スラスラ読める小説の構成(後編)
小説はその構成により、読みやすい文章にも読みにくい文章にも変化します。構成はそれらの要素だけではなく、もちろん作者の意図や、それ以外の理由によっても組まれ方は変わってきます。今回は比較的オーソドックスなスタイルの小説を、主に読みやすさという観点で、構成について解説したいと思います。
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【CONTENTS】
【作品例:挨拶の品】
ショートショート挨拶の品の全文はこちら↓↓↓
疑問による推進力
【原文】
半年ほど空いていた隣の部屋に、新しい住人がやって来たのは、日曜の午後の事だった。久々に私の部屋のチャイムが鳴ったのだ。
「ごめんください」
ドアを開けて声の主を確かめてみると、それは二十代後半と思しき綺麗な女性だった。
【構成】
(全体→主人公→セリフ等細かい描写)
この構成にする事で、文章の先に『疑問』や『期待』が生まれます。
●どんな住人か?
●この先、何が起こるのか?
【違う構成例】
「ごめんください」
日曜日の午後、二十代後半と思しき綺麗な女性が私の部屋を訪ねて来た。私の部屋のチャイムが鳴るのは久々だ。
隣部屋は半年ぐらい空いていて、この人が新しい住人になる様だ。
【構成】
(セリフ等細かい描写→主人公→全体)
●訪ねて来た人が既に明らかになってしまっているので、話が一旦落ち着きリズムが悪くなる
前振りによる推進力
【原文】
最近では引越しの挨拶も珍しくなった。特にこのマンションは、ワンルームの割に広めではあるが、住人の殆どは単身者のようなので、おそらく挨拶に回った者も少ない事だろう。
女性は私と短い挨拶を終えた後、同じフロアにある他の二軒も訪ねたいと言い出したので、一軒は会社の事務所に使っている様だし、残りの一軒も滅多に住人を見かけないので、挨拶は要らないのではないかと伝えた。
【構成】
(全体→主人公→セリフ等細かい描写)
●後半で主人公が女性に対して挨拶はいらないのではないかと、管理人でもないにもかかわらずその判断をしたのは、前半部分での前振りがあったからです。
【違う構成例】
女性は私と短い挨拶を終えた後、同じフロアにある他の二軒も訪ねたいと言い出したが、一軒は会社の事務所に使っている様だし、残りの一軒も滅多に住人を見かけないので、挨拶は要らないのではないかと伝えた。
何故なら、このマンションが広めのワンルームで、住人の殆どは単身者のようなので、おそらく挨拶に回った者も少ないと思ったからだ。最近では引越しの挨拶も珍しくなったものだ。
【構成】
(セリフ等細かい描写→主人公→全体)
●前後を逆にしても、大きな問題は出ません。しかし、挨拶がいらないと判断した理由が後付けになってしまい、読んだ時に多少もたつきが出ます。
事前の状況設定による推進力
【原文】
このマンションは三階建てで、ワンフロアが四軒、全戸十二軒の小さな建物だ。最上階にあるこの部屋は、階下の音は上がってこないが、隣同士は多少音漏れがあるようだ。これは以前隣に居た住人が、音楽を結構な音量で聴いていて、それが時々聞こえてくる事があったので知っていた。
【構成】
(全体→主人公)
(★この後に『数日後に隣から大きな物音』の文章が続く)
●これ以降に続く内容の前振りになっています。ただし、いかにも『前振り』的にするのではなく、あくまでも主人公の状況(今回は住んでいるマンションについて)を話す感じで、自然に書いた方が良いでしょう。
【違う構成例】
(★これより前に『隣から大きな物音』の文章があり、以下の文章がそれに続く)
このマンションは隣同士、多少音漏れがあるようだ。それは以前隣に居た住人が、音楽を結構な音量で聴いていて、それが時々聞こえてくる事があったので知っていた。
マンションは三階建てで、ワンフロアが四軒、全戸十二軒の小さな建物だ。最上階にあるこの部屋は、階下の音は上がってこなかった。
【構成】
(主人公→全体)
●時系列に乱れが出る
●説明的になり、もたつきも出る
事が起こった後なので、流れも良くありませんし、なにより説明が『後付け』になる事で、リズムを乱します。
今回は極端な例ですが、実は全体の構成がまとまらずに書いた文章は、似たような事が起こっている事があるのです。
『NB的思考』を実践した場合、『書ける所から書く』という方法ですので、上記の様に時系列の乱れが出のではないかと思われますよね?
これらは『推敲』の段階で整えているのですが、書いた日時が違う文章は、そもそも繋がりが薄い場合があります。そこで私は、その時書いた文章を一つのブロックとし、別の日に書いた文章は改行して別物と区別しています。
その際、構成はブロックごと文章を移動して整える様にしています。
構成によるリズムの違い
この作品は、物語のリズムに緩急がつけてあります。後半に向けて流れを早くする為、この部分はあえて緩やかにしてあります。
物語の核心に迫る部分については、緊張感を出さなければなりません。そのための方法として、読み進めたときに比較的読書スピードが早くなるよう工夫してあります。
【緩やかな流れの例文】
「とにかく、すみませんでした」
もう一度頭を下げた女性は、私に菓子包みを差し出した。それは引越しの時よりも少し大きい物だった。
「なんですかこれは?」
ちょっとした喧嘩の物音ぐらいで大袈裟だと思ったので、あえてそう聞いた。
(セリフ)→(文)→(セリフ)→(文)
( 短 )→(長)→( 短 )→(長)
【早い流れの例文】
「ご迷惑をおかけしたので、お詫びの品です」
「そんな。これぐらいの事で……」
「いえ、私の気が済みませんから、どうか受け取ってください」
その言葉におされるまま、包みを受け取った。女性が帰ったあと中身を見てみると、高級な洋菓子のセットが入っていた。
(セリフ)→(セリフ)→(セリフ)
( 中 )→( 短 )→( 中 )
【とても早い流れの部分】
「昨日は済みませんでした。とても大きな音を立ててしまって」
「そんな、全然気に……」
「いいえ! 絶対に聞こえていた筈です!」
私の話を遮って、女性は大きな声で言った。
その目には最初の時に見た優しさはなかった。
「いいんです、仕方ありませんから。聞こえてしまったものは。でも、もう大丈夫です。大きな声も物音も、今後は一切出ませんから」
私に話す隙を与えないまま、女性は菓子の包みを押し付けて帰って行った。
(セリフ)→(セリフ)→(セリフ)
( 中 )→( 短 )→( 短 )
★途中で主人公のセリフを遮る
主に流れの早い文章は、緊迫した場面に用います。それはアクションシーンや、登場人物が緊張した場面での心理描写など、状況に応じて使い分けます。
『低』『中』『高』と上手くリズムの『変速』を使いこなす事により、スムーズに読書の方を物語の世界に案内する、『スラスラ読める小説』が生まれるのです。
次回は、ショートショート『スミレ先輩』の創作プロセス公開です。
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