コラム/理由のある動き(後編)
登場人物の『動き』には理由があります。それは物語の進行上の場合もありますが、『構成』や『展開』の為の『動き』もあるのです。
今回は、実際の作品を用いて、その辺りの解説をしたいと思います。
【CONTENTS】
『消去ボタン』の場合
ショートショート『消去ボタン』の全文はこちら↓↓↓
「おいおい、そんな説明は要らないぞ。こんな簡単な装置の使い方ぐらい、見れば分かるってもんだ。それより、こいつを早く試してみたいんだがな」
ボスが人の話を聞かないのは、いつもの悪い癖だった。無理に説明しようとすると、かえって面倒な事になる。仕方なく子分は説明を後回しにして、自分の大事な用が件を先に伝える事にした。
子分が研究所に潜り込んで手に入れた装置の説明を、ボスにしようとするくだりです。
❶子分は装置の説明をしようとする
❷ボスは説明を聞かず使おうとする
❸子分は説明を後回しにして、先に自分の用件を話す
❶物語の流れ
❷ボスの『性格付け』
❸『オチ』に対する『仕掛け』
❸が『理由のある動き』になります。
普段から人の話を聞かないボスに対し、子分は少し間を取ります。しかし、ここで自分の働きに対する報酬について、交渉したかった子分は意識がそこに集中してしまうのです。それによって、ボスが勝手に装置に触れるのを阻止する事が出来ず、『オチへの流れ』が生まれる訳です。
❷で、先ずはボスが『人の話を聞かない』という事から、問題はどんどん発展してゆきます。
→ボスが自由に動く
→子分の制止が遅れる
→ボスが本来とは違う装置の使い方をする
→装置の調整が狂っていると思い、子分に対する不信感が現れ暴挙に出る
→『オチ』
このように『オチ』へ繋がってゆくのですね。
『落とし物の使い方』の場合
ショートショート『落し物の使い方』の全文はこちら↓↓↓
ここでの食事を済ませた段階で、男の所持金は一万円程度になった。そこで初めて男は減って行く金が惜しいと思い始めた。何か手元に残る物でも買おうかと一度は考えたものの、それもやめて現金を残す事にした。
最寄りのATMはすぐに見つかった。普段から持ち歩いているキャッシュカードを使い、入金をした。男はこれを機に無駄遣いをやめて、今度は妻と一緒にご馳走を食べようと思った。軽やかな足取りでATMを後にした。
パチンコで負けた帰り道、男が路地で拾ったお金でパチンコや食事をした後のくだりです。
❶男は拾ったお金をパチンコ店で使う
❷何か美味しいものを食べる
❸お金を残そうとATMに向かう
❶無駄使いをする為の誘導
❷お金の使い方に価値を生ませる流れ
❸生まれた価値観からの普段とは違う行動
❶〜❸の全てが『理由のある動き』になります。
❶で、先ずは男が居たパチンコ店に誘導するのですが、通常ギャンブルでは『負けを取り返す』心理が生まれます。しかし今回、男は負けた後で、給料日前の臨時収入である事から、少し余裕がある状態です。
→先ずはパチンコをする
→再び負ける
→『勿体ない』心理が生まれる
→価値のある使い方をする心理が生まれる
→食欲が満たされて、更に余裕がでる
→お金を残そうという心理が生まれる
→『オチ』
『オチ』で男が取った行動は、他者によって全く別の目的で利用される訳ですが、『お金を残す』という行動は、他者からすれば『嬉しい誤算』になる訳です。
『オチ』をつける直前に、この様な要素を入れるのは、更に『オチを強くする』効果があります。これは、出来る限り『直前』に入れるのが、最もベストな位置なのです。
そして最後に
小説の中でのキャラクターの『動き』は、一見シンプルな様で実は複雑だったりします。それは勿論、作者の意図によるものだったりする訳ですが、あくまでストーリー的な矛盾が無く、キャラクターに合ったものでなくてはなりません。その為には、先ず登場人物の『性格付け』から入り、周囲のキャラクターとの歩調を合わせる事も大事な要素になる訳ですね。
次回は、ショートショート『別れの理由』の創作プロセス公開です。
『ショートショートの書き方』を、作家の視点で詳しく『超解説』‼
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