帰れない
実家を飛び出し都会で様々な仕事に就く中、天職と感じた夜の仕事は既に三年。自分に好意を持ってくれた男性客とは、恋人に近い関係だった。彼は真面目で一途な人で、自分とは不釣り合いではないかと感じる中、両親に会いたいと彼に言われるが……。
ショートショート『帰れない』の全文はこちら↓↓↓
【CONTENTS】
- テーマからの発想
- 発想からのキーワード選出
- POINT1:タイトル
- POINT2:書き出し
- POINT3:ユーモア
- POINT4:前半のストーリー
- POINT5:展開〜オチ
- 総合的なポイント
- コラム/原石の磨き方
テーマからの発想
今回のテーマは『実家』です。
実家と言えば、やはり田舎のイメージがあり、ゆっく帰省って感じの雰囲気でしょうか。
最近では、大型連休でもあまり実家に帰らない人も多い様で、それは『帰らない』のか『帰れない』のか、どっちなんだろうと言う素朴な疑問が湧きました。今回の創作の起点になっています。
発想からのキーワード選出
実家、両親、田舎、帰省、連休、帰れない、帰りたい
POINT1:タイトル
タイトルは、『帰れない』です。
実家に帰る方向のキーワードなどが多く浮かんだ中、あえて逆の方を選びました。今回の創作は『タイトル』から始まるパターンで、私の場合よくある事です。タイトルから徐々にイメージを膨らませる訳ですね。
『帰らない』のではなく『帰れない』。
要するに本人は帰る意思がある訳で、何か障害があるから帰れない。では、その『障害』とは一体何なのか?
この様な形で創作は進んでゆくのです。
POINT2:書き出し
「両親はもう居ないの」
初めてケンイチに会った時、ミサキはそう話した。
本当の事は客であるケンイチには勿論の事、周囲の誰にも伝えていない。夜の世界に生きていれば不思議な事ではなかった。
夜の仕事をしているミサキは、ケンイチに嘘をついています。この時点で、その理由は分かりません。他の文面でケンイチと会うのは、この時だけでない事も分かりますね。
出来る限り、書き出しで多くの情報を伝えましょう。
POINT3:ユーモア
今回は、あえてユーモア的な部分は入れていません。これは最後のオチに関係があるからです。既に全文を読まれた方はお分かりだと思いますが、オチに至るまで、どれだけシリアスに物語を進めるかも今回のポイントになります。
ここである程度お話すると、主人公が両親と交際中の男性を会わせる事をためらっているのは、過去に自分が荒れた生活をしていた事実を知られたくない、と言うのが理由です。しかし、オチはそうなりません。あくまで作中はオチに至るまで、ミスリードしています。
今は落ち着いているけど、過去に非行に走っていた人の場合、男性なら武勇伝にしたい人もいるでしょうが、主人公は違います。話したくないのです。まして、相手が真面目で一途な人だと尚の事ですよね。今回のユーモア抜きは、オチの効果をより高める為の仕掛けなのです。
POINT4:前半のストーリー
起
若い頃、両親と不仲になった主人公は田舎町を飛び出し、都会で夜の仕事を選んだ。そこで出会った男性客は、主人公を目当てに店に通い始める。
承
主人公は熱心に通って来る男性客と、食事を共にするなど、次第に親密になるものの、深い関係にまでは至っていない。しかし、相手は本気で結婚を考えており、やがて両親に会う事を希望する。
POINT5:展開〜オチ
転
主人公は男性客に好意はあるものの、過去の生活を知られる事に不安があり、両親に会わせる事について悩む。
結
主人公は性転換をした元男性で、相手はその事実をまだ知らず、今の関係性を保ちたい為、全てが知れてしまう実家へ連れて行く事をやめようと決める。
総合的なポイント
この作品はオチとそれまでの流れに、どれだけ落差をつけるかという部分に重点を置きました。作中ユーモア的な部分を作らない等もですが、オチに至るまでのミスリードは、
『主人公が非行に走り荒れた生活をしていて、一度は同じ様な環境で育った相手と暮らしたが、結局上手くいかなかった。次に現れた相手は、良い人だが真面目過ぎて、こんな自分と上手く暮らせるかと言う葛藤』
なのです。そこから一気にオチへ。これがショートショートの醍醐味なんですよね。
コラム/原石の磨き方
小説に関わらず、何かを書く時の『ネタ』らしきものに出会うと、書き手としてはワクワクするものですよね。しかし、それが明らかに『ネタ』自体であればいいのですが、『カケラ』であったり『原石』であったりと、その状態は様々です。
『カケラ』から『ネタ』にするには少々時間が必要だったり、また別のパーツの組み合わせを考えたりと、直接的に進めるのが難しい場合が多くあります。
今回は比較的『ネタ』に近い『原石』、その磨き方についてのお話です。
『鞄』の場合
ショートショート『鞄』の全文はこちら↓↓↓
ある日、私は駅の構内で二人組の警備会社の人を見かけました。一人がジュラルミンケースを積んだ台車を押し、もう一人が特殊警棒を手に、鋭い眼差しで周囲を警戒しながら、おそらく現金を運んでいたのだと思います。それを見た私の正直な感想なのですが、
「二人で大丈夫?」
です。盗れそうなんですよね……。盗りませんけど。
『白い壁』の場合
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小学生の頃、私は少し授業が進んだからと、女性の担任教師から怪談めいた話を聞かされました。タイトルは今回の物語同様、『白い壁』でした。
部屋の中に居ると、いつも人の気配を感じる。塗り替えから、あまり年数が経っていないであろう、借家の壁は白くて綺麗だ。数日経つと気配だけではなく、夜に女性のはすすり泣く声まで聞こえてくる。
そんな話でした。最後に部屋の壁を調べると、人骨が出てくる。その時、合わせて『人柱』の話も聞いたのです。
私が当時住んでいた家にも、トイレにたどり着くまで白い壁があり、私はこの話のおかげで、長い間トイレに行くのを苦労しました。この経験は、ずいぶんと長い期間をかけて私の中でアレンジされ、新しい物語へと生まれ変わったのです。
二つの話の元になった『原石』。これらがどの様に磨かれ、そして新しい物語になったのか?
さらに詳しい方法については、 次回『原石の磨き方(後編)』でお話したいと思います。
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