R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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新作ショートショート(1)

新作ショートショート(1)/テーマ(浮気)

 

 

 

美人妻の憂鬱

 

新婚生活真っ只中の二人は、互いの事をとても愛し合い、幸せな日々を過ごしていた。

 夫は真面目で地味な性格、あまり女性にもてるタイプではない。一方の妻は美人で、明るく社交的な性格は周りの人々、特に男性達にはとても人気があった。

「奥さん綺麗でいいよな」

 友人は決まってそう言うが、その言葉は夫をとても不安にさせた。

 街に出ると、すれ違う男達が振り返って妻を見る。それを感じて妻は軽い笑みを浮かべる。

「大丈夫、浮気なんてしないわよ」

 不安げな表情の夫を気遣って妻はそう言うが、それを鎮める効果は無かった。

「でも俺は心配なんだよ……」

 二人は同じやり取りを、既に何度も繰り返していた。

 夫は常に妻の事を心配していた。社交的な妻は同窓会だの、飲み会だのと言っては外に出かける事が多く、時には見知らぬ男と二人きりで帰ってくる事もあった。

「家の方向が同じだって言うから、車で送ってもらったの。心配しないで、私は浮気なんて全く興味ないから」

 妻は確かに美しい。しかし、それは心の底から喜べる生活ではなかった。尽きない夫の不安を妻は上手に交わし、その結果夫婦仲は悪くなかった。

 やがて二人の間に子供が出来た。そう、妻が妊娠したのである。

 新しい生命は妻の体内で順調に成長し、やがて出産の日を迎える事になった。

「元気な男の子ですよ」

 産後しばらく日が経つと、子供の顔立ちが少し分かってきた。それは夫の心配事をピークに押し上げる要因となった。

「俺に似てない……」

 夫は先の言葉が出なかった。

「何言ってるの? まだ生まれたばかりよ。そのうちあなたに似てくるわ」

 確かに妻が言う通りだ。先々似てくるのかもしれない。日々の不安が重なり合って、何でも疑うのが癖になってしまっている。

 夫は自分に似る事を願いながら、過ぎ行く日々を平穏に暮らす努力をした。

 数ヶ月後、更に息子の顔立ちはハッキリとしてきた。夫の中に再び疑念が湧き始めた。

「でもさあ、やっぱり俺に似てないよね……」

 いつにも増して不安げに話す夫に対し、妻は自信を持って答える。

「そうかしら? キリっとした一重まぶたはあなた譲りだし、高い鼻だってそっくりでカッコいいじゃない」

 カッコいいかどうかはこの際あまり問題ではなかった。

 妻が産んだ以上、母親は妻である事は間違いない。問題なのは父親の方で、夫には自分がそうなのだと言い切る自信がなかった。妻の浮気に対する疑念は膨らむ一方で、夫はもう限界だった。

「おまえ、やっぱり浮気してただろ!」

「そんな訳ないでしょ!」

「じゃあ一体、誰の子なんだよ。俺の子だったら、もっと俺に似るはずだろ!」

「なに言ってんのよ! 男の子だからって必ず父親に似るとは限らないでしょ。母親に似る事だって多いんだから、何もおかしくないじゃない!」

「母親に似るだって? おまえになんて、もっと似てないじゃないか!」

「……」

 妻はそれ以上、何も言えなかった。息子の顔が似ていない理由が、浮気と言うのは夫のとんでもない勘違いであり、ましてや息子の顔が整形前の自分にそっくりだと言う事は……。

 

 

 

 

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