コラム/タイトルの付け方(後編)
小説に付ける『タイトル』は、とても重要なものです。それは間違いなく『作品の一部』ですし、特に文字数の少ないショートショートにおいては、更に比重が重くなります。私は『作品の一部』と言う表現が、『タイトル』を表すのに最も適していると思います。何故なら、どこまで書くかのさじ加減が必要で、実は難しい部分があるからなのです。
【ご注意!】
以降の解説には『オチ』の『ネタバレ』を含んだ箇所があります。まだ作品を読んでいない方、本来のショートショートとして楽しみたい方は、先にリンク先『全文』をお読みになられる事を、お勧めします。
【CONTENTS】
ANSWER
ショートショート『ANSWER』の全文はこちら↓↓↓
【オチを含んだ物語の内容】
主人公のアキコは、五十歳の女性です。十年以上連れ添った夫と、半年前に離婚しました。夫の浮気が原因だったのですが、何も無ければ離婚の意思もなく、夫に依存していた部分があった為、その後の自立が上手くいっていなかったのです。
ストレスから離婚後に喫煙も始め、挙げ句の果てに『万引き』にまで手を染めます。
どちらも自分で断ち切れない。いつか『誰かに止めて欲しい』と言う思いが心の中にあり、そこに現れたのが小学生の男の子でした。
男の子はアキコの心中など知る由もなく、単に遊び相手として『クイズ』を出しただけだったのですが、そこには『喫煙』をとがめる部分があって、アキコはそれを『万引き』の事と勘違いします。
しかし、これが自分のいけない行為を『止めてくれる』きっかけなのだと感じ、それらを断ち切って『自立』する決意をする訳です。
【タイトルの狙い】
『ANSWER』は、ストレートに『答え』の意味ですが、作中の意味は大きく二つあります。
❶小学生の男の子が出したクイズの答え
❷主人公が今後歩むべき人生の答え
何度かこのブログでも書いた事があるのですが、タイトルに複数の意味を持たせる事はとても有効な方法です。
同じ言葉で二つの意味を持ち、作品全体を表す『ANSWER』をタイトルとしました。
アイちゃん
ショートショート『アイちゃん』の全文はこちら↓↓↓
【オチを含んだ物語の内容】
主人公のアイちゃんは、展示会などのイベントで、お客さんにパンフレットを配ったりするコンパニオンのような仕事をしています。
名刺をもらった場合はすぐにそれをスキャンして顧客データと照合し、渡すべきパンフレットも選別したりと、真面目な仕事ぶりです。
しかし、この『アイちゃん』。実は『AIロボット』なのです。正確には、『人型パンフレット配布ロボット』で、この会社は自社の製品である『アイちゃん』をPR用に使っていた訳です。
しかし、イベント中の連続運転で、過去にはエラーが発生した事があり、今回はエンジニアがスタンバイした状態での参加となった訳です。
そして、エラーからの復旧時は、その動作確認として正式言葉で呼びかけるのですが、これに対する反応が正常でないと精密検査となってしまうため、アイちゃんはそれを避けようとするのです。
『愛称』と『正式型番』。優秀なロボットなら、当然識別できる筈なのですが、それを人間のように勘違いしてしまう、と言うのは『ユーモア』なのであります。
【タイトルの狙い】
『AI』に関係する物語で、作中に『アイ』と言う言葉が含まれていると、それを連想される方もいるかもしれません。推理小説などでは、真犯人を物語のかなり後半から登場させるのは、一般的にルール違反とされています。
『ショートショート』における『オチ』に対する『伏線』も同じ事が言えます。アイちゃんが『人間』であるかの様な物語の運びは、もちろんミスリードです。四号機であるアイちゃんまで、一号機から一貫して『同じ愛称』を付けたり、自社製品を酷使する、この会社の社長に対するアイちゃんの静かな不満も、作中とタイトルに込めています。
一見するとシンプルなタイトルに見えますが、実は多くの意味を含んでいるのです。
『AI』『愛称』、そして主人公アイちゃんが日頃から気にしている『アイちゃん』。それらの事から、このタイトルを付けました。
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カメラがある時
ショートショート『カメラがある時』の全文はこちら↓↓↓
【オチを含んだ物語の内容】
物語は最初から最後まで、主人公の男の『語り』のみで構成されています。男の年齢層は具体的には書いていませんが、カメラについての古い知識があるのでそれなりの年齢の男性と言うことになります。
そして、男の話を聞いている相手については、年齢も性別も特に明らかにしていません。これには一つの狙いがあって、読者の方が、例えば知人や有名人の誰かを想定したり、あるいはご自身がその相手であったり、あえて自由な読み方をしていただけるようにしてあります。
この手法なのですが、この物語の『オチ』が『怖い話』であった場合、実は読者の方は知らず知らずに、話を聞いている相手が『最も恐怖感を感じる人』を想定してしまっているのです。『怪談』を聞いている時など、実は皆さん『怖がりたい』と思っているんですよね。
主人公の男がこの地域で過去に起きた殺人事件について、相手の人に向けて色々と語り続けます。犯人は捕まらず事件は迷宮入りとなり、時効を迎えた訳ですが、その男曰く、事件当日にカメラがあり、目撃者が写真を撮るなど、しっかりとした証拠をつかんでいれば、犯人は捕まったのではないかと言う趣旨の事を話します。そして、話が進むにつれ、相手の人はその男が何故ここまで詳しいのかと、疑問を持ち始めます。そこで男が言います。『犯人は、この私なんです』と。
【タイトルの狙い】
この物語の恐怖は、殺人事件について延々と語っていた男が実は犯人であった、と言うだけではなく、既に時効迎えているからと、人を殺した男が『今日はカメラがあるので』と、「一緒に記念写真を撮りませんか?』と言い出す部分です。殺人犯と隣り合わせの恐怖。これは実感しないとわかりにくいかもしれませんが、実は私はあるのです。
詳細については書けませんが、仕事の用事で私はある方と部屋で二人きりになり、約一時間そこに居ました。何事もなく会社に戻ったのですが、そしてそれから半年後にその方はニュースで『殺人犯』として報道されていたのです。
その方と私が二人きりで会っていた時の用事と言うのは、会社に対するその方からの『クレーム処理』だったのです。対応次第で、ひょっとしたら私も危険な目にあっていたかもしれないんですよね……。
『オチ』が明らかになった後、なお恐怖感を強める効果、そしてカメラの様な確実な証拠を残せる物が無く、時効によって罪から逃れた犯人は、現在皮肉にもカメラを所有している。これらの事から『カメラがある時』をタイトルとしました。
そして最後に
『タイトル』はとても大事でよく考えて付けるべきなのですが、あくまで『作品の一部』であると言う事を意識された方が良いと思います。あまりに表現する幅を広くし過ぎると、特に『ショートショート』の場合は『ネタバレ』にもなりませません。全体を表現しつつ、適度なラインを保つのが良いと思います。
次回は、ショートショート『落とし物の使い方』の創作プロセス公開です。
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