ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(恋人との『疑似体験』)新作ショートショート(27)/バーチャルパートナー

新作ショートショート/テーマ(パートナー)

 

 

バーチャルパートナー

 

「彼女との結婚を考えているんだけど、決めかねててさ……」
 アキヒコには付き合って三年になる彼女がいる。しかし、度々ケンカする事もあって、これまでに別れ話が出た事もあった。
「ああ、それなら『バーチャルパートナー』を試してみればいいさ」
 友人が紹介してくれたのは、結婚を考えているカップルが、実際の相手と同じ条件の『バーチャルパートナー』と一定期間生活を共にする『疑似体験』が出来るサービスである。予め様々な項目のデータをインプットしておくだけで、3Dグラスによって、映像上では実際に部屋の中で一緒に過ごしている感覚になるそうだ。
 アキヒコは早速、この事を彼女であるメグミに相談してみた。
「バーチャルパートナー? ふーん、それって事前に二人の相性が良いかどうかを試せるって訳ね……。まあ、いいわ。とにかくやってみましょう」
 メグミには少しの躊躇が感じられた。アキヒコはその理由が、二人の間に少なからず不安を感じているからだと思った。しかし、それはアキヒコも同様で、普段の仲の良さがある一方で、些細な事でケンカをしてしまう、そんな日常が大きな亀裂を生んでしまうのではないかと言う、そんな不安があったからである。
 アキヒコには、既に結婚生活十年を迎える先輩がいて、その人のアドバイスで、結婚までに『同棲』はしておいた方が良いと言われた。これは要するに、恋人同士とは交際中でも別々に暮していると、結局は『見えない一面』があり、これが生活を共にした途端に露呈し始める。この問題が軽度ならいいが、『重度』な事があると言うのである。先輩夫婦は、結婚に至るまでの同棲期間が一年近くあって、互いに良いも悪いも受け入れる事が出来そうなので、めでたくゴール出来たという事である。
『バーチャルパートナー』のシステム導入は実に簡単だ。予め決まった項目に情報を入力しておくだけで、後は実際に本人のとった行動や言動が徐々にシステムに反映されてゆく。
 先ずは導入前の二週間でデータを収集し、これらを基本として人間像を形成する。その後は学習を繰り返し、リアルな『パートナー』が用意されるのだ。
 システムを利用する期間はユーザーが決める事ができ、一日単位で『解約』も出来る。利用者は自分達が納得のいった時点で、いつでも『リアル』な世界に戻って、実際のパートナーと暮らせばいいのだ。
「あなたって、やっぱり『片づけ』が下手よね……」
 『バーチャルなメグミ』は毎日のように小言を漏らす。正直なところ、それは気になるが、これはどの家庭にもある事だろう。それよりも、『バーチャルなメグミ』が働き者である事に関心した。家事に料理にと家中を動き回り、細かい所にもよく気が付く。こうしたきめ細かい部分が『小言』に繋がってしまうのであれば、それも仕方のない事だろう。
 パートナーが『バーチャル』であるがゆえ、全ての行動が『映像』の中なので、掃除については『汚れ』はそのままだが、作った料理は『味覚センサー』によって『味』を体感出来る。『バーチャルなメグミ』の作る料理の味は絶妙で、これほど料理上手だとは思わなかった。
 アキヒコ達はこのシステムの契約期間を『二ヶ月』とし、満了時にお互いの気持ちを確認し合う事にした。『バーチャルなメグミ』とは、やはりケンカをする事があった。しかし、これまでとは違って、仲直りが早かった。これは同じ空間に居る事で、悪い空気を早く払拭しようという気持ちが働くからだろう。新たな発見が色々とあって、システム導入による収穫はとても大きかった。
「これならやっていけそうだ」
 アキヒコは思った。メグミとの問題は『些細な事が原因のケンカ』ぐらいで、他に生活する上での問題は特に無さそうだ。むしろ彼女の気配りの良さや、料理上手な面は、アキヒコが惚れ直す要因となった。アキヒコの中では、メグミとの結婚は決定的だった。後は契約の『二ヶ月』が満了するのを待つだけであった。
 契約から二ヶ月。このシステムは終了だ。アキヒコは『現実のメグミ』に会い、二人が別々に使用していた3Dグラス等、レンタルしていた機器を返却し、契約を解除した。メグミの話では『バーチャルなアキヒコ』は、とても良かったそうだ。
 アキヒコはこの日を待っていた。ついに『現実のメグミ』にプロポーズをするのだ。用意しておいた『婚約指輪』を手に、アキヒコが言う。
「メグミ、僕と結婚して欲しい」
 メグミはひと呼吸おいて返事を返す。
「やっぱり……。それは出来ないの」
 その日、アキヒコはメグミからはっきりとした理由を聞く事が出来なかった。『とにかく無理』との一点張りだった。
 過日、メグミが同時にもう一台の『バーチャルパートナー』を試していた事、そして、その『現実の相手』と婚約をしたと言う話を、アキヒコは知人から聞いた。

 

 

 

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