ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(『味』がテーマの作品例) 新作ショートショート(4)/さじ加減

新作ショートショート(4)/テーマ(味)

 

 

 

さじ加減

 

 

「何よ、これ。塩っ辛い!」

 日曜日の昼の事だった。久々に私が作ったチャーハンを食べた妻は、塩が多いと言いだした。

「そうかな……」

「そうよ。だって、あなたインスタントコーヒー、ちゃんと作れないじゃない!」

「それは、そうだけど……」

 確かに妻の言う通りだった。私はインスタントコーヒーが上手く作れない。目分量をスプーンで入れるのだが、毎回納得のいく味にならないのだ。周囲の人達は疑うが、これは本当の話だった。

「あなたは他人と比べて『味覚』がおかしい『味覚障害』なんだから、このチャーハンの『塩』だって多過ぎるのよ」

 妻はそう言うが、これは『味覚障害』ではない筈だ。単に分量の測り方、要は『さじ加減』が苦手なだけで、むしろ微妙な味の違いは分かっている。

「そんな事ないと思うけど……」

「そうなのよ、絶対! あのねえ……。塩分の摂り過ぎは体に良くないんだから。それとも何? 私を『早死に』させたいわけ?」

 そんな気は毛頭無かった。しかし、執拗な口撃を受け続けると、そんな気持ちも湧いて来るかもしれない。

「分かったよ。それは俺が食べるから。新しいの作るよ」

「もういいわ、自分で作るから。これだから、男の『休日クッキング』って嫌なのよね。キッチンを汚す割に味はイマイチだし、そのくせフライパンだけは大げさに振りたがるの!」

 それも妻の言う通りだろう。たまの料理となると、男達はもちろん張りきるだろうし、一様にフライパンを振りたがる。きっと先祖から受け継いでいる、重要な遺伝子に違いない。

 結局、妻は新しいフライパンを用意して、自分用のチャーハンを作り始めた。フライパンの振り方は随分と地味になったが、間違いなく自分で作った方が旨いと言うに決まっている。

 妻は元々料理が得意だった。学生時代には料理もちゃんと習っていたようで、確かに手際はいいし、大抵のものは目分量で測り、それなりに味が整うそうだ。

 私のように何でもきっちり測るタイプには真似の出来ない事であった。

 そして妻は素早くチャーハンを作り上げた。その一方で、今朝残してあった味噌汁を同時に温め出す。

「チャーハンに味噌汁かい?」

「いいのよ、これで。いちいち何でもちゃんと組み合わせて作っていたら、食材がいくらあっても足りないわよ。私たち主婦はね、そういう材料の事とか色んな事いっぱい考えながら料理してんのよ!」

 妻は出来たばかりのチャーハンと、温め直した味噌汁を静かに食べ始めた。

「ヤダ、この味噌汁塩辛いわ」

「そうだったかな?」

「そうよ。あなた今朝飲んだのに気づかなかったの? そうだ、あなたは舌が鈍感だから、何事も無く飲めたのよ」

 私の味覚がどうのと言うより、治すべきは妻の性格の方だと思った。

 私には以前から少し気になる事があった。妻は大抵『塩辛い』と言う言葉を発する。塩分濃度を測定する機械は、その為に内緒で買ったものだ。私はそれをそっと味噌汁に差してみる。結果はやはり予想していたものだった。

 塩分濃度は適正値を少し下回った数値だった。これは一般人が食べた時、あまり塩辛いとは感じない数値だ。

 妻は日頃から、自分の非を認めようとしない性格だ。何かがおかしい時は、常に周囲に問題があると考える。

 そんな妻が自分の『味覚障害』を認めるかどうかは、それを指摘する私の言葉の『さじ加減』にかかっている様だが、それは私が最も苦手とする事だった。

 

 

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