ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

ショートショート作家 R・ヒラサワが多方面から小説の書き方を解説。新作随時公開中!

(『ルーティン』がテーマの作品例)新作ショートショート(24)/同じ日

新作ショートショート/テーマ(ルーティン)

 

 

同じ日

 

「毎日が『同じ日』ならなあ……」
 テツロウはいつも思っていた。子供の頃から環境の変化に対応するのが苦手で、新しい事を始めると全身に緊張感が走り、どこかしら体の部分に痛みを感じるのだ。
 小学生の頃は幼稚園からの変化で全てが新しく、周囲の友達も一気に増えた為、それに慣れるまで随分時間がかかった。
 この時は毎日『かかと』が痛かった。近所の『外科』で診てもらったが、悪い所は無いと言われた。ここのドクターはすっかり馴染みの相手だったので、無駄に緊張する事はなかった。
 テツロウは毎日痛む『かかと』と戦いながら、あまり楽しくない学校生活を送っていたが、ある日突然痛みが消えた。理由は単純だった。『アツコちゃん』に恋をしたのだ。
『アツコちゃん』とは幼稚園で同じ『組』だった。その時は特に意識はしていなかったが、小学生になったある日、偶然街で会った。母親同士が知り合いだったので、どちらともなく声をかけ、お茶をする事になったのだ。子供たちが退屈してるのに気付いたテツロウの母親が、そこから近い『卓球場』に行こうと皆を誘った。
 テツロウにとって『卓球場』は馴染みの場所である。スポーツは得意でなかったが、『卓球』だけは家に『ラケット』と『ネット』があって、テーブルを『台』代わりに普段から時々遊んでいた。実は母親が得意なのが『卓球』だったのだ。
 ここには何脚か丸椅子があって、ゲーム中でない人が座れる様になっている。近所の高齢者達は喫茶店の如く平気で長時間座っているが、オーナーはそんな事はまるで気にしない人だった。
 テツロウの母親は『アツコちゃん』と卓球をする様勧めた。子供たちを遊ばせている間、母親たちは話に花を咲かせるつもりだったに違いない。しかし、そのおかげで、テツロウはアツコちゃんとすっかり仲良くなれたのだ。テツロウの恋の始まりだった。
 しかし、二年後アツコちゃんは父親の転勤で、遠い街に引っ越してしまった。テツロウの『恋』は終わり、新しい『痛み』がやって来た。今度は胸の中心部分だった。
 痛みの原因が複雑そうなので、総合病院に行った。初診でドクターに『肋間神経痛』だと診断された。ドクターは色んな説明をした様だが、テツロウはやはり、痛みの原因を『環境変化によるストレス』だと思っている。
 テツロウの様な性格の人間は、『転職』を避けるべきだろう。新しい環境はストレスの原因になる。だから、出来る限り早く仕事に慣れて、そこを辞めないのが得策である。しかし、世の中は上手く回らない。『倒産』や『減給』、中には『パワハラ』の問題等もあって、結局テツロウは何度か転職を余儀なくされてきた。
 気付けばテツロウもいい歳である。現在の職場に辿り着く迄の就活期間、就業支援機関で言われたのが、『貴方の年齢で正社員は無理だと思いますよ』だった。幸いテツロウは『正社員』での採用だったが、そこから更に歳を重ねている。次の『正社員採用』は、難しいかもしれない。
 不利な転職を考えると、出来れば今の職場に長く留まるつもりだった。仕事はある程度経験を積めば、必ず慣れる筈だ。一般の企業ならば当たり前の事だろう。しかし現実はそうではなかった。今の職場は担当がコロコロと変わり、少し慣れた頃に、また一からのスタートの繰り返しで、それが『ストレス』の原因になっている。
「同じ日がいい!」
 ある日の出社時、テツロウが思わず声を漏らした。通勤には自転車と電車を利用しているが、出社時間が早い為、普段から自転車で人とすれ違う事は殆どなかった。最寄り駅までは『自転車歩行者道』が長く続き、その半分あたり迄は緩やかな下り坂になっている。道中に大きな神社の横を通る場所があり、テツロウはここが一番のお気に入りだった。
「ずっと同じ様な日が良いんだよ!」
 今度はもっと大きな声で言った。神社の横を通り過ぎる、その場所を選んで叫んだのは『神への願い』があったからだろう。テツロウにとって、今の職場環境は堪え難いものだった。
 緩いカーブを曲がる最中、不意に人影が見えた。部活動の為か、登校時よりも早いこの時間に女子高生が前を歩いていたのだ。テツロウはそれを避けきれず、ハンドルが女子高生の腕に当たった。『痛い!』と声を上げた女子高生は、少しよろめいただけだったが、バランスを崩したテツロウは転倒し、自転車もろとも坂を滑って行った。
 地面に倒れたテツロウは、強い痛みを感じながら顔を上げた。次に飛び込んで来たのは、後続のスポーツ自転車だった。急ブレーキをかけた様だが間に合わず、テツロウの足を容赦なく踏みつけた後、テツロウ以上のパフォーマンスで派手に転倒した。
 無傷に近かった女子高生が救急車を呼び、ついでにテツロウたちは『写メ』を撮られた。幸いな事に救急車の到着は早く、自転車の二人は別々の車で運ばれた。テツロウを乗せた救急車は、ケガの程度以上に大きなサイレンを鳴らし、最寄りの病院へと向かった。
 赤信号で交差点に侵入する際、周囲にそれを知らせながら、慎重に救急車はテツロウを運ぶ。しかし、スマホの操作に気を取られていたドライバーの車が、左側から突っ込んで来た。救急車は横転し、テツロウの症状は『軽傷』から『重傷』になった。追加で要請した救急車の到着には、それなりに時間がかかった。
 気付けばテツロウは病院のベッドに居た。腕にも足にも痛みを感じ、担当ドクターの話では数箇所骨折しているが、命に別状はないとの事だった。とんでもない一日になってしまった。
 翌朝、テツロウは目を覚ますと、いつも通り会社に通う準備をした。自転車に乗って見慣れた坂を下る道中、大きな神社の横で「ずっと同じ様な日が良いんだよ!」と叫んだ。その後、女子高生にぶつかり、自転車ごと転倒し、後続の自転車に足を踏みつけられる。そして救急車で運ばれる最中、横から車に突っ込まれ、『軽傷』だった筈が『重傷』になって、気付けば病院のベッドで腕と足に痛みを感じていた。
「まさか……」
 テツロウが最後に見た『一日』が、この先何回繰り返されるか分からない。腕と足に痛みが走る。テツロウは『アツコちゃんに会いたい!』と心の中で叫んだ。

 

 

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