ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(初心者必見! 小説の書き方のルール)番外編/創作プロセス公開済み作品集(2)

創作プロセス公開済み作品集(2)

この作品集は既に創作プロセスを公開したものですが、当ブログでも作品を読んでいただける様に編集したものです。

【CONTENTS】

 

 『片想い』のプロセス公開はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

同じクラスの女子に、なかなか告白出来ない男子高校生。しかし、バレンタインデーに嬉しい展開が待っていた。

 

片想い

 

 僕が通う高校で、同じクラスにいるミヅキは、教室の中でほぼ真ん中あたりに座っている。でも、その存在感で言うと、ずいぶん端っこの方にいるって感じの、ミヅキはそんなおとなしい女子だった。

 ちょっと地味で目立たない、何となく控えめな、そんなところがとてもいい。だから僕の中でミヅキは間違いなく、ど真ん中に居る存在だった。

 一方の僕はと言うと、存在感はミヅキとほぼ同じで、やっぱり端っこの方だと思う。あまり目立つ方でもないし、女子と話すのも苦手だから……。

 僕はミヅキと、もっと話したいと思うけど、授業やイベントで必要に迫られた時が精一杯。そんな時、ミヅキはよく笑ってくれる。多分そんな気がする。僕はこういう時、物事を良い方に考えるようにしている。もちろんミヅキについての事だけなんだけど。だって、片想いはきっと、そんな風に考えた方が楽しいに決まっているから。

 ミヅキの事は、同じクラスになってからすぐ気になり出して、それからずっとミヅキの事を考えて、もう半年以上経つけれど、僕とミヅキの間には何も起こっていない。多分それは、僕が何もしていないからだと思う。

 何もしなければ何も変わらない。そんな事は分かってるけど、僕がミヅキに告白して、もしダメだった時の事を考えると、やっぱりそれは出来なかった。僕はこう言う時には、物事を悪い方に考えてしまうようだ。

 ある日、僕とミヅキの間に大きな事件が起きた。なんと、バレンタインにミヅキが僕にチョコをくれたんだ。夢かと思った。

「ミヅキがあなたに用があるんだって」

声をかけてきたのは、きっとミヅキの親友。隣のクラスの女子で、いつもミヅキと一緒に居るから。だけど、僕はその女子の名前をよく知らない。向こうも多分、僕の名前を知らないから『ねえちょっと』って声をかけてきたんだと思う。

 ミヅキはうつむき加減で僕の前に立っていて、その親友は僕の事をじっと見ていて、その目は僕の事をあまり良く思ってない様に見えた。

『あの……。これ……」

 ミヅキがチョコを、そっと僕に手渡した時、話した言葉は、たったそれだけだった。そして僕も『あ、ありがとう』とだけ言って受け取った。

 正直、驚いたのと嬉しかったのと、照れ臭かったのがいっぺんにやって来て、他に何も言う事が出来なかっただけなんだ。

 その日の授業が終わって、部活も何もない僕は真っ直ぐ家に帰って、誰も居ない間にチョコの包みを大急ぎで開けた。中にはとっても大きなチョコと、名刺よりも小さいメッセージカードが入っていた。

 二つ折りのそれを開いてみると、左右に一文字ずつ『好』と『き』が書かれていた。ミヅキにしては大きめの字だと思った。

 僕が女子からチョコをもらったのは、これが初めてだった。しかも、それがずっと好きだったミヅキからだったものだから、この嬉しさをどう表現したらいいかわからない。多分、お正月とクリスマスと、誕生日がいっぺんに来たみたいな、とにかくそのぐらい嬉しい事だった。

 僕はその気持ちを伝えたくて、ひと月後のその日が待ち遠しくて仕方がなかった。今すぐにでも伝えたい。ミヅキに、僕だって好きなんだよって、その気持ちを。

 でもそれはホワイトデーの日にする事にした。ミヅキにだって心の準備があるだろうし、僕は何でも決まりをちゃんと守るほうだし。

 バレンタインから半月が過ぎた月曜日、再び事件が起きた。事件というより、それは事故だった。

 朝、担任の先生がいつもより早めに教室にやって来た。その顔色は随分悪そうに見えた。きっと良くない話だろうと僕は思ったけど、その予感は当たっていた。先生は声の震えを抑えるように、ゆっくりと話し出した。

 ミヅキが登校中、交通事故に遭って意識がない状態だと皆に伝えた。誰かがお見舞いに行きたいと言ったけど、今は家族の人しか会えないと答えた。

―翌日、ミヅキが天国に行った事を知った―

 僕は悲しかった。とても悲しかった。そして後悔した。ミヅキに自分の気持ちを伝えられなかった。ミヅキは僕に自分の気持ちを伝えてくれたのに……。

このままじゃ僕もミヅキも、ずっと片想いのままじゃないか……。

 通学路の途中には大きな家があって、そこには小さな梅の木がある。それは既に満開だった。

 僕は花の中では梅が一番好きだ。どこか控えめで可愛くて、それはきっとミヅキのようだから……。

 僕が居る世界と天国の間に、隔たりなんて無いんだ、きっと。少なくとも僕の心の中で、ミヅキとは『片想い』ではなく『両想い』に決まっているんだから。

 

 

創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!

先ずは『試し読み』をどうぞ↓↓↓

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『ANSWER』のプロセス公開はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

月に一回ペースのショッピングセンター通いは、夫との離婚がきっかけだった。近所では買えない雑貨の購入や、気分転換が目的だったのだが……。

 

ANSWER

 

 アキコが二十歳ぐらいから知るショッピングセンターは、オープンから既に三十年は経つだろう。ここにはしばらく来なかったが、最近また利用するようになったのは、十年以上連れ添った夫と別れた事がきっかけだった。

 夫の浮気が原因で離婚してから半年。今年で五十歳になるアキコにとって、熟年離婚は簡単な事ではなかった。

 夫が提示した慰謝料によって、経済面の不安がある程度解消された事と、何より、自分を裏切った相手と暮らす気になれなかった。

 家事は随分と楽になった。洗濯は三分の一になり、夕食のメニューで悩む事も無い。しかし、日々の生活に張りは無くなってしまった。

 普段の買い物は最寄りのスーパーで済ませている。半月に一回程度、少し足を伸ばしてここに来ているのは、スーパーには置いていない雑貨や洋服を見て、気分転換をするのが目的だった。

 今日は洋服を見た後に食材を買い、一度店を出たのだが、少しコーヒーでも飲もうと、店内にあるベンチに腰掛けた時、隣に男の子が座って来た。

「ねえ、おばさん。これ何だか分かる?」

 子供が居ないアキコは『おばさん』に抵抗があったが、子供嫌いではないのですぐに答えた。

「さあ、何かしら?」

 男の子が手にしているハガキサイズの厚紙には、何か文字が書いてあった。

「ここの●●のところに入る言葉、何だかわかる?」

 なぞなぞの類だとアキコは思った。男の子は小学二年生ぐらいだろう。

「ねえ、何て書いてあるの?」

文字は読み取れたが、あえて聞いてみた。

「『ナ・ン・ト・カ』は、やめましょう」と、男の子はハキハキした声で読み上げた。実際紙に書いてあったのは『●●●●』だったが、伏字の部分を『ナントカ』と読み替えたのだ。

「だからさ、ここのマルのところに何て言葉が入ると思う?」

「そうねえ、『よ・ふ・か・し』はどう?」

「『よふかし』? 『よふかし』ってなあに?」

 この子は夜更かしと言う言葉を知らなかった。

「あのね、『よふかし』って言うのは、夜に寝ないで遅くまで起きてる事よ」

「なーんだ。それなら大丈夫。ぼく、いつも八時に寝てるもん。だけど答えは不正解」

「じゃあ、後に『やめましょう』って続いてるけど、この答えって何か……」

 その言葉を遮って男の子は言った。

「ママが僕に絶対しちゃダメだって!」

「へえ……。そうなんだ……」

 アキコは少し考えた。たまにはこうやって子供と話すのもいいものだ。しかし、ここに入る四文字とは一体何だろう? 大人が相手なら難しい言葉も考えられるが、子供となるとまるで見当がつかない。

 アキコはそっと、男の子の顔を覗き込んだ。その横顔に何かヒントとなる物を探すかの様に。すると視線に気付いたのか、男の子は急にアキコの方を見て言った。

「おばさんもさっきやってたよ。僕、見てたんだもん」

「私も? ねえ、見てたって何処で」

「隅っこの方でこっそり」

 アキコの思考回路が一気に働き出した。

「この答えって、ひょっとして何か悪い事なの?」

「そう。だってこの前、高校生のお兄ちゃん達がこれをやってて、おまわりさんに叱られてたもん」

 それを聞いて、アキコは自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。

「まさか……」

 このショッピングセンターは、自宅から私鉄で二駅ほどの距離にある。ここなら近所の人達は、ほとんどやって来ない。わざわざここを選んでいるのは、他に理由があった。

―答えはきっと『まんびき』―

 買い物の時には必ずマイバッグを持っていった。色んな食材をレジカゴに入れる中、一つか二つをそこに忍ばせる為……。

 今日が初めてではなかった。これでもう三度目だ。『万引き』が犯罪だとは、もちろん分かっている。だが、どうしても自分の衝動を抑える事が出来なかった。

 そのうち誰かに呼び止められる。そんな思いはあった。しかし、その相手が小学生だとは夢にも思わなかった。

「ねえ! ねえったら、おばさん!」

 男の子の声にハッとした。しばらく想いにふけっていたようだ。

「もう時間切れだよ」

「ちょっと待って! 答えを言うのは……」

 アキコは遮ろうとしたが、男の子が答える方が早かった。

「答えはね、『き・つ・え・ん』」

「え? 『きつえん』?」

「そう、知らないの? きつえんってタバコを吸うことだよ」

「そ、それは知ってるけど……」

 タバコは離婚後に吸い始めた。これもきっとストレスだ。先の見えない毎日から、早く抜け出したいという思いは募っていた。

 男の子が用意した答えとアキコが思っていたものは違っていたが、そこに何か答えが見えた気がした。ふと隣を見ると、そこにはもう男の子の姿は無かった。

 アキコは店の外に出て、隅にある喫煙コーナーでタバコに火をつけた。

 初めて吸ったその時よりも、深く煙が目に沁みた。

 

 

 

『あなろぐ』のプロセス公開はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

食品関係の零細企業に勤める主人公の女性社員。製造部での材料不足のため、顧客からの注文の商品が作れない!!

営業担当である彼女は、この危機をどう乗り切るのか?

 

あなろぐ

 

ヤマキ商店です。いつものパック、昨日の二倍で」

 エースフード最大の取引先である『ヤマキ商店』は、こだわりの商品作りで抜群の集客力を持ち、自社製や仕入れ商品全てを完売させる事で有名だった。その為、いつも製造開始の直前に注文が入る。今日はシンプルな注文だったが、駅近の店舗は販売数が倍になる事も珍しくはなかった。

 カナコが勤めるエースフードは、食用の素材をすり潰した『調理用ペースト』を製造・販売している。ヤマキ商店へはペーストをさらに加工した商品をパック詰めで卸していた。

 注文は電話が主で、時間外は留守番電話に録音される。数件はファックスだが、メール注文は受けていなかった。

「『あなろぐ』なんだよねえ、この会社は。どうしてちゃんと担当者を決めて、もっと確実で効率のいい方法をとらないんだろう」

 多い時は二十件近くなる伝言を全て書き起こす。カナコは出来上がった予定表を工場長に手渡し自分の持ち場についた。

 この会社は従業員が十名ほどで、一人が複数作業をこなす。ルールはあるが担当者や基準が曖昧で、それがカナコにとっての大きなストレスだった。

「担当ですか? まあ、やれる人がやってお互い助け合うって形で……」

 先代の息子である二代目社長の対応は、まさに『のれんに腕押し』だった。社長の交代と共に、工場長を除く従業員は全て入れ替わった。

 カナコは他にも色々な不満があった。不愛想で職人気質の工場長に、自己中心的な営業の先輩スズキ、怠慢な後輩のカジワラと、名前を挙げればきりが無い。

 作業開始からしばらくして、カナコは工場長に呼ばれた。

「ベース粉が今日の分、もう切れるぜ」

 ベース粉とは調理用ペーストの主材で、全体量に対し三割必要だった。

「ウソ? それならあと一ケースあるはずよ」

 ベース粉は二ケースあり、右側に使用中、左側に新品を置くルールだが、一つは空で後は二割程度しか残っていなかった。

「どうしてこうなっちゃうのよ!」

「どうする? 粉さえありゃいくらでも作るけどよ」

「私が取りに行くわ! 二時間後に戻れば間に合うわよね!」

「二時間後って十時じゃねえか。それはちょっと……」

「さっき、粉さえあればって言ったじゃない!」

「わかったよ。絶対時間厳守だぞ! でも間に合うのか? 往復だけで二時間ぐらいかかるぜ。粉だって向こうが用意してなきゃ……」

「とにかく出発するわ!」

 社長は助け合いと言うが、他の者などあてに出来ない。結局こんな風にカナコが動く事が多かった。ハンズフリーで製造元のダイワ製粉に電話しながら営業車を発車させた。

「もしもし。エースフードです。あら、主任さん? いつものベース粉、急いで用意して欲しいの」

「急いでって言われても、今日の配達便は終わったんでお届けは明日になりますが」

「取りに行くわ、今すぐ」

「でも、調合の時間があるんで……」

「三十分でお願い。もうそっちに向かってるの」

「わ、わかりました。もう、強引だなあ」

 ダイワ製粉に着くと、主任が荷物を積んだ台車を押してやって来た。

「カナコさん、これですよ」

「え? こんな小さな袋じゃないわよ」

「いいんですよ。今日は小分けして袋を軽くしてくれって、工場長から」

 荷物を積み終えると直ぐに車を発車させた。時間が無い。時計は既に九時を過ぎている。

 そんな時、営業のスズキからメールが来た。よく見ると地図の画像が添付されていて、彼が使っている抜け道だと書いてある。カナコはその地図に従い車を走らせた。

 普段より五分程度早く会社に着いた。ベース粉を台車に乗せ厨房に入ると、工場長がすぐに声をかけてきた。

ヤマキ社長から電話があってな。今朝の注文は電話をかけ間違えたそうだ」

「えっ、ウソでしょ!」

 いつも完璧なヤマキ社長がそんなミスをするなんて……。

 工場の奥には後輩のカジワラが居た。怠慢で雑用は平気で先輩にやらせようとするヤツだ。

「ああ、カナコさん。一応、洗い物全部やっておきました。他のカナコさんの仕事もみんなで手分けして。だって急ぎの用だったんでしょう?」

「へえ、やってくれたんだあ……」

 工場長がカナコに近づき、口を開く。

「なあカナコ。何でもきっちり予定通りってのもいいけど、何かあった時には何て言うの、お前が嫌いな『あなろぐ』だっけ? それもいいんじゃない? あのヤマキ社長も伝言を入れ間違う事だってあるんだし」

「ま、まあそうね」

 結局カナコが抜けた穴は誰かがちゃんと埋めてくれていた。会社には最短時間で戻れるよう手配もされていた。きっちり何かを決めてしまっては、こうはいかなかったかもしれない。

 ヤマキ社長の伝言をもう一度再生してみる。

カナコは思った。『あなろぐ』も、ちょっといいのかもしれないと。

 

 

 

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