ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(『裁判』がテーマの作品例)新作ショートショート(18)/原因裁判

新作ショートショート(18)/テーマ(裁判)

 

 

原因裁判

 

 

 

「この事故が起こったのは、被告が酒を飲んでいた事が原因です」
「なるほど……。確かに、しらふの状態なら赤信号を見落す事もなく、またブレーキやハンドルの操作も正確に出来たでしょうな」
 裁判官は検察側の意見を全面的に認める発言をした。
「そ、そんな……」
 被告の男は、一瞬言葉を失った。
 訴えでは、被告が運転する車が、青信号を横断中の歩行者をはねて怪我をさせ、持っていた紙袋の中にあった腕時計が故障したと言うものである。それらは買取ショップに持ち込む予定だったプレミア付きの高級腕時計七本で、総額の三百万円以上を上乗せした補償を要求している。治療費意外に応じたくないと言う被告は、当時酒気帯び運転だった。
 数年前から、事故であれ事件であれ、それらが起こった原因が重視される法律が適用され、全ての事案に対する責任の所在が随分と複雑になった。
 また、それらの立証には莫大な時間を必要としたが、これこそが本当の裁判だと支持する国民が大多数を占めるようになり、ついに揺るぎ無い安定した法律となった。
 被告は証言台に立ち自ら主張をする。それはいかに自分ではなく、他人に責任の所在があるかをアピールするのが目的だ。
 そして、この証言で責任を転嫁された人物は次回に出廷しなければならず、その結果、裁判は開廷と閉廷を繰り返す事となった。
 以降の話は冒頭の裁判の続きだが、開廷や閉廷の流れ等を全て端折ったものである。
 しかし、検察の主張に被告人は反論し始めた。
「裁判長! 私が酒を飲んだのは、居酒屋の大将が酒を勧めたからです!」
「ほう、それはいけませんなあ。原因の可能性が……。では、次回大将の証言を」
「えーと、私は確かに酒を勧めましたがねえ、その日はあの伝説の野球チームが優勝した日なんですよ。そんな日に酒を飲まずにいられますか? あのチームですよ、ねえ裁判長」
「『あのチーム』ねえ。私も大ファンですよ。期待を裏切り続けられて、もう十年以上ですかな? ハハ……。実は私も飲みました。かなりの量をね」
「でしょう?」
「じゃあ、やっぱりそのチームが優勝したのがいけないのかな? それじゃ、次回は監督に話を聞きますか」
「優勝がいけないなんて馬鹿げてる! 監督なんだから、チームの優勝を目指すのは当たり前じゃないですか!」
「ほう……。では監督、あなたが原因って事でいいですか?」
「いえ、その……。ああ、そうだ! あいつがいけない。ウチの四番のタムラ選手! あいつがバンバン馬鹿みたいにホームランかっ飛ばすから、ウチのチームにいっぱい点数が入って、挙げ句の果てに優勝なんかしちゃったんだよ。そうそう、あのホームランバッターのバカ野郎ですよ!」
 次に呼ばれたタムラ選手も黙ってはいなかった。
「バ、バカ野郎だって! ひどいな、監督! あ、あんたが打てってサインを何回も出したから、僕はそれに従っただけじゃないか!」
「サイン?」
「そうです、サインですよ! ほら、左手さすって右手さすって、最後に鼻を触ったらホームラン狙えってサインじゃないですか!」
「ば、馬鹿! サインの事周りの人達に教えちゃ……。い、いや。知らないよ、そんな事。そ、そうだ、蚊が居たんだよ、蚊が。そいつが俺の事刺したんだ……。それで痒くなったんだよ!」
「じゃあ、何ですか? あんたは毎回、左手、右手、鼻って順で、蚊に刺されるって言うんですか?」
「いいや、そうじゃない。癖だよ、癖。俺、蚊に刺されると、左手掻いて右手掻いて、フィニッシュで鼻を触る癖があったんだよ、子供の頃から。あれ? 知らなかったの?」
「はあ? なんだよ、フィニッシュで鼻って。訳わかんねえや……」
「あの、タムラ選手。このままじゃ、あなたが監督のサインを見間違って、勝手にホームランを打った事で最終的にチームが優勝しちゃって、それに気を良くした居酒屋の大将が、飲まないつもりだったお客に酒を勧めて、それを飲んだお客が車を運転して事故を起こして、その相手が怪我をして、オマケに高級腕時計が壊れたって事になりますが……」
「そんな……」
 タムラ選手はしばらく沈黙した。そして、ようやく次の言葉を発した。
「そ、そうだ! あ、あの子がいけないんだ、怪我で入院してた、あの子。何かの番組で、好きな有名人に会えるって企画があって、入院先の病院で会った時、『ホームランいっぱい打ってくれたら早く退院出来るからお願いします!』って。だから僕は頼まれて打ったんです。そう、思い出した。小学生のケンジ君ですよ……。ああ、良かった思い出して」
 法廷がざわついた。万年Bクラスと言われ続けていたが、今年はれっきとした優勝チームだ。その中の四番バッターであるスター選手が、こともあろうかファンに責任転嫁するなどもってのほかで、まして相手は入院中の小学生である。この証言後、タムラ選手とその関係者達は、非難の嵐にさらされる結果となった。
 過日、法廷では日本中が注目する裁判が行われた。
「みなさんご静粛に。ではケンジ君、前へ」
 ケンジ君は目にいっぱい涙を溜めて証言台に立った。きっと大好きなタムラ選手に裏切られたのがショックだったに違いない。
「いっ……。いっ……」
 ケンジ君は懸命に話そうとするが、しゃくり上げて、なかなか声が出せなかった。一旦ゆっくりと深呼吸して、ようやく言葉を発する事が出来た。
「い、院長先生がボクに言ったんだ……」
「院長先生は何と?」
「はい。『君が楽しいと思う事がいっぱいあると怪我が早く治るんだよ』って……。ボクは言われた通りに頼んだだけです。だから、悪いのは院長先生なんです!」
「ええ!」
 法廷中が大きくざわめいた。院長は既に他界している。原因裁判では最終的な被告が故人だった場合、この世にいる人間は誰も裁かれない。こんな高度な技を、まさか小学生がやってのけるとは……。
 審理の結果、入院中の少年に早期治療のアドバイスをした病院の院長が裁かれた。しかし、院長が故人であった為、この裁判で法廷に立った人達はみんな無罪となった。
 報道番組では、専門家とキャスターが今回の裁判について語り合った。
「事故が起こった原因を故人に持ってゆくのは、最も有効な手法です。まあ、今回はこれを小学生がやってのけたのですから大したものです」
「しかし先生。法律が変わってからと言うもの、本来裁かれていた筈の人達が野放しになって、刑務所の中と外のバランスが狂ってしまうのではないかと……」
「ええ、確かに刑務所に空きが増えたのは事実です。しかし……。昔から捕まってない悪人はいっぱいいますから、まあ似たようなモンですよ」

 

 

【その他のショートショート作品はこちら↓↓↓】

時空モノガタリ投稿作品 カテゴリーの記事一覧 - R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(本のタイトルはとても重要です)気になるタイトル(4)

気になるタイトル(4)

 

書店で見かけた『気になるタイトル』の本、今回は4回目です。

『タイトル』の重要性は言うまでもありませんが、具体的なタイトルの付け方について、私の考え方は以下の通りです。

 

【CONTENTS】

 

 

タイトルは、

●『想像出来る』もの

●『想像してしまう』もの

●『想像出来ない』もの

どれかには該当すると思います。

 

『想像出来る』もの

読者が『想像出来る』内容で、それに興味があり、尚且つ読む事で、その世界に深く入り込む事が出来る。

 
『想像してしまう』もの

読者によって『想像してしまう』内容が異なり、物語のテーマ等も複数の意味を持っている。

 

『想像出来ない』もの

『想像出来ない』なりに読者は『想像して』読んでみるが、いい意味で期待を裏切られ、物語のラスト付近でタイトルをつけた理由に合点がいく。

 
どのパターン場合も重要なのは、タイトルを見た読者の方に興味を持ってもらう事で、後はその興味・期待に上手く答えられればベストですよね。

 

 

 


ケーキの切れない非行少年たち

 

最初にタイトルを見た時に、『これってどう言う意味だろう』と思われる方も多いかもしれません。内容は非行少年たちの認知能力の問題についての、深く重いものなのですが、これらを一言で表現したタイトルが付けられています。

 

 

 

 

来なけりゃいいのに

 

働く女性たちの内面に潜む『闇』を描いた作品たちです。リアルな描写で描かれた様々な場面でのドラマ。タイトルの『一言』が、なかなか『強烈』ですよね。

 

 

 

 

鍵のない夢を見る

 

直木賞受賞作』である本作ですが、五人の女性の様々な世界が描かれています。それぞれが抱える問題について、そこから抜け出す『鍵』を求めると言った表現で付けられたタイトルは見事ですね。

 

 

R・ヒラサワの本 

 

 

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そして最後に 

 

冒頭でのお話にあったタイトルからの『想像』は、いかがでしたでしょうか? 同じタイトルを見た時の感じ方が、多くの人に共通する場合と大きく分かれる場合。これは読者の方の経験や感性、その他の様々な環境によって変わってくるのですが、書き手側は如何に意図した通りのイメージを、多くの人に伝えられるタイトルを付けられるかが、腕の見せ所ですね。

 

 

 

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(小説・ショートショートの書き方ブログ)今回の作品/拳銃をどうぞ

今回の作品/拳銃をどうぞ

 

新年、明けましておめでとうございます。2021年最初の記事となります。

本年も当ブログ『R・ヒラサワの~Novelist's brain~』を、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

ギャンブルが原因で膨れ上がった『借金』。それを返すための手段として、主人公の男が選んだのは『銀行強盗』だった。練りに練った計画の末、押し入った信用金庫で待ち受けていたものは……。

ショートショート『拳銃をどうぞ』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com


【CONTENTS】

 

 


テーマからの発想

 


テーマは『銀行』です。『銀行』と言えば、やはりネタ的には『銀行強盗』になってしまいますかね。これは単純に展開の範囲が広いと言う事なのですが、この場合はいかに過去に無い様な作品を書けるかがポイントになってきます。

反対に展開の範囲が狭いと思われるネタの場合、どうやってそこから上手く展開をさせるか。いずれの場合も、常にチャレンジ精神が必要なのだと言うことですね。

 

 

 

発想からのキーワード選出

 


銀行強盗、貯金、融資、ローン、返済、転勤、信用金庫

 

 

POINT1:タイトル

 


タイトルは『拳銃をどうぞ』です。私がブログ上で公開した作品の中では、比較的インパクトの強いタイトルの作品になります。

タイトルにおける『インパクト』は個人的に強い方が好きですが、単にそれが強ければ良いというものではなく、作品にマッチし、オチに対する重要な役割を果たさなくてはならないのです。

 

 

POINT2:書き出し

 


ー拳銃をどうぞー

 確かに目の前の銀行員の男は、そう言った。オレの聞き間違いではない筈だ。キリリとした目は、とても冗談を言っている時のそれではなかった。歯切れのいい口調は、この場において、むしろ不気味でさえあった。

 
銀行強盗に入った主人公に対して、行員が『拳銃をどうぞ』と、武器を差し出してくる。先ずは異常な世界からの出発です。その後、主人公は今回の計画や銀行側が意図しているであろう様々な事について思いを巡らせます。突然の出来事に対して、主人公の思考がついていかない状況を表現している訳ですね。

 

 

POINT3:ユーモア

 

『三十日間金利ゼロには絶対乗るな』と言うのは、過去に失敗を重ねた先輩達から、代々受け継がれるアドバイスの言葉だった。

 半分の十五日、いや十日ほどで返すつもりだった。新たに触れた『無人契約機』は、余計な説教などせず、黙ってオレに金を貸してくれた。

 
強盗を企てる人の心理は実際には分かりませんが、何かしらお金に困るエピソードがある筈で、今回はギャンブルがその原因であるとの設定です。この設定は比較的オーソドックスで、過去の事件でも動機になっている場合が多いのも事実ですね。

ユーモアと言う点で、今回はあえて先輩からのアドバイスをエピソードとして入れています。

 

 

 

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POINT4:前半のストーリー

 

 主人公が強盗目的で銀行に押し入ると、行員から『どうぞ』と、拳銃をわたされる。

 

主人公は何が起こったか把握出来ず、とりあえずこれまでの企てについて、頭の中で整理しようとした。

 

 

POINT5:展開〜オチ

 

行員から拳銃を渡された理由について考えを巡らせたが、ついに答えが見つけ出せず、ストレートに行員に尋ねてみた。

 

押し入った銀行は経営状態が悪く、何とか預金者を呼び戻すための対策として近所の大手銀行が襲われて信用がなくなることを望んでいた。

 

 

総合的なポイント

 

今回の作品はオチに至るまで、ほとんど主人公の思考がメインになっています。この様な書き方をする場合、思考の巡る道中でいかに多くのエピソードやユーモアを盛り込めるかがポイントとなります。しかし、その場合にあまり不自然な話の流れになってしまうと、『違和感』や『間延び』のイメージが強くなってしまうので、注意が必要です。


コラム/余計な文章(前編)

 
小説において、全ての文章が必要と言う訳ではなく、中には不要と言うか、要するに『省略できる文章』も存在する訳です。実際の作品を用いて、どの様な場合に必要で、どのような場合に不要なのかを、次回の『コラム/余計な文章(後編)』にてお話ししたいと思います。

 

 

 

 

 

 

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(小説・ショートショート書き方のコツ)コラム/上手い表現方法(後編)

コラム/上手い表現方法(後編)

 

小説は作中の流れなどを表現する場合、様々な方法がとられますが、同じ内容を書いていても伝わり方やリズム感に違いが出る場合があります。ショートショートの様に、文字数が制限されやすい作品には欠かせない要素ですので、特に詳しくご説明したいと思います。

 

 

 

【CONTENTS】

 

 

 

 

『虹色』の場合

 

ショートショート『』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

虹色をした球体はタケルの手からわずか数十センチの距離で、パッっと弾けて空へと消えた。

これは単純に『シャボン玉』を表現したものですが、以前に創作プロセス公開で解説した事があるのですが、少し堅めの、要はまわりくどい表現によって、頭に湧くイメージを少し遅らせて、後に続く文章

 カメラを構えたままのタケルは、モニターとナオミの顔を交互に見た。そしてナオミと目が合った。

これと同じぐらいのタイミングでイメージされる様、意図したものです。主人公の手元から離れたシャボン玉が、しばらくしたところで弾けた次の瞬間、その先に元彼女の姿が見える、というシーンをイメージしてもらう為ですね。

 

 

次の瞬間、タケルの指はシャッターではなくシャボン玉に触れた。

 虹色をしたシルエットが弾け、その向こう側には、笑顔のナオミが待っていた

 冒頭のシーンをなぞる様に、ラストも同様の『画』を用意しています。このイメージは既に読み手の中にはあるので、今回は短い文章でまとめています。

冒頭のものが、『オチ』の為の『仕掛け』であった事は、言うまでもありません。

 

 

 

『帰れない』の場合

 

ショートショート『帰れない』の全文はこちら↓↓↓ 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

数日後、ミサキは休みを取って実家に帰った。すっかり変わった自分に母は少し戸惑った様子だった。

「あら、キレイになったわね……」

 父は今日も不在だと言うが、実は会いたくないのだと思う。

既に『オチ』をご存知の方はお分かりでしょうが、ネタバレがないラインで書ける部分を書いてミスリードしています。

 

 

部屋のドアには大きなキズが残っている。あれはミサキが怒って物を投げつけた跡だ。両親もこの家もミサキの全てを知っている。ここに来れば全ての過去を知られてしまうのだ。

こちらも上記と同様で、ミスリードですね。ミスリードの基本は『嘘』をつかず『本当の事だけ書く』です。要するに都合の悪い事は書かないのですよ。ネタバレしない様に。

 

 

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『私の庭』の場合

 

ショートショート『私の庭』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com


普段なら見送る内容だったが、モザイクの男性の後ろに映るゴミ屋敷。そこには、かつて愛用していた外国製のオレンジ色の鍋があった。

はっきりとは書いていませんが、主人公が『オレンジ色の鍋』を使っていた事は明らかです。そして、それが『ゴミ屋敷』の住人と思しき男性の所にある。ここまで分かればある程度、二人関係性を読者の方が想像出来る訳です。

 その後、少し遅れてモザイクのかかった男性が、主人公の元夫である事が分かります。

今回の表現方法の意図するところは『不安の増幅』です。例えば日常生活の中、特に出勤前あたりに心配な出来事を目にしたにも関わらず、自宅に帰るまでその事実が確認出来ないしたら、不安感が増してしまわないでしょうか? 楽天的に物事を考えられる人は別ですが。今回の表現には、その様な効果があり、より主人公に感情移入してもらう為の仕掛けなのです。

 

 

ケイコの耳にその話は届いていた。しかし、手の動きは止めなかった。リビング辺りのゴミを袋に詰めている。道中で買っておいた大量のゴミ袋に。

主人公は、元夫の所に行こうと思った時点で、既にある程度の状況は想定していていました。少なからず期待感を持って向かっていたのです。

これらの心理を表現する方法として、行動以外ではなく、今回は所持品を使ったのです。『大量のゴミ袋』は、到着した後に片付けを一緒にしようと言う思いの表れで、その先には『復縁』の可能性も見えて来る訳ですね。

 

 

 

そして最後に

 

作品内での『表現方法』は様々で、ストレートなものから遠回しのもの、『行動』や『物』でも可能です。既に広く使われてきた事柄だけではなく、新しい表現方法も先々出てくる事でしょう。

ただし、どんな『上手い表現方法』であっても、適材適所を考えなければ効果が十分に発揮出来ないと言う事を忘れてはいけません。

 

 

次回は、ショートショート『拳銃をどうぞ』の創作プロセス公開です。 

 

 

ショートショートの書き方』を、作家の視点で詳しく『超解説』‼

 

 

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(小説・ショートショートの書き方ブログ)今回の作品/別れの理由、コラム/上手い表現方法(前編)

今回の作品/別れの理由(テーマ/別れ話)

 

 

元カレから告げられた、呆れた内容の『別れの理由』。主人公は復讐のため、再び元カレに近づく手段として『整形』する事を決意する。整形後、上手く元カレに接近する事が出来た主人公だったが……。


ショートショート『別れの理由』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com


【CONTENTS】

 

 


テーマからの発想

 

テーマは『別れ話』です。

『別れ』と言えば、先ずは『カップル』のお話。勿論『夫婦』にだってあるんですけど、後者の方が物語がややこしくなりそうですね。

 


発想からのキーワード選出

 

カップル、夫婦、離婚、倦怠期、浮気、移り気

 

 

POINT1:タイトル

 

タイトルは『別れの理由』です。今回はシンプルなタイトルです。この様なタイトルを付ける場合、大抵は『オチ』に直結しています。これは実際に作品を読んでいただくのが良いのですが、このタイトルは物語の『起点』であり『終点』であるからなのです。特にショートショート作品の場合は、この様な構成にすると面白みも増しますし、タイトル自身も『気の利いた』ものになる訳ですね。

 

 

POINT2:書き出し

 

―絶対アイツに復讐してやるんだから―

 ミナコはそう決心すると、国内で最も評判のいい美容整形外科に向かった。

「先生! 手術代は高くってもいいの。とにかく女優のアリサそっくりにして!」

 

小説の書き出しパターンとして、『地の文』『セリフ』『内面描写』のいずれかになると思いますが、私が最も好んで書いているのは『セリフ』で、次が『内面描写』です。勿論、理由があって、ショートショートと場合は文字数が少ない為、読者の方を早くその世界に連れて行かなくてはなりません。その為に最も効果的なのが『主人公と同じ心理状態になる』と言う事です。

『地の文』でこれが出来ないかと言えばそうではないのですが、シンプルに効果が出しやすいのが『セリフ』と『内面描写』って事なんですよね。

 

 

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POINT3:ユーモア

 

「オレってさあ、女優のアリサの事すっげえ好きじゃん。で、付き合い始めたときってオマエの髪型とか、ちょっと似てたじゃない? でも最近思ったのね、やっぱ『似てないなあ』って。だからそういう訳で、別れたいんだけど」

「はあ?」

 

今回の作品では少々極端にしてみましたが、現実世界でも実にあっさりした人も居るもので、それを更に相手が呆れる様な理由にしてみました。

 

 

 

POINT4:前半のストーリー

 

呆れた理由で彼氏に振られた主人公は、顔を整形して復讐を企てる。

 

復讐の内容は簡単で、彼氏が好きな女優そっくりの顔で近づき、最終的に振ると言う計画だった。

 

 

POINT5:展開〜オチ

 

見事に成功した整形で女優そっくりになって主人公は、元カレに近づき何度かデートする事にも成功する。

 

かつて元カレから告白されたテーマパークで、観覧車に乗ってその時を待つが、結局容姿ではなく中身が大事だと、再び振られる。

 

 

総合的なポイント

 

今回の作品で、主人公は『復讐』と言う目的の為に整形手術をするのですが、その事によって目的以外にも嬉しい事が起こります。『オチ』に至るまでに、可能な限り落差がつく様、色んなエピソードを盛り込む事で物語は最高の結末を迎える事が出来ます。

主人公や登場人物の関係性や周辺の環境も含め、様々な『仕掛け』を考えてみましょう。

 

 

コラム/上手い表現方法(前編)

 
小説の中で、物語の流れや何かの状態を示すのに、様々な表現方法があります。全く同じ事を書いていても、伝わり易さやリズム感と言った物は随分変わってくるものです。ショートショートは特に文字数に制限がある事が多く、これらの要素はとても重要なのです。 次回の上手い表現方法(後編)にて、詳しくお話ししたいと思います。

 

 

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(小説家になりたいと思う人の為のまとめ記事)/番外編まとめ記事(7)

番外編/まとめ記事(7)

 


小説の書き方に関するコラムのまとめです。ショートショート作品ではなく、記事をメインで読みたい方の為にまとめてみました。

コラムは通常、前編と後編に分かれていますが、今回はメインとなる後編のみを5記事掲載しています。

 

【CONTENTS】 

 

 

 

アイテムの使い方

 

小説の中に出てくる『アイテム』。これらは物語の中で重要な役割を果たします。

そして同じ『アイテム』でも『主役』と『脇役』の様な割り当てがあって、この回はそのあたりの解説をしています。

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

 

さりげないセリフ

 

作中の『セリフ』が物語の進行を左右する事は勿論あるのですが、今回は『さりげないセリフ』。一見、特に意図されたものでないように見えても、実は大きな役割を担っている場合もあるのです。それは『仕掛け』であったり『サブ・テーマ』であったり。この回は、そんなお話です。

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

 

計画的な展開

 

小説における『展開』は、予め建築物の設計の様に計画的に行いますが、それらの仕掛けは作者でなければ分からない場合もあります。

どの様な場面で、どんな事を予め用意していたのか? この回は実際の作品を用いて詳しく解説しています。

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

 

文章に変化をつける方法

 

短い文章でも、それが単調でリズムの悪いものであれば、なかなか読者の方には読んでもらえない事があります。小説はいかに読み手の心を惹きつけ、リズミカルであるかがとても重要です。

この回では、特に構成に応じた文章の流れ、つまり『スピード』について解説しています。

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

 

文章に変化をつける方法❷

 

前回に引き続き、『文章に変化をつける方法』ですが、この回では主に『構成』の為の方法について解説しています。

『構成』におけるそれぞれの『句』。それは物語によって展開のスピードが異なります。これらを上手くコントロールする事によって、更に面白い話になるのです。

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

 

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(小説・ショートショート書き方のコツ)コラム/理由のある動き(後編)

コラム/理由のある動き(後編)

 

 

登場人物の『動き』には理由があります。それは物語の進行上の場合もありますが、『構成』や『展開』の為の『動き』もあるのです。

今回は、実際の作品を用いて、その辺りの解説をしたいと思います。

 

 【CONTENTS】

 

 


『消去ボタン』の場合

 

ショートショート『消去ボタン』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

「おいおい、そんな説明は要らないぞ。こんな簡単な装置の使い方ぐらい、見れば分かるってもんだ。それより、こいつを早く試してみたいんだがな」

 ボスが人の話を聞かないのは、いつもの悪い癖だった。無理に説明しようとすると、かえって面倒な事になる。仕方なく子分は説明を後回しにして、自分の大事な用が件を先に伝える事にした。

 

 

子分が研究所に潜り込んで手に入れた装置の説明を、ボスにしようとするくだりです。

❶子分は装置の説明をしようとする

❷ボスは説明を聞かず使おうとする

❸子分は説明を後回しにして、先に自分の用件を話す


❶物語の流れ

❷ボスの『性格付け』

❸『オチ』に対する『仕掛け』


❸が『理由のある動き』になります。

普段から人の話を聞かないボスに対し、子分は少し間を取ります。しかし、ここで自分の働きに対する報酬について、交渉したかった子分は意識がそこに集中してしまうのです。それによって、ボスが勝手に装置に触れるのを阻止する事が出来ず、『オチへの流れ』が生まれる訳です。


❷で、先ずはボスが『人の話を聞かない』という事から、問題はどんどん発展してゆきます。

→ボスが自由に動く

→子分の制止が遅れる

→ボスが本来とは違う装置の使い方をする

→装置の調整が狂っていると思い、子分に対する不信感が現れ暴挙に出る

→『オチ』

このように『オチ』へ繋がってゆくのですね。

 

 

 

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『落とし物の使い方』の場合

 

ショートショート『落し物の使い方』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

ここでの食事を済ませた段階で、男の所持金は一万円程度になった。そこで初めて男は減って行く金が惜しいと思い始めた。何か手元に残る物でも買おうかと一度は考えたものの、それもやめて現金を残す事にした。

 最寄りのATMはすぐに見つかった。普段から持ち歩いているキャッシュカードを使い、入金をした。男はこれを機に無駄遣いをやめて、今度は妻と一緒にご馳走を食べようと思った。軽やかな足取りでATMを後にした。

 

パチンコで負けた帰り道、男が路地で拾ったお金でパチンコや食事をした後のくだりです。

 

❶男は拾ったお金をパチンコ店で使う

❷何か美味しいものを食べる

❸お金を残そうとATMに向かう


❶無駄使いをする為の誘導

❷お金の使い方に価値を生ませる流れ

❸生まれた価値観からの普段とは違う行動

 

❶〜❸の全てが『理由のある動き』になります。
❶で、先ずは男が居たパチンコ店に誘導するのですが、通常ギャンブルでは『負けを取り返す』心理が生まれます。しかし今回、男は負けた後で、給料日前の臨時収入である事から、少し余裕がある状態です。

 

→先ずはパチンコをする

→再び負ける

→『勿体ない』心理が生まれる

→価値のある使い方をする心理が生まれる

→食欲が満たされて、更に余裕がでる

→お金を残そうという心理が生まれる

→『オチ』

 
『オチ』で男が取った行動は、他者によって全く別の目的で利用される訳ですが、『お金を残す』という行動は、他者からすれば『嬉しい誤算』になる訳です。

『オチ』をつける直前に、この様な要素を入れるのは、更に『オチを強くする』効果があります。これは、出来る限り『直前』に入れるのが、最もベストな位置なのです。

 

 

そして最後に

 

小説の中でのキャラクターの『動き』は、一見シンプルな様で実は複雑だったりします。それは勿論、作者の意図によるものだったりする訳ですが、あくまでストーリー的な矛盾が無く、キャラクターに合ったものでなくてはなりません。その為には、先ず登場人物の『性格付け』から入り、周囲のキャラクターとの歩調を合わせる事も大事な要素になる訳ですね。

 

次回は、ショートショート『別れの理由』の創作プロセス公開です。

 

 

 

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ショートショートの書き方』を、作家の視点で詳しく『超解説』‼

 

 

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