ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(『別れ話』がテーマの作品例)新作ショートショート(14)/別れの理由

新作ショートショート(14)/テーマ(別れ話)

 

 

 

 


別れの理由

 

 

 

―絶対アイツに復讐してやるんだから―
 ミナコはそう決心すると、国内で最も評判のいい美容整形外科に向かった。
「先生! 手術代は高くってもいいの。とにかく女優のアリサそっくりにして!」
 ミナコが自分の貯金をはたいてでも整形手術をしたくなったのは、全て元カレのコウスケの口から出た『別れの理由』が原因だった。
「オレってさあ、女優のアリサの事すっげえ好きじゃん。で、付き合い始めたときってオマエの髪型とか、ちょっと似てたじゃない? でも最近思ったのね、やっぱ『似てないなあ』って。だからそういう訳で、別れたいんだけど」
「はあ?」
 それが二人の最後の会話になった。結末はあっけなく、そして一方的にやって来た。
 コウスケの言葉に呆れて声も出なかった。それ以上に付き合った時の理由が単純過ぎて、こちらの方が大きなショックだった。
ー私の存在って、一体何だったのー
 コウスケは常にミナコの外見しか見ていなかった。正確には、髪型だけだったかもしれない。二年間も付き合っていながら、今さら『似ていない』と言う理由も、腹立たしい限りだった。
 コウスケに未練は無かった。しかし、ミナコの中に残った復讐心は燃え上がる一方で、その勢いを止める事は出来なかった。
 復讐の方法は至って簡単であった。コウスケが好きだと言っていたアリサそっくりの顔になって近付き、夢中にさせた挙句にフってしまうという計画だ。
 もちろんその時のセリフだって用意してある。
「アンタ、私が好きな俳優のユタカに髪型が似てたから、しばらく一緒に居たけど、やっぱ顔が似てないから付き合えないわ」
 ニヶ月後、ミナコの整形手術は無事に終わった。その結果は、実に完璧なものだった。
 街を歩けば男女を問わず、多くの人々が振り返る。
「あれ、女優のアリサじゃない?」
 そんな囁き声を、何度耳にしたか分からない。
「あのー。女優のアリサさんでしょ! ファンなんです、サインしてください!」
 時には直接、声をかけて来る人も居た。しかしミナコのセリフは決まってこうだ。
「よく似てるって言われるんだけど人違いよ……。ごめんなさい」
 気分は最高に良かった。女優のアリサを知る人は、必ず本人だと思っている様だし、アリサを知らない人々も、外見の可愛さに、思わず振り返ってしまうのだった。
 ミナコの周りの環境は激変した。すっかり有名人気取りで、少なくとも男選びに対する心の余裕は、随分と大きなものになった。残るは、コウスケへの復讐のみとなった。
 ミナコはコウスケがよく現れるバーに通った。三度目で会う事が出来たが、それまでに声をかけて来た男は、既に何人か居た。
 ミナコはさりげなく、コウスケの隣の席に着く。
「あれ? キミ女優のアリサちゃんによく似てるね」
 コウスケは、いきなり声をかけて来た。かつて二人が初めて出会った、あの時と全く同じセリフだった。
 コウスケは、相手がどれだけ似ていようとも、決して『本人でしょ?』とは言わない。
 中途半端に持ち上げて、相手の心をじらすのだ。コウスケの行動パターンは、すっかり学習済みだ。
 ミナコも急な接近は避け、コウスケの様子を伺いながら距離を詰める事にした。
 しばらく話をしながら、一緒に飲んだ。帰る間際コウスケに聞かれたので、少しじらした後、新しい携帯番号を渡した。
 連絡は忙しい事を理由に、最小限に絞った。頻繁なやり取りは危険だと思った。
 その後二回程会って、三度目となるデートは本格的なものになった。この辺りでは一番大きなテーマパークを指定して来たのだ。ミナコに『付き合おう』と言って来たのは、正にこの場所だった。
 ミナコには確信のようなものがあった。きっと彼は今日のデートで告白してくるに違いないと。
 二人は色んなアトラクションをまわり、その日はとても盛り上がった。夕方近くになるとお決まりの観覧車に誘われた。
―ここで告白するつもりなのね―
 ゆっくりと回り始めた大きな観覧車は、中に入ると以外にその速度は早く、ミナコの鼓動は一気に高まった。
 ミナコの意識は既に観覧車の頂点にあった。コウスケが告白して来るのは、きっとそのタイミングだ。ミナコはその時、用意しておいたセリフを吐くのだ。何度も何度も練習しておいた、あのセリフを。
 観覧車がついに頂点に達しようとした時、ミナコの予想通りコウスケはゆっくりと立ち上がった。
 ミナコはコウスケの告白を一蹴すべく、準備を既に整えていた。そしてコウスケが口を開く。
「やっぱりキミとは付き合えないよ」
「え?」
 コウスケの予想外の言葉にミナコは耳を疑った。
「ど、どうして? あなた女優のアリサの事が好きで、そのアリサにそっくりな私を好きになったんじゃないの?」
「ああ、その事? 確かにキミはそっくりだったよ……。本人と見間違うほどね」
「じゃ、じゃあ何で……」
「アリサにそっくりのキミとしばらく一緒にいて、改めて思ったんだ。人はやっぱり外見じゃないんだって……」

 

 

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