ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(『薬』がテーマの作品例)新作ショートショート(21)/ある研究施設からの手紙

新作ショートショート/テーマ(薬)

 

 

 


 

ある研究施設からの手紙

 

 

 こんな話を、一体誰にすればいいのか……。
 とある研究施設での話だが、その内容があまりにも恐ろしく、これまで誰にも話す事が出来なかった。だから、こうして誰に宛てるでもなく手紙を書こうと思っているが、どうにも思う様に筆が進まないのである。
 私には『病』があった。身体に感じた違和感を馴染みの医者に診てもらったところ、大きな病院を紹介された。その病院には十分すぎる設備があり、最新の検査機器も揃っていた。ここなら身体の問題を解決してくれるのだと信じて行ってみたが、病院側の回りくどい説明は、暗に『治らない』と告げているのだと察し、人生の終わりを感じた。
 信頼出来る人に相談した。様々な情報も調べた。しかし、そこに『希望の光』を見出す事は出来なかった。
 ネットでは『怪しい情報』まで探し始めた。そこで気になる『書き込み』を見つけた。私にはそれが、僅かに差し込んだ『最期の光』に見えた。
 翌日その書き込みは既に『削除』されていた。しかし、『削除される前に』と言った記述があった為、全文をコピーして保存しておいたのだ。
 『書き込み』によると、国内大手の製薬会社が主な出資者となり、他の企業と共同で研究を行っている施設がある。ここは本来、植物の遺伝子に関する研究をしていたが、ある時、偶然に発見された成分が、人間の病気に対し有効である事が分かった。
 しかし、認可はおりない。そもそも研究内容と効果がまるで違っていたし、人間への投薬の危険性は否めない。効果の現れ方が個人によって随分と差が出るという事が大きな問題だった。『副作用』についての記述は無かったが、何割かの人に全く効果が出ないのでは、『薬』として認められないのは当然であろう。
 このような研究施設は国内に複数あって、効果の出る割合は何処も同じ様なものだった。その後、共同出資していた企業が手を引いた為、この研究は打ち切りとなった。
 施設自体も数ヶ月後に閉鎖されたが、その時の『薬』については所有権等の問題がある為、今は移動出来ず施設内に保管されているという。
 これを書いた人物は大きな病を患っており、僅かな余命を盾に覚悟を決めて施設に忍び込み、そこで手に入れた薬を服用し、今は完治しているそうである。この書き込みを読んだ私が、次に取るべき行動は一つしか無かった。
 私が住む地域で最寄りの施設といえば、自宅をずっと南下した位置にあった。幸いなことに比較的近い場所である。
 この辺りは大手企業の物流倉庫などが多くあって、住宅地から隔離されている為、日が落ちる頃には人の姿も随分と少なくなる。他府県からの物流業者も不定期にやってくる為、関係者と部外者の区別がつけにくい。今回、私がここに紛れ込むにはとても好都合だった。
 週末、仕事を終えた私は直ぐに車で問題の施設を目指した。隣接する建物は外国の自動車メーカーのサービス部門と聞き慣れない学習施設で、私が着いた頃に既に人の姿はなかった。
 問題の研究施設は、いま目の前にあった。手入れされず放置された木々が、まるで中にある何かを人目に晒さぬ様、覆い隠す形で茂っている。懐中電灯で照らした先には、門柱に張り付いた金属製のプレートがあって、そこには製薬会社とは全く別の名前が記されていた。
 警備用と思しき個室があったが、中は全くの無人で気配すら感じない。これはむしろ警備の甘さを露呈している様で、何のためらいもなく私は門をよじ登り、中に入る事が出来た。
 門から奥へと進む道中、周辺にあった植物を照らした時、強い違和感を覚えた。一本の枝に複数の花が咲いている。これは明らかに品種の違う物で、通常では考えられない事だろう。例の『書き込み』の内容の信憑性が更に増してきた。
 何処まで行っても人の気配は無かった。私の中にあった警戒心は既に薄くなっている。おまけに建物の中にはまるで訪問者を導くかの様、ご丁寧に案内表示が至るところにあるのだ。
 研究室と思しき部屋の中にはそれなりの道具が揃っていた。しかし、それらが最近使われた形跡は無かった。奥にある薬品保管庫には幾つか瓶に入った錠剤があったが、意外にも種類はあまり多くない。その為、私がその中から問題の薬を探し当てるには、それほど時間を必要としなかった。
 書き込みでは一回で飲む薬の量は三錠となっていた。私は直ぐに近くにあったビーカーで水道水を酌み、錠剤を一気に飲み込む。そして残りを瓶のままポケットにねじ込んだ。
 この薬の効果が本物なら、すっかり機能が低下した臓器が活性化され、再び健康な身体が取り戻せる筈だ。仮にそうでなかったとしても、私の命はもう長くない。誰かに見つかり、今これを取り上げられる前に、少しでも効果を得たかったのだ。
 書き込みには続きがあった。国内の死亡者数がここ数年で随分と減っているのは、高齢者の寿命が伸びているそれとは比較にならず、明らかに『治療薬』の様なものの存在を示している。
 私は研究室を出て、最初に乗り越えた門を目指し夢中で走った。日頃の運動不足の影響か、足は徐々に重くなり……。
 ーそして止まったー
 この施設の中には多くの木々が鬱蒼と生えていた事、そして国内での死亡者数が減少した理由が、今でははっきりと分かる。
 私はまだ『施設』の中に居る。もしかすると、あの『書き込み』は私をここに誘い込む為のものだったのかもしれないが、それを確かめる術は無い。
 あの後、私の足はしっかりと大地に根を生やし、『人間』とは違った方向で急激に『活性化』していった。少なくとも国内の死亡者数の減少に、この薬が関係していたのは間違いないだろう。
 何故なら私は、時々吹く風に任せユラユラと揺れながら、今もこうして此処で『生きている』のだから……。

 

 

創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!

先ずは『試し読み』をどうぞ↓↓↓

☟☟☟ショートショートを『読む』ならこの本!!

 

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

↑↑↑ブログランキングに参加しています。面白かった方は応援お願いします。

 

R・ヒラサワの?Novelist's brain? - にほんブログ村

↑↑↑読者登録はこちらからお願いします。

 


ショートショートランキング

↑↑↑最新のランキングチェックはこちら!