新作ショートショート(16)/テーマ(同窓会)
タイムカプセル
「サユリちゃんも来るよ」
小学校で同級生だったコンドウが言った。同級生と言っても、私達は今年でもう三十二歳になる。街で偶然にあったコンドウが私を見つけて、同窓会に誘ってきたのだ。
卒業から二十年。このクラスでは初めてになるそうだ。
「僕がみんなに連絡をとった。二十年も経ってるから、君の様に連絡先がわからない人が半分くらい居たよ」
「ああ、それは……」
「でも良かったよ。君には偶然会えたから」
「そ、そうだな」
私は少し返答に困った。しばらく姿を消していたからだ。
子供の頃から小遣いを前借りする癖があって、社会人になってからもそれは変わらなかった。気付けば手元の金を使い果たし、キャッシングも利用した。それが『借金』だという意識が薄かった。
お人好しなところもあって、知人の保証人にもなった。その後、姿を消した知人のせいで、私のところに催促の電話等が増え、会社や家に居づらくなった。
私はしばらく身を隠し、遅れながらも金利分を消化する生活を続ける事になった。コンドウが私に連絡出来なかった理由である。
その後、専門の機関を通じて弁護士を紹介してもらい、何とか借金問題を解決する事が出来た。全てを終えて地元に帰る事が出来たのは、今から一年ほど前の事だ。
「なあ、アダチ。とにかく今週中くらいに返事をくれよ」
「ああ……わかった」
私には少し迷いがあった。
「アダチ、あの『サユリちゃん』に会えるんだぞ!」
コンドウがもう一度言った。その言葉に、今度はしっかりと心が反応した。やはり『サユリちゃん』には会いたいと思ったのだ。
「週末には、ちゃんと返事するさ。多分……行くと思うから」
ほとんど返事をした様なものだった。
『サユリちゃん』はクラスの人気者で、頭が良く成績は常にトップクラス、おまけに女優さんの様なルックスだった。男子からは勿論の事、女子からも人気があった。本当に美人だったので、『カワイイ』よりも『綺麗』の方が合っていた。
同窓会の出欠確認以外に、コンドウが興味本位で聞いた様だが、既に結婚して子供も二人いるそうだ。
母親になっても、きっと綺麗なんだろう。そんな想いが同窓会への興味をそそる。そして私には、もう一つ気になる事があった。それは『タイムカプセル』だ。私達が卒業する年から埋められる事になった物で、地下に掘った穴はコンクリートで固められている。コンドウが学校側に許可を得て、今回それが見れると言う。
コンドウから連絡があってから三週間後、かつて私達が学んだ時と同じクラスの教室で同窓会は行われる事になったが、既に新校舎となり場所も随分違った位置になっていた。
私は早めに教室に着いた。既に男女一人ずつ居たが、誰だか分からなかった。
「アダチだよね?」
男性の方が声をかけてきた。本人が名乗ってから、初めて『ああ』と合点がいった。
二十年も経てば、容姿が随分変わっても不思議ではない。どうやら私は面影がしっかり残っている様で、後から来た者はすぐに私の名を呼んだ。
「ゴメンね、遅れちゃって……」
開始から十五分ほど遅れること、待ちに待った『サユリちゃん』が登場した。小学生時代から、集合時間に間に合わない時があった。唯一の欠点と言えばこれぐらいだが、私にはむしろカワイイ一面だった。
入口に立つ『サユリちゃん』は、まるでスポットライトを浴びたかの様、輝いて見えた。
綺麗だった。やはり綺麗だったのだ。それを嬉しく思う反面、誰かの『妻』であると思うと複雑な心境だった。
「あら、アダチくんじゃない!」
入口付近に座っていた私は、最初に声をかけられた。当時から周囲にチヤホヤされていたが、それを鼻にかけるタイプではなく、むしろ気さくな性格なのだ。
そしてサユリちゃんは周囲を見渡し、空いていた私の隣の席に座った。当時の話に花が咲き、私は楽しい時間を過ごした。
サユリちゃんと、こんなに長く話したのは、間違いなく初めてだった。近くで見たサユリちゃんは、やはり『綺麗』だった。
コンドウは今日の為に、色々な催し物を用意していて、お陰で同窓会はとても盛り上がり、すっかり小学生に戻った様な気分になった。
「それじゃ、そろそろ『アレ』を開けるか!」
コンドウは皆に向かって声をかけた。『アレ』とは地下に埋めた『タイムカプセル』の事だ。
「未来の自分へ!」
コンドウが適当に選んだ順で、名前も告げずに内容を読み始める。直ぐに自分だと気付く者も居たが、大抵はそれを覚えて居なかった。
「将来の夢。私の将来の夢は……」
「あっ、それ私じゃない?」
サユリちゃんが声をあげると、コンドウは直ぐに『正解!』と返し、その続きを読み上げた。
「私ね、『保母さん』になりたかったの。でもダメだったわ」
サユリちゃんの小学生時代の夢は『保母さん』だったが、その後の夢は色々と変わったそうだ。多くは語らなかったが、今は専業主婦で幸せに暮らしているらしい。
私の順番は、なかなか回って来なかった。私は子供の頃からずっとくじ運が悪く、まさかと思ったが、やはり最もインパクトの強い『最後』だった。
正直なところ、私は自分の『夢』など全く覚えていなかったし、そもそも先の事などあまり深く考えるタチでなかった。
コンドウは二十年前に私が書いた手紙の封を切り、中の手紙を読み始めた。
「二十年後の『ボク』へ。キミはいつもお小遣いを前借りする癖があるから……」
かなり恥ずかしい内容の手紙と共、古いデザインの千円札も二枚同封されていた。
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