ラストの締めくくり(後編)
小説は書き出しが大事なのは勿論ですが、ラストの締めくくりはそれ以上に大事です。その物語を完結させ、読後の印象を大きく左右する重要な役割を持っています。
ショートショート作品は、特に色々なスタイルで書けるタイプの小説である為、ラストのスタイルも様々です。今回は比較的オーソドックスな三種のタイプについてご説明したいと思います。
【CONTENTS】
オチが緩やかなスタイル
このスタイルは『転句』あたりで既に一応のオチが明らかになっています。
作品例『あなろぐ』の全文はこちら↓↓↓
「ヤマキ社長から電話があってな。今朝の注文は電話をかけ間違えたそうだ」
「えっ、ウソでしょ!」
いつも完璧なヤマキ社長がそんなミスをするなんて……。
★この間に、怠慢な後輩が主人公の代わりに雑用を済ませておいたくだり。
結局カナコが抜けた穴は誰かがちゃんと埋めてくれていた。会社には最短時間で戻れるよう手配もされていた。きっちり何かを決めてしまっては、こうはいかなかったかもしれない。
ヤマキ社長の伝言をもう一度再生してみる。
カナコは思った。『あなろぐ』も、ちょっといいのかもしれないと。
この物語は、オチに複数の人が関わっています。主人公は社内を一人で動き回り、周囲に頼れる人間が居ないと嘆いていたのですが、実は皆が協力し合って成り立っていた事に気付く、といった内容です。
その結果『協力されていた』事実を順番に明らかにする必要がある為、この様な形になった訳です。このパターンの物語には、もう一度ラストに『締めくくり』が必要になります。
カナコは思った。『あなろぐ』も、ちょっといいのかもしれないと。
この文章に対する前振りは、こちらです。↓↓↓
ヤマキ社長の伝言をもう一度再生してみる。
主人公は、皆に協力されていた事実を知ったのですが、直ぐに受け入れる事が出来ず、自分を納得させる為に自分が尊敬していた人でも、間違いを犯す事実を再確認して、締めくくりへと向かいます。
人が想定外の事実を受け入れる場合、直ぐに気持ちを切り替えられない事も多いと思います。今回はリアリティを持たせる意味も含め、この文章を入れています。
ラストに落とすスタイル
このスタイルは、ラストの一行から三行程度のあたりで、一気に落とすタイプです。
作品例『超予測変換』の全文はこちら↓↓↓
まるでこの部屋の事の様だったが、鍵はいつもかけてある。
でも待てよ。今日はコンテストの締切が近く、急いで書き始めたから鍵は......。
次の瞬間、リアルに私の部屋のドアが開き、背中を激しい痛みが襲った。
この物語は、ラストの一行でストンと落とすタイプです。
この行に至るギリギリまで、物語をミスリードの方向に進めています。要はスマートフォンのアプリによって半分自動的に書かれている、小説世界の出来事ですね。
最終的にはそれが、現実世界とリンクして、『実はこれから起こる事件の予測であった』、と言うのがこのオチになります。
実際のところ、どの辺りでオチに気付いたかは読者の方によると思いますが、作者の意図としては、ラストの直前までは気付かずに……が、理想なんですがね。
kindle unlimitedで1日に1000頁以上読まれた人気の指南書です。
オチの後に余韻があるスタイル
このスタイルは『緩やか』なスタイルに似ていますが、一応のオチとしてはストンと一度落とすタイプです。丁度、上記の二つを組み合わせた様な感じになります。
作品例『カメラがある時』の全文はこちら↓↓↓
貴方よくそこまで知ってますねって?
そりゃそうですよ。だって、喧嘩の相手は、この私だったんだから。
あれ? もう行っちゃうんですか? ゆっくりしていけばいいのに。
私達がこの場所で出会ったのも何かのご縁ですから、どうです? 一緒に記念写真でも撮りませんか?
今、ここにカメラありますから。
この物語は、最終行に行くまでの段階で、一度ネタバラシをしています。要は殺人事件を語っている本人が犯人であると言う事です。ネタバラシであるオチの後に余韻を持たせたのは、この犯人の異常性を描くことで恐怖心を増す効果を狙ったものです。
隣で話している人に、自分が殺人犯である事を平然と語っている異常性に加え、既に時効が成立しており、自分は警察に捕まらないのだと言う犯人の余裕。それらをタイトルにもあるカメラ、しかも『今ここにカメラがある』と言う皮肉を込めた話に引っ掛けて描いたものです。
小説内における言葉の掛け合わせは、色んな場面で使う事が出来、その作品の面白みを増す効果の一つになります。
特にエンタテイメント系の小説は、こういった遊び心を常に持ちながら、より楽しめる方向での作品作りを意識するのが良いのではないかと思います。
次回は、ショートショート『新生物』の創作プロセス公開です。
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