創作プロセス公開済み作品集(1)
この作品集は既に創作プロセスを公開したものですが、当ブログでも作品を読んでいただける様に編集したものです。
【CONTENTS】
『ハロウィンの夜』の創作プロセス公開はこちら↓↓↓
ハロウィンの夜にあった仮装パーティで事件は起こった。目撃者である青年からベテラン刑事が事情を聞くが……。
ハロウィンの夜
「すると、君もその男性が仮装をしていると思ったって事なのかな?」
「ええ、そうです」
「一目で分かる程のあぶら汗をかいていたというのに?」
「ですから、それも最近のメイクだったら簡単に出来る事なんで……」
「ハロウィンなんて、厄介なものが流行ってしまったものだな。年々参加する人数が増えてるそうだし、コスチュームやメイクもどんどんリアルになってきてるそうじゃないか」
ベテランの刑事は目撃者と名乗る連中に聞き込みを続けてきたが、あまり有力な情報が得られなかった。そんな中で唯一、途中から男性の事をずっと見ていたという青年が現れたので、話を聞くことにした。
「男性の腹にナイフが刺さっていて、おまけに出血まであったのに、事件的な疑いを持たなかったのかな?」
「ハロウィンの夜だったからです」
「うーむ。君の言っている事は分からないでもないが、全てをそれで片付けられてしまうと困るんだよなあ」
「確かに、おっしゃる通りだと思います」
刑事は気持ちを落ち着かす為、タバコを一服吸った。
「それで、その後救急隊が来たのかね?」
「二人来ました。ちゃんと救命措置をとっていたと思います。心臓マッサージみたいなことをやってたんで」
「それからどうなった?」
「待機していた救急車まで男性を運んで、そのまま乗せました」
「運んだのは担架で?」
「いいえ。ストレッチャーです」
「ストレッチャーだって? 君たちはそんなものまで持っているのか!」
「ちょっと待って下さい、刑事さん。僕はその人たちの仲間じゃないし、手の込んだ仮装なんてしてませんから」
「仮装? いやいや、君が仮装してない事ぐらい見れば分かるさ。普通のスーツ姿なんだから、会社帰りのサラリーマンだろう?」
「違います。仮装ですよ、仮装! 僕は普段の仕事が現場ばかりだから、いつも作業服なんです。通勤だって普段着だから、頑張ってスーツ着て来たのに……」
「悪い、悪い。君のも立派な仮装だよ。だって、そのネクタイがよく合ってるし。確かにスーツ姿ってカッコいいもんな。ちょっと窮屈な時もあるけど、気持ちが引き締まるし。それに……ほら、君はちゃんと私を上手く騙せたじゃないか。本物のサラリーマンかと思ったよ」
「そ、そうですよね」
「そうだよ! そ、それで、その後救急車はどうなったんだい?」
「そのまま発車しました」
「君は救急隊が本物じゃない事に気が付いてたのかい?」
「いいえ。刺された男性は、最初は仮装だと思ってましたけど、あんまり苦しそうなんで心配になりました。そしたら丁度いいタイミングで救急隊の人が来たんで、誰かが本物の救急車を呼んだのだと思いました」
「結局、発車した救急車はどうなった?」
「救急隊の仮装の人達はしばらく偽の救急車で付近をまわったみたいです。その後刺された男性に、上手くみんなを騙せたって握手を求めたら、どうも様子が変だったんで、今度は本物の救急車を呼んだそうです」
「それで、男性の具合は?」
「意識は無かった様ですが、死んではいなかったみたいです」
「確かにそうだったんだがね、結局刺された男性は搬送先の病院で一時間後に死亡したそうなんだ」
「そうだったんですか……。もっと早く本物の救急車に運ばれていれば、助かったかもしれなかったんですよね」
「ああ。間違いなく助かっただろうな」
「ねえ、刑事さん。僕は何かの罪に問われるんですか」
「罪? まあ、少なくとも君は大丈夫だ。直接何かをした訳じゃないし。だけど、救急隊の仮装をした連中は、知らなかったとは言え重症の患者を車で連れ回して救命措置を遅らせたんだ。何かの罪には値するさ。結局、その男性は死んでしまっているんだし」
「僕がもっと早く気付いていれば……」
「まあ、あの異常な状況の中だから、仕方がない。事故だよ事故」
「事故ですか……」
「そう落ち込む事はないよ。長い時間すまなかったね。君も気を付けて帰るんだよ」
そう言って目撃者の青年を見送った後、もう一本タバコを吸った。
ハロウィンの夜、ここに来るのは今年で三度目だった。事件の関係者に、刑事の仮装をして色々話を聞くのも悪くないものだ。
創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!
先ずは『試し読み』をどうぞ↓↓↓
『サクラ』の創作プロセス公開はこちら↓↓↓
rhirasawanb.hatenablog.com
売れない女優が、ある日事務所の社長から「サクラ」の仕事を依頼される。伸び悩んでいた女優は自身の進退をかけて、その仕事に挑むが……。
サクラ
「サクラって言うと印象が悪いかもしれないけど、あれだって立派な演技なんだよ」
大事な出番の前、ユカの頭の中に芸能事務所の社長の声が響いた。
日曜日である今日、大型ショッピングモールのイベント会場の付近で、ユカはそっと待機していた。視線の先には『サクラ』の依頼主である餅屋の主人の姿があった。
「ウチの団子は旨いんだよ。ほれ、あんたも食べてみなよ」
餅屋の主人はユカに『サクラ』の依頼をした日、店の自慢であるみたらし団子を差し出した。
「おじさん、とっても美味しいわ」
店主にもらったみたらし団子は、ユカがこれまで食べた事のある、どの団子よりも美味しかった。そしてこの事を、もっと多くの人達に知ってもらいたいと思った。
「どんなに美味い物を作ったって、それを周りの人達が知らなきゃ売れないからねえ」
「そうね、おじさん。頑張って宣伝しなきゃ」
「ああ、宜しく頼むよ」
そう言って微笑んだ横顔が祖父と重なった。
―女優なんて職業は、向いていないのかも―
ユカが何度も自分に問いかけた言葉だった。
―ユカは可愛いから、女優さんになれるよ―
二年前に他界した祖父にそう言われたのは、ユカがまだ小学五年生の時だった。それ以来、学校で将来なりたい職業の欄には『女優』と書くようになった。それはもちろん、祖父の言葉に影響されたからだ。ただ、祖父の喜ぶ顔が見たいと思って書いた『女優』だったが、少しずつ自分の中でもその気持ちが芽生え、十八歳の時に複数の知人を介して、芸能事務所を紹介してもらった。
事務所の社長はユカの事を可愛がってくれたが、自分では才能があるとは思っていなかった。映画やドラマに出る為のオーディションは、数えきれないほど受けたが、どれもいい結果は出せなかった。
デパートのイベントのアシスタントの様な仕事は何度かあったが、それはタレントとも女優とも紹介されない立場だった。
ユカは今年で二十二歳。いつまでもわずかな収入で親を頼っている訳にもいかない。これから進むべき道を、真剣に決めなければいけない時期は既に来ていた。
そんな時に社長から、少し変わった仕事の話があった。
「サクラ? ですか……」
「そう、サクラ。要するにお店とかで、そこの関係者がお客さんのフリをして、お店が繁盛してるように見せる、あれの事だよ」
しばらく考えた末、ユカは依頼を受けることにした。ただし、この仕事でいい結果が出せなければ辞める覚悟での挑戦だった。
イベントの当日、開始早々は客足もまばらだった。会場内の出店は、この商店街を除く全てがモール内の店舗だった。客層は若い世代からお年寄りまでと幅広く、一つの店舗が全ての客層を取り込むのは、かなり困難に思われた。
ユカが『サクラ』を始めるタイミングは決まっていた。昼前のある時間に店主がユカを意識しながら、メガネをはずして顔をタオルで拭いた。『サクラ』の合図だった。
店から少し離れた場所に居たユカは、少しずつ商店街のブースに近づいて行った。そして、店の前にある試食のみたらし団子に手を伸ばした。
「おじさん、このみたらし団子とっても美味しいわ!」
「そうかい? お姉ちゃん。良かったら隣のおはぎも食べてみなよ」
「おはぎ? こっちのあんこのやつね。ああ、本当! これも美味しい。その横はきなこね。これも美味しい! ねえ、実家の母に送りたいから、色々一緒に入れて」
「ああ、じゃあこっちのオススメのを色々と入れておくよ」
「ええ、そうして。おいくら? へえ、安いのね」
ユカと店主のやり取りを聞いて、周りに居た人達が一人、二人と集まって来て、やがてそれは列となった。その後は、その列を見た人が理由も分からないまま並んだりと、結果的に行列の出来るブースとなり、ユカの『サクラ』は、見事に成功した。
今回の結果に自信を得たユカは、再び女優への道を本格的に歩む事を決意した。
ユカが立ち去ってしばらく経ったショッピングモールでは、餅屋のブース前に列をなしていた人達が集まり始めた。
ユカの事務所の社長から、期待の女優の卵に自信を持たせる為の『サクラ』の依頼を受けた集団は、その仕事を終えてそれぞれの帰路に着き始めた。
『あとがき』の創作プロセス公開はこちら↓↓↓
作家人生十年の節目となる、自身の集大成とも言える作品集のあとがき。作家はその思いを込めて、そこに至るまでのエピソードを書き綴るが……。
あとがき
—著者あとがき—
この作品は私にとって、実に三年ぶりの著書となるが、俗に言う『産みの苦しみ』を実感したのは今回が初めてであろう。振り返ると此処に至るまで、様々な出来事が我が身に降りかかったのである。
まずは愛犬の家出に始まり、続いて妻の蒸発。挙句の果てには、住んでいたマンションを追い出される羽目にまでなった。
一時期、私はホームレスの状態になった。ホームレスと言っても、車の中で寝泊まりをしていただけなので、大した事では無かったが、この様な状況も私はプラスに捉える事として、これはきっと神様が私に新しいネタを提供してくれているのだ、と言う風に考えた。そしてこの時の経験が、後の作品に生かされた事は言うまでもない。
兎にも角にも、新作の出版へと漕ぎ着ける事が出来た事について、まずは編集者のY氏に感謝の言葉を述べたい。勿論、これまで私を応援してくれている読者諸氏についても、同じ気持ちであるのは言うまでもない。
それでは本題に入るが、この本は三十編から成る短編小説の作品集である。
前半十編は、初期の私の作風を意識した物を集めた。あえて荒削りな、書きたい事を前面に押し出すようなパワフルな感じを意識した。読みにくい感はあるかもしれないが、決して悪くはない作品ばかりだ。
続いての十編は、一言でいうと『挑戦』である。実は私はこんな作品も書けるのだ、と言う世界を存分に味わえたと思う。読者によっては、あとがきから読む人も居るようなので、あえてここで内容には触れない。
最後の十編は最も意外な、お涙ちょうだい物である。読者諸氏は周知の筈だが、私は決してこのような作品は書かない。何せ、私自身デビュー当時には「こんな作品を書くのは、せいぜい自分の頭がおかしくなった時か、あるいは自分が死ぬ直前ぐらいなものだ」と、語っていたぐらいだ。今にして思えば、デビューしたての新人が、とんだ大口を叩いていたものだと呆れてしまうが……。
しかし、今回はちょっとしたサービス精神の表れだという風に理解してもらいたい。人の心の中などと言うものは、こうして時々変化するものなのだ。
最後に、この短編集は今年で作家生活十年を迎える私にとって、その集大成とも呼べる作品に仕上がっている。故に、きっと多くの読者諸氏に、これを堪能してもらえる事だろう。
『あとがき』は、完成した。後は本文を書くのみだ。
作家の知人から聞いたこの方法で、上手くスランプを抜け出す事が出来ればよいのだが……。
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