コラム/小説はどのように完成するのか❷(後編)
【構成編】(ショートショート/異音)
小説のアイデアがある程度出た後、全体の構成を考えます。ベースである『起承転結』以外に、どんなキーワードやエピソードを、どの部分に、どの様に配置するかで、作品の良し悪しは随分と変わります。
今回は、その『構成』についてのお話です。
ショートショート『異音』の全文はこちら↓↓↓
【前回までの流れ】
完成したアイデアの骨子
●夫の浮気を疑っていた妻が、その証拠を掴み、それを確信する。そこには『音』が関係しており、それには聞き慣れない携帯電話の着信音を使う。
●夫婦は以前から仲が悪い。
●妻が夫を誘い出し殺害を企てる。
●殺害は事故に見せかけた方法を考えるが、そこには『頭が割れる』と言う状態を盛り込む。
【CONTENTS】
構成前の準備
構成編では大まかに、物語の中で起こるエピソードをアイデア編で出た内容を元に羅列していきます。
❶妻は夫の浮気を疑っている
❷着信音が関係した証拠でそれを確信する
❸夫婦は以前から仲が悪い
❹妻が殺害を企て、夫を誘い出す
❺事故に見せかけた殺害方法の実行
❻夫の頭が割れると言う状況
順序の整理
❶〜❻までの中で、順序の入れ替えが必要な場所があれば、事前に済ませておきます。
小説の中でもショートショートは最も文字数が少なく、その大半は人生の時間を一部だけ切り取った物語です。その為、その場所に案内する準備が必要なのです。
❸は早い段階で書く必要があります。
地の文で書いても、セリフのやりとりでも構いません。
❻は、やはりラストが良いでしょう。
それ以外は、特に順序は問いません。少し意外に思われるかもしれませんが、これは書き方をマスターすれば特に問題がないのです。
一般的な時系列の処理
小説を書き始めた方が迷う問題の一つとして、『時系列』があると思います。
小説の世界で言う『時系列』とは、時間軸に対して起こった出来事を順番に並べることを指しますが、これを正確に守って書こうとするとかなり困難な作業になります。
例えば、AとBの二箇所で同時に起こった出来事を書く場合、時系列を正確に守ろうとすると、交互に書くと言う方法が取れますが、これはあまりスマートな書き方ではありません。
では、もう一つの方法として、Aでの出来事を先に書き、Bを後に書く。この方法が一般的だと思います。
しかし、この場合は、ある特定の時間内に起こった出来事が、ダブって描かれる事になります。時間の長さや書き方にもよりますが、読者の方が混乱してしまう原因にもなりかねません。他に方法は無いのでしょうか?
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時系列の問題をクリア出来る書き方
【例文:A】【❶→❷→❹→❺の場合】
●妻は夫の浮気を疑っていた。
●夫の携帯電話から聞き慣れない着信音。届いたメールで浮気を確信した。
●いつもの外出のフリで夫を誘い出す
●斜面に止めた車に夫を潜り込ませる
以前から妻は夫の浮気を疑っていた。ある日、寝ている夫宛に届いた携帯電話のメール。聞き慣れない着信音に違和感を感じ、確かめてみると、そこには浮気の事実が記されていた。
妻は限界だった。いつもの外出を装って、夫を誘い出す事にした。そして車に潜り込ませ、事故に見せかけた殺害を実行するのだ。
【例文:B】【 ❺→❷→❶→❹の場合】
●斜面に止めた車に夫を潜り込ませる
●夫の携帯電話から聞き慣れない着信音。届いたメールで浮気を確信した。
●妻は夫の浮気を疑っていた。
●いつもの外出のフリで夫を誘い出す
夫が様子を見るため車の下に潜り込んだ直後、斜面に止めていた車が下がり始め、夫の頭はタイヤに挟まれる形になった。
「助けてくれ」
「あなたの携帯から、聞き慣れない音がしたの……。浮気してたのは事実のようね。前からおかしいと思ってたのよね」
いつもの外出の予定で家を出た。妻が急に予定を変えたのは、きっとこの計画があったからに違いなかった。
どちらの例文も前後に文章がない為、書けない部分もあるのですが、おおよその書き方としては上記の様になります。
時系列の問題をクリアする方法
一言で説明すると、過去の出来事は『登場人物の現在の記憶』として扱う事で解決します。
(夫が主人公の場合)
【妻の現在の記憶】
「あなたの携帯から、聞き慣れない音がしたの……。浮気してたのは事実のようね。前からおかしいと思ってたのよね」
●夫が主人公の設定の為、妻の『視点』から描く事が出来ません。この場合は『台詞』を使い『妻の口から語る』事で解決する訳です。
【夫の現在の記憶】
いつもの外出の予定で家を出た。妻が急に予定を変えたのは、きっとこの計画があったからに違いなかった。
●主人公である夫は、その『視点』を使う事が出来ます。今回は夫の『内面描写』によって描いています。
構成の手順
❸をスタートに、❻をラストに固定して、その他のエピソードは、最も書きやすい順で構成します。ここでは書いていませんが、前後の文脈がある程度決まってくると、おのずと順番は決める事ができる筈です。
もしも、流れに問題が出た場合は、入れ替えが可能なエピソードを調整すれば良いのです。
以上で構成編は終了となります。次はこれらを使って伏線とオチを考える流れとなります。(このコラムは【❸/伏線とオチ編】へと続きます)
次回は、ショートショート『消去ボタン』の創作プロセス公開です。
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