ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(小説・ショートショート書き方のコツ)コラム/さり気ないセリフと文(後編)

コラム/さり気ないセリフと文(後編)

 


小説、特にショートショート作品では、『オチ』に辿り着くまでに、様々な仕掛けが用意されている場合があります。それらはハッキリと書かれている場合もありますが、今回はさり気なく書いた仕掛けである『伏線』についての解説です。

 

【ご注意!】

以降の解説には『オチ』の『ネタバレ』を含んだ箇所があります。まだ作品を読んでいない方、本来のショートショートとして楽しみたい方は、先にリンク先『全文』をお読みになられる事を、お勧めします。

 

 

【CONTENTS】

 

 


『サクラ』の場合

 

主人公の『ユカ』は、売れない女優でしたが、事務所の社長は密かに彼女に期待していました。社長は彼女が自信をなくし、もう辞めようと考えているのを察していた為、何とか自信をつけて欲しいと思い『サクラ』の仕事を依頼します。

しかし、そこには更に『サクラ』が仕掛けられていた、と言うお話です。

ショートショート『サクラ』の全文はこちら↓↓↓ 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

【さり気ないセリフ】

 「どんなに美味い物を作ったって、それを周りの人達が知らなきゃ売れないからねえ」

 

今回の『メインテーマ』は、これなんですね。一見すると、


自信をつけさせる為に『サクラ』の仕事を受けた相手に、更に『サクラ』を用意した。


こんな物語の様ですが、最も言いたい事は『いい女優でも人に知られなければ売れない』なのです。このセリフは、その為に書かれたものなのです。

 

 

【さり気ない文】

ユカと店主のやり取りを聞いて、周りに居た人達が一人、二人と集まって来て、やがてそれは列となった。その後は、その列を見た人が理由も分からないまま並んだりと、結果的に行列の出来るブースとなり、ユカの『サクラ』は、見事に成功した。

 

ブース前に集まった人ですが、最初の人達が社長から依頼された『サクラ』で、それを見た人達は本当のお客さんと言う設定です。

問題の文は、この部分より前のセリフの箇所なのですが、ユカの店主とのやり取りは、決して上手なものではありません。ユカはこの時点では、まだ自分に自信がない為、演技力が未熟です。だからオーディションに受かっていないのです。その為、行列が出来るまでの最初に並んでいる人々、それが『サクラ』なのです。

もしも、ここでのユカと店主のやり取りが上手だったら、しっかり物語を読んだ読者の方は違和感を感じる事でしょう。

 

 

 

『ANSWER』の場合


十年以上連れ添った夫の浮気が原因で離婚した主人公のアキコ。先々の生活に不安を感じ、ストレスから喫煙を始め、万引まで犯してしまう。スーパーで出会った小学生の男子とのやり取りで、思い違いではあったが、自身の罪を問われた様に感じ、自分を見つめ直すきっかけを得る。これがこの物語の中核です。

ショートショート『ANSWER』の全文はこちら↓↓↓  

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

【さり気ないセリフ】

「この答えって、ひょっとして何か悪い事なの?」

「そう。だってこの前、高校生のお兄ちゃん達がこれをやってて、おまわりさんに叱られてたもん」

 

男の子がアキコにクイズを出した場面です。アキコはその答えが『まんびき』ではないかと、恐る恐る確かめるのですが、男の子は更に不安を煽る様な回答をします。ここは勿論『ミスリード』なのですが、今回の様に段階的で、更に追い込む形にする事で、更に効果が増すのです。

そして、アキコが不安を感じているのは、心の葛藤を描いています。万引きに対する後ろめたさがある事は、やり直すことが出来る可能性でもある訳ですね。

 

 

【さり気ない文】

家事は随分と楽になった。洗濯は三分の一になり、夕食のメニューで悩む事も無い。しかし、日々の生活に張りは無くなってしまった。

 普段の買い物は最寄りのスーパーで済ませている。半月に一回程度、少し足を伸ばしてここに来ているのは、スーパーには置いていない雑貨や洋服を見て、気分転換をするのが目的だった。

 

アキコの現状、抱えている不安、ショッピングセンターに来る本来の目的。これらの要素が複雑に絡み合って『万引き』をしてしまった背景が出来上がっています。

物語に登場する人物の、全ての行動には理由があるのですが、短いお話の中でも納得の出来る構成は必要です。特に心の中に葛藤がある場合は、なりたくもない事をやっている『何故』を分かりやすく伝える必要があります。

 

 

『アイちゃん』の場合

 

『人型パンフレット配布ロボット』である『アイちゃん』。この名前は人工知能を表す『AI』をそのまま『アイ』と読み、ロボット制作会社の社長が名付けたものです。

正式名称は型番で『HP-04S』。メンテナンス時はこの型番で呼びかけ、エンジニアが故障の状態を確認します。ですから、アイちゃんは型番で呼ばれた時にちゃんと反応しなければいけないのです。しかし、普段は『アイちゃん』と呼ばれ続けている為、自分の型番を忘れそうになる。そんなお話です。

ショートショート『アイちゃん』の全文はこちら↓↓↓  

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

【さり気ないセリフ】

「ご来場いただきありがとうございます。こちらが弊社のパンフレットでございます」

「ふむ……。ありがとう」

 そう言いながら、中年男性はもう一度私の顔をじっと眺めてから去って行った。

 

アイちゃんを見ていた男性は、人工知能を搭載し、人工皮膚を用いて作られたロボットが、まるで本物の人間の様だったのでマジマジと見ていたのですが、展示会などではコンパニオンの女性をじっくり眺める男性も居たりして、今回は後者の如く書く事によって、擬人化してミスリードしているのです。

 

 

【さり気ない文】

以前、仕事の最中に具合が悪くなって診てもらった時に、本当の名前で呼ばれたが、自分の事だと気付かず返事が遅れた事があった。その時は会場内の倉庫の様な場所を借りたが、今回は各ブースに少しスタッフ用のスペースがあって、もしも具合が悪くなっても診てくれる人がそこに居るそうだ。

 今日は朝から五時間も休まず働いている。体が熱を帯びてきているように感じた。次の瞬間、急に何も見えなくなった。

 

こちらも『擬人化』した表現で、勿論『ミスリード』で、実際の文と本来の隠れた意味は、以下の通りです。

スリードの場合、その基本は『事実だけを書く』です。要するに事実の書いていい部分だけを、上手くリード出来る様に書く訳ですね。


● 具合が悪くなって診てもらった。

→調子が悪くなり、エンジニアがメンテナンス

 

● 自分の事だと気付かず返事が遅れた。

→型番で呼ばれた時の反応時間が遅かった


● 体が熱を帯びてきているように感じた。

→本体温度上昇をセンサーが検知


● 次の瞬間、急に何も見えなくなった。

→フリーズ状態

 

 

そして最後に

 

『オチ』と『伏線』の関係は、わかりやすいものと、そうでないものが存在するという事について今回は解説しましたが、物語は『作品すべて』が構成なのです。ですから、ショートショートの様に短い作品では、あらゆる部分に仕掛けを施して、最高の『オチ』を演出する様、心がけて作品作りに取り組む訳ですね。

 

次回は、ショートショート『空が光った夜』の創作プロセス公開です。 

 

 

 

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