R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(『新人』がテーマの作品例)小説投稿サイト時空モノガタリ未発表作品(7)/優秀な新人

(番外編)未発表作品/優秀な新人

零細企業で新人研修を担当する勤続十年の社員は、最近中途採用した新人が優秀だったので、期待を寄せて徐々にレベルアップを試みるが……。

 

 

優秀な新人

ーそれにしても、今年の新人は優秀だなー
 新人社員の研修を進めていたナカニシは思った。自分との年齢差が開くほど、やりにくさを感じていた研修だったが、今回は少し事情が違っていた。期待できる新人がやって来たのだ。
 ナカニシが期待を寄せているのは、オオタと言う中途採用の転職者で、学校を出てすぐに入社した会社を二年で辞めているが、やり甲斐を求めた前向きな転職理由を、人事担当者が買ったようだった。
「いいかい。こういうのは部品を部品として見るんじゃなく、一つのパターンとして見るのがコツなんだ」
 今日もオオタに製品検査についてのアドバイスをしたところだが、ナカニシが勤めるこの会社は従業員数が少ない。だから、こうした研修は主に欠員が出た時にしか行わないので、本来は機会の少ない仕事だ。
 しかし、入社後すぐに辞める者も居た為、勤続十年になるナカニシにとっては、手慣れた作業の一つになっていた。
 ナカニシは研修を進める中で、徐々に新人が扱いにくくなってきていると感じていた。
 叱っても反応が薄く、まるで血の通わないロボットのような相手に対し、これがゆとり世代の若者なのかと頭を痛めていたところに現れたのがオオタだった。
 オオタは採用後の作業指導についても、注意を受けた事をしっかりと守り、何事もよく考えながら行動するタイプだ。
同じ作業でも回を重ねるごと、精度とスピードが確実に上がっている。教える立場として、とてもやり甲斐を感じられる相手だった。
 しかし、ナカニシにしてみれば、まだ物足りない部分もあった。それはオオタが順調にレベルアップしているからこそ出てくる欲である。
 さらに上を目指してもらう為には厳しさも必要だった。意地の悪い先輩に見えるかもしれないが、それは仕方のない事である。仕事の現場とはそういう場所なのだ。ナカニシは自分の仕事に絶対の自信があった。
 数日後の作業の際、更なるレベルアップの為にナカニシはそれを実行した。
「なあ、オオタ。さっき検品した商品を、もう一度確認してくれないか」
「え? 先輩、これはもう梱包まで終わってますけど」
「いいから、箱を開けてみてくれ。チェックした製品に異常はないか?」
「ええ。その筈ですが……」
 梱包箱の中には、検査を終えたばかりの製品が十台ずつ収められていて、オオタはそれを慎重に一台ずつ取り出し始めた。それは先輩であるナカニシが、自分に何の目的でこの作業を命じているのかと訝るような動きだった。
 箱から順に取り出していた製品が半分を過ぎた時、オオタの動きが止まった。
「まさか……」
「オオタ、何か気付く事があったか」
 明らかに顔色を失ったオオタに、ナカニシが声をかけた。
「ええ。製品に一本ネジが付いていません」
「君が検査をしてたんじゃないのか」
「はい、そうですが……。でも先輩、ウチの生産工程で、こんなネジの抜けが出る事は無い筈なんですが」
「そこなんだよ問題は。確かに、これは工程の中で出た物じゃない。俺が混入させたものだ。君は出る筈が無いと言ったが、その思い込みが見逃しを発生させた原因なんだよ!」
「でも……」
 オオタは納得のいかない表情のまま、後の言葉を飲み込んだようだ。確かに普段の彼の仕事ぶりは優秀だし、製造工程の特徴を考慮した検査方法も悪く無い。新人社員としては申し分ないだろう。
しかし、今回のような想定外の出来事への対処は、まだまだ甘い部分がある。実際の現場とは、想定外の事がしばしば起きる場所なのだ。
 しばらくの間、オオタは作業に集中出来ない様子だった。今回の件を理不尽だと感じつつも自分自身の中に改善点を求め、きっと模索してくれる事だろう。ナカニシは心の中で密かに期待感を深めた。
 数日後、作業場の片隅にはオオタと工場長の姿があった。二人の視線の先には、別の検査員に作業指導をしているナカニシの姿があった。
「オオタくん。ナカニシは指導という名目で不良品を混入させる事があると私に説明していたが、その時に交換した正常な製品をこっそり持ち帰っていると、君は言うんだな?」
「ええ、そうです。僕も不良品を見逃した事がショックで……。でも、冷静に考えるとナカニシ先輩が混入させた分、台数が増えていないといけない筈だと気付きまして」
「なるほど。最近、わが社の新製品が発売後すぐにネットオークションに出品されているとの噂があったが、どうやら彼の仕業の様だな。それにしても、今年の新人は優秀だな」

 

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