ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(『人工知能』がテーマの作品例)新作ショートショート(22)/AIプラス

新作ショートショート/テーマ(薬)

 

 

 

AIプラス

 

 

 人工知能である『AI』。例えばロボットなどに搭載されている場合であれば、予めプログラミングされた動作に対し、新たに経験した事を『学習』し、更にレベルアップした動作ができる様にするものだ。最近では随分と進歩はしているが、まだまだ人間に近いとは言い難い。特に初期段階のプログラミングに博士は問題を感じていた。
「初期設定では、やはりロボットだな。これではなかなか上手く成長しない」
 現在、世間で稼働しているロボットの学習能力は、とても優秀である。しかし、最初の段階でインプットされているのは、あくまでプログラマーが想定した『仮の知能』であり、入力でまかなえる範囲が限られている。その結果、スタート段階の『学習レベル』が十分でない為、高度な域に達するまでに、かなりの時間を要する。また、スタート時点のレベルによって、学習の効率が飛躍的に上がる事も博士の研究で分かっていた。
 博士が開発した『AIプラス』は、人間の脳をスキャンする。これはCTスキャンの様に中の構造を見る為のものではなく、更にその中身である『知能』の部分を読み取るものだ。
 モデルとなる人物が、生まれてから現在に至るまでに学習した中から、習得した事柄をピックアップして自動でプログラムを作成する。その為、基本的にはモデルとなった人物に近い『性格』になるのだ。
 博士は早速、一号機となるロボットに基本的な『知能』をインプットしようと考えた。ちなみにこのロボットは、博士の個人的な趣味で、『女性型』である。名前は『メグ』と言って、何処かのグラビアアイドルから拝借したものだ。
 博士のイメージでは、このロボットが上手く『成長』した時には自分の『可愛い助手』にしたいと考えていた。その為のモデルの候補が二人いて、これは行きつけの飲み屋の女性だった。
 両者の性格は対照的で、一人はテキパキ仕事をこなし、現場では即戦力となりそうだった。しかし、何かにつけて男性的な部分があって、全体的に大雑把である。研究結果などの資料をまとめるには、少々難がありそうだと思った。
 残る一人はとても女性的で、周囲への気配りという点では文句なしだったが、仕事よりも『女』である事を優先してしまう所があって、資料の乱れよりも髪の乱れを先に直す様なタイプなので、仕事のペースは決して早いとは言えなかった。
「うーむ。どちらに頼むべきか……」
 両者には一長一短あった。散々悩んだ挙句、博士が選んだのは後者の『女性的』なタイプだった。長期的な成長として、こちらの方が確実に思えたし、何より先々博士の『助手』になる事を考えると、やはり『カワイイ方が良い』と思ったのだ。博士も結局のところ『男』なのである。
 CTスキャンに似た装置で、『知能』を読み取る。今回選ばれたスナックの『あけみちゃん』は、二十代半ばの女性だ。作業は順調に進み、『メグ』への初期設定は完了した。
 この段階のデータに対し、以降に経験した事がらを『AIプラス』は上書きする為、後から修正しようとすると、再び『スキャン』からやり直しになる。その為、モデルの選定はとても重要な部分だった。
 モデルとなった『あけみちゃん』は、気立てのいい明るい女性で、店に通う男達を夢中にさせてしまう。周囲への気配りは抜群で、皆から好まれる性格だった。
 普段接していて特に問題を感じることは無かったが、あえて言うなら常に『女』であるという事ぐらいだろう。
 メグは『あけみちゃん』同様、『気の利くロボット』としてスタートした。
「おはようございます、博士。昨日は遅くまで実験されて、さぞお疲れでしょう? お茶でも入れますからどうぞおかけになって」
 博士の予想通り、メグは順調に『助手』として成長しつつあった。身の回りの雑用は全てメグがやってくれるので、博士の研究は以前に比べ、実に効率よく進んでいった。
「博士、ここにあった書類はこちらの棚に、それからテーブルにあった工具類は倉庫の中に入れてありますから」
 メグは研究所の中の物を全て把握している。これはロボットでは当たり前の事なのだが、それを使いやすい様、相手の性格まで考慮して伝え方まで判断できる。これが最新の『AIプラス』の実力なのだ。
 メグは優秀だった。毎日のように雑用をこなしながら何一つ文句も言わない。過去の感情をもたないロボットなら当たり前の話だが、今は違う。優秀になった一方で感情が備わり、自我が芽生え、やがて人に反発しだす個体も出現する。そうなると手に負えなくなり、場合によってはスクラップだ。過去に多くの研究者達が失敗を繰り返している。
 博士が選んだ人物は間違いではなかった。一見、自分の趣味で人選したように見えるが、実は先々の事まで考えていたのだ。
 メグは順調に成長していった。モデルが若い女性だったので、メグも最近では鏡の前に立ち、その容姿を気にしている様だ。
「ねえ博士。ここの肩の部分のデザイン、ちょっと変えて欲しいの。もっと可愛くね」
「ああ。お安い御用だよ」
 こんなメグの『おねだり』も、博士は自分の娘を見ている様で可愛くて仕方がなかった。スタート時と比べると、メグは随分お洒落なロボットへと変貌を遂げた。
 メグはこのまま学習を重ねれば、博士が想定していたレベルに達する。そうなれば、晴れて博士が開発した『AIプラス』の発表が出来るのだ。博士はそれが待ち遠しかった。
 そんなある日、メグがなにやらつぶやいて、部屋の奥へと向かっていった。
「ま、まさか!」
「最近、汚れが気になってたのよね……」
ジュッ! バチバチッ!
 一瞬、火花を放ったシャワールームには、ショートして黒コゲになったメグの姿がそこにあった。

 

 

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