ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

実際の小説リライト(前編)

実際の小説リライト(前編)

 


前回までに公開した『ショートショート/家出人捜索』の『リライト後』、『リライト前』ですが、具体的に何処をどの様な理由で変えたのか? 前編と後編に分けて詳しく解説したいと思います。

 

ショートショート『家出人捜索』リライト前はこちら↓↓↓

小説のリライト(特別編) - R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

ショートショート『家出人捜索』リライト後はこちら↓↓↓ 

(『家出』がテーマの作品例)新作ショートショート(19)/家出人捜索 - R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

 

【CONTENTS】

 

 

 

読みやすさと主人公の内面 

 

【リライト前】

「麻衣子、このテレビを見てたら父さんに連絡をくれないか……」

 テレビの中では家出した娘にむかって、その父親が呼びかけている。番組の企画で家出人や行方不明者をさがそうと、時々生放送やっているもの。今さがしているのは、二年前に家出した当時十七歳の少女だ。母親はすでに他界して父親と二人暮らしだったが、最近になってひどくなりだした、父親の酒と暴力が家を出た原因だそうだ。

「どうせ帰ってこねえよ!」

 
【リライト後】

「マサミ、この放送を見てたら父さんに連絡をくれないか……」

 テレビの中で、家出した娘に向かって呼びかけている場面だ。

 時々、生放送で未解決事件などを報じる番組で、行方不明者の情報提供を視聴者に求める事もある。いま流れているのは、当時十七歳の娘で、家出から既に二年間経っているそうだ。

「帰って来ねえって……」


【リライトのポイント】

❶名前変更

最近の作品は基本的に人物名をカタカナ表記にしているのですが、書き出しの部分で『マイコ』よりも『マサミ』の方が人名として認識が早いと判断し、変更したものです。

 
❷脇役の事情をカット

脇役の家出の詳細はカットしました。これは主人公に、より多くのスポットを当てる為ですが、後の文章で再度触れる事で内容が伝わる様にしています。

 
❸主人公のセリフの変更

主人公のセリフを『怒り』から『嘆き』に変更しています。今回のリライトで、全体的に主人公を少しだけ『父』に歩み寄っている姿勢を表現する為です。

 

 

主人公と他者の関係性の協調 

 

【リライト前】

 俺が家を出たのもちょうど十七歳のころだった。父親は小さいながらも会社の経営をやっていて、金銭的には何不自由なく育った。母親は俺が小さい頃に家を出て行ったので記憶はほとんどないし、家事については家政婦を雇っていたので問題はなかった。

 俺が中学生の頃、友人に借りた音楽のテープがきっかけで、俺はその世界に興味を持ち始め、高校に入ってすぐに仲間を集めてバンドを組んだ。ライヴハウスでの活動は、徐々に範囲を広げてゆき、色んなコンテストにも参加した。出始めた人気は俺たちの良いプレッシャーとなり、いつしか俺たちはプロのミュージシャンになることを夢見ていた。

 

【リライト後】

オレが家を出たのも、ちょうど十七歳の時だった。

 父は小さいながらも会社の経営者だった。若かった母は初婚だったが父の方は再婚で、オレとは四十歳離れていた。

 ワンマンだった父に、ついて行けなくなった母は、オレを残して家を出た。金銭的な余裕がある為、父は色んな物をオレに与えたが、心は常に孤独だった。

 中学生になったある日、同級生に教えてもらったミュージシャンにすっかりハマり、その世界にオレは目覚めた。

 楽器を手に入れ、仲間とバンドを組んだ。それまで無趣味だったオレが何かに夢中になったのが嬉しかったのか、父はとても協力的で、知人の会社の倉庫をバンドの練習場所として提供もしてくれた。オレ達は色んなコンテストに参加し、メンバー全員がプロになる事を夢見ていた。

 

【リライトのポイント】

❶主人公と父の関係性を、より深くする為に『家政婦』をカット。母が家を出た為、父と二人の生活となり、忙しかった父は主人公に金銭的なものを与えるしか出来ず、コミュニケーション不足であったと言う設定です。

 

❷父の年齢設定を明確にする。読者の父に対するイメージが若いと、父の『会長』という立場等、作品全体に違和感が出る為。

主人公を含む三者の関係を表現する場合、『主役』と『準主役』、ここでは主人公と父の年齢を明確にし、『脇役』である母は省略しています。単に『若く』とする事で、『年の差婚』である事が分かります。作中、母の年齢はあまり重要ではないので、この様な表現にしています。

 

❸父の主人公へのバックアップの理由を明確にする。それにより、後の打ち切りの心境も明確になる。

金銭的なものを与える事で、コミュニケーションを取ろうしていた父ですが、バックアップはバンドの応援ではなく、『コミュニケーションの一部であった』と言う設定です。

 

 

こちらは私の著書である『作家脳シリーズ』です。既にご好評いただいている
Vol.1は、常にAmazonランキング(文学理論カテゴリー)に登場する人気の書籍です。
シリーズ第二弾と第三弾であるVol.2、Vol.3は、Vol.1で作り上げた『作家脳』を更に『鍛え』、その作家脳を『持続させる』為の方法です。
様々なテクニックと、サンプルショートショートによる実践的な解説です。是非Vol.1と合わせてお読みいただければ、きっと貴方の『創作』の良き『パートナー』となるでしょう。
 
シリーズ第二弾
シリーズ第三弾

 

主人公の行動に対する整合性

 

【リライト前】

 しかし、そんな父親の態度も仕事に関しては現実的だった。経営者であった父は常に人一倍厳しい姿勢で取り組み、特に俺については自分の会社を継がせたい思いがあり、音楽のことに関しては、趣味で活動するには応援するが、プロを夢見る事など論外だと、バックアップを打ち切るどころか、その活動までやめろと言い出した。結局、俺は父と大喧嘩の末に家を飛び出す事になった。

 家を出てから十年、その間、父には一切連絡をとらなかった。バンドの活動は俺一人、遠方から通ってなんとか続けたが、結局はアマチュアのままで成功することなくバンドは解散する事になり、俺はいま普通の社会人として会社に通っている。

 父親の話は、地元に住んでいる友人から何度か聞いた。会社の後継ぎとなる人物は見つかり父親は会長に退いたこと、そしてその後も会社は順調だということ。

 

【リライト後】

 一人になってからも、音楽は続けた。バイトをしながら詞を書き曲を書いた。メンバーがいた頃とは違って、見たり聞いたりしてくれる相手が居なかったので、全ての事に張り合いが無くなった。時間があるのに曲が作れない。

 生活費の余裕はどんどんと減ってゆき、先々への不安だけが募った。はその問題を解決する為、バイトを辞めて会社に勤めた。

 今度は時間が無くなった。益々、曲が出来なくなった。結局のところ、曲が出来ない理由を何かのせいにしている自分に気付いた。楽器を全て売り払い、音楽とは距離を置いた。

 家を出てから十年が経つ。もう電話ぐらいしてもいいかとも思うが、未だ独り身の貧乏暮らしでは、それも躊躇してしまう。

 父の話は地元に住んでいる友人から聞いている。会社は後継となる人物が見つかって父は会長に退いた事、その後も会社は順調な事など、不安な材料は特に見当たらなかった。

 普段からこの手の番組は時々観ているが、未だに家を出た時の気持ちは変わっていない。失敗に終わってもいいから、子供には夢を追わせてやるべきだと思う。


【リライトのポイント】

❶バンドの解散は家出の『後』を『前』に変更。

バンドが成功しなかった『理由』が自分にあった事に気付く場面を加えています。主人公の父に対する反発心を、少し弱める為です。

 
❷主人公が、父へ連絡しようと思う気持ちは多少あった流れにする。

前述の内容に加え、連絡を躊躇した理由として『独り身』や『貧乏暮らし』を入れる事で、会うのならば『安心させたい』と言う思いを表現しています。


❸一人になり、父の考えを少しは理解するものの、バンドでの活動に反対された事については納得していない流れにする。

父への理解を示すものの、やはり『納得していない』部分は残しています。

 

 

 

次回、小説のリライト実践(後編)に続きます。

 

 

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

↑↑↑ブログランキングに参加しています。面白かった方は応援お願いします。

 

R・ヒラサワの?Novelist's brain? - にほんブログ村

↑↑↑読者登録はこちらからお願いします。

 


ショートショートランキング

↑↑↑最新のランキングチェックはこちら!