カメラアングル(後編)
小説を書く上で登場人物の動作を描写する場合、読者の方が文章を読んでいて、どういう状況なのか把握できるよう書かなければいけません。
その場合、書き手は自分も物語の中に入り込み、テレビなどでカメラをまわしているつもりで、実際に見たようなアングルから書くとリアリティもあり、読者の方にも情景が伝わりやすいと思います。
それを考える場合、ドラマや映画などのカメラアングルが参考になるかと思います。
【CONTENTS】
クローズアップ
誰も居ない間にチョコの包みを大急ぎで開けた。中にはとっても大きなチョコと、名刺よりも小さいメッセージカードが入っていた。
二つ折りのそれを開いてみると、左右に一文字ずつ『好』と『き』が書かれていた。ミヅキにしては大きめの字だと思った。
【R・ヒラサワ『片想い』より】
この描写は映像ではクローズアップの状態に当たります。主人公がメッセージカードをじっくりと見ている様を表現する為、左右に書かれた文字を詳しく説明しています。
カードに書かれた文字の詳細は、実際近くで見なくては分からない筈です。これを書く事で主人公がカードを手に取り、近くで見ている様子が表現される訳で、クローズアップのカメラアングルを意識したものです。
バストショット
でっぷりとお腹の出た中年男性が呟いた後、私の前で立ち止まる。ジロジロと顔を眺めた後、ゆっくりと名刺を所定の場所に差出した。
【R・ヒラサワ『アイちゃん』より】
この描写は、比較的近い距離で確認できる内容を書く事で、両者の距離感も表現しています。主人公から見て相手の目の動きが確認でき、尚且つ呟いた声が聞こえる距離感。これはカメラアングルでいうところのバストショットあたりになります。
この描写をする時、私は実際に近い距離でジロジロ見られた状況を思い浮かべて書きました。
全身〜俯瞰
男は例の黒い鞄を足元にスッと置き、振り返るや否や強盗に強烈なキックを浴びせた。
強盗の体は宙を舞い、バタフライナイフは遥か遠くへと弾け飛んだ。
【R・ヒラサワ『鞄』より】
この作品は異例で、視点は誰にも置かれていません。いわゆる『神様視点』で書かれています。
作品の都合上この形式を取っているのですが、これはアングル的に『俯瞰』に当たります。しかし、完全にそのアングルにすると迫力のない描写になってしまう為、『全身〜俯瞰』というアングル間で、ちょうどズーム機能を使った様な書き方にしています。
ユカと店主のやり取りを聞いて、周りに居た人達が一人、二人と集まって来て、やがてそれは列となった。
【R・ヒラサワ『サクラ』より】
こちらも同様に『全身〜俯瞰』のズームになりますが、よりわかりやすい例になると思います。
周囲にいる人達が、主人公を含めた二人の会話が聞き取れる距離感から、徐々に人が集まってくる様子。更にそれが列をなしてゆく様は俯瞰でなければ見れないアングルになります。
次回は、ショートショート『ANSWER』の創作プロセス公開です。
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