ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(『お勧めの品』がテーマの作品例)小説投稿サイト時空モノガタリ未発表作品(6)/ミラクルパワーボール

(番外編)未発表作品/ミラクルパワーボール

 

友人から勧められて買った不思議な力があると言うボール。果たして本当に威力はあるのか……。

 

 

  

ラクルパワーボール

 

「これがいざっていう時に、人間が本来持っている数倍の力を出すことが出来るって言う製品なんだ」

 タナカは俺にそう言って、銀色にキラキラと光るボールを二つ手渡した。一個が掌の中にちょうど収まるサイズで、ミニチュアのミラーボールの様な製品は、効果が疑わしい美容器具を思わせた。

「これってさ、本当に力が出るんだ!」

 嘘の様な台詞を平然と吐くタナカの目は、真実に満ちていた。

俺とタナカは、もう十年以上の付き合いだが、過去に一度も嘘をつかれた記憶は無かったし、正直なところ真面目だけが取り柄の様な奴だった。

「とにかく凄い商品なんだ。一個のボールが一万円だから、二個セットで二万円。良い商品だから値引きは一切無いんだけど、買って損は無いぜ、絶対に!」

「な、なあタナカ。お前の話は信じるよ。確かに今までお前が嘘をついた事なんて一度もなかったし、この商品だって良い物なんだと思う」

「そ、そうだろ!」

「ああ。だけど、今のところ俺にはそいつを使えそうな事が思い浮かばないし、値段ほどの価値が感じられないんだよなあ」

「なんだ、そんな事で悩んでたのかい? 俺だって買った時は、そんなもんだったよ。別に使う用途なんて考えもしなかったし。だけどな、不思議なもんで実際買ってみると、すぐにこれを使うチャンスがやって来るんだ。だから絶対に価値はあるって!」

「本当かい?」

「ああ本当だ、約束するよ。俺にこれを勧めてくれた人もそう言ってたし、その前の人もずっとそうなんだ」

 タナカがあまりにも熱心に商品を勧めてくるので、仕方なく俺はそれを買うことにした。タナカの説明では、この商品を他の誰かに勧めて購入が決まると、紹介者にお金が入る仕組みらしい。とにかく俺は、自分で試す事にした。

 まずは、部屋の中で重いものを持ってみようと考えた。左手で例のボールを握り、右手で重い物を持ってみる。しかし、全く効果が現れない。むしろ左手に持っているボールの事が気になって、逆に力が入らない気がした。

 今度はボールを握りながら出来る事を考えてみた。拳の中にボールがあれば、きっと効果が現れるに違いない。俺はスポーツが、全くもって苦手な方だし、ましてや格闘技的な事はなおさらだ。それならばと、俺は空手の瓦割りを選んでみた。拳の中に ボールを握って、瓦を割ってみるのだ。普段、何もない状態ならば、間違いなく一枚も割れない。だからきっとこのボールを使えば、三枚、いや五枚だって割ることが出来るかもしれない。

 早速、俺はホームセンターに行ったが、瓦は売っていないので、代わりにレンガを一枚買って、それをブロックの上に瓦割りの要領で置いた。

 例のボールを握ったまま思いっきりレンガにパンチしてみた。今度は病院に直行する羽目になった。

 ボールの効果は全く感じれなかった。俺はタナカにすっかり騙されてしまったのだろうか? いいや、そんな事はないだろう。直接本人に会って確かめてみるべきだと思い、電話でタナカを呼び出した。

「なあタナカ。俺にはこのボールの効果が全く感じる事が出来ないんだ。お前は、絶対に効果が出るって言ってたけど」

「ああ、そうさ。ちゃんと効果は出る筈だよ」

「だけど、重いものも持ち上がらないし、レンガだって割れない」

「それは、君の使い方が悪いんじゃないかな。ボールの力を信じていないとか、本当にその力が必要だと思ってないとかね」

「そんな事はないさ。なあタナカ、お前、俺を騙したんだろ!」

 もう、タナカの言葉が信じられなかった。高い金を払って買ったのに、信用していた相手に対する怒りが止められなかった。俺は例のボールを握ったまま、タナカの頬を思いっきり殴った。

 そしてタナカは、その姿が見えなくなるほど遥か彼方へと飛んで行き、最後に消えた。

 

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