ブラッシュアップの手順(後編)
小説に限らず、文章を書いた後は『推敲』が必要になります。それは誤字や脱字のチェックであったり、物語の辻褄の合わない部分を整えたり、全体の構成を見直したりと様々です。広い意味で物語をスマートに、スリムにする作業なのです。
【CONTENTS】
ショートショート『Recipe』の例
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タクミの一人目の彼女はモデルだった。つまり容姿のいい人である。二人目は有名な国立大学に通う頭のいい人で、三人目は声優をやってる声のいい人。四番目であるコトネは料理の腕がいい人で、新たに加わった五人目は運動神経がいい人のようだ。
❶タクミの一人目の彼女はモデルだった。つまり容姿のいい人である。
❷二人目は有名な国立大学に通う頭のいい人で
❸三人目は声優をやってる声のいい人
❹ 四番目であるコトネは料理の腕がいい人で
❺ 新たに加わった五人目は運動神経がいい人のようだ
登場人物全員に対する説明は、❶〜❸にかけて一旦短くなり、❹、❺と、再び長くなっているのがお分かりでしょうか? これは元々同じぐらいの長さだった文章を、調整したものです。
小説は同じような文章が続くと、退屈な流れになってしまいますので、それを避ける為の手法です。通常、読者の方が飽きてしまいそうな部分は短くし、興味を引きたい部分を少し長めに書くのです。
今回は五人について同じような説明を続ける為、三人目までは徐々に短くしてゆき、
主人公は、あえて四番目に配置しています。これは『起承転結』の『転句』に相当します。つまり、この文章内で大きく変化をつける役割です。
更にその先の展開として、五人目に新たな人物を登場させている部分が、『結句』に相当し、一連の文章を落ち着かせている訳です。
これらの構成について、どの順番に主人公を持ってくるのかというのは、完成に至るまでに、ある程度順番を入れ替えてから決めています。
このパターンの物語では、主人公が常に四番目あたりに来るとは限らず、その物語の展開やオチとの関係を考えながら、決める事になります。
タクミが女性に求める条件は世間でよく聞くような内容だったのだが、実はモデルの彼女はテレビに出たり何処かの大会で優勝した訳でもなく、国立大学に通う彼女も成績がトップクラスという訳ではない。
声優の彼女は最近になってやっとローカル局で流れるアニメの役をもらったが、脇役のため出番もかなり少なく、コトネの後に出来た彼女もスポーツ万能な様だが、過去にインターハイどころか、県大会にすら出た事が無いレベルだった。
自分があまり詳しくない職業やスポーツなどは、主にインターネットで調べるようにしています。一般的なレベルや考え方はどうなっているのか、自分が作ったネタは本当に正しいのかなど、どれだけ短い話の中でもリアリティは必要なので、極力間違いがないように調べることにしています。
読者の方の中には、その道のプロや、何かについて熟知した方も当然おられます。そういったプロの方たちが読んだ時にでも、違和感を感じず読めるような作品作りを心がけるようにしています。
ただし、インターネット上には情報が溢れている為、その信頼性を見極める必要があります。
ショートショート『新生物』の例
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所長の居る研究所は、食品会社が百パーセント出資している子会社で、主に原料となる植物の研究をしており、品種改良による理想の苗を開発するのが目的だった。
実際にありそうな会社や施設、そういったものを用意する必要があります。今回の件については、知人が勤めていた大手の会社の研究部門がモデルとなり、それを参考に書いています。
漠然とした施設などを書いてしまうと、やはりリアリティに欠け、話の本筋がぼやけてしまいます。それらのベースがしっかりとした上での展開と言うことになりますので、自分の持っている知識や知人の協力など、様々な方法を使って書く必要があると思います。
数名いる研究員の中で、一番若手のタチバナは、所長と親子ほど年齢が離れていて、その扱いに頭を悩ませていた。
基本的に打たれ弱い。注意するにも気を使う。ネット世代の象徴か、知識だけは豊富に持っていて、常にプライドが高かった。
こちらはほとんど私の経験で、もちろん所長側の立場です。
特に新人研究員の性格や行動といったものが、実在した人物がモデルになっています。
❶基本的に打たれ弱い
❷注意するにも気を使う
❸ネット世代の象徴か、知識だけは豊富に持っていて、常にプライドが高かった
こちらは先ほどと逆のパターンになります。この文章は、新人研究員の特徴について述べている部分ですが、やはり特徴を羅列するタイプの文章です。この場合、できる限り限り歯切れが良くなるよう、短めに続けています。そして最後は、最初のニ項目を合わせた位、要は倍程度の長さにして、最も特徴的な部分を書いている訳です。
このような書き方をする事によって、この研究員の最も特徴的な、要は一番言いたい事を最後に持ってきています。そうする事によって、最初のニ項目について軽くインプットされた後、よりインパクトのある文章がやってくるので、強く印象が残りやすくなる訳です。これらの印象づけは、後にやってくる重要なオチにつながっています。ある意味これは伏線と言う事が言えます。
過去に同様の生物が居て、ハチノスツヅリガの幼虫は、百匹で普通のレジ袋を一カ月弱で消化する。しかし、新生物はそれをはるかに上回るとタチバナは言う。
この物語を書くよりもずっと以前の話ですが、私はこの記事を雑誌かあるいはインターネットで一度見た事があり、今回のアイデアの元になっています。
しかし物語を書く上でちゃんとした調査が必要だったので、複数の情報を調べた後に書いています。更に、物語に登場する『新生物』については少しアレンジを加えたものになります。
そして最後に
以前にご紹介した事がありますが、私が小説を書いた時の、普段の誤字や脱字のチェック方法です。
❶最初の原稿は、テキストエディタ・アプリで『横書き』で執筆。
❷書き終えた原稿データをコピーして、別のアプリで『縦書き』の状態で読み返す。
❸更に別のアプリで『音声読み上げ』したものを聴いてチェックする。
❷は『横書き』→『縦書き』にする事によって、チェックの精度が上がる為です。更に、改行位置も変わるので、これも精度が上がる要因だと思います。
最近はスマートフォンがメインなのですが、以前はデスクトップPCにデータを転送していました。画面が大きくなる事で、一度に見える文章の範囲が広くなり、間違いに気付きやすい事に加え、前後の関係性も把握出来るので、構成を見直す場合は今でもこの方法にしています。
❸の『音声読み上げ』は、かなり精度が上がります。目で見るチェックは、複数回繰り返していると、慣れで見落としが出る場合があります。
音声として聴くと違和感がハッキリとして、かなりの確率で間違いを発見出来ます。
また、私が使っているアプリですが、読み上げ精度はかなりいいのですが、たまに『読み間違い』をします。例えば『年配の方(かた)が◯◯◯』などの場合、殆ど(ほう)と読み上げます。常に正解が続くよりも、たまに間違いがあった方が緊張感があり、慣れで聴き逃してしまうことも少なくなるように思いますので、私はこのアプリが気に入っています。
今後、出版を考えておられる方や、原稿依頼など受けておられる方は、文章が『印刷』になった場合『修正』が出来ませんので、特にチェック漏れが無い方法を考える必要があります。今回の記事を参考に、是非、ご自身に合ったチェック方法を見つけて下さい。
次回は、ショートショート『未来から来た男』の創作プロセス公開です。
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