コラム/作品内における『乗りツッコミ』(後編)
小説を書く場合、作品内にユーモアを含める事がありますが、それは単に『笑い』であったり『リズム』であったり、時として『伏線』であったりと様々です。そんな『ユーモア』について、今回は『乗りツッコミ』と表現していますが、『前振り』から『落とし込み』まで実際の作品で解説したいと思います。
【CONTENTS】
『五点着地』の場合
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戦隊ヒーロー役でテレビに出演中の主人公は、俳優としての将来に不安を感じ、過去に出演経験のある先輩に相談を持ちかけます。しかし、普段からいい加減な所のある先輩から話を聞くうち、更に不信感が増してゆく場面です。
「あのさあ、当時は三枚目のキャラってのもあったから、それを誰かがやらなきゃ」
「じゃあ、その役を買ったって事ですか?」
「そ、そうだな。あの役はヒーローなのにちょっと小太りなんだよ。俺ってさあ、体重自由に操れる方じゃん」
「え? 初めて聞きましたけど」
「ほら、いつだったか病院で会った事があっただろう? あの時、俺すっごく痩せてなかったか?」
「それは多分、病気のせいで……」
「何言ってんだ! 退院してから半年後ぐらいに会った時、また体重増やせてたろ?」
「それは単に体重が戻っただけじゃ……」
「お前は何も分かってないね。更に三ヶ月ぐらい後に会った時には、もっと体重を増やせたんだぜ!」
「それって完全にリバウンドじゃ……」
「とにかく俺みたいに努力してりゃ、その内いい事があるって話だよ」
●体重を自由に操れる
→病気やリバウンド
この部分のやり取りは、先輩のいい加減さを表現すると共に、過去に聞いていたであろう話との食い違いについても触れており、この流れこそが『オチ』に繋がっているのです。
『鍋奉行』の場合
四十半ばの主人公が、転職後初めての『寸志』を受け取り、自宅で妻と『すき焼き』を作る場面です。将来に不安を感じる妻と、楽天的で頼りない夫。二人の関係は、静かに悪化してゆきます。
「新人社員って、あなた一体自分が何歳だかわかってんの!」
今度は、ポットプレートの電気が止まった。向かい側に居た妻が、コンセントを根元から抜いたに違いない。
俺は仕方なく、お肉専用のトングを置き、妻の方を真っ直ぐ見た。ちなみにこのトングは、アウトドア用品専門の店で三十分以上悩んだ挙句、少ない自分の小遣いで買ったものだ。もちろん俺専用の道具で、出番は半年に一回程度。言うまでもなく、そのチャンスはボーナスの後しか巡ってこない。今回は転職後初めての『ボーナス』ではなく『寸志』が出たので、俺が強引にその出番を作ったのだ。
「四十五歳だよ」
俺は大事なトングをテーブルに対して真っ直ぐ揃えながら答えた。
●ホットプレートの電気が止まる
→腹を立てた妻がコンセントを抜く
●夫のこだわり
→お肉専用トング
→購入に三十分以上悩んだ
→テーブルに対して真っ直ぐに揃える
精神的に幼く、尚且つ神経質で特定の場面で異常なこだわりを持つ。私が描いた『普段は穏やかだが何かのタイミングでキレる』という人物像です。繰り返される妻からの『口撃』の中、何処かに『キレる』キーワードが含まれ、事件は起こります。
主人公の『こだわり』等について触れるとき、ユーモラスな書き方をしているのは、普段の『穏やかさ』を表現する為です。この物語は、夫婦の言葉の掛け合いによって進行するパターンです。
kindle unlimitedで1日に1000頁以上読まれた人気の指南書です。
『サンタが来ない日』の場合
ショートショート『サンタが来ない日』の全文はこちら↓↓↓
妻から頼まれていた娘へのクリスマスプレゼントを、主人公が行きつけのスナックに置き忘れてきた事について話している場面です。
いつもはクリスマスイヴの朝に、ツリー近くの靴下に入れてある筈のプレゼントですが、今年は何も無かったので、娘が主人公であるパパに色々と聞く訳ですね。
「サンタさん、アミのお家に来るの忘れちゃったのかなあ」
娘の控えめな一言は、私の心に大きなダメージを与える。
「やっぱり忘れちゃったんだよ。アミのお家」
忘れた? そう、置き忘れたのだ。いつものスナックに。
「プレゼント、昼ごろ私が届けようか?」
再びママからメールが来たが、その申し出は全力で断わった。本来は今朝、娘の用意した大きな靴下の中にある筈のプレゼントを、昼間に厚化粧をした怪しい女が届けに来たら、娘は混乱するに違いない。妻への説明となると更に困難だ。
●主人公の周囲との力関係
→娘の一言でダメージを受ける
→妻には知られたくないスナックのママの存在
主人公の性格的なものと、娘や妻との関係性を表しています。そこには単なる関係だけではなく、登場人物同士の力関係なども含めています。
勿論、これらの事柄が『オチ』に深く結びついており、構成的な要素と場面設定の役割の両方を果たしています。
そして最後に
今回『乗りツッコミ』と表現した作品内における『ユーモアの取り入れ方』ですが、それは『地の文』、『言葉の掛け合い』と、どちらでも可能です。
先々の構成を考えながら、『前振り』そして『落とし込み』となる訳ですが、そこに『ユーモア』を入れる事で、『リズム』が生まれ『構成』が上手くなされるのです。
単調な文章にならない様、ちょっとした『スパイス』を加えてみては如何でしょうか?
次回は、ショートショート『奇病』の創作プロセス公開です。
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