ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(解説から学ぶ小説書き方ブログ)今回の作品/異音、コラム/言葉の選択(前編)

異音

妻と二人で出かけたドライブ。夫の運転が気いらなかった妻は自分で車を運転する事にした。再び走り出した車。しかし、その時何か異変を感じる妻。車はそのまま山中へと向かい、ドライブを続ける二人だったが……。 

ショートショート『異音』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com


【CONTENTS】


テーマからの発想


今回のテーマは『音』です。


音と言えば、まずは音楽や楽器、雑音や騒音、声なんかも浮かびました。このテーマは結構色々な話が出来そうで、比較的書きやすい方でした。

 

 

発想からのキーワード選出


音楽、騒音、雑音、楽器、異音

POINT1:タイトル


タイトルは『異音』です。これは普段鳴ってはいけない音ですよね。機械類なら故障も考えられます。要するに日常生活でこの音がすると良くない訳で、今回のオチとも深く関係しています。

 


POINT2:書き出し


「なんだか変だわ」

 運転席のミホは、そう言って路肩に車を停めた。

「何が変なんだい?」

 マコトは声をかけたが、あまり心配していなかった。ミホは機嫌が悪い時も同じ台詞を吐く事があるからだ。

 二人で外に出ると些細な事から喧嘩になる事が多かった。何事も無く一日が終わる事の方が珍しい。

 

夫婦が車で一緒に出かけていますが、その関係性はあまり良くありません。

 

 

POINT3:ユーモア

 

仲の良くない夫婦を、できるだけユーモラスに描こうと思いました。そして、ここでのやりとりが楽しければ楽しいほど、オチへの効果が増すので、その辺を特に意識して書きました。

 

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POINT4:前半のストーリー


夫婦でドライブに出かけたが、途中で運転していた妻が、何か変だと言って路肩に車を停めた。出かけた時は夫が運転していた車だったが、その運転が気に入らないからと、妻が運転することになっていた。

 

 

行き先は急遽山のほうに向かう事になった。妻は気まぐれな性格なので、いつもの事だった。そんな妻との良くない関係から、魔が差した夫には若い浮気相手の存在があった。


POINT5:展開〜オチ


妻が運転する車の中で、疲れていた夫は居眠りをしてしまい、気づけば車は山中に来ていた。

やはり変な音がするからと、斜面に少し乗り上げる形で車を停め、夫はその下に潜り込み状態を確認していた。


斜面に停めていた車が突然動き始め、夫は下敷きになった。落ち着いた様子の妻は直ぐに救急車呼ばず、夫の浮気について語り始める。

今回の事故は、夫への復讐を妻が計画したものだった。

 

 

総合的なポイント

仲の良くない夫婦。その冷めた関係の中で、夫に生まれた浮気心。妻は密かにそれに気付き、復讐を企てる。

この様なストーリーを普通に書くと、サスペンス的な雰囲気が冒頭から出てしまいます。今回は、いかに前半でユーモラスに書くかがポイントでした。単に仲の良くない夫婦で、夫が妻のマイペースぶりを少しずつ語る。場合によっては、これはコメディにもなりうる話なのですが、ここから一気に恐怖へとシフトさせる。その落差が大きいほど物語は面白くなり、これこそが『ショートショート』の醍醐味なのです。

 

 

 

コラム/言葉の選択(前編)

小説を書く上で、言葉の選択はとても重要な要素です。これはもちろん小説だけに限った事ではありません。

すべての文章において、選択した言葉が何であったかと言う事により、その印象は大きく変わりますし、読んだ人に与えるイメージや、そこに沸き起こる感情など、色々な事に影響を及ぼします。

私が書くショートショートの場合、物語によっては一般的には選択しない言葉を選ぶ場合もあります。これはもちろん、後々のオチなどと深く関係があるからです。


余談ですが、最近私はTwitter上で面白い、またはかわいい動画を見つけると、コメントを書かせてもらっています。これはその動画や画像からイメージした、いわば究極の言葉の選択になるからです。

そしてこれは何か文章を書く上で、イメージを膨らませる為の良いトレーニングになると考えています。一つの画を見ても、浮かぶイメージは人それぞれで、そこに付け加える言葉となると、さらに範囲が広がる訳ですね。

そして私は、出来るだけ独自の切り口で添えられる言葉をと、常に考えるようにしています。

 

更に詳しい内容については、次回『コラム/言葉の選択(後編)』でお話したいと思います。

 

 

 

 

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(初心者必見! 小説の書き方のルール)番外編/投稿済み作品集(4)

投稿済み作品集(4)

 

この作品集は小説コンテストサイト『時空モノガタリ』様に投稿、掲載されていた物ですが、当ブログでも閲覧出来る様、掲載させて頂いているものです。

  

【CONTENTS】

 

 

 

リポート

 


「ねえねえ、シオリ。こんなクーポンもらったんだけど、今度食べに行かない?」

 ムツミはどこかで割引クーポンをもらったようだ。

「うん。いいけど、何のクーポンなの?」

「や・き・に・く」

「焼肉かあ……」

「あれ? シオリって焼肉嫌いだっけ?」

「そ、そうじゃないんだけど……」

 シオリの脳裏に『モコ』の事が過った。

『モコ』は、最新型の人工知能を搭載したロボットで、先月から始めたダイエットコースの重要なアイテムだ。

 三カ月契約で始めたコースは、ロボット一機のレンタルと、電話サポートがセットになっている。

毎日出力されるモコのリポートでは、先週はカロリーオーバーの為、今週は控え目にとの事だった。

 ムツミが一緒では食事制限がしづらい。モコの事は内緒だった。先々、一緒の食事は避けるべきだろう。

「そうね、考えておくわ」

 それを聞いたムツミは、少し怪訝な表情で『じゃあまた返事して』と言った。

 『モコ』はシオリが付けた名前だった。レンタル期間中は、契約者が自分で好きな名前を付ける事が出来る。シオリは親近感が増す様、以前に飼っていたイヌの名前を付けた。

 モコは人と話す事が出来る。一人暮らしのシオリにとって、モコとの会話は楽しみの一つだった。まるで人間を相手に話している様な気分になる。

 基本的には食事前のメニューをモコに伝え、摂取カロリーを計算してもらう。その後、食べる順番やデザート、入浴や睡眠、運動などの必要なプログラムをモコが用意してくれるのだ。

「ねえ、モコ。お腹が空いちゃった。甘い物食べちゃダメかしら?」

「今日ノ摂取カロリーハ……。チョコ、三粒ト、十五分間ノ、ウォーキングセット、ナラダイジョウブ」

 モコはシオリの欲求を満たす為、様々な方法を用意してくれる。

 ダイエットに失敗する人の多くは、途中での挫折が原因と言う。なかなか減らない体重は、心を折れやすくするのだろう。そういった事態を避けるため、モコは日々少しでもシオリの体重が減る様、最適なプログラムを組み続けるのだった。

 シオリには社内に気になっている男性が居た。ダイエットを始めた理由である。

 彼は細身の女性が好みだったが、シオリはぽっちゃりタイプだ。このままではいけない。

 日々、彼への想いは募るばかりで、それは他を切り詰めてでも、ダイエットコースを始める原動力となった。

 ムツミは高校の同級生で、十年来の友達だ。互いの勤め先が離れていたので、会うのは休日だけだったが、よくショッピングに出かける仲で、たまに食事をする事もあった。

 しかし、恋愛の相談はムツミに出来なかった。行動を共にする事が多いせいか、体型がよく似ている。互いにモテない事もあって、『男性よりも友情』と言った雰囲気が二人の間にあったからだ。

 ダイエットコースの契約は簡単だった。担当者と共に『モコ』は、連絡した翌日にやって来た。

「辛くなった時は、いつでもロボットに話しかけて下さい」

 レンタル初日の説明で担当者は言った。

「弱音とか吐いてもいいんですか?」

「勿論、大丈夫です。ダイエットは、そんな時がよくありますからね。このロボットは、ちゃんと応援してくれるんです。きっと貴方の良きパートナーになりますよ」

「良かった!」

「ただし、ダイエットに関するお話だけにして下さいね」

「ええ。わかりました」

 シオリのダイエットは、開始後しばらく順調だった。しかし、あるラインから思ったように体重が落ちなくなった。

「ねえ、モコ。最近上手く体重が落ちないわ」

「ソウデスネ、シオリサン。ワタシノプログラムヲ、チャント実行シテ頂カナケレバ……」

「ごめんね、最近ちょっと気になる事があるのよ」

「ドンナ事デスカ、ソレハ?」

「なんだかねえ、最近ムツミも少し痩せてきた気がするんだけど」

「アア、ソレハ……」

「ちょっと! 貴方、何か知ってるんじゃないの?」

 モコはしばらく黙っていたが、シオリは話さなければコース解約と詰め寄った。

 モコは回避すべき緊急事態発生との判断で、仕方なく事実を打ち明けた。

 ムツミも実は、シオリと同じダイエットコースを契約していたのだ。最近痩せてきたのはそのせいだ。シオリよりも一週間早く契約したと言う。

「どうして……」

 ムツミに裏切られた気分になった。抜け駆けは許せない。それは、自分の事など棚に上げた、身勝手な想いだった。

 会うたびにムツミが痩せてゆく様に見える。不信感は募るばかりだ。それはお互い心の中に湧き上がる、口に出来ない感情だった。

 やがて二人は距離を置き始め、最終的には会う事も無くなった。

 モコの最新ダイエットリポートが出た。

「シオリサン。ストレスニヨル過食ガ止マラズ。コース解約。当社メニュー始マッテ以来、初ノ脱落者」

「追伸。友人ノ、ムツミサン。ソレニ続クモヨウ」

 

 

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未来から来た男

 

 コウタが生まれる半年以上前に、両親は離婚した。その後に現れた男は、コウタの父親になる筈だった。しかし母が保証人になった多額の借金を残して姿を消した。

 その後の生活は苦しかった。しかし、母は逃げなかった。気丈に振る舞いコウタを守り続けた。

 高校卒業したコウタは直ぐに職を探した。会社が決まり、これからやっと母を支えて生きていけると思った矢先、母は病で倒れ帰らぬ人となった。

「全ては、あの男のせいだ」

 長期の心労が母の身体に影響したのは間違いない。母はもっと長生き出来た筈だ。運命を何とか自分の手で変えたい。いつも心の中にその想いがあった。

「この装置で本当に過去の世界に行けるんですか?」

 昨年から始まった新しいサービスだ。時空を超えた世界に行く事が出来るのだ。サービス自体の信頼性は高いようだ。それより費用の方が問題だった。

 コウタは母の死後、受け取った保険金で過去の世界に行こうと決めた。

「“過去の自分に逢いに行く”と言うのが、当社のサービスでございます」

担当の男が言った。

「皆はどんな目的で?」

「そうですね。年配のお客様が大半で、若い時のご自身に逢いにゆくのです」

「逢いに……ですか?」

「ええ。過去の世界にご案内するサービスですが、その世界に影響を与えてしまうような事は出来ません」

「何も出来ないんですか?」

「いいえ。当社がご用意する特殊なビデオカメラでの撮影だけなら可能です。こちらのメガネにカメラが装備されています」

「そのデータから静止画を?」

「そう言う事です」

「みんな、それで帰って来るんですか?」

「ええ。費用が高額なので、ある程度生活に余裕のある方が大半です。どうしても若い時の写真を手に入れたいと言う方ですかね。その時代にお生まれの方は、現在の様に簡単に写真が撮れなかった方が多いのです」

「なるほど」

「お客様。二十代の方のお申込みは初めてですが。目的は……お写真と言う事でよろしいでしょうか?」

「え? ああ写真です、写真。母が若い頃の写真が火事で焼けちゃったから……」

「そうですか……。それはお気の毒に。でも、規定にありました様、その火事を止める事も出来ません。お辛いでしょうが……」

「いいえ、大丈夫です。家族も無事でしたし、家も保険で何とかなりましたから」

 コウタは嘘をついた。

「わかりました。では、過去のどの日に行かれますか?」

「二十年前の……」

 コウタが指定したのは自分が生まれる一年ほど前。母と男が出会った年だ。

 高級なマッサージチェアーの様な椅子に、リクライニングの状態で座った。頭上から伸びたアームの先には3Dゴーグルに似た装置があって、顔の近くにセットされた。

 担当者が複数のスイッチを入れた後、体が大きく揺れ、そして目の前が真っ白になった。気付けば、そこは過去の世界だった。

 コウタが子供の頃に見た風景と、あまり変わらない。物心がつく数年前の世界なのだから。

 コウタは男がよく通っていたと言うバーに向かった。幸いな事に主要となる道路はあまり変化がなく、現実世界で外を歩いている感覚と大きな違いは無かった。

 目的の店は直ぐに見つかった。現在の世界では違う店になっているが、立地の関係なのか今でも酒場である事は同じだった。

 とりあえず弱めの酒を頼んだが、殆ど口にしなかった。肝心な場面で酔いが回ったのでは目的が果たせない。しばらく男が現れるのを待った。

 三十分程度経った頃、目的の男が現れた。

 男が酒を頼み、しばらく口に運ぶ様子を見守る。少し落ち着いた頃を見計らって、コウタは男に声をかけ、店の外に誘い出した。

「はい、何か?」

「あんただな、俺の母親を苦しめたのは!」

「一体誰なんだ……君は?」

「俺は息子だよ! 未来の世界からあんたを殺しに来たのさ!」

「息子だって? 彼女の子供なんて、まだ生まれてないさ」

「だから未来から来たって言ってるんだ! じゃ、証拠を見せてやる。これをよく見ろ!」

「新聞? 二十年後になってるね……。よく出来てるが」

「だから本当だって言ってるだろ! いいから覚悟しろ!」

「ま、待て。君の話がもし本当なら、私を殺したりしたら大変な事になるぞ!」

「おいおい、命が惜しいからって適当な事を言うなよ!」

「いいから待てって!」

男がコウタに向かって駆け寄る。コウタはすかさずレーザー銃で、音もなく男を撃つ。

「ウウ……」

倒れ込んだ男のうめき声は、徐々に小さくなる。

コウタは側で男の最期を見届ける。その表情の中に、一瞬自分の影を見た。

「まさか……」

 母から父とはコウタが生まれる前に離婚したと聞いた。男と出会ったのはその直後の筈だ。父は本当の父親だったのか? この男は一体……。

 様々な疑問を残しつつ、コウタの姿は徐々にその場から消えようとしていた。

 

 

ショートショートの書き方』を、作家の視点で詳しく『超解説』‼

 

 

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(作家の才能がないと思うのは早い!)コラム/書く才能について(後編)

書く才能について(後編)


一般的に『作家』と聞けば、当然のイメージとして『文章のプロ』であり『書く才能』を持った人が浮かぶでしょう。確かに現在第一線で活躍している作家の方々は、そうであるに違いないのですが、それだけでいいのでしょうか?

今回は、作家に必要な様々な才能について書かせていただきました。

 


【CONTENTS】

 

 


着眼力

 

『まずは書くためのヒント』

様々な環境の中から、他人とは違った物事に着眼する力です。

同じ物でも、違った角度、用途、立場、環境など、目を付ける前の段階から、違った視点で考えると言った力です。

 

 

発想力

 

『次に物語の出発点』

着眼した事柄から、どうアイデアを生み出し、物語の原案とするのか。おおまかな展開やオチをどうするのかと言うことを作り上げる力です。

 イデアの発想法についての記事はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

構成力

 

『そして物語の設計図』

大まかに出来上がった物語を、どういった順序で展開し、それぞれどのような配分で話を組み立ててゆくのかなど、物語全体を設計する力です。

 

 

推進力

 

『一つの作品を作り上げる』

文章を書き進める力です。こちらは主に文字数の多い作品が対象となりますが、短編やショートショートにも必要な力です。

実際問題として、構成までが上手く出来上がっていても書き進めることが出来なければ物語は完成しません。

書き進める力にに関する記事はこちら↓↓↓ 

rhirasawanb.hatenablog.com


継続力

 

『次作を生み出す』

一つの作品が出来上がった後、再び創作を続けなければいけません。そしてそれが一冊の本になった時、次は二冊目、三冊目と次々と生み出して行かなければならないのです。つまり、創作を続けるための継続力と言うことになります。

 

 

営業力

 

『出来上がった作品を売り込む』

本を出版した場合、より多くの方に読んでいただく必要が出てきます。宣伝は出版社の方でももちろんやってくれるのですが、著者自身も宣伝をする必要があります。

そして、それは現在契約中の出版社だけではなく、新たに別の出版社でも契約結んでもらえるような流れを作らなければなりません。

 

 

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全て必要なのか?


全ての能力が必要なのかと言うと、実際にはそうではないと思います。

しかし、ここに挙げた能力について、ある程度持っていた方が良いのは間違いありません。

最も重要なのは、これらの能力のうち、一つが特別周囲の人達より優れているという事です。


前編に登場した若い作家さんは、能力で言う『推進力』です。当時の文章力は実際のところ、あまり高いものではなく、世間の評価も良くありませんでした。しかし、執筆ペースがとても早く、これは編集者の方にとっても、『修正』や『加筆』の時間が取れる為、結果として『出版』に持って行きやすい原稿になるので、これも強みと言えます。

 

先に述べた『才能』について、ご自身が得意だと思われる事柄について更に磨きをかけて、他人よりも上回れる力を持つ事で、きっと成功への道が近づくのではないかと私は思います。

 

次回は、ショートショート『異音』の創作プロセス公開です。

 

 

 

 

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(解説から学ぶ小説書き方ブログ)今回の作品/私の庭、コラム/書く才能について(前編)

私の庭

出勤前、朝の情報番組の『ゴミ屋敷』の特集の予告で、映し出されたのは、元夫が暮らす、かつての『我が家』だったが……。

 

ショートショート『私の庭』の全文はこちら↓↓↓ 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

 

【CONTENTS】

 

 


テーマからの発想


今回のテーマは『庭』です。

『庭』と言えば、先ず『家』があって、それからのお話といったイメージでした。そして、その大きさも様々なのですが、今回の創作は『小さな庭』からスタートしました。

 

 

 

発想からのキーワード選出


庭、家、小さな、大切、自分の世界

 

 

POINT1:タイトル


タイトルは『私の庭』としました。随分とシンプルだと思われたかもしれません。しかし、作中の展開やオチなど、全て含めると、やはりこのタイトルになるんですよね。

 


POINT2:書き出し


 出勤前の朝、情報番組の特集コーナーの予告を観てケイコの手が止まった。興味のある内容なら、録画予約をするのが習慣だった。

『ゴミ屋敷』

 普段なら見送る内容だったが、モザイクの男性の後ろに映るゴミ屋敷。そこには、かつて愛用していた外国製のオレンジ色の鍋があった。

 

書き出しで多くの情報を盛り込むのは、既に何度も書かせていただいている内容です。場面設定から主人公の状況、そして今回は普段の習慣にも触れています。また、オレンジ色の鍋は、何気なく見ていたテレビの画面を見過ごさない為のアイテムです。特徴のある、かつて自分が愛用していた品であれば、直ぐに気付く。その為に用意しました。

 


POINT3:ユーモア


今回は内容的に真面目な話である為、通常の作品の様にユーモラスな部分はありません。

あえて言うなら『ゴミ屋敷』ですが、現実的には少々起こりにくい設定にしています。ただ、この問題に関しては、かつて普通に生活していた人が、徐々に片付けが出来なくなったと言うパターンが実際に多くあり、比較的若い方も陥ってしまう事がある様です。

 

 

 

POINT4:前半のストーリー

 

出勤前に観ていた朝の情報番組に、かつて自分が愛用していた『鍋』と元夫らしき人物が、『ゴミ屋敷』特集の予告で映っていた。気になったので、録画予約してから出勤した。

 

仕事から帰った主人公が、すぐさま録画した番組の確認をすると、やはりそこに写っていたのはかつての夫と、変わり果てた元の我が家だった。

 

 

POINT5:展開〜オチ

 

突然、雑貨店を始めたいと言い出した夫とすでに離婚していたが、『ゴミ屋敷』と化した家が気になったため、かつての我が家を訪れた。

ゴミ屋敷になってしまった理由を夫に聞くと、離婚直後は順調だった雑貨店は、協力者に裏切られ、経営状態の悪化や体調不良などで日常生活にも支障が出て、その挙げ句『ゴミ屋敷』化したと言う。

 

身勝手な夫だったが、ゴミ屋敷となってしまった部屋を一緒に片付けるうち、この人にはやはり自分が必要なのではないかと思い始める。

 

 

総合的なポイント

 

『庭』と言うテーマに対し、世間で問題になっているゴミ屋敷をあてがい、今回は書いてみることにしました。実際このような環境になってしまった方は、様々な理由でその状態に至ってしまったのだと思います。

私自身が考える一つの理由として、事業の衰退がありました。そしてもう一つは、夫婦間の関係の崩壊。この二つをリンクさせ、壊れゆくものもあれば、修復出来るものもある訳で、今回は後者を描いた訳です。

 

 

コラム/書く才能について(前編)

 

かつて私が『電子書籍』を出版した後、私よりも一まわり以上も若い人が本を出し、あっと言う間に重版となり、その後も複数の出版社から原稿依頼が来るような作家さんになりました。一方の私は一冊目も大して売れず、他の新刊への競作にも参加しましたが、結局選ばれず、二冊目の原稿審査もしていただいていたのですが、それも出版にこぎつける事が出来ないまま、スランプ状態へと進んでいったのです。

『書く』為の『才能』とは何か? それは次回コラム/書く才能について(後編)で、詳しくお話したいと思います。

 

 

 

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(小説でのネタの集め方)コラム/ネタの収集(後編)

ネタの収集(後編)


毎日違った生活をしている人でない限り、多くの人はよく似たパターンの生活を繰り返していると思います。刺激が少なければアイデアも生まれにくく、結果ネタ作りに影響が出るのではないでしょうか。

私は時々ですが、習慣化してしまった生活に変化をつける為に行なっている事があり、今回はそれをご紹介したいと思います。大した事ではありませんが、少しでもネタ作りに役立てていただければと思います。

 

 


【CONTENTS】

  

 

テレビ

 

●公共の場所である病院の待合室など、普段選局しない放送が流れていたら、それを積極的に観る

●自宅のテレビの電源を入れた時、普段選局しない番組が映っていたら、そのまま観る

ニュースにせよ、ドラマにせよ、コマーシャルにせよ、普段観ているものはすっかり馴染んでしまって刺激が少なくなっています。いつものチャンネルに戻すのではなく、そのまましばらく観てみましょう。新しい刺激がある筈です。 

 

 

ラジオ

 

●車での移動中は、積極的にラジオを聴く

●普段FMを聴いている人はAMと言う様に、普段とは逆の局側を聴いてみる

●複数の人が使っているラジオの場合は、すでに選曲されている放送局をそのまま聴いてみる

比較的、音楽が多い『FM局』と、トークが多めな『AM局』。それぞれ反対側の放送局を聴いてみる事で、意外な発見などのチャンスが増える筈です。

 

 

 

新聞

 

●三面記事の事件などで新聞に書かれていない部分について、自分なりに背景を考えてみる

●同様の事件で別のパターンが考えられないか、案を出してみる

新聞は紙面が限られた中で多くの記事が書かれています。その多くは要約して書かれた文章ばかりですので、当然省略されている箇所が複数あります。その欠けた部分を自分で埋めてみる事で、色々な想像できる範囲が広がるでしょう。 

 

 

 

折り込みチラシ

 

●求人のチラシはいろんな企業の募集内容を見てみる。どんな仕事があり、どういった内容で募集されているのかなど。

●その日のチラシで最も目立ったものを探す。なぜ最も目立っていたのか。それはデザインか、それともキャッチコピーか、他の要素か。

物語を書く上で、様々な職業を用意する場面も出てきます。また、職業がベースになって話が展開する場合も多くあります。

強力なチラシもアイデアのヒントになります。創意工夫されたデザインの中にもアイデアが詰まっている筈です。

 

 

ストレスシート

 

これは私が日常生活の中で、何かストレスを感じた時に、スマートフォンのメモアプリ等に、その内容を簡単に書き留めているものです。

実際にあった出来事を、角度を変えてみる事によって新しいネタが生まれます。

かつてこのブログで、何度か記事として書かせていただいています。個人的にはかなり有効な方法だと感じていますし、実際に出来上がったネタもここ最近ではこの方法がかなり多いように思います。

何かのアイデアから、ちゃんとしたネタ、小説で言うならば物語として成立させる場合の過程として、今回ストレスシートを取り上げていますが、これは他の方法にも応用できる手法だと思います。

『ストレスシート』に関する記事はこちら↓↓↓ 

rhirasawanb.hatenablog.com

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次回は、ショートショート『私の庭』の創作プロセス公開です。

 

 

 

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(解説から学ぶ小説書き方ブログ)今回の作品/新生物、コラム/ネタの収集(前編)

f:id:RHirasawa:20191209210726j:image

新生物

 

自分の子供ほども年齢差のある新人研究員。所長はその扱いに頭を悩ませる。その研究員は、なかなか成果が出せていなかったが、ある日偶然に世界の注目を集める程の新生物を発見するが……。

 

ショートショート『新生物』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com


【CONTENTS】

 

 


テーマからの発想

 
テーマは前回と同じ『純情』です。今回も二作品投稿しました。

恋愛で奥手なイメージは、個人的に大人しい感じの新入社員、しかも細身の男性。何故か私はこんな人が浮かびます。

今回の作品ベースはこのイメージですが、少しアレンジしようと考えました。

かつての勤務先に入社してきた新人クンは、頭の回転も早く物知りだったのですが、周囲へのアピール方法や普段の言動によって、直ぐに敬遠される存在になりました。その新人クンの行動や言動をヒントに、新たなキャラクターを作り、登場人物としました。

それにしても新人クンは、良いネタを提供してくれたものですね。

 


発想からのキーワード選出


奥手、新人、プライド、ギャップ

 

 

POINT1:タイトル


タイトルは『新生物』です。これは、物語中に出てくる生き物を指していますが、他にも意味があります。

タイトルを付ける場合、通常は複数の意味を持たせています。作品全体を表す目的は勿論ですが、『タイトルは作品の一部』と考えると、その付け方にも随分と変化が出ると思います。特に『一部』といっても重要な位置ですから、それらを意識して付けるのが良いと思います。

 

 

 

POINT2:書き出し

 

「私にしてみれば、タチバナ君だって『新生物』の様なものだ」と、所長は心の中で思った。

  

所長である『私』と後輩、あるいは部下と思われる『タチバナ君』は、世代的に離れている、ような年齢差のある関係であると言うことがこの時点でわかります。

 

 

 

POINT3:ユーモア


タチバナの態度は明らかに大きくなっている。しかし、発見者は彼だ。我慢して話を聞くしかなかった。

「ど、どういう事かね?」

「この虫は特定の期間だけ食べるんですが……。ねえ所長、それっていつだと思います?」

 研究員の若造は、こともあろうか所長に向かってクイズを出してきた。

 

若い研究員がある発見によって、態度が大きくなっていると言うだけではなく、世代的にフランクな対応してくる若い人に対する、主人公の困惑を描いています。

今回の作品は、親子ほど歳の離れた所長と研究員のやり取りを、出来るだけユーモラスに書こうと思いました。

 

 

 

POINT4:前半のストーリー

 

食品の原料となる植物の開発を行う研究所の所長は、自分の子供ほど歳の離れた研究員の扱いに困っていた。

 


普段からあまり成果の出せなかった研究員は、ある日偶然にもプラスチックを食べる『新生物』を発見し、その生物を増やす研究を始める。

 

 

POINT5:展開〜オチ

 

研究員がベストだと思った方法で『新生物』を増やそうとしたが、全く上手くいかない。

 


研究員の提案した方法で受精が上手くいかなかったのは、研究不足と思われたが、実は優秀な新生物も人間と同様に奥手で、求愛行動が出来なかった。

 

 

 

総合的なポイント


所長と研究員の年齢的なギャップと、研究者としてのベテランと新人の差と言った、それらを上手く対比させる事により、物語が面白くなります。

ストーリー的に、生意気な研究員をどうやって打ち負かすのか、またそれが失敗した場合、どういう風に読者の方を裏切るのが一番面白くなるか、という観点で色々と考えてみました。

 

 

コラム/ネタの収集(前編)


日常生活の中で、『アイデア』に至る前の小さな『カケラ』の様な物が目に止まり、そこから『アイデア』が生まれ、やがてザックリとした『ネタ』になると私は思います。

 

こうした『ネタ』の収集は、書く内容や書く人によって、その方法は様々だと思いますが、私は基本的に『目』や『耳』から入ってくる情報は、可能な限り集める事にしています。この時点で限定してしまうと、『偏り』が増してしまうと思うからです。

常に色んな事に興味を持ち、それを吸収してアレンジし、自分の物にする訳です。

  

詳しい内容は、次回『コラム/ネタの収集』でお話したいと思います。

 

 

 

ショートショートの書き方』を、作家の視点で詳しく『超解説』‼

 

 

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(初心者必見! 小説の書き方のルール)番外編/投稿済み作品集(3)

投稿済み作品集(3)

 

この作品集は小説コンテストサイト『時空モノガタリ』様に投稿、掲載されていた物ですが、当ブログでも閲覧出来る様、掲載させて頂いているものです。

後に当ブログにて、創作プロセスを順次公開してゆきます。

 

【CONTENTS】

 

 


新生物

 

 

「私にしてみれば、タチバナ君だって『新生物』の様なものだ」と、所長は心の中で思った。
 所長の居る研究所は、食品会社が百パーセント出資している子会社で、主に原料となる植物の研究をしており、品種改良による理想の苗を開発するのが目的だった。
 数名いる研究員の中で、一番若手のタチバナは、所長と親子ほど年齢が離れていて、その扱いに頭を悩ませていた。
 基本的に打たれ弱い。注意するにも気を使う。ネット世代の象徴か、知識だけは豊富に持っていて、常にプライドが高かった。
 タチバナの経験不足は直ぐに結果に表れた。現場で想定外の事に対応出来ない。しかし、それを乗り切るだけの言い訳は巧みだった。
 タチバナは使い物にならない……筈だった。だが、彼はとんでもない物を見つけてしまった。しかも偶然にだ。
「所長、これが例の新生物ですよ」
 彼はプラスチックを食べる新生物を発見したのだ。
「でも、どうやって見つけたんだい?」
「土を入れるケースが見当たらなかったんで、コンビニ弁当の袋に移したら穴が開いてて……」
「あの土は海外から取り寄せた貴重な培養土だぞ! 研究に影響するから無関係な物は持ち込むなと……」
「でも、それが良かった訳で。発明や発見の多くは偶然だって、所長が言ってたじゃないですか」
 所長は言葉を返す気力が無かった。
 過去に同様の生物が居て、ハチノスツヅリガの幼虫は、百匹で普通のレジ袋を一カ月弱で消化する。しかし、新生物はそれをはるかに上回るとタチバナは言う。
 もし、それが本当だとしたら、世界中のプラスチックゴミの問題を解決出来るかもしれないし、少なくともこの発見が注目を浴びる事は間違いなかった。
「しかしタチバナ君。いくらを早く食べたとしても、幼虫が成虫になった時、それをやめてしまうんじゃないかな?」
「大丈夫です。食べるのは幼虫じゃなく、成虫の方ですから」
「成虫が食べるのかい? でも、それだったら、どうして今まで誰も発見できなかったんだろうね?」
「それはこの虫が一生土の中にいる事と、食べる時期が限られているからですよ」
 タチバナの態度は明らかに大きくなっている。しかし、発見者は彼だ。我慢して話を聞くしかなかった。
「ど、どういう事かね?」
「この虫は特定の期間だけ食べるんですが……。ねえ所長、それっていつだと思います?」
 研究員の若造は、こともあろうか所長に向かってクイズを出してきた。
「い、いつだろうね。私にはさっぱりわからないよ」
 余裕のある大人が、あえて子供に答えさせようとする、そんな素振りをしてみたが、実は頭の中は空っぽだった。
「受精の為に産卵した後の栄養補給期間、メスだけがプラスチックを食べるんですよ」
「受精の為に産卵?」
「この虫はオスがメスに求愛して、OKならメスが腹部に卵を放出します。そこにオスが精子を放出して受精となります」
「それはすごい発見だ。少しカエルに似た受精だな。しかし、食べるペースを上げる方法は?」
「メスは一生に複数回産卵が可能です。だから人工的に受精を行うんですよ。ただし、卵が小さくて肉眼では確認出来ません。結果は翌日、メスの腹部に茶色っぽい卵が見える筈です」
「じゃあ、早速実験しようじゃないか」
「でも問題が一つあります。彼らはあまり動かないんです」
「どうして?」
「天敵が少ない様で、逃げたり過度に繁殖する必要がないんです。ただ、狭い場所を嫌うので、迷路のような所に入れると、本能的に抜け出そうとします」
「なるほど」
「優秀な個体はそのスピードが早いので、それを集めれば繁殖も早くなる筈です」
「そうか。上手くメスと出会う仕組みを作ればいいのだから」
「メス達も優秀なオスの求愛なら、きっと受け入れるでしょう」
 女性も口説けないタチバナの言葉は少し説得力に欠けた。
 所長たちは早速、メスを通過点に配置した迷路を作り、その中心にオスを十数匹離した。オスは迷う事なく出口へと向かって進んだ。
 卵を放出したメスは、明日からでもプラスチックを食べ始めるに違いない。
 タチバナの話では、通常六割とされる受精率が、九割近くになる計算のようだ。
 翌日、ケースの中の個体を確認してみると、受精したメスは一匹もいなかった。
 所長は思った。タチバナの考えは、やはり甘かった。机上論ばかりで経験不足だ。そんな事だから、いい年になっても結婚どころか彼女すらできないのだ。私達の時代はよく学びよく遊んだものだ。だから私は美しい妻と結ばれたのだ。
 所長は勝ち誇ったようにタチバナに尋ねる。
タチバナ君。どうやら君の研究は間違っていたようだね」
「いいえ、そうではありません」
「どういう事だね?」
「所長。どうやら優秀なオスの個体はみんな奥手な様で、上手く求愛行動が出来なかっただけの様です」

 

 

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私の庭

 

 

 出勤前の朝、情報番組の特集コーナーの予告を観てケイコの手が止まった。興味のある内容なら、録画予約をするのが習慣だった。

『ゴミ屋敷』

 普段なら見送る内容だったが、モザイクの男性の後ろに映るゴミ屋敷。そこには、かつて愛用していた外国製のオレンジ色の鍋があった。

 予約後、直ぐに家を出た。職場でも集中できず、同僚から声をかけられる事もあった。仕事を終え直ぐに自宅に戻った。

「どうしたの、ケイコ。そんなに慌てて」

 心配する母をよそに、すぐさま二階の自室で番組を再生した。今朝見たモザイクの男性は、元夫であるナオキに間違いなかった。

「辞めるって、どう言う事?」

「どうもこうも、会社を辞めるのさ」

 離婚の直前、ナオキと交わした言葉だ。中小企業でそれなりの役職に就き、そろそろ親との同居問題など考える時期に、相談もなく会社を辞めると言い出したのだ。

 以前から身勝手な行動する人だった。ナオキは年齢がひとまわり上で、ケイコには遠慮があった。ナオキの両親は既に他界しているが、ケイコには母が居る。

「やりたかった仕事があるんだ」

 雑貨店を開く為、知人から紹介された店舗は既に契約が済んでいると言う。

 財布は別々に管理しようとのナオキの提案に賛成したのが仇となった。

「やっぱりサラリーマンが向かないんだよ。君だって分かるだろ?」

 賛成なら現状維持、反対なら離婚という選択肢しか、ナオキは用意していなかった。

「じゃあ、私の母の事はどう考えてるの?」

「お義母さん? ああ、それは……」

 母の事などまるで考えていなかったのだ。それを悟ったケイコは、母との生活を決めた。

 仕事を続け、母の年金があれば実家で暮らせるだろう。先々の不安よりも、今の問題の方が大きかった。

 ナオキとの離婚話は、あっさり済んでしまった。元々家族など必要無い人だったのかもしれない。

「でもどうして……」

 離婚から一ヶ月ほどでオープンしたナオキの雑貨店は順調な筈だった。退職金も少しはあったと聞いた。

 離婚後に一度会った時の話だったが、何よりナオキの表情が楽しそうで、ケイコの存在価値は薄かったのだと感じた。

 でも何が起きたのか。とにかく様子を見に行こうと思った。

 実家から一駅の距離だった。駅から家までは心休まる道の筈だったが、今は不安でいっぱいだ。

 道中、何度か足を止めた。やっとの思いで辿り着いた場所には、変わり果てた、かつての『我が家』があった。

 門の外から見た玄関ドアは、中からのゴミで閉じれなくなっている。

 チャイムは鳴らない。施錠の無い門を抜け、開いたままの玄関から声をかける。

「ナオキさん! ねえ、居るんでしょう?」

 普段大声など出さないケイコだったが、奥に居るであろうナオキに向かって叫んでみた。

 少し間があって、何かをかき分ける様な音に続いて声がした。

「ケ、ケイコ? ケイコなのか!」

「そうよ。ナオキさん、これは一体どう言う事なの?」

「ちゃんと話すよ。だから、とりあえず中に入って」

「中って……」

 無精ヒゲのナオキがゆっくりと天井とゴミの隙間から顔を見せ、そして手招きをした。意外に元気そうだった。

 中にはコタツ一つ分程の空間があった。

「店は順調だったんだけど、パートナーに持ち逃げされた。信頼してたんだが……」

「そうだったの……。でも、だからって家の中が、こんな風になっちゃう訳?」

「しばらく体調を崩してね。店は大丈夫だけど、家にはゴミが溜まってきて。なんだか面倒になった。最初は精神的なダメージが大きかったんだと思うよ。でも、それが回復する頃には家の中が……」 

 ケイコはかける言葉が見つからなかった。

「でもね、あの場所だけは何とかしておいたよ」

 ナオキが指差したのは、奥にある庭だった。ケイコはゴミの山を越え、庭を目指した。かつてケイコがコツコツと花を植え、少しずつ作り上げた大事な場所だった。

 花の種類は変わっていたが、色とりどり、綺麗な配色で並んでいる。写真が趣味だったナオキのセンスによるものだ。

「俺一人じゃさ、なんて言うか、やっぱりちゃんと出来なかったんだ。でも、あの『庭』を見ると、ずっと君が一緒に居るようで……」

 ケイコの耳にその話は届いていた。しかし、手の動きは止めなかった。リビング辺りのゴミを袋に詰めている。道中で買っておいた大量のゴミ袋に。

「あの庭はね、『私の庭』なのよ!」

 先々の事は考えていなかった。しかし今は先ずはここを掃除するべきだと思った。

「やはり、私が居なければ……」

 オレンジ色の鍋を手に、ケイコはつぶやきながら、その蓋を探した。

「とにかく、この辺りから片付けましょうよ」

 ケイコは動きを止めない。二人の事はまだ分からないが、今はナオキの為に何かをしよう。ケイコは今、その事だけを心に決めた。 

 

 

 

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異音

 

 

「なんだか変だわ」

 運転席のミホは、そう言って路肩に車を停めた。

「何が変なんだい?」

 マコトは声をかけたが、あまり心配していなかった。ミホは機嫌が悪い時も同じ台詞を吐く事があるからだ。

 二人で外に出ると些細な事から喧嘩になる事が多かった。何事も無く一日が終わる事の方が珍しい。

 今日もそうだ。ミホが珍しくドライブに行きたいと言い出し、とりあえず家を出た。行き先は未定で、これもいつもの事だった。

 ミホのその日、その瞬間の気分で行き先が決まる。事前に予定した通りに何かをやった記憶は殆ど無かった。

「山の方に行きたいわ」

 ミホは自然が好きだと言うが、それを真に受けて揃えたキャンプ用品たちが、物置を占領している。いま乗っているオフロードタイプの軽自動車が最たる例で、高い車高のおかげで立体駐車場を選ぶ必要があった。

「あなたの運転じゃ車酔いしちゃうわ」

 ブレーキのタイミングがどうだとか、ハンドル操作がこうだとか、こちらに言わせれば、スマホの画面に釘付けになって、呆けているから酔ったりするのだと言いたいところだ。しかし言葉を飲み込む。

「私が運転するわ!」

 家を出てから十分ほど経った時の事だ。信号待ちで突然大声をあげ、こちらを見た。仕方なくマコトは車の後部を回って助手席に着く。ミホは最短距離で運転席に移動した。

 勝ち誇ったような表情でミホはハンドルを握り、座席の角度と位置を直す。結局、運転はミホがする事になったのだ。

 マコトが思うに、ミホの運転にしたところで、車間距離がランダムだったり、車線変更が危うかったり、サイドブレーキの引きが甘かったりと、言いたい事は山ほどある。無駄な争いを避ける為、言わないだけだ。

 ダッシュボードからミホは、長らく使っていなかったスマホ・ホルダーを取り出した。ガラス部分に吸盤で固定する為の物だ。

 ミホはスマホの画面をナビに切り替え、目的地を設定した。マコトはそれが何処だか聞いていないし、さして興味もなかった。とりあえず分かっているのは『山』と言う事だ。

「最近のスマホは便利よね。色んな機能と一緒に地図だって更新されるんだから」

「そうだね」

 今日、初めてミホと意見が一致した。夫婦になって五年は過ぎたが、未だに喧嘩は絶えないし、果たしてベストな関係なのかどうか分からない。

 ミホが運転を始めてから異変を感じたのか、車を路肩に止めたのだ。首を傾げ、再び車を走らせた。

 ミホは心配性で嫉妬深い。結婚一年目は浮気を随分と疑われたものだ。しかし気が済んだのか、次の年から詮索しなくなった。単に興味が無くなった事も考えられる。

 一方のマコトは元々真面目な性格で、浮気心など微塵も無かった。

 しかし最近になって事情が変わった。偶然知り合った若い女性、しかも向こうからアプローチされたのだ。

 ミホは気付いていないだろう。マコトも上手くやっているし、気にも留めない様子だ。

 実はミホにもそれなりの相手がいるかもしれない。そうだ、きっとそうなのだ。以前より小言も減り、喧嘩もあっさりしている。

「やっぱり音が変だわ」

 ミホの言葉で目が覚めた。仕事疲れか、マコトはしばらく居眠りしていたようだ。

 車はすっかり山中に居て、ここが何処だか分からなかった。

 ミホは山道脇の斜面に車を少し乗り上げ、エンジンをかけたまま停車させた。それから車を降り、体をかがめて車体の下を覗き始めた。

「いいよ、俺が見るから」

 水色のワンピースに、低めのヒールを履いている。こんな格好で車体の下を覗き込まれたのではたまらない。いつも家を出てから予定を急に変えるから、出先と服装がちぐはぐになるのだ。計画性の無さは慣れっこだった。

「一体何処から音が聞こえるって言うんだ?」

 車を降りたマコトは、前輪のちょうど後ろ辺りに頭を突っ込み、エンジンルームの底を覗いて見ようとした。

 次の瞬間だった。緩い坂に乗り上げていた車が下がってきたのだ。マコトは避ける間が無かった。ミホが引いたサイドブレーキが甘かったのだ。

 左腕と頭にタイヤが半分くらい乗り上げて、ちょうどマコトを押さえつける形で静止した。

「ミホ、助けてくれ!」

 ミホはマコトの危機に全く反応する事なく、ゆっくりとしゃがみ込み、マコトにむかって囁いた。

「変な音がしたのよねえ。車じゃなくって……貴方のスマホから。メールの着信音かしら? 聞き慣れない音がねえ」

 ミホは気付いていたのだ。メールの事も、浮気の事も……。

 ミホは一応、救急車を呼ぶ準備をした。慌てず、ゆっくりと。これはきっと事故なのだから……。

 山中に向かって来る救急車は、到着にどれだけ時間を要するだろう?

 車体の重みはどんどんマコトの頭部にのしかかった。

 薄れゆく意識の中、マコトはかつて聞いた事のない『異音』を、頭の中で最後に聞いた。

 

 

 

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