も今回のテーマ『時空』までとなり、私の同サイト様への作品投稿は『未来から来た男』が最後になります。

  

創作プロセスを公開していた作品全文は、リンクにて『時空モノガタリ』様にて閲覧して頂いていたのですが、上記の件により当ブログ内にて閲覧出来るよう、リンク先を変更させて頂く事になりました。

また、その他一部の掲載方法を下記の様に変更する事に致しました。

 


『ハロウィンの夜』〜『虹色』

→当ブログ内の

『創作プロセス公開済み作品集1〜4』に変更。(リンク先変更済み)

 


『GIFT』以降

→当ブログ内の

『投稿済み作品集』として、創作プロセス公開前に作品全文を掲載。

(三作品ほど同時掲載予定)

 


『未来から来た男』以降の投稿作品

→新作ショートショート作品投稿の場が無くなる為、毎月テーマを私が用意して『新作ショートショートとして当ブログに掲載

 

 

 

小説コンテストサイト『時空モノガタリ』様は、当ブログを開始するきっかけとなっただけでなく、通常の作品閲覧時にもお世話になり、とても感謝しております。

どうもありがとうございました。

 


そして、当ブログ読者の皆様へ。

記事の掲載方法等の変更はありますが、ショートショート作品の発表及び、創作プロセス公開やコラム等は、これまでと変わりなく掲載を続けてまいりますので、今後とも宜しくお願い致します。

 

2019年9月28日 R・ヒラサワ

 

 

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