R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(『裁判』がテーマの作品例)新作ショートショート(18)/原因裁判

新作ショートショート(18)/テーマ(裁判)

 

 

原因裁判

 

 

 

「この事故が起こったのは、被告が酒を飲んでいた事が原因です」
「なるほど……。確かに、しらふの状態なら赤信号を見落す事もなく、またブレーキやハンドルの操作も正確に出来たでしょうな」
 裁判官は検察側の意見を全面的に認める発言をした。
「そ、そんな……」
 被告の男は、一瞬言葉を失った。
 訴えでは、被告が運転する車が、青信号を横断中の歩行者をはねて怪我をさせ、持っていた紙袋の中にあった腕時計が故障したと言うものである。それらは買取ショップに持ち込む予定だったプレミア付きの高級腕時計七本で、総額の三百万円以上を上乗せした補償を要求している。治療費意外に応じたくないと言う被告は、当時酒気帯び運転だった。
 数年前から、事故であれ事件であれ、それらが起こった原因が重視される法律が適用され、全ての事案に対する責任の所在が随分と複雑になった。
 また、それらの立証には莫大な時間を必要としたが、これこそが本当の裁判だと支持する国民が大多数を占めるようになり、ついに揺るぎ無い安定した法律となった。
 被告は証言台に立ち自ら主張をする。それはいかに自分ではなく、他人に責任の所在があるかをアピールするのが目的だ。
 そして、この証言で責任を転嫁された人物は次回に出廷しなければならず、その結果、裁判は開廷と閉廷を繰り返す事となった。
 以降の話は冒頭の裁判の続きだが、開廷や閉廷の流れ等を全て端折ったものである。
 しかし、検察の主張に被告人は反論し始めた。
「裁判長! 私が酒を飲んだのは、居酒屋の大将が酒を勧めたからです!」
「ほう、それはいけませんなあ。原因の可能性が……。では、次回大将の証言を」
「えーと、私は確かに酒を勧めましたがねえ、その日はあの伝説の野球チームが優勝した日なんですよ。そんな日に酒を飲まずにいられますか? あのチームですよ、ねえ裁判長」
「『あのチーム』ねえ。私も大ファンですよ。期待を裏切り続けられて、もう十年以上ですかな? ハハ……。実は私も飲みました。かなりの量をね」
「でしょう?」
「じゃあ、やっぱりそのチームが優勝したのがいけないのかな? それじゃ、次回は監督に話を聞きますか」
「優勝がいけないなんて馬鹿げてる! 監督なんだから、チームの優勝を目指すのは当たり前じゃないですか!」
「ほう……。では監督、あなたが原因って事でいいですか?」
「いえ、その……。ああ、そうだ! あいつがいけない。ウチの四番のタムラ選手! あいつがバンバン馬鹿みたいにホームランかっ飛ばすから、ウチのチームにいっぱい点数が入って、挙げ句の果てに優勝なんかしちゃったんだよ。そうそう、あのホームランバッターのバカ野郎ですよ!」
 次に呼ばれたタムラ選手も黙ってはいなかった。
「バ、バカ野郎だって! ひどいな、監督! あ、あんたが打てってサインを何回も出したから、僕はそれに従っただけじゃないか!」
「サイン?」
「そうです、サインですよ! ほら、左手さすって右手さすって、最後に鼻を触ったらホームラン狙えってサインじゃないですか!」
「ば、馬鹿! サインの事周りの人達に教えちゃ……。い、いや。知らないよ、そんな事。そ、そうだ、蚊が居たんだよ、蚊が。そいつが俺の事刺したんだ……。それで痒くなったんだよ!」
「じゃあ、何ですか? あんたは毎回、左手、右手、鼻って順で、蚊に刺されるって言うんですか?」
「いいや、そうじゃない。癖だよ、癖。俺、蚊に刺されると、左手掻いて右手掻いて、フィニッシュで鼻を触る癖があったんだよ、子供の頃から。あれ? 知らなかったの?」
「はあ? なんだよ、フィニッシュで鼻って。訳わかんねえや……」
「あの、タムラ選手。このままじゃ、あなたが監督のサインを見間違って、勝手にホームランを打った事で最終的にチームが優勝しちゃって、それに気を良くした居酒屋の大将が、飲まないつもりだったお客に酒を勧めて、それを飲んだお客が車を運転して事故を起こして、その相手が怪我をして、オマケに高級腕時計が壊れたって事になりますが……」
「そんな……」
 タムラ選手はしばらく沈黙した。そして、ようやく次の言葉を発した。
「そ、そうだ! あ、あの子がいけないんだ、怪我で入院してた、あの子。何かの番組で、好きな有名人に会えるって企画があって、入院先の病院で会った時、『ホームランいっぱい打ってくれたら早く退院出来るからお願いします!』って。だから僕は頼まれて打ったんです。そう、思い出した。小学生のケンジ君ですよ……。ああ、良かった思い出して」
 法廷がざわついた。万年Bクラスと言われ続けていたが、今年はれっきとした優勝チームだ。その中の四番バッターであるスター選手が、こともあろうかファンに責任転嫁するなどもってのほかで、まして相手は入院中の小学生である。この証言後、タムラ選手とその関係者達は、非難の嵐にさらされる結果となった。
 過日、法廷では日本中が注目する裁判が行われた。
「みなさんご静粛に。ではケンジ君、前へ」
 ケンジ君は目にいっぱい涙を溜めて証言台に立った。きっと大好きなタムラ選手に裏切られたのがショックだったに違いない。
「いっ……。いっ……」
 ケンジ君は懸命に話そうとするが、しゃくり上げて、なかなか声が出せなかった。一旦ゆっくりと深呼吸して、ようやく言葉を発する事が出来た。
「い、院長先生がボクに言ったんだ……」
「院長先生は何と?」
「はい。『君が楽しいと思う事がいっぱいあると怪我が早く治るんだよ』って……。ボクは言われた通りに頼んだけです。だから、悪いのは院長先生なんです!」
「ええ!」
 法廷中が大きくざわめいた。院長は既に他界している。原因裁判では最終的な被告が故人だった場合、この世にいる人間は誰も裁かれない。こんな高度な技を、まさか小学生がやってのけるとは……。
 審理の結果、入院中の少年に早期治療のアドバイスをした病院の院長が裁かれた。しかし、院長が故人であった為、この裁判で法廷に立った人達はみんな無罪となった。
 報道番組では、専門家とキャスターが今回の裁判について語り合った。
「事故が起こった原因を故人に持ってゆくのは、最も有効な手法です。まあ、今回はこれを小学生がやってのけたのですから大したものです」
「しかし先生。法律が変わってからと言うもに、本来裁かれていた筈の人達が野放しになって、刑務所の中と外のバランスが狂ってしまうのではないかと……」
「ええ、確かに刑務所に空きが増えたのは事実です。しかし……。昔から捕まってない悪人はいっぱいいますから、まあ似たようなモンですよ」

 

 

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