ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(初心者必見! 小説の書き方のルール)番外編/投稿済み作品集(4)

投稿済み作品集(4)

 

この作品集は小説コンテストサイト『時空モノガタリ』様に投稿、掲載されていた物ですが、当ブログでも閲覧出来る様、掲載させて頂いているものです。

  

【CONTENTS】

 

 

 

リポート

 


「ねえねえ、シオリ。こんなクーポンもらったんだけど、今度食べに行かない?」

 ムツミはどこかで割引クーポンをもらったようだ。

「うん。いいけど、何のクーポンなの?」

「や・き・に・く」

「焼肉かあ……」

「あれ? シオリって焼肉嫌いだっけ?」

「そ、そうじゃないんだけど……」

 シオリの脳裏に『モコ』の事が過った。

『モコ』は、最新型の人工知能を搭載したロボットで、先月から始めたダイエットコースの重要なアイテムだ。

 三カ月契約で始めたコースは、ロボット一機のレンタルと、電話サポートがセットになっている。

毎日出力されるモコのリポートでは、先週はカロリーオーバーの為、今週は控え目にとの事だった。

 ムツミが一緒では食事制限がしづらい。モコの事は内緒だった。先々、一緒の食事は避けるべきだろう。

「そうね、考えておくわ」

 それを聞いたムツミは、少し怪訝な表情で『じゃあまた返事して』と言った。

 『モコ』はシオリが付けた名前だった。レンタル期間中は、契約者が自分で好きな名前を付ける事が出来る。シオリは親近感が増す様、以前に飼っていたイヌの名前を付けた。

 モコは人と話す事が出来る。一人暮らしのシオリにとって、モコとの会話は楽しみの一つだった。まるで人間を相手に話している様な気分になる。

 基本的には食事前のメニューをモコに伝え、摂取カロリーを計算してもらう。その後、食べる順番やデザート、入浴や睡眠、運動などの必要なプログラムをモコが用意してくれるのだ。

「ねえ、モコ。お腹が空いちゃった。甘い物食べちゃダメかしら?」

「今日ノ摂取カロリーハ……。チョコ、三粒ト、十五分間ノ、ウォーキングセット、ナラダイジョウブ」

 モコはシオリの欲求を満たす為、様々な方法を用意してくれる。

 ダイエットに失敗する人の多くは、途中での挫折が原因と言う。なかなか減らない体重は、心を折れやすくするのだろう。そういった事態を避けるため、モコは日々少しでもシオリの体重が減る様、最適なプログラムを組み続けるのだった。

 シオリには社内に気になっている男性が居た。ダイエットを始めた理由である。

 彼は細身の女性が好みだったが、シオリはぽっちゃりタイプだ。このままではいけない。

 日々、彼への想いは募るばかりで、それは他を切り詰めてでも、ダイエットコースを始める原動力となった。

 ムツミは高校の同級生で、十年来の友達だ。互いの勤め先が離れていたので、会うのは休日だけだったが、よくショッピングに出かける仲で、たまに食事をする事もあった。

 しかし、恋愛の相談はムツミに出来なかった。行動を共にする事が多いせいか、体型がよく似ている。互いにモテない事もあって、『男性よりも友情』と言った雰囲気が二人の間にあったからだ。

 ダイエットコースの契約は簡単だった。担当者と共に『モコ』は、連絡した翌日にやって来た。

「辛くなった時は、いつでもロボットに話しかけて下さい」

 レンタル初日の説明で担当者は言った。

「弱音とか吐いてもいいんですか?」

「勿論、大丈夫です。ダイエットは、そんな時がよくありますからね。このロボットは、ちゃんと応援してくれるんです。きっと貴方の良きパートナーになりますよ」

「良かった!」

「ただし、ダイエットに関するお話だけにして下さいね」

「ええ。わかりました」

 シオリのダイエットは、開始後しばらく順調だった。しかし、あるラインから思ったように体重が落ちなくなった。

「ねえ、モコ。最近上手く体重が落ちないわ」

「ソウデスネ、シオリサン。ワタシノプログラムヲ、チャント実行シテ頂カナケレバ……」

「ごめんね、最近ちょっと気になる事があるのよ」

「ドンナ事デスカ、ソレハ?」

「なんだかねえ、最近ムツミも少し痩せてきた気がするんだけど」

「アア、ソレハ……」

「ちょっと! 貴方、何か知ってるんじゃないの?」

 モコはしばらく黙っていたが、シオリは話さなければコース解約と詰め寄った。

 モコは回避すべき緊急事態発生との判断で、仕方なく事実を打ち明けた。

 ムツミも実は、シオリと同じダイエットコースを契約していたのだ。最近痩せてきたのはそのせいだ。シオリよりも一週間早く契約したと言う。

「どうして……」

 ムツミに裏切られた気分になった。抜け駆けは許せない。それは、自分の事など棚に上げた、身勝手な想いだった。

 会うたびにムツミが痩せてゆく様に見える。不信感は募るばかりだ。それはお互い心の中に湧き上がる、口に出来ない感情だった。

 やがて二人は距離を置き始め、最終的には会う事も無くなった。

 モコの最新ダイエットリポートが出た。

「シオリサン。ストレスニヨル過食ガ止マラズ。コース解約。当社メニュー始マッテ以来、初ノ脱落者」

「追伸。友人ノ、ムツミサン。ソレニ続クモヨウ」

 

 

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未来から来た男

 

 コウタが生まれる半年以上前に、両親は離婚した。その後に現れた男は、コウタの父親になる筈だった。しかし母が保証人になった多額の借金を残して姿を消した。

 その後の生活は苦しかった。しかし、母は逃げなかった。気丈に振る舞いコウタを守り続けた。

 高校卒業したコウタは直ぐに職を探した。会社が決まり、これからやっと母を支えて生きていけると思った矢先、母は病で倒れ帰らぬ人となった。

「全ては、あの男のせいだ」

 長期の心労が母の身体に影響したのは間違いない。母はもっと長生き出来た筈だ。運命を何とか自分の手で変えたい。いつも心の中にその想いがあった。

「この装置で本当に過去の世界に行けるんですか?」

 昨年から始まった新しいサービスだ。時空を超えた世界に行く事が出来るのだ。サービス自体の信頼性は高いようだ。それより費用の方が問題だった。

 コウタは母の死後、受け取った保険金で過去の世界に行こうと決めた。

「“過去の自分に逢いに行く”と言うのが、当社のサービスでございます」

担当の男が言った。

「皆はどんな目的で?」

「そうですね。年配のお客様が大半で、若い時のご自身に逢いにゆくのです」

「逢いに……ですか?」

「ええ。過去の世界にご案内するサービスですが、その世界に影響を与えてしまうような事は出来ません」

「何も出来ないんですか?」

「いいえ。当社がご用意する特殊なビデオカメラでの撮影だけなら可能です。こちらのメガネにカメラが装備されています」

「そのデータから静止画を?」

「そう言う事です」

「みんな、それで帰って来るんですか?」

「ええ。費用が高額なので、ある程度生活に余裕のある方が大半です。どうしても若い時の写真を手に入れたいと言う方ですかね。その時代にお生まれの方は、現在の様に簡単に写真が撮れなかった方が多いのです」

「なるほど」

「お客様。二十代の方のお申込みは初めてですが。目的は……お写真と言う事でよろしいでしょうか?」

「え? ああ写真です、写真。母が若い頃の写真が火事で焼けちゃったから……」

「そうですか……。それはお気の毒に。でも、規定にありました様、その火事を止める事も出来ません。お辛いでしょうが……」

「いいえ、大丈夫です。家族も無事でしたし、家も保険で何とかなりましたから」

 コウタは嘘をついた。

「わかりました。では、過去のどの日に行かれますか?」

「二十年前の……」

 コウタが指定したのは自分が生まれる一年ほど前。母と男が出会った年だ。

 高級なマッサージチェアーの様な椅子に、リクライニングの状態で座った。頭上から伸びたアームの先には3Dゴーグルに似た装置があって、顔の近くにセットされた。

 担当者が複数のスイッチを入れた後、体が大きく揺れ、そして目の前が真っ白になった。気付けば、そこは過去の世界だった。

 コウタが子供の頃に見た風景と、あまり変わらない。物心がつく数年前の世界なのだから。

 コウタは男がよく通っていたと言うバーに向かった。幸いな事に主要となる道路はあまり変化がなく、現実世界で外を歩いている感覚と大きな違いは無かった。

 目的の店は直ぐに見つかった。現在の世界では違う店になっているが、立地の関係なのか今でも酒場である事は同じだった。

 とりあえず弱めの酒を頼んだが、殆ど口にしなかった。肝心な場面で酔いが回ったのでは目的が果たせない。しばらく男が現れるのを待った。

 三十分程度経った頃、目的の男が現れた。

 男が酒を頼み、しばらく口に運ぶ様子を見守る。少し落ち着いた頃を見計らって、コウタは男に声をかけ、店の外に誘い出した。

「はい、何か?」

「あんただな、俺の母親を苦しめたのは!」

「一体誰なんだ……君は?」

「俺は息子だよ! 未来の世界からあんたを殺しに来たのさ!」

「息子だって? 彼女の子供なんて、まだ生まれてないさ」

「だから未来から来たって言ってるんだ! じゃ、証拠を見せてやる。これをよく見ろ!」

「新聞? 二十年後になってるね……。よく出来てるが」

「だから本当だって言ってるだろ! いいから覚悟しろ!」

「ま、待て。君の話がもし本当なら、私を殺したりしたら大変な事になるぞ!」

「おいおい、命が惜しいからって適当な事を言うなよ!」

「いいから待てって!」

男がコウタに向かって駆け寄る。コウタはすかさずレーザー銃で、音もなく男を撃つ。

「ウウ……」

倒れ込んだ男のうめき声は、徐々に小さくなる。

コウタは側で男の最期を見届ける。その表情の中に、一瞬自分の影を見た。

「まさか……」

 母から父とはコウタが生まれる前に離婚したと聞いた。男と出会ったのはその直後の筈だ。父は本当の父親だったのか? この男は一体……。

 様々な疑問を残しつつ、コウタの姿は徐々にその場から消えようとしていた。

 

 

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