コラム/起承転結のセオリー(後編)
小説を書く上において『起承転結』はベースとも言える要素なのですが、特にショートショート作品などでは、明確にそれらが見当たらない場合もあります。しかし、それでも物語は成立するのです。
小説を書く事に慣れていない方は、ごく一般的な構成の作品でも迷ってしまう事がある様ですが、特殊な構成の作品となると、更に混乱されるのではないかと思います。
今回は実際の完成作を元に、それらを解説したいと思います。
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(小説・ショートショートの書き方)厳選・オススメ本はこれ!(その❶) - R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜
【ご注意!】
以降の解説には『オチ』の『ネタバレ』を含んだ箇所があります。まだ作品を読んでいない方、本来のショートショートとして楽しみたい方は、先にリンク先『全文』をお読みになられる事を、お勧めします。
作品例:ショートショート『私の庭』前文はこちら↓↓↓
【CONTENTS】
あらすじ
この物語を大まかに書いてしまうと、離婚した妻がかつて住んでいた我が家の現状を偶然知る事になり、それがゴミ屋敷のようになっていた。
元夫は、いろんなことを相談もせずに一人で決めてしまうタイプだったので、離婚後単身でも大丈夫だと思っていたが、すっかり生活が乱れている様だった。
様子が気になった妻は、かつての我が家を訪れ、夫の現状とその想いを知った結果、心の中に変化が起きる、と言うお話です。
起句
『小説』は主人公の身に起きた出来事の、ある部分を切り取って表現する物なのですが、一般的に原稿量が多くなれば、その物語の中で扱う期間は長くなります。
ショートショートの場合は特に短く、ほんの一瞬の出来事を描く場合もあります。長い期間を書く事も可能ですが、構成的な無理が生じ易いため不向きです。
『起句』について、『事の始まり』と説明される場合が多い様ですが、これこそが『書けない人』が『書けない理由』だと私は思います。要するに、もっと詳しい説明が必要なのです。
出勤前の朝、情報番組の特集コーナーの予告を観てケイコの手が止まった。興味のある内容なら、録画予約をするのが習慣だった。
『ゴミ屋敷』
普段なら見送る内容だったが、モザイクの男性の後ろに映るゴミ屋敷。そこには、かつて愛用していた外国製のオレンジ色の鍋があった。
【どこを起点とするのか】
今回の作品で『起点」となっているのは、主人公が元夫の現在を知る場面です。しかし、起点は何もここでなくても良いのです。これは作者である私が『これを起点にしよう』と思ったから、ここなのです。
『どこから書けば良いかわからない』。これは時々耳にするお話です。結果として同じ様な内容が伝われば、どこから始めても特に問題はないのですが、やはり緊張感やインパクトのある部分を選ぶのが良いでしょう。
【別のバージョン】
●知人からの伝聞
●SNS等を通じて偶然知り得る
【起点をずらす】
●元夫が体調不良の際に、知人または本人から連絡してくる
●経済的に困っている様子を知ってしまう
●妻が元夫の雑貨店に訪れて、異変に気付く
承句
『承句』をあまり重要視されてない作品を、時々見かける事があります。
『事の起こり』から受け継がれた物語は、本来ここで更に膨らませる必要があるのですが、単に『起句』の続きになってしまっているのですね。
『転句』に向けて問題を増幅させ、最高のクライマックスを迎える為の重要な部分です。
でも何が起きたのか。とにかく様子を見に行こうと思った。
実家から一駅の距離だった。駅から家までは心休まる道の筈だったが、今は不安でいっぱいだ。
道中、何度か足を止めた。やっとの思いで辿り着いた場所には、変わり果てた、かつての『我が家』があった。
朝の情報番組で観た光景が、かつての我が家だと気付いた主人公は、元夫に会いに行こうと考えます。そして、二人が離婚に至った理由などを思い返し、
【❶→❷】
❶元夫の住む、かつての我が家がゴミ屋敷と化している事を知る
❷離婚時の理由について触れる
ここで重要なのは、主人公が元夫と別れた経緯です。親との同居を考えなければならない時期に来て、安定した生活から不安定な生活へ、しかも何の相談も無く。
そんな行動について行けず、否応無しに離婚へと進んだ経緯は、オチでの主人公の行動を肯定するものです。
転句
『転句』は物語の流れを変える『句』です。それまでの物語に変化を付け『オチ』へと導くのです。
時折、見かける事があるのですが、それは『変化』ではなく『唐突』と言った感じで、都合良くオチに合わせた『何か』が登場する作品です。
これは推理小説などで、犯人がかなり後半になって登場するのに似ていて、いわゆる『ご都合主義』とみなされます。書いていけない訳ではありません。しかし、編集者の審査通過は難しいでしょうし、何より小説のクオリティを下げる要因となります。もう一度構成を練って頂いた方が良いでしょう。『承句』から『転句』までの繋がりに、無理のない構成に変えましょう。
無精ヒゲのナオキがゆっくりと天井とゴミの隙間から顔を見せ、そして手招きをした。意外に元気そうだった。
中にはコタツ一つ分程の空間があった。
「店は順調だったんだけど、パートナーに持ち逃げされた。信頼してたんだが……」
「そうだったの……。でも、だからって家の中が、こんな風になっちゃう訳?」
「しばらく体調を崩してね。店は大丈夫だけど、家にはゴミが溜まってきて。なんだか面倒になった。最初は精神的なダメージが大きかったんだと思うよ。でも、それが回復する頃には家の中が……」
元夫は、以前から相談なく行動する事があり、色々な事を一人で決めてしまうタイプです。その為、単身になったとしても周囲に心配されるタイプではありません。また、知人からの店舗契約に関する話は短期間で決めてしまう様な、人を信用しやすい性格付けも事前にしています。契約を急がせる知人はビジネスでのトラブルの可能性を秘めていますし、元夫も被害を受けやすいタイプの設定です。
そして、実際にトラブルが起こってしまった結果、精神的なダメージから弱くなってしまう人も多く、『承句』からの流れも自然になる訳です。
結句
『結句』はもちろん『オチ』の部分に当たる訳ですが、単に『伏線』に対する『オチ』が成立すればいいと言うものではありません。良くない例としては、物語のかなり後半部分に無理やり張った伏線に対し、強引に付けたオチ。この様な『ご都合主義』の物語では、読者の方も楽しめません。伏線はかなり早い段階から準備し、ちゃんと読者の方に提示しておかなくてはなりません。そして、オチでそれらを上手に回収するのです。
理想的な物語は、伏線などの仕掛けがしっかりと計算されている為、何度読み返しても楽しむ事が出来る構成になっているのです。
「俺一人じゃさ、なんて言うか、やっぱりちゃんと出来なかったんだ。でも、あの『庭』を見ると、ずっと君が一緒に居るようで……」
ケイコの耳にその話は届いていた。しかし、手の動きは止めなかった。リビング辺りのゴミを袋に詰めている。道中で買っておいた大量のゴミ袋に。
「あの庭はね、『私の庭』なのよ!」
先々の事は考えていなかった。しかし今は先ずはここを掃除するべきだと思った。
「やはり、私が居なければ……」
オレンジ色の鍋を手に、ケイコはつぶやきながら、その蓋を探した。
「とにかく、この辺りから片付けましょうよ」
ケイコは動きを止めない。二人の事はまだ分からないが、今はナオキの為に何かをしよう。ケイコは今、その事だけを心に決めた。
元夫の主人公に対する想いが、離婚前にどれ程であったかについて、作品では触れていません。もし、想いがちゃんとあったとしても、少なくとも主人公に上手く伝わっていなかった事は、話の流れの中で感じていただけると思います。
そして、この句で最も重要なのは、主夫が自分の弱い部分を見せた事、そして主人公である妻の事を『大切な存在だった』と伝えた部分です。これを聞いた妻は、あえてその言葉への反応は見せないようにしますが、遠回しに自分の考えに変化が起きた事を伝えます。
更にラストはどうなるのか。それは読者の方に判断して頂く流れにしました。ショートショートでありながら、最後は数行ではなく、もう少し長い時間をかけて結末を迎える構成にする事で、作品の余韻を残したかったのです。
そして最後に
小説にとって『起承転結』の構成はとても大事な事です。ショートショートの場合、この構成を組まない作品も時々あって、それはそれで作品として成立しています。必ずしも、この形でなければいけない訳ではありませんが、『基本形』としてそれらがあり、作品を上手にまとめるのに適しているのは間違いありません。
しかし、先述の通り形だけを作ればよい訳ではなく、それぞれの『句』にはちゃんとした意味と役割があり、それらを理解したうえで構成を組まなければ、上手く機能しません。著名な作品を、意識しながら読んでみるのも良い勉強になると思いますので、是非お試しいただければと思います。
次回は、ショートショート『サンタが来ない日』の創作プロセス公開です。
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