ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(『銀行』がテーマの作品例)新作ショートショート(15)/拳銃をどうぞ

新作ショートショート(15)/テーマ(銀行)

 

 

 

拳銃をどうぞ

 

 

 

ー拳銃をどうぞー

 確かに目の前の銀行員の男は、そう言った。オレの聞き間違いではない筈だ。キリリとした目は、とても冗談を言っている時のそれではなかった。歯切れのいい口調は、この場において、むしろ不気味でさえあった。

ー何が起こっているのだかー

 銀行強盗を企てた者にとって、この様な事態は全くもって想定外であろう。果たして金の要求まで辿り着けるか。上手くいった場合、警報ベルは鳴らされないか。それをクリア出来た先の、逃走というステップを踏む事が出来るのか。

 ここまでの段階で、何度捕まった時の自分を想像しただろう。過去に数えきれない程のチャレンジャーが挑み、なし得なかった未来への扉。それをオレが開ける事を夢見て……。いや、実際には切羽詰まって犯行に及んだのだ。様々なリスクを背負う覚悟で。それ程までに現実世界が厳しいものだった。

『三十日間金利ゼロには絶対乗るな』と言うのは、過去に失敗を重ねた先輩達から、代々受け継がれるアドバイスの言葉だった。

 半分の十五日、いや十日ほどで返すつもりだった。新たに触れた『無人契約機』は、余計な説教などせず、黙ってオレに金を貸してくれた。

 前日に立てた競馬予想は完璧で、頭の中に描いた『レース結果』は、既に『確信』に近いものがあった。

 結果は『惨敗』だった。『悪い夢』かと思った。少なくとも昨夜には、この手に握った札束のバーチャルな感触があった筈だ。

 今日、新たにスタートしたのは『バラ色の人生』ではなく『増え続ける金利』だった。

 『利息』だけを消化する日々。空回りし続ける『自転車』。それを漕ぐ力が尽きる直前にやって来る『限度額の増加のお知らせ』。これは救われた様な錯覚に陥るが、実際には更に沼の奥深くに『沈み込んで行った』のである。

 銀行を襲う計画を立てたのは一週間前だった。上手くいくかどうかはわからない『ギャンブル』だ。どうしてそんな賭けに出たのかと言われるかもしれないが、普段の生活だってギャンブル三昧だ。どちらに転んだところで、たいした違いはないだろう。

 問題は『今』だった。これは明らかに想定していた事態ではない。銀行に押し入った時、一体誰が銀行員から拳銃を渡される事を想像出来ただろうか?

 例えば僅か数分で、銀行のまわりを包囲されて逮捕される事であったり、海外の衝撃映像の如く、訓練された銀行員に反撃されて、惨めに退散する場面など、ある程度は心の準備をしてきていたのに……。

 計画は完璧なはずだった。時間も資金もなかった割には入念な計画を立ててきた。用意していた『逃走経路』も頭の中でぐちゃぐちゃになって、もはや『迷路』と化していた。

 大都市の大手銀行なら金もあるが、それなりに警備も万全だ。入口に立つスーツ姿の男性は、一見案内係と見せかけて、実は訓練された警備員だったりする。普段はお客の案内をやっているが、不審者は常にマークされている。負け戦をする訳にはいかない。

 そこで定めた狙いが地域密着型の信用金庫で、ここは時々、銀行が応援しているプロ野球チームのハッピなんかを着ている事もあり、それが頭の中でセキュリティの甘さに直結した。しかし、何か大きな間違いをしたのだと今更気づいたが、時は既に遅かった。突き出した包丁を引っ込めたところで、時間は戻らない。

 銀行員に対する脅し文句も決めてあった。一人部屋の中で練習を重ねたオーソドックスなセリフだ。

「金を出せ!」

 しかし、拳銃が出てきた。実弾も込められているようだ……。

ー拳銃をどうぞー

 再び銀行員が言った。最初よりも大きな声で、さらに歯切れのいい口調であった。

 右手に握り締めた包丁の切れ味など、もうどうでも良かった。拳銃を前にすれば、それは丸めた新聞紙を握っている様なものだ。

 脅し続けるのは困難だった。オレは銀行員に、質問せざるを得なかった。

「ど、どうしてオレに拳銃を?」

さっきまでピクりとも表情を変えなかった銀行員の目尻に、小さな笑みが浮かんだ。

「はい……。当行は小さな信用金庫です。近年随分と融資も減っており、大手の銀行のように合併も出来ず、もはや打つ手が無いのです」

「だ、だからオレにどうしろって言うんだ!」

「ここであなたが当行を襲った事は警察には話しません。ですから、その代わりにこの拳銃で大手の○×銀行を襲い、見事にお金を奪ってきて欲しいんです。そうすれば○×銀行の信用も落ち、私どもの銀行にもお客様が……」

 

 

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