コラム/単調な(伝わりにくい)文章にならないコツ(後編)
【CONTENTS】
小説を書く場合、そのジャンルや物語の長さに関わらず、登場人物の様々な事柄について作中での『説明』が必要になります。しかし、この『説明』ですが、本当の『説明』の様な文章ばかりになってしまうと、読者にとって『読みづらい作品』となってしまいがちです。この『読みづらさ』は、場合によって読者の理解力にも影響する事があります。
例えば学生時代、教壇に立つ人によって理解の『しやすさ』に差を感じた経験はありませんか? 全く同じ事に関して説明を行った場合でも、聞いた側の人の『理解力』に大きく差が出る事は、実によくある事なのです。
小説も同じです。物語も、ある意味で『作家』が読者に『説明』をしている訳です。確かに物語である以上、本当に『説明』をする訳ではありませんが、書き方によって『理解度』や『面白さ』には大きな差を生んでしまう要素があるのです。
※過去にある作品を読んだ時、色々と感じた事があって今回の記事へと繋がった訳ですが、今回は記事用に私がアレンジした『架空の作品』である為、物語性があまり良くありませんが、あくまで『解説用』とご理解ください。
現在時刻や経過時間
今の時刻は午前三時だった。普段よりも早く目覚めてしまった。いつもは五時に起きて朝食の準備をし、六時には家を出る。六時半ごろに到着する電車に乗るのだが、それまでの自転車の時間や少しの余裕時間を考えて、カズヤは毎日このルーティンで生活している。しかし、今日の様に不意に目覚めてしまうと、それ以降全く眠る事が出来なくなってしまうのだ。
【改善後の文章】
今の時刻は午前三時。普段より二時間も早く目覚めてしまった。いつもは五時に起きて朝食の準備をし、一時間後には家を出る。その後、電車に乗るまでは、自転車などの余裕時間を含めて三十分とってあり、カズヤは毎日このルーティンで生活している。しかし、今日の様に不意に目覚めてしまうと、それ以降全く眠る事が出来なくなってしまうのだ。
作品例では控えめになっていますが、時間的な羅列が続くと、読者の頭に入りにくくなる事があります。これらを解消する方法は『デジタルをアナログに変える』です。
さて、この意味ですが、時計で言うところの『アナログ時計』は現在時刻から別の時刻について考える場合、『あと何時間後』と計算するのが、とても分かりやすいですよね。これは計算しているのではなく、文字盤をひと目見ただけで把握出来るからです。
これらは文章でも同じ表現が可能で、『何時』と書いて読者に計算させるのではなく『何時間後』と把握し易い情報を提供しておくのです。
職業や家族構成
カズヤは長男で職業はサラリーマンである。三つ年下の弟はプロを目指してバンド活動を続ける中、アルバイトでなんとか生計をたてている。規則正しい生活のカズヤと違って弟は不規則な生活で、最近のシフトでは夜の十時から翌朝の二時まで働いている。その後マンションに帰ってからシャワーを浴び、昼の十二時頃にやっと目覚めるといった生活パターンで暮らしているが、この時間は時々変わる事もあって、父親の店について二人で話し合わなくてはならないが、平日では時間の調整のつけようがなかった。
【改善後の文章】
カズヤは長男で職業はサラリーマンである。三つ年下の弟はプロを目指してバンド活動を続ける中、アルバイトでなんとか生計をたてている。規則正しい生活のカズヤと違って弟は不規則で、最近のシフトでは夜の十時から四時間働き、その後マンションに帰ってからシャワーを浴びて、正午頃にやっと目覚めるといった生活パターンで暮らしているが、この時間は時々変わる事もあって、父親の店について二人で話し合わなくてはならないが、平日では時間の調整のつけようがなかった。
前述の例と似ていますが、やはり『時間』に関する表現は、『時刻の羅列』の場合、作者は感覚的に理解していても、読者側に上手く伝わらない、つまり『直感的』に分かり易くなる工夫が必要です。
また、時間以外でも『数値』を扱う場合ですが、はっきりと『数』を書いた方が良い場合と、他の表現方法で『おおよそ』を伝えた方が良い場合があり、それらは前後の文章などと共に『伝わりやすさ』を考慮した上で書き方を決定されるのがよいかと思います。
特に今回は『十二時』と『二十四時』をまたぐ部分があり、書き方によっては『昼』と『夜』を一瞬でも混同させてしまう可能性があります。『午前』や『午後』を入れる事で区別されている場合でも、可能な限り前後の文章で直感的にそれらを書かなくとも把握出来る状況を作っておいた方がベストでしょう。
私はブログ等でよく書いていますが、『読書の中断』は可能な限り避けるのが良いでしょう。
主人公から見た周辺人物の心理
キヨミは声を荒げて文句を言った。きっとカズヤの返事が気に入らなかったに違いない。テーブルの上にあったスマートフォンや、化粧道具をまとめてポーチにねじ込み、大きなドアの音と共に、カズヤを置いて部屋を出ていった。今度はキヨミが本当に戻って来ないのではないかとカズヤは思った。
【改善後の文章】
「もっと他に言い方あるでしょ!」キヨミは声を荒げて言った。きっとカズヤの返事が気に入らなかったに違いない。テーブルの上にあったスマートフォンや、化粧道具をまとめてポーチにねじ込む。
「もう戻って来ないから!」
大きなドアの音と共に、カズヤを置いて部屋を出ていった。
主人公の『視点』で描かれた作品の場合、周辺人物の心理については『憶測』となります。それは、その人物の『行動』や『言動』から『察する内容』となる訳ですが、他人の内面に関しては、現実世界においても『本人に聞かなければ分からない』という事もありますので、これは物語でも同様で、実際の本人による『行動』『言動』が最も伝わり易いでしょう。その意味で可能な限り本人が『動く』『話す』といったアクションを行う流れにするのが良いでしょう。
主人公の体感
昼間の室内の気温は異常に高かった。少し動けば直ぐに汗ばんでしまう。乾いた喉を潤すためにカズヤは仕方なく冷蔵庫の方へ向かったが、部屋を出ると直ぐに熱気が襲ってきた。この部屋のクーラーは古く、もう冷房もあまり効かなくなっているようだ。
【改善後の文章】
昼間の室内の気温は異常に高く、少し動けば直ぐに汗が滴り落ちる。
乾ききった喉を潤すためにカズヤは仕方なく冷蔵庫の方へ向かったが、部屋を出ると直ぐに熱気が襲ってきた。この部屋のクーラーは古く、冷房の温度設定は、もうこれ以上下げれない。
例えば『暑さ』などの表現の場合、可能な限り『極端』な方がいいでしょう。
『汗ばむ』よりも『汗が滴り落ちる』の方が、『とても暑い状態』を表現しており、これは作者がどの様な場面を設定したいかにもよるのですが、読者的には後者の方が『共感』しやすくなるでしょう。
また『動作』についても同様で、こちらは『限界点』の表現、例えば車のハンドルを切る場合、『大きく左にハンドルを切った』でも良いのですが、この『大きく』の感覚は人それぞれで、それが『限界点』に達するものであれば、『これ以上、左にハンドルが切れなかった』とした方が、それを『限界点』までもっていった事が伝わり、誰が読んでも、これは『限界点』となるのです。
次回は、ショートショート『AIプラス』の創作プロセス公開です。
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