ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(『光』がテーマの作品例)新作ショートショート(9)/空が光った夜

新作ショートショート9/テーマ(光)

 

 

空が光った夜

 

 

 

 寝苦しい夏の夜の事だった。破裂音のようなものと共に一瞬、空が青く光ったのだ。
 それが現実のものだったか夢だったのか、区別がつかなかった。家の外に出てみても、誰かが右往左往している気配もないし、何より、いつも見ている夜の光景と何ら変わらなかったのだから。
 翌朝になって、ようやく変化に気付いた。部屋の中に誰かが居る。そう、自分が居るのだ。正確には自分とそっくりの生き物が……。
 顔や姿は、まるで私そのものだったが、頭には一本短い触角の様な物が生えている。服は着ていないが、裸にも見えない。それはウェットスーツの様な、皮膚とも服とも区別のつかないものだった。
 自分の様な生き物は、ゆっくりと私に近付いて来て、ジェスチャーだけで意思を伝えてくる。言葉は話さない。しかし、おおよその意味は伝わった。生き物は時おり頷く素振りをみせる。この動作は人間と共通の様だ。
 一通りのジェスチャーを読み取ったところ、食べ物は必要とせず、空気中の酸素があれば大丈夫な様だ。何も食べないから排泄もしない。だから、それらの器官も無さそうだ。
『驚かなかった』と言えば嘘になるが、その姿が殆ど自分であった事によって、精神状態が麻痺して、結果的に薄いリアクションとなってしまった。これが芸人ならば、次の仕事が無くなっているところだろう。
 その生き物は、動きも私とそっくりだった。細かい癖もそうだし、何より、こちらが頭に思った事を上手く読み取り、絶妙なタイミングでサポートしてくれるのだ。まるで長年コンビを組んでいる相方の『アドリブ・ボケ』に対するツッコミの様だった。
 次の日は、会社に出社しなければならない。さて、この生き物をどうするかと思案したが、もちろん一緒に連れて行く訳にはいかない。ましてや、何処かに預ける事など、もっと無理な話だった。その結果『家で放し飼い』する事にした。他の選択肢など、あろう筈もない。
 基本的に食べ物は要らない。だからトイレの心配も無い。そして、おそらく悪さもしない筈だ。もしも、出社中に家の外で暴れていたならば、それはもはや私の出番ではない。きっと警察官や機動隊、自衛隊の人達が出動しているだろうし、もしかしたら戦隊ヒーローまで現れるかもしれない。
 会社にいる間、特に驚く様なニュースは飛び込んで来なかったし、電話で呼び出される事も無かった。おそらくあの生き物は、静かに過ごしてくれたに違いない。
 問題は私の方にあって、会社での仕事はまるで進まなかった。周囲には気付かれぬ様、普段通り働いているフリをしていたものの、思考回路はまるで機能していなかった。
 不安でいっぱいの一日を終え、ようやく家に辿り着いた。
 部屋には例の生き物が静かに待っていて、特別変わった様子は無い。それどころか、部屋はすっかり片付いていて、夕食は既に準備してあり、おまけに風呂まで沸いていた。
 変な生き物との生活は一週間ほど続いた。困った事は何も起こっていない。この生活にも少し慣れてきたので、久々に友人宅へ行ってみる事にした。
 家に着くまでの間、例の生き物について話すべきか否かと、ずっと考えていた。しかし、気付けば既に家の前まで来ていて、結局答えは出ていなかった。
「やあ、君かあ……」
 学生時代の同級生である友人宅には、彼以外に妻と二人の子供が居る。急な訪問だったからか、或いは時間帯がまずかったのか、友人はあまり浮かない表情で現れた。
「すまない。急に来てしまって……」
 私はそう詫びながら、彼をその表情にさせた原因を、頭の中で探っていた。
「ああ、構わないけど……」
 そう答える友人の笑顔は、何処かぎこちなかった。
「こんにちは!」
 友人の後ろの方からひょこっと顔を出し、元気に挨拶してきたのは、彼の長男だった。何度か会った事があるので、私の顔を知っている。今年、小学生になったばかりの筈だ。
「こっちに来ちゃダメ!」
 滅多に大きな声を出さない友人が、長男に向かって叫んだ。それに驚いた私は、友人と、その後ろに居る長男を交互に見た。
 その声を聞いたからか、長男の背後に人影が現れた。残りの家族と、更に家族全員分の触角付きの影……。
 結局、私は急用を思い出したと告げ、すぐさま友人宅を後にした。
 そして、私の頭の中に小さな疑問が湧いた。あの生き物は、一体どれくらいの酸素を必要とするのだろう?
 これは私の仮説だが、もしもある時、地球上の人口と同じぐらいの数の生き物が一気に増え、人間の何倍もの酸素を消費した場合、地球は大変な事になってしまうのでは……。
 最近、少し息がしづらい気がするけど、あの日以来に起きた変化は、私にそっくりの生き物が一人分増えただけの筈で、私の仮説などきっと合っている訳がない……。

 

 

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