ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(初心者必見! 小説の書き方のルール)番外編/創作プロセス公開済み作品集(4)

創作プロセス公開済み作品集(4)

この作品集は既に創作プロセスを公開したものですが、当ブログでも作品を読んでいただける様に編集したものです。

 

【CONTENTS】

 

 

カメラがある時

 

 あの時カメラがあったらって、私は本当にそう思うんですよ。

 え、何の話かって? ああ、以前にこの辺りで起きた殺人事件の話ですよ。知りませんか? そうですか。じゃあ、お話して差し上げましょう。

 ある日、二人の男が喧嘩になって、その挙句に一人が殺されたんです。でも犯人は捕まらないまま、迷宮入りになって……。

 この事件は証拠が殆ど無かったそうです。とても人通りが少ない場所なんで、なかなか有力な情報が得られなかった。でも事件から二週間が経った頃、目撃者がやっと一人だけ現れたんです。ところが、その目撃者の証言が曖昧でね。だから、あの時カメラがあったら、色んな人の人生が変わってただろうなって、私は思うんですよね。

 スマホですか? とんでもない。まだ普通の携帯電話すら世の中に無かった時代の話ですよ。だからさっきからカメラがあったらって言ってたのは、そういう意味なんです。

 勿論、そんな時代の話だから、カメラは当然デジタルじゃなくって、フィルムを入れるヤツですよ、先に言っておきますけれど。

 ああ、それは言わなくても分かりますって? そりゃ、失礼しました。ちなみフィルムは白黒じゃなく、カラーの方で。それも分かってるって? そうですか。

 アハハって、あなた随分笑ってますけどね、これってこの事件ではとても重要な事なんですよ、実は。

 カラーフィルムって、結構前から世の中にはあったんです。勿論、この事件の時にもね。

 最初にカメラって言いましたけど、カラーフィルムも一緒に無ければ意味がないんです。何故かって言うと、色が違ってたんだなあ、色が。目撃者の証言と、実際に着てた服の色がね。

 この話って初夏の出来事だったんですけど、事件当日のその時刻は既に空がもう明るくて、犯人の服の色なんて誰が見たって間違う様な事じゃなかったんですがねえ。

 オマケに、大体の身長の事も話したそうなんですけど、いい加減だったみたいで。これじゃ何のための証人だか分かりゃしないですよね。そう思いませんか? お陰で無関係な人が、何人も取り調べ受けたって話を聞きましたけどね。だからそこにカメラがあって、ちゃんと写真でも撮ってりゃ、間違う事なんて無かったろうし、犯人だって逮捕出来たと思うんですよ。

 でもね、もう手遅れなんです。この事件は、既に時効が成立してますから。

 それにしても、人の記憶って曖昧なもんですよね。特にこういった特殊な状況の場合には。テレビの番組でそんな事言ってましたよ。ナントカって名前の教授が。ほら、あの有名な教授の事ですよ。あれ? 誰だっけな? 私の記憶も曖昧だな。アハハ。

 そうそう、肝心な喧嘩の原因ですがね、目が合ったのどうのって、些細な事らしいですよ。でも、最初に手を出したのは被害者の方だったんです。だから犯人の方も、それで頭に来ちゃったんでしょうね。口喧嘩だけで済んでりゃ、殺人事件なんかにならなかったのにね。

 その後二人は殴り合いになった。素手だったら被害者の方が強かったでしょうね。なんせ体格が良かったから。筋肉質だったし。

 だけど実際は違ってた。たまたまあったんだよね、凶器になりそうな角材みたいなの。犯人はそいつを振り回して被害者を殴った。思いっきり、何度も何度も……。

 怖かったんだよ、きっとね。相手が強そうだったから。大体、一発でも殴られりゃ、相手が強いかどうかって分かるでしょう?

 必死だったんだよ。とにかく、このままじゃやられちゃうって。だけどやり過ぎだよね。相手は死んじゃったんだから。

 正当防衛? 今回のケースは無理だろうね。だって、防衛にしたって過剰だし、殺意もあっただろうし。角材で威嚇するだけでも良かったのに、興奮してやり過ぎたんだね。

 大して強くもないのに、闘争心だけは人一倍激しいもんだから、それを自制出来なかったんだよ。だから、殺すまでになっちゃった。

 貴方よくそこまで知ってますねって?

そりゃそうですよ。だって、喧嘩の相手は、この私だったんだから。

 あれ? もう行っちゃうんですか? ゆっくりしていけばいいのに。

 私達がこの場所で出会ったのも何かのご縁ですから、どうです? 一緒に記念写真でも撮りませんか?

今、ここにカメラありますから。 

 

 

 

 

創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!

先ずは『試し読み』をどうぞ↓↓↓

 

 

  

虹色

 

 虹色をした球体はタケルの手からわずか数十センチの距離で、パッっと弾けて空へと消えた。

 カメラを構えたままのタケルは、モニターとナオミの顔を交互に見た。そしてナオミと目が合った。

「ねえ、タケル。やっぱ無理なんじゃない?」

「そんな事ないよ、絶対に出来る。いや、撮りたいんだ」

「だって、シャボン玉は飛んでるんだよ。で、私はここでじっとしてるの。だからタケルは動かなきゃいけなくなる訳よね?」

「そうだよ」

「タケルは動きながらピントも合わせて、構図も決めるのよ。そんなサーカスみたいな事が出来るの?」

「サーカス? 例えが変だよ」

「とにかく無茶な事しようとしてるって事よ!」

「そうかなあ……」

 以前、雑誌で見た写真の事をタケルは忘れられなかった。父の影響で十歳から始めたカメラはもう十年ほどになるが、未だに自分で納得できる写真は撮れていなかった。

 雑誌の中で見つけた一枚。それはタケルが撮りたいと思っていた理想の写真だった。人の真似でもいいから先ずは撮ってみたい。そんな衝動に駆られた。

 その写真にはモデルが必要だった。空中に浮かんだシャボン玉の中に、上下対称の人影が映っている。この撮影は簡単ではない。それに協力してくれる誰か。色々考えてみたけど、結局ナオミぐらいしか思いつかなかった。ナオミは半年前に別れた元カノだ。

 ナオミとは写真を通じて知り合った。スマホで写真を撮る楽しみを知り、本格的にカメラを使い始めたカメラ女子だ。コンパクト系の一眼をお洒落なストラップで首から下げ、歩きながら目に止まった被写体を捉える。ナオミが直感で撮るスナップ写真はとても魅力的だった。

 タケルは共通の知人から『写真のプロ』と紹介されたが勿論アマチュアで、月間誌での佳作が何度かある程度の腕だった。

 写真を教えると言う名目で何度か一緒に撮りに行った時、ナオミの方から何となく付き合おうと言われた。

 それから二カ月ほど経ったある日、突然ナオミから別れを告げられた。その時、首から下げたカメラはもう無かった。別れの理由は今でもわからない。タケルはナオミがきっと飽き性な人間なのだと思っている。

 その後、時々メールのやり取りはあったが、会う事は無かった。

 カメラから離れたナオミにモデル依頼など無理かと思ったが、一応連絡してみた。

「写真のモデル? ああ、いいわよ。どうせ暇だからね」と、意外にも二つ返事で引き受けてくれた。

 近所の公園での撮影だった。ここは広いわりに利用者が少なく、写真を撮るには好条件だった。百円ショップで買ったシャボン玉セットとカメラを持って。

 既にもう数えきれない程のシャッターを切っていた。しかし、思った通りの写真は撮れていない。

「タケル、まだ撮るの?」

「いいとこまで来てるんだよ。もう少しで撮れそうなんだ」

「でも、もう暗くなってきてるわよ。背景をボカしたいんだったら、明るい時じゃなきゃブレるんでしょ? タケルが教えてくれたんだよ」

「ああ、確かに陽が落ちてきてる」

「来週も暇だから次にすれば?」

「本当に?」

 ナオミとは、来週またこの公園で会う約束をした。方向が同じなので途中まで自転車で一緒に帰った。二人で話す中、ナオミはタケルと別れた後も一人でいる事が分かった。

 一週間後、タケルは同じ公園でナオミが来るのを待っていた。約束の時間を過ぎても現れず、先週よりも遅いスタートになりそうだった。陽が落ちるまでの時間は二時間程度だろうか。それまでに撮れるかは分からなかったが、写真に対するこだわりは捨てたくなかった。

 ナオミには二度目の依頼だ。だから今日は何としてでも上手く決めたかった。

「ゴメンね、バイトが長引いちゃって」

 ナオミは軽く息を切らしながら続けた。

「とにかく始めましょう。また陽が落ちちゃうよ」

 先週と同じ様に何度もシャッターを切った。しかし、頭に描いているイメージには程遠い。

「ねえ、やっぱりシャボン玉は固定した方がいいんじゃない? タケルが撮ろうとしてるのって、たぶん難し過ぎるのよ」

「ダメだよ。シャボン玉はちゃんと宙に浮いてなきゃ」

「やっぱ、こだわるわねえタケルは。人の意見も聞かないし。だからダメになったのよ、私たち」

「え?」

 ナオミの言葉の意味がしばらく分からなかった。

 時間は刻々と過ぎ、次第に陽も落ちてきた。

「ねえタケル。次にしたら? 来週また来てもいいよ」

 その時タケルが見つめるモニターには、まさに撮りたい瞬間が映っていた。今すぐシャッターを切ればいい。しかし、今日はナオミの意見を聞く事にしよう。来週また会いたい。ナオミもきっと同じ気持ちの筈だ。

 次の瞬間、タケルの指はシャッターではなくシャボン玉に触れた。

 虹色をしたシルエットが弾け、その向こう側には、笑顔のナオミが待っていた。 

 

 

 

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