コラム/血の通ったキャラクター(後編)
小説のキャラクターにリアリティを持たせるのは基本的な事ですが、実際には大まかな設定だけに留まっており、いざ物語の中で動き出すと、まるで現実離れした、作者の思い通りに動く『操り人形』の様になってしまっている場合があるのです。
その理由は簡単で、『人物の内面設定の弱さ』にあります。この設定が十分に出来ていると、先々の行動や言動が明確になり、俗に言う『キャラクターが勝手に動く』状態になるのです。
【CONTENTS】
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離婚の原因には色々ありますが、今回の作品では『価値観の違い』や『将来への不安』が理由であったという設定でした。
「辞めるって、どう言う事?」
「どうもこうも、会社を辞めるのさ」
離婚の直前、ナオキと交わした言葉だ。中小企業でそれなりの役職に就き、そろそろ親との同居問題など考える時期に、相談もなく会社を辞めると言い出したのだ。
以前から身勝手な行動する人だった。ナオキは年齢がひとまわり上で、ケイコには遠慮があった。ナオキの両親は既に他界しているが、ケイコには母が居る。
一緒に住んでいながらも、夫婦間では時折考え方の相違が生まれる場合があります。互いに話してはいないけど、暗黙の了解の様な、例えばケイコの母についてなどは、夫婦として考えていなければならない問題でしょう。
また、一方のナオキの仕事についても同様で、家計に関わる重要な問題ですから、相談などの流れも必要かと思います。
しかし、これらの問題は話すタイミング、要はどの段階で切り出すかは人によって差があって、今回の物語については実際のモデルとなる人物が存在します。勿論アレンジは加えていますが、相違の理由は以下の通りです。
ケイコの母の問題
【ケイコ】
実家には一人暮らしの母がいる。同居などについて、そろそろ相談しなくてはならない。ナオキも周知の事だし、ある程度考えている筈だ。
【ナオキ】
義母の事は頭にあるが、先ずは仕事を安定させる必要がある。そうしなければ経済的な問題も出てくるし、相談は仕事の事が落ち着いてからだ。
ナオキの仕事の問題
【ケイコ】
職を変える問題など事前に相談するべきだと思うし、ましてや自営を始めるとなれば、話し合うのが当然だとおもう。
【ナオキ】
職を変えるのは重要な問題だから、簡単に話すわけにはいかない。ある程度の準備が必要だし、それなりに色んな事が決まってからでないと相談も出来ない。
『血の通った』とはどう言う事か?
『リアリティ』と言う言葉で、全てが片付いてしまいそうですが、個人的に思うのは少しイメージが違っています。『リアリティ』は確かに『現実的』でキャラクターの存在がそうであれば、血も通う気がします。しかし、厳密にはそうではないと思います。
一見、実在しそうなキャラクターでも、現実味のない行動や考え方をしていたのでは『生きて』いないのです。作者である『作家』は、物語の全てを知っている為、キャラクターを思い通りに動かそうとしてしまいます。一般的によく言われる『キャラクターが勝手に行動する』とは、設定したキャラクターならば、きっとこの様な行動や考え方をするであろう、『方法性が決まる』と言う意味なのです。
必ず『モデル』が必要なのではありません。要は、キャラクターの性格付けなどの設定を予めしっかりと済ませておくと言う事なのです。そうする事で、人間味のある『血の通ったキャラクター』が出来上がる訳ですね。
次回は、ショートショート『家出人捜索』の創作プロセス公開です。
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