コラム/伏線の張り方(後編)
ショートショートでは『オチ』に直結する『伏線』がとても重要ですが、それ以外にも『伏線』は存在します。今回はそんな『伏線』について、そのタイプと張り方を実際の作品を用いてご説明したいと思います。
【CONTENTS】
ショートショート『五点着地』の例
ショートショート『五点着地』の全文はこちら↓↓↓
【物語の流れ】
●戦隊ヒーローのとしてテレビに出演していた主人公は、先々の俳優業について悩んでいた。
●主人公の彼女は、俳優業に反対だったので、相談相手に出来なかった。
●過去に戦隊ヒーローをやっていた先輩に相談するが、気は進まなかった。
●相談してみると、やはり聞きたい答えが得られず、落胆の方が大きかった。
●不安が大きくなった事で、逆に諦めがつき、転職への方向に向かった。
将来の事について、彼女に相談出来ない
●気が強い
●俳優業に反対している
→先輩に相談する流れ
「アクションがイマイチな女子より人気がないの?」
トモヒロの彼女が放った一言は、彼に大きなダメージを与えた。まるで怪人達のボスキャラ並だ。
「ヒロインって結構人気が出るものなんだ。小学生ぐらいの男子って、強さに憧れる一方で既に『男』の部分を持ってるんだよ」
「へえ、そうなの? 私は貴方に『男』を全然感じないけど……」
自分を理解してくれない彼女に少し苛立ちを覚える。だからと言って彼女に戦いを挑むのはあまりに危険だ。それは戦隊ヒーローならではの勘だった。
ここでは主人公と彼女が、上手く信頼関係を築けていない様子を描いています。頼りなく、経済面の安定感もありません。
(主人公が彼女に相談を持ちかけられず、他の人に頼らざるを得ない状況を作る為の伏線です)
先輩が人の話を聞かず、いい加減
●話題のズレ
●話の結論がいい加減
→先輩からの回答に不安を感じる
「そ、そうだな。あの役はヒーローなのにちょっと小太りなんだよ。俺ってさあ、体重自由に操れる方じゃん」
「え? 初めて聞きましたけど」
「ほら、いつだったか病院で会った事があっただろう? あの時、俺すっごく痩せてなかったか?」
「それは多分、病気のせいで……」
「何言ってんだ! 退院してから半年後ぐらいに会った時、また体重増やせてたろ?」
「それは単に体重が戻っただけじゃ……」
「お前は何も分かってないね。更に三ヶ月ぐらい後に会った時には、もっと体重を増やせたんだぜ!」
「それって完全にリバウンドじゃ……」
体重の話は信頼性に欠けており、いい加減な印象しかありません。
(他人の話を元に、自分の話題にしてしまう典型で、徐々に先輩への信頼を損なう為の伏線です)
主人公が結論を出すまでの流れ
●自信満々でアドバイスしていた先輩は、実際のところ最も人気が無かった
●様々なエピソードに疑問を感じる
●戦隊モノの収録が終わって、俳優業に注力したい主人公に、アクションを鍛えるアドバイス
→不安が大きくなり、戦隊モノどころか俳優業も諦め、転職を考える
「もちろん先輩は一番人気だったんですよね?」
「俺は……。五番人気だよ」
「ええ?!」
「あのさあ、当時は三枚目のキャラってのもあったから、それを誰かがやらなきゃ」
「とにかく俺みたいに努力してりゃ、その内いい事があるって話だよ」
「はあ、そうですか……。ところで最初の話って何でしたっけ?」
「最初? えーと……。『五点着地』の話かな?」
トモヒロは考えた。今日の話のポイントは何? そして着地点は何処?
戦隊ヒーローをステップに本格的な俳優を目指したいと言っているのに、なぜ今更アクションをなんだ? 残りの放送分も既に収録済みと伝えた筈だ。
先輩は現役時代に、ヒーロー中の一番人気かと思いきや、実際には最下位で、当初の相談内容を忘れるぐらい、話は脱線しています。
また、本題に戻った後も的外れなアドバイスをされ、主人公は既に諦めの心境に陥っています。
(最終的にオチへと向かう伏線です)
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ショートショート『GIFT』の例
ショートショート『GIFT』の全文はこちら↓↓↓
【物語の流れ】
●今年で九年目になる再婚同士の夫婦は、互いに相手に対する興味が薄れていた。
●真面目だけが取り柄となってしまった夫との関係を、どうするべきか考えていた。
●真面目だった筈の夫に、浮気の疑惑が浮上する。
●浮気相手と思しき女性から、夫への誕生日プレゼントが届き、主人公に嫉妬心が芽生える。
●主人公も百貨店に出向き、より高価なプレゼントを買って対抗する。
●豪華な夕食も用意して、夫婦の時間を過ごすうち、改めて夫の大事さに気付く。
●浮気相手と思しき女性は、冷めかけた愛情を取り戻す為に、夫が依頼した協力者だった。
夫婦が互いに興味が無い
●妻が夫の誕生日に気付かない
●悪い意味で空気の様な存在
→夫が浮気をしそうな流れ
→妻の冷めてゆく夫への愛情
見覚えのある女の名で夫あての荷物が届いたのは、火曜日の夕方の事だった。アサミはその事が無ければ、今日が何の日か気付かなかった。夫であるタツヤの誕生日だ。
今は経済面が不安定になった。大事な要素の一つが欠けたのだ。この先、タツヤと一緒に居て大丈夫なのかと思う。
『空気の様な存在』。いい意味ではなく、悪い意味でタツヤはそれだった。アサミはタツヤから離れてゆく心を感じずにはいられなかった。
特殊な状況にならなければ、思い出さない夫の誕生日。主人公の関心の無さを表現しています。
また、主人公は再婚の決め手として、経済面と精神面の安定を、優先させていた事が分かります。これは、何かのきっかけで簡単に関係を解消させやすい条件となります。
(主人公がパート務めに出る条件と、最終的に夫の良さを再認識する為に、一旦最も気持ちが離れる状態を作っており、これはオチに対する伏線となります)
冷めつつも妻の中に残る、夫の長所
●パート勤めを辞めた妻にかけた声
→何かのきっかけで愛情が再燃する可能性
「無理に勤めなくてもいいさ。俺が頑張って稼ぐから」
タツヤの言葉を有り難いと思う反面、勤めに出た理由を考えると複雑だった。悩んだ結果パートを辞めた。
主人公がパート勤めに出たのは、転職による夫の収入減少が原因だったのですが、夫はパートを辞める事には反対せず、優しく声をかけます。
しかし、主人公は夫の収入に期待していない為、素直に喜ぶ事が出来ません。唯一残った感情として『夫の優しさを少し感じた』という程度に留めています。
(後に主人公の嫉妬心を煽る為の伏線です)
妻の夫への嫉妬心の芽生え
●夫に感じる女性の影
●疑わしい夫の行動
●疑惑のプレゼント
→徐々に芽生える妻の嫉妬心
何とも曖昧な返事だった。アサミが疑うのも無理はない。女とは既に二回も会っている。それも、夜の時間帯に二人きりでだ。
その矢先に届いたのが女からの贈り物。しかもタツヤの誕生日に。
アサミは女からの贈り物を睨みつけたまま、タツヤの帰りをじっと待った。
隣部屋にはスーツが用意してあった。見たことのないネクタイも一緒だ。女からの贈り物はこれに違いない。滅多にスーツを着ないタツヤは、いつも早めに準備をする。シャツとネクタイをセットして。
夜に二人で会ったり、もらったプレゼントを大事な会議の席で使おうとしたり、主人公の嫉妬心を煽ります。
(主人公の嫉妬心がピークに達し、浮気相手と思しき女性を引き離し、夫を取り返す行動に出る為の伏線です)
ショートショートは一般的に、オチに対する伏線は一つと思われているかもしれませんが、実際には複数張り巡らせています。これらを『構成』と言えば、それに当たる部分もありますが、『仕掛け』としての要素が強ければ、それは『伏線』であると私は考えています。
次回は、ショートショート『空振りバット』の創作プロセス公開です。
創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!
先ずは『試し読み』をどうぞ↓↓↓
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