小説のリライト(特別編)
小説の『リライト』ですが、今回は私が過去に書いた作品を使って実際の作業を行いました。原文はデビュー後の『ショートショート第二集』用にと編集者の方にお送りし、審査の結果『Bクラス』となった為、先々『リライト』しようと保存していたものです。通常、この様な『手直し前』の作品は、あまり表に出さない人が殆どだと思うので、是非ご参考にして頂きたいと思います。
(解説は、次回以降の記事にて)
前回のブログでの作品が『リライト後』の作品になります。今回の作品と一緒に読んでいただくと、その違いがよく分かると思います。
『リライト後』の作品はこちら↓↓↓
(『家出』がテーマの作品例)新作ショートショート(19)/家出人捜索 - R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜
リライトの目的
●基本的な内容は変更しない
●文字数を減らす
●その時代に合わない物は修正する
●人名の表記をカタカナに変更する
●設定等で必要な部分は加筆修正する
●不要な部分はカットする
リライト前(2805文字)➡リライト後(2058文字)【▲747文字】
家出人捜索(リライト前の原文)
「麻衣子、このテレビを見てたら父さんに連絡をくれないか……」
テレビの中では家出した娘にむかって、その父親が呼びかけている。番組の企画で家出人や行方不明者をさがそうと、時々生放送やっているもの。今さがしているのは、二年前に家出した当時十七歳の少女だ。母親はすでに他界して父親と二人暮らしだったが、最近になってひどくなりだした、父親の酒と暴力が家を出た原因だそうだ。
「どうせ帰ってこねえよ!」
俺はテレビにむかって、はき捨てるように言った。親なんていつも自分勝手なもんで、この少女の話にしても、父親が自分の仕事と家庭の両立が上手く出来なくて、やがてストレスを紛らわすため酒に頼って、あげくの果てに自分の娘に暴力を振るっている。
「あんた、勝手すぎるぜ!」
無意識に俺が、テレビの中の父親に文句を言っていたのは、自分の父親の姿とよく似ていたからだろう。
俺が家を出たのもちょうど十七歳のころだった。父親は小さいながらも会社の経営をやっていて、金銭的には何不自由なく育った。母親は俺が小さい頃に家を出て行ったので記憶はほとんどないし、家事については家政婦を雇っていたので問題はなかった。
俺が中学生の頃、友人に借りた音楽のテープがきっかけで、俺はその世界に興味を持ち始め、高校に入ってすぐに仲間を集めてバンドを組んだ。ライヴハウスでの活動は、徐々に範囲を広げてゆき、色んなコンテストにも参加した。出始めた人気は俺たちの良いプレッシャーとなり、いつしか俺たちはプロのミュージシャンになることを夢見ていた。
父親は俺たちの活動に初めのうちは協力的だった。趣味を持つ事にはとても賛成していて、機材を買う資金を提供したり、バンドの練習場所に知人の会社の倉庫を借りてくれたりと、色んな方面から俺たちのことをバックアップしてくれた。
しかし、そんな父親の態度も仕事に関しては現実的だった。経営者であった父は常に人一倍厳しい姿勢で取り組み、特に俺については自分の会社を継がせたい思いがあり、音楽のことに関しては、趣味で活動するには応援するが、プロを夢見る事など論外だと、バックアップを打ち切るどころか、その活動までやめろと言い出した。結局、俺は父と大喧嘩の末に家を飛び出す事になった。
家を出てから十年、その間、父には一切連絡をとらなかった。バンドの活動は俺一人、遠方から通ってなんとか続けたが、結局はアマチュアのままで成功することなくバンドは解散する事になり、俺はいま普通の社会人として会社に通っている。
父親の話は、地元に住んでいる友人から何度か聞いた。会社の後継ぎとなる人物は見つかり父親は会長に退いたこと、そしてその後も会社は順調だということ。
俺はテレビの番組を見ながら、あれこれと思いにふけっていた。すでに忘れようとしていた過去の話だ。しかしそんな俺が、何故こんな番組を見ているのか、自分でもよく分からなかった。
そんな時、もっと理解しがたい事がテレビの中で起こったのだ。いまテレビ画面の中に居るのは、まさしく父親の姿であった。
「ま、まさか……」
しかも番組の中で呼んでいるのは俺の名前。つまり、俺の事を探している。夢ではないかと自分の目を疑ったが、どうやら現実に起きていることらしい。しばらく見ないうちに、すっかり老け込んではいたが、父親に間違いなかった。横に付き添っているのは当時からいる家政婦だ。
「この方は他に身よりもなく、今は十年前に家を出て行った息子さんにひとめ会いたいとおっしゃってます」
番組の司会者は話を続け、カメラは昔俺が住んでいた部屋を映し出している。十年前、俺が家を出たときの状態のまま、部屋は残されていた。
「生きていてさえいてくれば……」
父親は悲痛な叫びを全国に向けて訴えかけていた。父親の話では、俺が家出してから自費で興信所に調査を依頼したが、手がかりが少なかった為に、ある程度の期間で打ち切ったらしい。しかしその後、老いてゆく我が身を不安に思い、テレビ番組の企画を知って応募したそうだ。
しかし事情を知ったところで、俺は名乗り出る気はなかった。父親には悪いが、俺は夢を断ち切られた時点で、親子の縁は切ったつもりでいる。それに父親には家政婦を雇いながらこの先を暮らしてゆくにも、十分過ぎるほどの財産がある筈だ。俺は番組を観ていられなくなってきたので、テレビを消そうとリモコンに手をかけたとき、テレビの画面の中が急に慌ただしきなってきた。
「ちょっと待ってください! たった今、番組の方に本人であるという方から電話が入ってきました!」
「な、なんだって?」
俺は自分の耳を疑った。なんと本人と名乗る男が、番組に対して電話をかけてきているではないか。本物の息子が観ていると言うのに、とんだニセモノが現れたものだ。しかし、こういった番組では、必ず本人かどうかの質問をして確認をとる筈だ。当然のことながら、司会者は簡単な確認を行ったが、意外にもそれを簡単にクリアしてしまった。
「この野郎、いったい何者なんだ!」
俺は腹が立った。本人が見ているとも知らず、大胆に全国ネットの生放送の番組で堂々と嘘を言ってのけている奴がいる。おそらく、この男は金目当てに違いない。放送中に映し出された家の中の映像や、父親が会社を経営していたこと、そして今でも家政婦を雇っていることなどで、十分に金持ちである身分は判断できる。おまけに身寄りがないとくれば、絶好のターゲットだ。
電話の男は、すでに電話で父親と話をしていた。あれほど厳しかった父親の姿は、すでにそこにはなかった。さらに話のやり取りを聞いていると、父親はかなりあいまいな返事をしている。年のせいか判断力が少し鈍ってきているようだ。このままでは、まんまとニセモノに金を騙し取られてしまう。
俺は慌てて番組あてに電話をしたが、すでに本人から電話がかかっているとの事で、まともに取り合ってはくれず、これではまるで俺がニセモノ扱いだった。放送局は俺の家からそう遠くはない。電話では話にならないと思い、すぐさま車を走らせる事にした。
放送局に着くと、番組をやっているスタジオに向かった。途中の道で警備員の制止を振り切り、中に入るといきなり知らない男がこちらを見て立っていた。
「息子さんですね。お待ちしていました」
立っていた男は俺に声をかけ、そしてこの番組のプロデューサーだと名乗った。
「お父様が、こうでもしないとあなたには会えないだろうって……」
父親は決して衰えてはいなかった。今でも家出した時と同じ頑固者のままで。そして番組のプロデューサーの案を押し切って、ニセモノの男を用意させたのも、父親のアイデアだったらしい。
父親はいつでも人を仕切りたがる人だった。十年経った今でもこうしてテレビの番組までも。
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