コラム/小説はどのように完成するのか❸(後編)
【伏線とオチ編】(ショートショート/異音)
小説のおおまかな構成が出来た後は、最終的な『オチ』にたどり着くまでの『伏線』が必要になります。そしてこの『伏線』は、通常『オチ』に対して存在するものですが、実際にはそれ以外の場所にもあるのです。
今回は、その辺りについても説明したいと思います。
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【CONTENTS】
仮の構成順で組み立てる
前回は構成について考えてみました。とりあえず【例文:A】の構成で書き始める前提で、一旦仮の順序で進めてみます。
【例文:A】【❸→❶→❷→❹→❺→❻の場合】
●夫婦は以前から仲が悪い
●妻は夫の浮気を疑っていた。
●夫の携帯電話から聞き慣れない着信音。届いたメールで浮気を確信した。
●いつもの外出のフリで夫を誘い出す
●斜面に止めた車に夫を潜り込ませる
●夫の頭が割れると言う状況
各エピソードの具体化
夫婦は以前から仲が悪い
夫婦が不仲になる原因として、『性格の不一致』はよく聞く話です。今回は几帳面な夫とマイペースな妻にしました。日常の些細な出来事からストレスが蓄積する事もありがちですね。
妻は夫の浮気を疑っていた
これは、何処かの段階で加えれば良い内容です。他のエピソードとのバランスを考えながら、適した位置に配置する事にします。
いつもの外出のフリで夫を誘い出す
『いつもの外出』から『別の場所』に行くには、それなりに『準備』が必要です。
予定の急変が正当化出来る理由。緊急事態や、あるいは普段から行動がコロコロ変わると言う前提を作る必要がある訳です。
斜面に止めた車に夫を潜り込ませる
一般的な駐車場であれば、立地の関係で斜めになっている場所もあります。しかし、この様な条件に設定すると物語が不自然になりやすいので、他の方法である今回の『山』などの方が自然でいいでしょう。
夫の頭が割れると言う状況
『車』と『斜面』があるので、後は『潜り込む』で条件は揃います。ただ、この行動を起こす必要性を用意しなければなりません。『潜り込む』ですが、一般的な乗用車では、そのスペースがありません。ジャッキで持ち上げるなら『パンク修理』、又は『オフロード車』に乗っている前提ですね。
後は、しばらく潜り込む必要があります。直ぐに解決すれば『事故』が起こりませんから。ですから、そこに『見つけられない問題』を用意する訳です。要は『偽りの故障』です。何もないのに、故障でもしているかの状況を作ります。
今回で言うなら、『何か変だわ』と妻が言う。作品を読んだ方はお分かりだと思いますが、実は妻は『車の異音』とは言っていません。何故でしょう?
今回の企てが未遂に終わった場合、言い訳出来る材料を実は用意しています。
素振りこそするものの、『車の異音』とは言わず、夫に車を見てくれとも頼んでいないのです。夫が『車から異音がする』と思い込み、勝手に潜り込んだのです。そして、車が下がったのは普段から妻はサイドブレーキの引きが甘いのです。だから『事故』なのです。しかも、妻は落ち着きながらとは言え、一応救急車を呼ぶ訳ですね。怖い話です。
『伏線』と『オチ』を考える
冒頭で書いたように、『伏線』は『オチ』だけのものではありません。具体的にどういう事かを説明します。(文章は完成作品より引用)
夫婦は以前から仲が悪い
「何が変なんだい?」
マコトは声をかけたが、あまり心配していなかった。ミホは機嫌が悪い時も同じ台詞を吐く事があるからだ。
二人で外に出ると些細な事から喧嘩になる事が多かった。何事も無く一日が終わる事の方が珍しい。
⚫︎普段から喧嘩が多く、夫が妻にあまり関心がない様子です。これは以下の出来事への伏線です。
→夫が浮気をしてしまう要因
→妻の企ての原因
→妻の企てに夫が気付きにくい普段からの習慣
妻は夫の浮気を疑っていた
「変な音がしたのよねえ。車じゃなくって……貴方のスマホから。メールの着信音かしら? 聞き慣れない音がねえ」
ミホは気付いていたのだ。メールの事も、浮気の事も……。
⚫︎浮気に気付いていた事実と、『音』は『車』の事ではなく、そう思い込ますための『罠』だったのではないかという事を、ほのめかしています。
→妻の『変』と言う発言が伏線であり、それを回収しています。
→『企て』の『動機』であり、『オチ』への『伏線』となります。
いつもの外出のフリで夫を誘い出す
今日もそうだ。ミホが珍しくドライブに行きたいと言い出し、とりあえず家を出た。行き先は未定で、これもいつもの事だった。
ミホのその日、その瞬間の気分で行き先が決まる。事前に予定した通りに何かをやった記憶は殆ど無かった。
「山の方に行きたいわ」
⚫︎普段から妻は無計画な行動をとる習慣があり、今回の一連の行動に対する違和感を無くす効果を狙ったものです。また、それに振り回される夫の関心の無さも、妻への愛情が薄れている事を表現しています。
→『企て』の為『山』に向かう行動の伏線であり、妻は普段から予定を『急変』させる事があるので、今回もいつも通りの行動と思わせる為の『ミスリード』です。
斜面に止めた車に夫を潜り込ませる
ミホは山道脇の斜面に車を少し乗り上げ、エンジンをかけたまま停車させた。それから車を降り、体をかがめて車体の下を覗き始めた。
⚫︎この時点で読者の方に対しても、『異音は車から』というイメージを植え付けていますが、これはいわゆる『ミスリード』ですね。
妻が言っていた『音』が車の事で無かったのは、オチに近い部分で明らかになります。
→『斜面に乗り上げた車』は『下がって来る車』の為の伏線ですね。
夫の頭が割れると言う状況
車体の重みはどんどんマコトの頭部にのしかかった。
薄れゆく意識の中、マコトはかつて聞いた事のない『異音』を、頭の中で最後に聞いた。
⚫︎車に潜り込む為に、設定をオフロード車にしています。妻の運転は、夫が普段から不満を持っている様、通常行うような操作もしない場合がある設定です。斜面に止めた車もシフトレバーを『パーキング(P)』に入れた状態であれば下がりませんが、今回は一応『ニュートラル(N)』に入れていた設定(本文にはありませんが)として書いています。(出来れば、この事についても何処かで書いておいた方がいいでしょう)
→ 『サイドブレーキの甘さ』も、車が下がる為の『伏線』です。
以上で伏線とオチ編は終了となります。次は実際の執筆について解説したいと思います。(このコラムは【❹/執筆編】へと続きます)
次回は、ショートショート『視点』の創作プロセス公開です。
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