ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(『家出』がテーマの作品例)新作ショートショート(19)/家出人捜索

新作ショートショート/テーマ(家出)

 

 

家出人捜索

 

 

 

「マサミ、この放送を見てたら父さんに連絡をくれないか……」

 テレビの中で、家出した娘に向かって呼びかけている場面だ。

 時々、生放送で未解決事件などを報じる番組で、行方不明者の情報提供を視聴者に求める事もある。いま流れているのは、当時十七歳の娘で、家出から既に二年間経っているそうだ。

「帰って来ねえって……」

 オレは思わず呟く。若い頃の自分とダブったのだ。

 親なんていつも勝手だと思う。この娘の話にしても、両親の離婚や再婚が家出の原因の様で、その被害を受けたのは娘の方だ。オレが家を出たのも、ちょうど十七歳の時だった。

 父は小さいながらも会社の経営者だった。若かった母は初婚だったが父の方は再婚で、オレとは四十歳離れていた。

 ワンマンだった父に、ついて行けなくなった母は、オレを残して家を出た。金銭的な余裕がある為、父は色んな物をオレに与えたが、心は常に孤独だった。

 中学生になったある日、同級生に教えてもらったミュージシャンにすっかりハマり、その世界にオレは目覚めた。

 楽器を手に入れ、仲間とバンドを組んだ。それまで無趣味だったオレが何かに夢中になったのが嬉しかったのか、父はとても協力的で、知人の会社の倉庫をバンドの練習場所として提供もしてくれた。オレ達は色んなコンテストに参加し、メンバー全員がプロになる事を夢見ていた。

 高校生になり、バンドの知名度も上がり始めた頃、突然父は態度を変えた。

「進路はどうするんだ?」

 大学がどうの、就職がこうのと口うるさくなり、やがて練習場所の提供も無くなって、挙げ句の果てにバンド活動も止めろと言い出した。オレと父は激しく対立した。

 メンバーとの仲もギクシャクし始めた。練習時間がめっきりと減り、会う時間も少なくなった。皆の気持ちが離れ始め、やがてバンドは解散した。そして、夢を断たれたオレは全てが嫌になって家を出た。

 一人になってからも、音楽は続けた。バイトをしながら詞を書き曲を書いた。メンバーがいた頃とは違って、見たり聞いたりしてくれる相手が居なかったので、全ての事に張り合いが無くなった。時間があるのに曲が作れない。

 生活費の余裕はどんどんと減ってゆき、先々への不安だけが募った。その問題を解決する為、バイトを辞めて会社に勤めた。

 今度は時間が無くなった。益々、曲が出来なくなった。結局のところ、曲が出来ない理由を何かのせいにしている自分に気付いた。楽器を全て売り払い、音楽とは距離を置いた。

 家を出てから十年が経つ。もう電話ぐらいしてもいいかとも思うが、未だ独り身の貧乏暮らしでは、それも躊躇してしまう。

 父の話は地元に住んでいる友人から聞いている。会社は後継となる人物が見つかって父は会長に退いた事、その後も会社は順調な事など、不安な材料は特に見当たらなかった。

 普段からこの手の番組は時々観ているが、未だに家を出た時の気持ちは変わっていない。失敗に終わってもいいから、子供には夢を追わせてやるべきだと思う。

 いつもの似たようなパターンの話だったので、そろそろチャンネルでも変えようかと思った瞬間、オレの手が止まった。

ー父が居るー

 それは間違いなく『父』の姿だった。十年間見ない間に、すっかり老け込んでしまった。会長に退き、実務から離れたせいだろうか。『あの日』の鋭い眼差しは、そこに無かった。

ーお父様は息子さんを探していますー

 それは間違いなく、この『オレ』の事だ。テレビなど使わず、金に余裕があるのだから興信所にでも頼めばいいものを、どう言う訳か番組に出ている。画面の下の方には、情報提供を求める電話番号が常に表示されていた。

ー誰が電話などするものかー

 番組ではオペレーター達の姿が映し出されている。オレは十年間、信頼出来る知人にしか連絡をとっていない。有力な情報など集まる訳がないのだ。しばらくすると、スタジオの様子が一変した。

「いま、息子さんご本人と思われる方から電話が入った様です」

ーそんな馬鹿なー

 父は電話に出た。しかし、オレはここに居る。電話の相手が偽物だと言う事ぐらい、直接話せば分かる事だ。

 父の様子に不安を感じた。時折懐かしそうな表情を浮かべ、深く頷く。完全に電話の相手をオレだと信じ込んでいるのだ。慌てて画面に出ている番号に電話をかけた。しかし、全く繋がらない。

 気付けば車に乗り込み、放送局に向かっていた。番組が終わるまでには着く筈だ。

 放送局に着くと、入口で警備員の制止を振り切った。そして中に入ろうとすると、知らない男性がこちらを見て立っていた。

「息子さんですね。お待ちしていました」

 その男性は番組のプロデューサーだと名乗った。

「お父様が、こうでもしないとあなたには会えないだろうって……」

 父は決して衰えてはいなかった。偽物の男を用意させたのは、父のアイデアだったらしい。

 父はいつでも人を仕切りたがる人だった。十年経った今でも、こうしてテレビの番組までも。

 

 

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