ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(小説・ショートショート書き方のコツ)コラム/文章に変化をつける方法(後編)

コラム/文章に変化をつける方法(後編)

 

 

 

テーマや構成・オチ等どんなに優れた材料があっても、それを伝える文章が淡々と、リズム感の悪い退屈なものであったとしたら、その多くを伝えるチャンスを逃しているかもしれません。今回は実際の作品を用いて、リズム・構成等、いかに上手く変化を付けて、読まれる文章にするのかをご説明したいと思います。

【ご注意!】

以降の解説には『オチ』の『ネタバレ』を含んだ箇所があります。まだ作品を読んでいない方、本来のショートショートとして楽しみたい方は、先にリンク先『全文』をお読みになられる事を、お勧めします。

 

  

【CONTENTS】

 

 

 

今回は特に、物語の『展開スピード』に関しての変化についてのご説明です。展開スピードを変える要素は『一文の長さ』と『展開のステップ』です。これらをどの様な理由で、どう変えているのか。実際の作品で見てみましょう。

 

ショートショート『超予測変換』の場合

 

ショートショート『超予測変換』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

❶現在の主人公の居る環境

 最近はスマートフォンの性能も随分と良くなった。普及率もどんどん上がり、持たない人が少数派に追いやられるばかりだ。使えるアプリも増え続け、便利な世の中になったものだと思う。

 

【遅い→普通】

今回の物語は設定として、全て主人公が住んでいるマンションの一室で展開します。この様な場合、場面転換がない分読んでいて『飽き』が来る可能性があります。展開速度早く設定してしまうと、よりその傾向が強くなる為、あえてスローペースで書きはじめ、徐々にスピードアップする展開にしています。

 

 

❷アプリの性能による環境の変化

 このアプリのお陰で小説が次々と書けるようになった。執筆ペースが上がったので、それらをコンテストに応募する事にした。

 
【普通→やや早い】

❶と同様でスローですが、少しずつスピードアップしています。通常、これらの変化は『起句』から『承句』に進む場合に多く見られますが、この段階で少し話が『展開』していなければなりません。今回で言うならば、先ずは『アプリ』の存在があり、その事によって起きた『変化』等になりますが、展開スピードとしては『やや早く』ぐらいの変化になります。

 

 

❸アプリ導入後のメインストーリー

 今回は全面的にアプリに頼ろうと思い、とりあえずタイトルを『五〇四号室』として、何かヒントを探る事にした。すると色んな変換候補が表示された。このアプリの表示部分は通常の二倍ほどあって、それらの中から『その男は』を選んだ。


【やや早い→早い】

ここから更に展開速度を早めています。物語が動き始めているのです。今回はオチに向け、どんどん早くなる展開ですから、後半になるにつれて加速してゆくイメージです。

 


❹転句とオチ

 まるでこの部屋の事の様だったが、鍵はいつもかけてある。

 でも待てよ。今日はコンテストの締切が近く、急いで書き始めたから鍵は......。

 次の瞬間、リアルに私の部屋のドアが開き、背中を激しい痛みが襲った。

 

【早い→とても早い】

オチまでは一気に早めています。これは、主人公が小説世界の中に居た状態から突然殺気を感じ、次の瞬間に現実とのリンクになるのですが、それに気付く間もなく襲われた事を表現する為です。

 

 

 

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ショートショート『カメラがある時』の場合

 

 

ショートショート『カメラがある時』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

 

❶主人公と、その話し相手

 あの時カメラがあったらって、私は本当にそう思うんですよ。

 え、何の話かって? ああ、以前にこの辺りで起きた殺人事件の話ですよ。知りませんか? そうですか。じゃあ、お話して差し上げましょう。


【遅い→遅い】

この作品は一人称で、主人公の『語り』だけで展開してゆきます。先ずは語る相手が居て、休日の様なのんびりとした雰囲気を作っています。オチに向けて穏やかなスタートで始めています。

 

 

❷主人公の語り

 ある日、二人の男が喧嘩になって、その挙句に一人が殺されたんです。でも犯人は捕まらないまま、迷宮入りになって……。


【遅い→遅い】

事件について、世間の人々も知っているであろう部分から、淡々と語り始めます。これは一人称の大きな特徴で、場面設定や状況説明は、全て『語り』でコントロールされる為、登場人物の『心情』などを表現する場合、文章の長さや口調などの要素も含めて、全体的に調整するのです。

 

 

❸相手からの質問

 スマホですか? とんでもない。まだ普通の携帯電話すら世の中に無かった時代の話ですよ。だからさっきからカメラがあったらって言ってたのは、そういう意味なんです。

 

【遅い→普通】

一人称で本人以外の誰かを表現する事があるのですが、これによって得られる効果は幾つかあります。例えば今回のように、物語をある方向へ導く事や、相手が質問する間隔を調整する事によって、興味の度合いを表現出来るのです。

この作品では、主人公の語りは徐々に怪しい方向へ進んでゆきます。聞いている相手が主人公に不信感を抱いた場合の表現は『頻繁に質問を重ねる』又は『全く質問しなくなる』の二通りで、多くの場合、前者に比べ後者の方が、より強い警戒心を表しています。

 

 

❹時効の成立

 でもね、もう手遅れなんです。この事件は、既に時効が成立してますから。

 

【普通→普通】

この少し後から、主人公は当事者でなければ知り得ない部分についても話始めます。そしてその話ぶりも、犯人が直接話している様な言い回しを、あえて入れています。

主人公が犯行の詳細に触れた時、興奮して思わず話してしまっている、という設定にしている為です。

 

 

❺事件の詳しい状況説明

 その後二人は殴り合いになった。素手だったら被害者の方が強かったでしょうね。なんせ体格が良かったから。筋肉質だったし。

 だけど実際は違ってた。たまたまあったんだよね、凶器になりそうな角材みたいなの。犯人はそいつを振り回して被害者を殴った。思いっきり、何度も何度も……。

 怖かったんだよ、きっとね。相手が強そうだったから。大体、一発でも殴られりゃ、相手が強いかどうかって分かるでしょう?

 必死だったんだよ。とにかく、このままじゃやられちゃうって。だけどやり過ぎだよね。相手は死んじゃったんだから。

 

【普通→普通】

被害者についての情報は、報道等で第三者が詳しく知っている場合もありますが、この事件の『犯人』は捕まっていません。ですから、その情報は本来なら誰も知らない筈です。しかし、それを主人公は知っている。これも勿論、オチに向けてのステップになっているからです。

 

 

❻転句とオチ

 貴方よくそこまで知ってますねって?

そりゃそうですよ。だって、喧嘩の相手は、この私だったんだから。

 あれ? もう行っちゃうんですか? ゆっくりしていけばいいのに。

 私達がこの場所で出会ったのも何かのご縁ですから、どうです? 一緒に記念写真でも撮りませんか?

今、ここにカメラありますから。

 

【普通→やや早い】

オチの部分は、早めの展開としました。主人公が話し相手に『犯人が自分だった』事実を告げた部分ですが、この物語の要となる部分は、殺人を犯しておきながら、時効が成立しているからと、赤の他人にその事実を告げる主人公の『異常性』であり、更に追い討ちをかける様『一緒に写真を撮ろう』とする部分です

。そして、そこには『カメラ』が登場します。この『カメラ』こそがこの物語の『テーマ』であり『要』であります。主人公の『異常性』は『カメラ』によって『増幅』されているのです。

 

そして最後に

 

文章に変化をつける方法は『展開』だけではありません。様々な方法がありますが、今回は一つの例として挙げてみました。変化によって生まれる効果も色々ありますので、それぞれの場面に合った方法で、変化をつけてみましょう。 

 

 

 

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