ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(初心者必見! 小説の書き方のルール) 番外編/投稿済み作品集(2)

投稿済み作品集(2)

 

この作品集は小説コンテストサイト『時空モノガタリ』様に投稿、掲載されていた物ですが、当ブログでも閲覧出来る様、掲載させて頂いているものです。

後に当ブログにて、創作プロセスを順次公開してゆきます。

 

【CONTENTS】

 

 


Recipe

 


「新しい彼女が出来たんだ。だから、これで君を含めて五人って事になるね」

 タクミの言葉を聞いてもコトネは全く反応しなかった。それは人数が六人や七人に増えたところで、同じだったに違いない。会話の流れとしてコトネは一応聞いてみる。

「今度は何がいい人なの?」

「運動神経だよ。水泳に陸上に球技全般。何でも出来るみたいだ」

「ふうん。そうなんだ」

 聞いたところでコトネの心境に何の変化もなかった。結局コトネが頑張るのは、料理だという事に何も変わりは無いのだ。

 タクミの一人目の彼女はモデルだった。つまり容姿のいい人である。二人目は有名な国立大学に通う頭のいい人で、三人目は声優をやってる声のいい人。四番目であるコトネは料理の腕がいい人で、新たに加わった五人目は運動神経がいい人のようだ。

 料理の腕がいいと言われているコトネは特に資格や免許はなく、世間で言う『我流』だったが、周囲の評判はとても良かった。

 タクミと知り合ったのも、それを知る友人に紹介された事がきっかけだった。

 タクミは、いま流行りのイケメンだ。長身でスポーツもでき、有名国立大学の出身で、在学中に興味を持った事で事業を始め、その経営も順調に進んでいるようだ。

 会社は無理に規模を拡大せず、私情が入らないよう古くからの知人は避けた人事で、着実な運営を目指しているそうだ。

 年齢も二十八歳と、モテる男性の全ての条件を満たしている様な人だった。

 タクミは女性側が話すのに戸惑ってしまう様なタイプではない。何とも気さくな雰囲気を持っている。コトネは自分がこんな人と知り合えたのは、今でも奇跡だと思っていた。

 タクミは仕事に関してとても慎重な所があるが、それは女性選びも同じだった。

 五人もいる彼女と言うのは、実際には友達の範囲の付き合いだ。しばらくその状態を続けて、やがてその中から真剣に付き合う相手を決めると言う。

 タクミが女性に求める条件は世間でよく聞くような内容だったのだが、実はモデルの彼女はテレビに出たり何処かの大会で優勝した訳でもなく、国立大学に通う彼女も成績がトップクラスという訳ではない。

 声優の彼女は最近になってやっとローカル局で流れるアニメの役をもらったが、脇役のため出番もかなり少なく、コトネの後に出来た彼女もスポーツ万能な様だが、過去にインターハイどころか、県大会にすら出た事が無いレベルだった。

 全ての基準はタクミの中にあった。何かの分野で人よりも優れているが、他の分野では逆に人よりも苦手な事が多い。要はそんな大きなギャップの持ち主に心惹かれるのだそうだ。

 それぞれの彼女達は、自身の才能を磨くべく日々努力を重ねていた。コトネも同様に料理の腕を磨き、デートの度に手料理を振る舞った。

 タクミはそれぞれの彼女に対して、特別何かを求める事は無かった。何処を見てどう判断しているのかは、誰にも分からなかった。

 今のところ五人はタクミと『友達』の様な関係だから、何処かに遊びに行ったり映画を観たり食事をして、比較的早い時間帯に家に帰る。それ以上の事は何もない。

 コトネはタクミの事が好きでたまらなかった。何とか本当の彼女になりたかった。だから、他の彼女達に負ける訳にはいかない。コトネは『我流』の料理から脱却しようと考えた。

 コトネは数冊のレシピ本を購入して、更に料理の腕を磨く事にした。本の選択はネットの情報を参考にした。

 その後、何度かタクミに料理を振る舞ってみたが、反応は意外なものだった。

「最近の君の料理は……。なんだろう、ちょっと味が落ちた様な気がするよ」

 タクミの言葉にコトネは大きなショックを受けた。他の彼女達に負けじと努力したのに。何がいけないのか、何が足りないのか?

 そんな筈は無い。レシピ通りの材料と時間、調味料だって分量通りだ。この本はネットでの評価が一番高い方だったし、いいコメントも多数寄せられていた。本の選択に間違いは無かった筈だ。

 コトネはこのレシピ本で作った中の、自信作ばかりを振る舞っていた。

 コトネの気持ちは一気に沈み込んだ。しばらくの間、何も出来なくなってしまった。このままでは他の彼女達に負けてしまう。焦る気持ちだけが心の中で膨らんでいった。

 そしてその気持ちは、ついに諦めへと変化して、コトネは我流脱却を辞めてしまった。

 数年が経った。コトネは今、タクミと生活を共にしている。

 自然体に戻ったコトネは、ただタクミに美味しい物を食べて欲しい想いだけで料理を作った。そこにレシピは必要なかった。自分の舌の感覚だけを頼りに。

 タクミいわく、他の彼女達は自己を高めようと、無理をするあまり自分を見失い、その中で我を貫くコトネに強く惹かれたそうだ。

 コトネは思った。レシピのようなものは本来なくてもいいのだ。料理にも、そして恋愛にも。

 

 

 

 

 

 


マニュアル

 


 以下の手順は大まかに書かれています。状況に応じて各自、臨機応変にアレンジして下さい。

 


●素材をよく見て、どう料理するべきか熟考して下さい。

●切り口はどういう感じがいいか? 素材によって変えます。

●次にいためてみて下さい。軟化するかもしれません。

●次に十分間ぐらい置いてみます。

●見た目が赤くなったり、青くなったりした場合は良くありません。元に戻す方法を考えましょう。

●焼いたり、水に浸けたり、何かを刺したりするのは良くありません。

●その後もう一度、しんなりするまでいためます。

●更に十分間ぐらい置いてみます。

●適当なところで切りましょう。

 


「まるで料理のレシピだな」

 男はメモを見て思った。闇サイトで見つけた、金融業者の取り立てアルバイト。

 警察の捜査が入った時に、都合の悪い資料は出来るだけ無いようにする為、隠語で書かれてあるそうだ。

「意味は分からないでもないが……」

 路肩に停めた車を降り、男は初仕事となるアパートへと向かった。

 

 

 

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スミレ先輩

 

 

 

 入社二年目のカンナは、今でもスミレ先輩からアドバイスを受ける事が多い。

「ねえカンナちゃん。裁断機で紙を切るときは、一枚目を半分に折って印を付けておくと綺麗に切れるわよ」

「はい、スミレ先輩」

 スミレ先輩は入社八年目の事務員だが、男性並みに機械類に詳しい。女子力高めのナヨナヨした事務員を嫌い、男性社員からも一目置かれる存在だった。

「男の人って、結構このあたり気にする人が多いのよ」

「え、そうなんですか? 私、今まで適当にやってましたけど、何も言われた事なかったです」

「青いわねえ、貴方も。みんな何も言わないだけで、ちゃんとそういうとこ見てて、この娘は気がきくとかきかないとか、男達だけで言い合ってるもんよ」

「そんなモンですか?」

「そうよ。男はそうやって、女を勝手に値踏みとかしてるわけ」

「ヤダ、こわい!」

 カンナは思わず、手にしていた書類の束を放してしまう。

「危な!」

 スミレ先輩は素早く落ちかけた書類に手を伸ばし、見事にそれを食い止める。

「さすが、スミレ先輩!」

 運動神経の良さは群を抜き、殆どの仕事は社内の誰よりも早かった。

「ダメよ。せっかく順番通りに並べてある書類なんだから、落としたりしたら台無しよ」

「す、すみません」

 傍に居たのがスミレ先輩だったからこそ出来た業で、これが他の誰かだったら、書類は再び振り分け作業からやり直しになっただろう。スミレ先輩は至る所で会社に貢献していると思った。

「こんな話ぐらいで動揺しちゃ駄目よ。それはそうと、いま彼氏いないんだっけ?」

「はい。見込みも今のところ……ゼロです」

 スミレ先輩は同性から見ても、とても魅力的な人だった。誰もが認めるほどの美人で、スラリと背が高くスタイルも抜群だ。手入れが行き届いた長い髪は、ツヤツヤと常に天使の輪が光る。

「どれぐらい空いてるの?」

「ア・イ・テ・ル?」

「ああ、期間の話よ。前の彼氏と別れて、どれぐらいフリーか聞いてるの」

「前って、その……ずっと居ません」

「え? 貴方もう二十四でしょ。誰とも付き合った事無いわけ? 私はずっと居るもんだと思ってたから、聞いたりしなかったんだけど……」

「はい、出会いが無かったんです」

「出会い? 出会いなんて自分でつくるモンよ! 気になってる男とか居ないわけ?」

「居なくはないですけど……」

「誰よ、誰なの?」

「営業部のフジイ君です」

「フジイ君って……。ヤダ、歳下じゃない」

「ダメですか?」

「ダメじゃないけど……。結構イケメンじゃない!」

「そうなんです。私、ルックス重視する方なんで!」

「ふーん、そうなんだ」

「あ、でもスミレ先輩もそうですよね。歴代の彼氏ってイケメン揃いじゃないですか」

 カンナは入社以来、スミレ先輩の彼氏だった相手を三人知っている。そして、みんな決まって三ヶ月以内に別れているのだ。

「ま、まあね。でもカンナちゃん。あなたも男の人と付き合ったら、ルックスなんかに惑わされず、早めに相手の事ちゃんと知るべきよ」

「はい、わかりました」

 経験豊富で頼りになるスミレ先輩の言葉には重みがある。相当レベルの高い相手でなければスミレ先輩とは釣り合わない。きっと厳しい判断基準をクリア出来なかったのだろう。

 しかし、カンナの目には、スミレ先輩の歴代の彼氏に、それらしい欠点は見当たらない。カンナは思い切って、その事を聞いてみる事にした。

「でも私、ずっと不思議に思ってる事があって」

「なあに?」

「スミレ先輩の彼氏ってイケメンなだけじゃなくって、仕事も出来て優しそうな人ばかりだったじゃないですか」

「そうねえ……」

「私が入社した時に付き合ってた、戦車みたいに頑丈そうな、大きな車に乗ってた人は?」

「彼は動物がねえ……」

 あの人はワイルドな彼氏だった。きっと車と同じで、大きなトカゲでも飼っていたのだろう。虫は平気なスミレ先輩も、爬虫類は苦手だと言っていたから。

「じゃあ、その次のスラッと背が高かったIT企業に勤めていた人は?」

「彼ねえ、実は『乙女』だったのよ……」

「ええ!」

 随分ソフトな感じの人だとは思っていたが、まさか『オネエ』だったとは……。

「じゃあ先月別れた、超一流企業の管理職の人は?」

「彼は名前の問題があって……」

「な、なまえって、ひょっとして……」

 その彼は今までの彼氏たちより十歳ほど年齢が上の人で、落ち着いた雰囲気があり、経済的にも安定してそうだった。名前の事を問題にする様なら、真剣に結婚まで考えていたのかもしれない。カンナはちょっと悪い事を聞いてしまったと思った。

 数日後、カンナは同期の事務員から、スミレ先輩に関する、ある話を聞いた。

動物占いに星占い、それに姓名判断。相手の人と相性が悪いって分かると、スミレ先輩って怖くなってすぐに別れちゃうそうよ」

 

創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!

先ずは『試し読み』をどうぞ↓↓↓

 

 

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