ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(夫妻の『味覚の違い』:切り口を探る#小説)コラム/小説の『切り口』

コラム/小説の『切り口』(後編)

 

小説の『書き出し』とは、そこに書くストーリーがあって、その『冒頭部分』を『どの様に書くか』と言う問題ですが、『切り口』とは、ストーリーの『元』となる出来事の、どの部分から『切り取るのか』と言う部分を指します。今回はどの部分『切り取るのか』と言うお話です。

 

【CONTENTS】

 

 

『さじ加減』の場合

 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

主人公である夫と妻の間の『味覚』に関する物語です。作中に両者の『味覚の違い』を表現する必要があります。

 

【設定】
●主人公(夫)=味覚が正常
●妻=実は味覚に問題があるが、認めない性格

 

「何よ、これ。塩っ辛い!」
 日曜日の昼の事だった。久々に私が作ったチャーハンを食べた妻は、塩が多いと言いだした。
「そうかな……」
「そうよ。だって、あなたインスタントコーヒー、ちゃんと作れないじゃない!」
「それは、そうだけど……」

 

日曜日の昼に、主人公が『チャーハン』を作って妻に出す場面からです。正確には、出した後で、妻が『塩加減』について文句を言う部分です。
物語の『インパクト』と言う点から、この『切り口』としました。これで主人公と周辺人物の関係性や現在の状況等、必要な情報は全て入ります。

そして、最も特徴的なのは妻のセリフです。人物の話し方やその内容で、ある程度性格的なものが表現できるので、これらは有効に活用します。また、そのセリフに答えた人物も同様に性格が表現できるので、この両者を組み合わせる事で人物間の『力関係』も同時に表現が出来ると言う訳ですね。

どのジャンルの小説でも同じですが、基本的には早い段階で読者を物語の世界に案内しなければなりません。今回のテーマである『味』。切り口は基本的にテーマに対して可能な限り、その『中心部分』が良いでしょう。特にショートショートでは、書き慣れていない方の中には『ネタバレ』、つまり『オチ』をひた隠しに物語を書き進めようとする方を見かけますが、これは感心できません。『書ける範囲』に絞って上手に『情報の開示』を行うのです。

 

例えばオチが『誰も居ない』であった場合、その状況を全て伝えたくなければ、

そのフロアには男性の姿は無かった。

とします。実はここには『女性』も居ないのですが、上記の様な書き方をすると読者は勝手に男性は居ないが、『女性は居る』と思い込んでしまいます。これこそがスマートな『ミスリードの基本なのです。

 

 

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『秘密』の場合

 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

主人公の男性と、その浮気相手の女性の物語です。『浮気』がやがて『本気』となり、主人公は妻と別れ話を進めます。

 

【設定】
●主人公=浮気相手に対してどんどん深入りしてしまい、妻との別れを決める。浮気相手の気持ちが『本気』であると確信する。
●浮気相手=主人公ほど『本気』になっていない。

 

 会社の事務所を出て直ぐの廊下でミナコとすれ違った。
「お疲れさま……」
 周囲の者に気付かれぬ様、私の耳元で囁いたミナコは、もう一度こちらを見て目配せをした。
 私は軽い笑みで答える。二人の関係は社内では『秘密』だった。

 

こちらも基本的に必要な情報が入っています。会社内で主人公が女性と挨拶をしますが、二人が親密で、しかも『秘密』の関係。これが『不倫』である事は簡単に想像できます。
主人公はこの関係を五か月ほど前から続けていますが、徐々に『本気』となって、妻とも『別れ話』を進めます。この辺りの心理的変化』を短い作品内で表現しなければなりません。その為『切り口』は、既に二人の関係がある程度『進行』している場所からのスタートとなり、それまでの関係に関しては『回想』となる訳ですが、私は個人的に『ストレートな回想シーン』は好みではありません。これまでにも何度かご説明した事がありますが、これらは『現在の記憶』と言う方法で処理が可能です。

 

【二人の出会い】

ミナコは半年ほど前に、事務員としてやって来た。

 

【二人の関係の始まり】
ミナコがやって来たのは、会社の忘年会の一ヶ月ほど前だった。

 

上記の様に書く事で、簡単にそれらは処理が可能です。そして、この様に『回想』が必要になるのは『切り口』の部分が、その場面よりも時期的に『後』であるからです。時系列的に、物語全体の途中部分を『書き出し』にもって来るのは、そこが最もインパクト』があり、尚且つ必要な情報が入っているからです。これら二つの条件を満たしている部分が、最も『切り口』として『有効な場所』と言う事が言えるでしょう。

 

『青い目の人』の場合

 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

主人公の女性は二十九歳。数日後には三十歳になってしまうと、現在彼氏が居ない事に焦りを感じています。
出会いを求めて街へと繰り出しますが、その時思い出すのは、二年前に出会った『青い目』の男性だった。

 

【設定】
●主人公=現在の年齢は二十九歳で、近く誕生日を迎える。本人は結婚願望があり、三十歳になるまでに『彼氏』が欲しいと焦る気持ちをもっている。

●青い目の人=主人公が過去に出会った男性で当時は恋愛感情は無かったが、現在では『恋』をしていたのだと気付く。基本的に、普段二人は出会わない関係性。

 

 ミキコは十二月生まれだった。誕生月と言えば、外は冷たい冬の風が吹き、ただでさえ人恋しくなる時期だ。
 恋人もいないと言うのに、クリスマスはやって来るし、その数日後には自分の誕生日が待っている。その事が、焦る気持ちに追い討ちをかけているのは言うまでもない。誕生日が来れば、ミキコは三十歳だ。二十代でいられる日は、あと一ヶ月ほどしか残っていなかった。

 

彼氏の居ない主人公が、約一ヶ月後には三十歳になってしまい、本人がその事に対して焦っている気持ちについて、先ずは読者に共感を得る必要があります。その為、現在の主人公が置かれている状況を手早く伝え、尚且つ必要な情報も加える。その辺りの関係から、『切り口』はこの場所からとなっています。
人が悩んだり、焦ったりする場合、それをもっと深刻にする条件は『重なる』ことです。要は複数の問題が一気に襲ってくる環境です。これによって、本人にの気持ちがより『深刻』になってくるのです。そして、これらの環境を事前に作る事で、その後の主人公の行動に対する理解が深まり、例えばそれが『ミスリード』であったとしても、読者はその方向のまま読み進める事になるのです。

 

この辺りの『切り口』はとても重要で、特にショートショートの様に文字数の少ない小説の場合、その『切り口』によって、大きく文字数が変わる事もあります。

例えば文字数制限内に収める事が出来なかった物語でも、『切り口』を変える事によって上手く制限の範囲内に収まる場合もありますし、時には全く違ったストーリーが生まれる事もあります。この様に、『切り口』について考えてみる事は、様々なメリットがありますので、是非お試しください。

 

次回は、ショートショート『クレーマー・クレーマー』の創作プロセス公開です。

 

創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!

先ずは『試し読み』をどうぞ↓↓↓

 

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