ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

ショートショート作家 R・ヒラサワが多方面から小説の書き方を解説。新作随時公開中!

(売れる小説を書くためのヒント)コラム/小説の『切り口』

コラム/小説の『切り口』(後編)

 

小説の『書き出し』とは、そこに書くストーリーがあって、その『冒頭部分』を『どの様に書くか』と言う問題ですが、『切り口』とは、ストーリーの『元』となる出来事の、どの部分から『切り取るのか』と言う部分を指します。今回はどの部分『切り取るのか』と言うお話です。

 

【CONTENTS】

 

 

『さじ加減』の場合

 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

主人公である夫と妻の間の『味覚』に関する物語です。作中に両者の『味覚の違い』を表現する必要があります。

 

【設定】
●主人公(夫)=味覚が正常
●妻=実は味覚に問題があるが、認めない性格

 

「何よ、これ。塩っ辛い!」
 日曜日の昼の事だった。久々に私が作ったチャーハンを食べた妻は、塩が多いと言いだした。
「そうかな……」
「そうよ。だって、あなたインスタントコーヒー、ちゃんと作れないじゃない!」
「それは、そうだけど……」

 

日曜日の昼に、主人公が『チャーハン』を作って妻に出す場面からです。正確には、出した後で、妻が『塩加減』について文句を言う部分です。
物語の『インパクト』と言う点から、この『切り口』としました。これで主人公と周辺人物の関係性や現在の状況等、必要な情報は全て入ります。

そして、最も特徴的なのは妻のセリフです。人物の話し方やその内容で、ある程度性格的なものが表現できるので、これらは有効に活用します。また、そのセリフに答えた人物も同様に性格が表現できるので、この両者を組み合わせる事で人物間の『力関係』も同時に表現が出来ると言う訳ですね。

どのジャンルの小説でも同じですが、基本的には早い段階で読者を物語の世界に案内しなければなりません。今回のテーマである『味』。切り口は基本的にテーマに対して可能な限り、その『中心部分』が良いでしょう。特にショートショートでは、書き慣れていない方の中には『ネタバレ』、つまり『オチ』をひた隠しに物語を書き進めようとする方を見かけますが、これは感心できません。『書ける範囲』に絞って上手に『情報の開示』を行うのです。

 

例えばオチが『誰も居ない』であった場合、その状況を全て伝えたくなければ、

そのフロアには男性の姿は無かった。

とします。実はここには『女性』も居ないのですが、上記の様な書き方をすると読者は勝手に男性は居ないが、『女性は居る』と思い込んでしまいます。これこそがスマートな『ミスリードの基本なのです。

 

 

 

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『秘密』の場合

 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

主人公の男性と、その浮気相手の女性の物語です。『浮気』がやがて『本気』となり、主人公は妻と別れ話を進めます。

 

【設定】
●主人公=浮気相手に対してどんどん深入りしてしまい、妻との別れを決める。浮気相手の気持ちが『本気』であると確信する。
●浮気相手=主人公ほど『本気』になっていない。

 

 会社の事務所を出て直ぐの廊下でミナコとすれ違った。
「お疲れさま……」
 周囲の者に気付かれぬ様、私の耳元で囁いたミナコは、もう一度こちらを見て目配せをした。
 私は軽い笑みで答える。二人の関係は社内では『秘密』だった。

 

こちらも基本的に必要な情報が入っています。会社内で主人公が女性と挨拶をしますが、二人が親密で、しかも『秘密』の関係。これが『不倫』である事は簡単に想像できます。
主人公はこの関係を五か月ほど前から続けていますが、徐々に『本気』となって、妻とも『別れ話』を進めます。この辺りの心理的変化』を短い作品内で表現しなければなりません。その為『切り口』は、既に二人の関係がある程度『進行』している場所からのスタートとなり、それまでの関係に関しては『回想』となる訳ですが、私は個人的に『ストレートな回想シーン』は好みではありません。これまでにも何度かご説明した事がありますが、これらは『現在の記憶』と言う方法で処理が可能です。

 

【二人の出会い】

ミナコは半年ほど前に、事務員としてやって来た。

 

【二人の関係の始まり】
ミナコがやって来たのは、会社の忘年会の一ヶ月ほど前だった。

 

上記の様に書く事で、簡単にそれらは処理が可能です。そして、この様に『回想』が必要になるのは『切り口』の部分が、その場面よりも時期的に『後』であるからです。時系列的に、物語全体の途中部分を『書き出し』にもって来るのは、そこが最もインパクト』があり、尚且つ必要な情報が入っているからです。これら二つの条件を満たしている部分が、最も『切り口』として『有効な場所』と言う事が言えるでしょう。

 

『青い目の人』の場合

 

rhirasawanb.hatenablog.com

 

主人公の女性は二十九歳。数日後には三十歳になってしまうと、現在彼氏が居ない事に焦りを感じています。
出会いを求めて街へと繰り出しますが、その時思い出すのは、二年前に出会った『青い目』の男性だった。

 

【設定】
●主人公=現在の年齢は二十九歳で、近く誕生日を迎える。本人は結婚願望があり、三十歳になるまでに『彼氏』が欲しいと焦る気持ちをもっている。

●青い目の人=主人公が過去に出会った男性で当時は恋愛感情は無かったが、現在では『恋』をしていたのだと気付く。基本的に、普段二人は出会わない関係性。

 

 ミキコは十二月生まれだった。誕生月と言えば、外は冷たい冬の風が吹き、ただでさえ人恋しくなる時期だ。
 恋人もいないと言うのに、クリスマスはやって来るし、その数日後には自分の誕生日が待っている。その事が、焦る気持ちに追い討ちをかけているのは言うまでもない。誕生日が来れば、ミキコは三十歳だ。二十代でいられる日は、あと一ヶ月ほどしか残っていなかった。

 

彼氏の居ない主人公が、約一ヶ月後には三十歳になってしまい、本人がその事に対して焦っている気持ちについて、先ずは読者に共感を得る必要があります。その為、現在の主人公が置かれている状況を手早く伝え、尚且つ必要な情報も加える。その辺りの関係から、『切り口』はこの場所からとなっています。
人が悩んだり、焦ったりする場合、それをもっと深刻にする条件は『重なる』ことです。要は複数の問題が一気に襲ってくる環境です。これによって、本人にの気持ちがより『深刻』になってくるのです。そして、これらの環境を事前に作る事で、その後の主人公の行動に対する理解が深まり、例えばそれが『ミスリード』であったとしても、読者はその方向のまま読み進める事になるのです。

 

この辺りの『切り口』はとても重要で、特にショートショートの様に文字数の少ない小説の場合、その『切り口』によって、大きく文字数が変わる事もあります。

例えば文字数制限内に収める事が出来なかった物語でも、『切り口』を変える事によって上手く制限の範囲内に収まる場合もありますし、時には全く違ったストーリーが生まれる事もあります。この様に、『切り口』について考えてみる事は、様々なメリットがありますので、是非お試しください。

 

次回は、ショートショート『クレーマー・クレーマー』の創作プロセス公開です。

創作が上手く進まない……。そんな時、『もしも……』と、あてはめるだけ!

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(売れる小説を書くためのヒント)今回の作品/AIプラス

今回の作品/AIプラス

 

ショートショート『AIプラス』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

【CONTENTS】

 

テーマからの発想


今回のテーマは人工知能です。『人工知能』と言っても、そのサポート範囲は様々で、確かに『学習』する事に違いはありませんが、近年では本当に『人間』に近いものまであって、技術の進歩も凄いものです。そして勿論ですが、この辺りのお話って、とても小説の『ネタ』にしやすいんですよね。

 

発想からのキーワード選出


人工知能』『学習』『個体差』

キーワードは比較的オーソドックスなものですが、この中でも注目したのが『個体差』ですね。これは一般的には『製品ごとの差』となると思いますが、私が考えたのは、同じ製品でも学習方法やベースとなる『人物』が異なると、習得した内容に大きく変化が出るだろうなと思った訳です。
身近なところではネットの『検索』。これは履歴によって検索画面で『候補』がユーザー毎に異なっていたり、ネットショッピングでは『おすすめ商品』や『広告』の出かたも違いますよね。これがもっと精密な『ロボット』だったら面白いだろうなって、そんなところからの発想です。

 

POINT1:タイトル


タイトルは『AIプラス』です。『プラス』を付けたのは、少なくともこの物語を書いた時点でのAIについて、作中の内容ほどの進歩はしていないと思ったので、現状よりも『先を行っている研究』と言う設定にしたためです。

 

POINT2:書き出し

 

 人工知能である『AI』。例えばロボットなどに搭載されている場合であれば、予めプログラミングされた動作に対し、新たに経験した事を『学習』し、更にレベルアップした動作ができる様にするものだ。最近では随分と進歩はしているが、まだまだ人間に近いとは言い難い。特に初期段階のプログラミングに博士は問題を感じていた。

 

通常の書き出しであれば、この時点でもう少し周辺の情報を入れる段階ですが、今回は『AI』についてある程度説明が必要であった為、この様な書き出しにしています。これはどの作品にも言える事ですが、作者と読者の間にある『知識』について、そのギャップを先ずは埋める必要があります。
そして、次に場面設定。これは単に作者がこれから描く世界について予め設定を明らかにしておかなければ、読者はその作品世界に入って来るのが遅くなってしまいます。特にショートショートの様に文字数の少ない作品の場合、可能な限り『後者』は早く済ませる必要があります。それがあまりに遅いと極端な話、物語を読み終える頃にやっとその世界に『入れた』といった状況になる事もあるのです。

 

POINT3:ユーモア

 

 博士のイメージでは、このロボットが上手く『成長』した時には自分の『可愛い助手』にしたいと考えていた。その為のモデルの候補が二人いて、これは行きつけの飲み屋の女性だった。

 

『飲み屋の女性』についてのくだりは他にも出てきますが、この辺りはユーモラスに書くようにしています。これは単に『笑い』のためだけでなく、今回の作品では大事な『伏線』になっています。
伏線について、その張り方は色々とありますが、読者に気付かれない様する為に、本筋を外して恐る恐る書くのではなく、この作品の様に『ユーモア』を含めるのもテクニックの一つです。何故なら、作中に『ユーモア』を取り入れる為に、時として本筋とは『無関係』と思われる内容を含める事もよくありますので、伏線が本筋と少し『離れた場所』にあるものである場合、特にこの方法が効果を発揮するのです。

 

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POINT4:前半のストーリー


人口知能の研究をしている主人公の博士は、現状の『AIロボット』の初期段階の学習について問題を感じていた。それはベースとなる学習段階が不十分であると言う事だ。

 

主人公は初期段階の知能のプログラミングに、実際のモデルとなる人物の脳をスキャンする事によって、学習させる方法と装置を考案しており、その『モデル』には行きつけのスナックの女性から選出する事を考えた。

 

POINT5:展開~オチ


先々を考えAIロボットの初期プログラミングのモデルは『女性的』な人物を選んだが、細かい気配りが出来る反面、『容姿』に対して神経質な面があり、主人公は少し仕事への支障を気にしていた。

 

体の汚れが気になったAIロボットは、それを綺麗にしようとシャワーを浴び、ショートして『スクラップ』になる羽目になった。

 

総合的なポイント

 

今回、物語のオチ自体にはあまり『捻り』がありませんが、それらをカバーするのは『ユーモア』です。主人公である博士は、少し『女好き』の雰囲気を持っており、『女性に甘い』部分もあります。『オチ』への『伏線』となっているのは、主人公の『女好き』が関係しており、これによって『初期プログラミング』でモデルとなる女性の『選択ミス』をして、これが最終的に時間をかけて成長させた『AIロボット』を『スクラップ』にさせてしまう原因た訳です。これらをユーモラスに描く事によって、それを『伏線』である事に『気付かせない効果』が生まれるのです。

 

 

コラム/小説の『切り口』(前編)

 

『動画』は、その中に『構成』や『ストーリー』があって、それらは作者が意図した順番で視聴者にみせる事が出来ますが、小説の『書き始め』はいわゆる『静止画』の如く、作者が意図した通りに読者にイメージを上手く伝えなければなりません。その為に『切り口』、要は『書き出し』がとても重要になってきます。
ショートショート』は短い物語です。如何に上手く伝えたい物語の『切り口』を作るかで、作品の良し悪しは随分と変化するのです。

 

更に詳しい内容については次回、小説の『切り口』(後編)にてお話ししたいと思います。

 

 

 

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(売れる小説を書くためのヒント)コラム/単調な(伝わりにくい)文章にならないコツ(後編)

コラム/単調な(伝わりにくい)文章にならないコツ(後編)

 

【CONTENTS】

 

 

小説を書く場合、そのジャンルや物語の長さに関わらず、登場人物の様々な事柄について作中での『説明』が必要になります。しかし、この『説明』ですが、本当の『説明』の様な文章ばかりになってしまうと、読者にとって『読みづらい作品』となってしまいがちです。この『読みづらさ』は、場合によって読者の理解力にも影響する事があります。
例えば学生時代、教壇に立つ人によって理解の『しやすさ』に差を感じた経験はありませんか? 全く同じ事に関して説明を行った場合でも、聞いた側の人の『理解力』に大きく差が出る事は、実によくある事なのです。
小説も同じです。物語も、ある意味で『作家』が読者に『説明』をしている訳です。確かに物語である以上、本当に『説明』をする訳ではありませんが、書き方によって『理解度』や『面白さ』には大きな差を生んでしまう要素があるのです。

 

※過去にある作品を読んだ時、色々と感じた事があって今回の記事へと繋がった訳ですが、今回は記事用に私がアレンジした『架空の作品』である為、物語性があまり良くありませんが、あくまで『解説用』とご理解ください。

 

現在時刻や経過時間

 

今の時刻は午前三時だった。普段よりも早く目覚めてしまった。いつもは五時に起きて朝食の準備をし、六時には家を出る。六時半ごろに到着する電車に乗るのだが、それまでの自転車の時間や少しの余裕時間を考えて、カズヤは毎日このルーティンで生活している。しかし、今日の様に不意に目覚めてしまうと、それ以降全く眠る事が出来なくなってしまうのだ。

 

【改善後の文章】

今の時刻は午前三時。普段より二時間も早く目覚めてしまった。いつもは五時に起きて朝食の準備をし、一時間後には家を出る。その後、電車に乗るまでは、自転車などの余裕時間を含めて三十分とってあり、カズヤは毎日このルーティンで生活している。しかし、今日の様に不意に目覚めてしまうと、それ以降全く眠る事が出来なくなってしまうのだ。

 

作品例では控えめになっていますが、時間的な羅列が続くと、読者の頭に入りにくくなる事があります。これらを解消する方法は『デジタルをアナログに変える』です。
さて、この意味ですが、時計で言うところの『アナログ時計』は現在時刻から別の時刻について考える場合、『あと何時間後』と計算するのが、とても分かりやすいですよね。これは計算しているのではなく、文字盤をひと目見ただけで把握出来るからです。
これらは文章でも同じ表現が可能で、『何時』と書いて読者に計算させるのではなく『何時間後』と把握し易い情報を提供しておくのです。

 

職業や家族構成

 

カズヤは長男で職業はサラリーマンである。三つ年下の弟はプロを目指してバンド活動を続ける中、アルバイトでなんとか生計をたてている。規則正しい生活のカズヤと違って弟は不規則な生活で、最近のシフトでは夜の十時から翌朝の二時まで働いている。その後マンションに帰ってからシャワーを浴び、昼の十二時頃にやっと目覚めるといった生活パターンで暮らしているが、この時間は時々変わる事もあって、父親の店について二人で話し合わなくてはならないが、平日では時間の調整のつけようがなかった。

 

【改善後の文章】

カズヤは長男で職業はサラリーマンである。三つ年下の弟はプロを目指してバンド活動を続ける中、アルバイトでなんとか生計をたてている。規則正しい生活のカズヤと違って弟は不規則で、最近のシフトでは夜の十時から四時間働き、その後マンションに帰ってからシャワーを浴びて、正午頃にやっと目覚めるといった生活パターンで暮らしているが、この時間は時々変わる事もあって、父親の店について二人で話し合わなくてはならないが、平日では時間の調整のつけようがなかった。

 

前述の例と似ていますが、やはり『時間』に関する表現は、『時刻の羅列』の場合、作者は感覚的に理解していても、読者側に上手く伝わらない、つまり『直感的』に分かり易くなる工夫が必要です。
また、時間以外でも『数値』を扱う場合ですが、はっきりと『数』を書いた方が良い場合と、他の表現方法で『おおよそ』を伝えた方が良い場合があり、それらは前後の文章などと共に『伝わりやすさ』を考慮した上で書き方を決定されるのがよいかと思います。
特に今回は『十二時』と『二十四時』をまたぐ部分があり、書き方によっては『昼』と『夜』を一瞬でも混同させてしまう可能性があります。『午前』や『午後』を入れる事で区別されている場合でも、可能な限り前後の文章で直感的にそれらを書かなくとも把握出来る状況を作っておいた方がベストでしょう。
私はブログ等でよく書いていますが、『読書の中断』は可能な限り避けるのが良いでしょう。

 

 

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主人公から見た周辺人物の心理

 

キヨミは声を荒げて文句を言った。きっとカズヤの返事が気に入らなかったに違いない。テーブルの上にあったスマートフォンや、化粧道具をまとめてポーチにねじ込み、大きなドアの音と共に、カズヤを置いて部屋を出ていった。今度はキヨミが本当に戻って来ないのではないかとカズヤは思った。

 

【改善後の文章】

「もっと他に言い方あるでしょ!」キヨミは声を荒げて言った。きっとカズヤの返事が気に入らなかったに違いない。テーブルの上にあったスマートフォンや、化粧道具をまとめてポーチにねじ込む。
「もう戻って来ないから!」
大きなドアの音と共に、カズヤを置いて部屋を出ていった。

 

主人公の『視点』で描かれた作品の場合、周辺人物の心理については『憶測』となります。それは、その人物の『行動』や『言動』から『察する内容』となる訳ですが、他人の内面に関しては、現実世界においても『本人に聞かなければ分からない』という事もありますので、これは物語でも同様で、実際の本人による『行動』『言動』が最も伝わり易いでしょう。その意味で可能な限り本人が『動く』『話す』といったアクションを行う流れにするのが良いでしょう。

 

主人公の体感

 

昼間の室内の気温は異常に高かった。少し動けば直ぐに汗ばんでしまう。乾いた喉を潤すためにカズヤは仕方なく冷蔵庫の方へ向かったが、部屋を出ると直ぐに熱気が襲ってきた。この部屋のクーラーは古く、もう冷房もあまり効かなくなっているようだ。

 

【改善後の文章】

昼間の室内の気温は異常に高く、少し動けば直ぐに汗が滴り落ちる
乾ききった喉を潤すためにカズヤは仕方なく冷蔵庫の方へ向かったが、部屋を出ると直ぐに熱気が襲ってきた。この部屋のクーラーは古く、冷房の温度設定は、もうこれ以上下げれない。

 

例えば『暑さ』などの表現の場合、可能な限り『極端』な方がいいでしょう。
『汗ばむ』よりも『汗が滴り落ちる』の方が、『とても暑い状態』を表現しており、これは作者がどの様な場面を設定したいかにもよるのですが、読者的には後者の方が『共感』しやすくなるでしょう。
また『動作』についても同様で、こちらは『限界点』の表現、例えば車のハンドルを切る場合、『大きく左にハンドルを切った』でも良いのですが、この『大きく』の感覚は人それぞれで、それが『限界点』に達するものであれば、『これ以上、左にハンドルが切れなかった』とした方が、それを『限界点』までもっていった事が伝わり、誰が読んでも、これは『限界点』となるのです。


次回は、ショートショート『AIプラス』の創作プロセス公開です。

 

 

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(売れる小説を書くためのヒント)今回の作品/ある研究施設からの手紙

今回の作品/ある研究施設からの手紙

 

ショートショート『ある研究施設からの手紙』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

【CONTENTS】

 

テーマからの発想

 

今回のテーマは『薬』です。薬と言えば、風邪をひいた時など、人に限らず動物や植物の悪いところを『改善』する為に使われるのが本来の用途です。
しかし、その効果を悪用して『犯罪』に使われたり、処方された通りに使っても『副作用』が出る場合もあります。
この様に、本来の用途以外の使い方が出来る、或いは元々複数の用途があるものは、ある意味小説では『便利なアイテム』として使う事が出来るのです。


発想からのキーワード選出

 

『薬』『治療』『副作用』

今回のキーワードは、比較的シンプルなものでした。前述の通り『薬』には本来とは違った用途がある事は、ある程度一般的な認識としてあった事なども関係していると思いますが、テーマの段階でも、既に『アイデア』は浮かんでいたのです。

 

 

POINT1:タイトル

 

タイトルは『ある研究施設からの手紙』です。私が作中で『手紙』を使用する事は滅多にありませんが、今回は物語の『アイデア』が出た時点で、『手紙』を使う事は直ぐに決定となりました。
『手紙』も『薬』と同様で、様々な使い方が比較的浮かびやすい物であると思います。元々は『郵便』で送られる、『離れた相手』に何かを伝える物だと思いますが、『ラブレター』の様に、本人に直接伝えにくい事に『手紙』を使ったりと、ある意味そこに『時間差』を産むアイテムとして使う事も出来る訳です。
そして『研究施設』です。毎回の事ですが、先ずタイトルは『作品全体』を表す事が重要です。次に『読者の興味』です。特に今回のタイトルは、全体を表してはいるものの、尚且つ『曖昧』な表現を含んでいます。この『曖昧な部分』こそが、読者の『知りたい』という気持ちを刺激するのです。


POINT2:書き出し

 

 こんな話を、一体誰にすればいいのか……。
 とある研究施設での話だが、その内容があまりにも恐ろしく、これまで誰にも話す事が出来なかった。だから、こうして誰に宛てるでもなく手紙を書こうと思っているが、どうにも思う様に筆が進まないのである。

 

小説の書き出しの基本として『不明点』を散りばめる事が重要です。今回の書き出しで言うならば、先ずは『誰?』です。研究施設の事について、手紙を書こうとしている人物が一体誰なのか? 最初に起こる疑問です。次に『何?』です。研究施設での話の中で一体何が『恐ろしい』のか?
文章を魅力的にする方法の一つとして、常に『謎の部分を作る』があります。これを繰り返す事によって、読者は先へ先へと読み進めてしまうのです。

 

POINT3:ユーモア

 

特に『ユーモア』的な部分は作っていません。今回の物語の場合、如何に『リアリティ』を持たせるかが重要になってきます。例えば『施設周辺』の立地などは、実在する場所をアレンジしています。また、そこでの人の流れなどは、同じ場所での環境をある程度調査しています。ショートショートは短い物語ですが、前述の様な『リアリティ』については、他のジャンルの小説と全く同じで、これらに時間をかける事を怠ってはいけないと私は思うのです。

 

 

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シリーズ第二弾

シリーズ第三弾

 


POINT4:前半のストーリー


ある研究施設についての恐ろしい出来事を、主人公は誰かに伝えようと手紙を書くことを試みるが、どうにも上手く筆が進まない。


主人公は不治の病に侵されており、その治療方法を様々な方法で調べた結果、治せる可能性のある薬が問題の研究施設にあるとの情報を得る。


POINT5:展開~オチ


主人公はネットで得た情報を頼りに研究施設に忍び込み、上手く『治療薬』とされる錠剤を入手し、直ぐさまそれを施設内で服用し、徐々に体に変化が現れる。

 

主人公が服用した薬は植物の遺伝子研究施設で偶然に人間の病気に効果が得られるのが分かったものであったが、重大な副作用があった為に認可がおりず、薬として発売が出来なかった。その『副作用』とは、人間が『植物化してしまう』と言う事だった。


総合的なポイント

 

今回の作品は、少し『ホラー』的な要素を含んでいます。そのため、出来る限り『怪しい雰囲気』を演出する様に書いてみました。『描き出し』の部分で『手紙』を使ったのも、その効果を得る為ですが、作中に実際『手紙』は存在しません。
手紙を『書こう』と思ったが『書けない』。その理由として、物語を読み始めた読者の方は、『書くと不都合がある』といった理由を想像したかもしれません。要するに、施設の関係者から『命を狙われる』或いは、そこまで行かずとも『訴えられる』などの場合もあるかもしれません。しかし、実際にはそうではありません。主人公は既に『ペンが持てない状態』にあるのです。

過去の記事で、私は常々ショートショートの『オチ』に関して書いている事があるのですが、『伏線』を張る時のコツは、『事実だけを書く』で、これに尽きると思います。
ショートショートを書き始めた、或いは慣れていない方の場合、どうしてもオチを『ひた隠す』傾向にあります。『ネタバレしない様に』との思いは理解出来るのですが、無理にギリギリのラインを狙って書く為か、中途半端な『ぼかし』や、『回りくどさ』が目についてしまい、そこに生まれる『違和感』は、『読みにくさ』だけでなく『この辺が怪しいな』との『きな臭さ』まで与えてしまい、結果的に不十分な『仕掛け』になってしまう可能性が高いのです。

話を元に戻しますが、今回の作品で言う『事実だけを書く』は、『どうにも思う様に筆が進まない』の部分です。
主人公は既に飲んだ薬の効果、要は『副作用』によって、自分の思う通りに体を『動かす事が出来ない』訳です。この『体が動かせない』と言う事実を、無理に書こうとすると『違和感』が生まれます。これは簡単に言えば同じ事を表現する『別の言い回し』を考えると言った方が分かりやすいかもしれません。この様に『言い換える』事によって、事実だけを『堂々』と書く事が出来ますし、そこに『違和感』も生まれないのです。

 

 

コラム/単調な(伝わりにくい)文章にならないコツ(前編)

 

どのジャンルの小説であっても、登場人物の置かれている『状況説明』が必要です。小説における説明とは、地の文で実際の『説明』の様に書く場合もありますが、その様な文章が続くと、単調で面白さに欠けてしまう場合もありますし、また、その情報量が多く、『羅列』の如く並んでしまった場合、読んだ時にそれぞれのインパクトが弱くなる事で、読者の方の『記憶』に残りにくくなる可能性があります。
如何にして変化を付け、印象深い文章にするのか? 更に詳しい内容については、次回の『単調な(伝わりにくい)文章にならないコツ(後編)』にてお話ししたいと思います。

 

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(売れる小説を書くためのヒント)コラム/作中に入れる人物名の頻度

コラム/作中に入れる人物名の頻度

 

【CONTENTS】

 

頻度についての問題

 

小説書く時、その中の人物の行動や内面描写をする時など、必要に応じて『人物名』を入れるが普通ですが、この『頻度』が適当でないと、読者のかたは読みにくさを感じてしまいます。
例えば『少ない』場合。登場人物が比較的少ない、或いは場面ごとに係る人数が少ない場合はあまり問題にならないかもしれませんが、そうでない場合、読んでいて『誰』の行動や言動であるから分かりにくくなる事があります。
例えば、これがその先をある程度読み進めれば理解出来たとしても、それが『小説世界』から『現実』に引き戻してしまう要素となる為、避けるべき問題です。


【例文】

その日のマユミの服装は、とにかく派手だった。周囲の人達の視線がマユミに集中しているのが分かる。マユミにはその反応が心地よかった。この店とは、およそ不釣り合いな格好のマユミは、フロア内を歩き回る。
店員達の冷ややかな視線に、マユミの心は過剰に反応した。マユミはヘッドフォンから流れるリズムに合わせながら、大袈裟に腰をくねらせ、更に店内を歩き回る。マユミの気分はすっかり『ハリウッド女優』の様だった。
【198文字の中に『マユミ』は7回登場】


人物名を入れるタイミング

 

私は普段から小説の書き方について、何かの意図がある場合は、より『適した方法』がありますが、それを除く場合に関して特に『書いてはいけない』や『間違い』は無いと言う考え方です。
今回の『登場人物の名前を入れる頻度』についても、本来は問題視していません。しかし、例えば書いた作品を『文学賞』や『コンテスト』に応募するとなれば、事情は変わってきます。例えば『文学賞』の場合、受賞作は当然『出版』される訳ですから、出版社としては勿論『売れる本』でなくてはなりません。その為には多くの読者を獲得する必要があるので、『広く世間に受け入れられる作品』である必要があるのです。そうなると、多くの読者が『読みやすい』と感じる文章を書く必要が出てくるのです。


私が考える頻度

 

【アレンジ後の例文】

その日のマユミの服装は、とにかく派手だった。周囲の人達の視線が自分に集中しているのが分かる。マユミにはその反応が心地よかった。この店とは、およそ不釣り合いな格好でフロア内を歩き回る。
店員達の冷ややかな視線に心が過剰に反応したマユミは、ヘッドフォンから流れるリズムに合わせながら、大袈裟に腰をくねらせ、更に店内を歩き回り、気分はすっかり『ハリウッド女優』の様だった。
【183文字の中に『マユミ』は3回登場】

 

例文をアレンジしたところ、人物名は約半分になりました。個人的にはこの方がスッキリとして、読みやすいと思います。今回取り上げた例文では、作品のほんの一部ですが、同様の書き方をする作者の方であれば、この傾向は作品全体に渡るものになる事が考えられます。
読みやすさと言う点は勿論ですが、私の書く『ショートショート』等の場合、『文字数制限』がある事が多く、今回の様に『人物名』を減らす事によって使える文字数が増えますので、それらを作中の『表現』に使う等、有効に活用させる事によって、作品に厚みを持たせる事が可能になります。それは勿論、作品の『レベルアップ』に繋がるのです。

 

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迷った時の判断基準

では、実際に人物名を作中に入れるタイミングなのですが、私が考える『適切な位置』について説明したいと思います。

 

❶動作の開始部分
❷他者との切替え
❸特別な心理描写
❹特別な動作
❺強調すべき部分

 

❶その日のマユミの服装は、とにかく派手だった。周囲の人達の視線が自分に集中しているのが分かる。❸マユミにはその反応が心地よかった。この店とは、およそ不釣り合いな格好でフロア内を歩き回る。
❹店員達の冷ややかな視線に心が過剰に反応したマユミは、ヘッドフォンから流れるリズムに合わせながら、大袈裟に腰をくねらせ、更に店内を歩き回り、気分はすっかり『ハリウッド女優』の様だった。

 

例文に出てこなかった❷と❺は、以下の様な部分で使用します。

 

【❷の場合】
周囲の人達の視線が自分に集中しているのが分かる。
→周囲の人達の視線がマユミに集中していた。

少し文し文章が変わりますが、直前までは『マユミ』について語っており、この部分から『周囲の人』について語っています。ここでは『誰』について語っているかが分かる必要があるので『マユミ』を入れています。

 

【❺の場合】

大袈裟に腰をくねらせ、更に店内を歩き回り、気分はすっかり『ハリウッド女優』の様だった。

この文章をアレンジします。原文では『マユミ』だけが店内いる状況ですが、例えばここに複数の人が居たとすると、それらの区別を含めて『人物名』を入れる必要が出てきます。

→大袈裟に腰をくねらせ、マユミは更に店内を歩き回り、気分はすっかり『ハリウッド女優』の様だった。

この文章では、複数人いる中の一人である『マユミ』が店内を歩き回っている様子が書かれています。この様に、誰かとの動きに区別をつける場合、要は『強調』したい場合にも、人物名を入れるのが有効になります。

 

【人物名を削るタイミング】

では、逆に人物名を入れすぎて、『削りたい』時はどうすれば良いでしょうか? この様な状態になってしまうのは、一度書いてみた文章で既に色んな所に人物名を入れてしまったが、どれも重要で『削る』のが難しくなった事が考えられます。この場合、原文をそのままに『削る』作業は少し難しい場合もあるでしょう。
先ずは以下のタイミングを読んでいただき、その上で文章にアレンジを加えるのが良いかと思います。

 

❶同一人物の区切られた動作だが、他社との区別がつけやすい

❷人物の心理状態などの特別に協調すべき部分がなく『誰』によるかが明確
❸その場面に複数人居るが、動作が全体を表している、或いは単独で誰の動作か明確だが強調の必要がない

 

『頻度』については特に決まりがある訳ではないので、一般的には『読み易さ』と言う事になると思いますが、何か意図があってそれらをコントロールする場合もありますので、その辺りは『読み返す』事によって決定されるのが良いかと思います。

 

次回は、ショートショート『ある研究施設からの手紙』の創作プロセス公開です。

 

 

 

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(小説のアイデアを探せ!『パートナー』がテーマの作品例)新作ショートショート(27)/バーチャルパートナー

新作ショートショート/テーマ(パートナー)

 

 

バーチャルパートナー

 

「彼女との結婚を考えているんだけど、決めかねててさ……」
 アキヒコには付き合って三年になる彼女がいる。しかし、度々ケンカする事もあって、これまでに別れ話が出た事もあった。
「ああ、それなら『バーチャルパートナー』を試してみればいいさ」
 友人が紹介してくれたのは、結婚を考えているカップルが、実際の相手と同じ条件の『バーチャルパートナー』と一定期間生活を共にする『疑似体験』が出来るサービスである。予め様々な項目のデータをインプットしておくだけで、3Dグラスによって、映像上では実際に部屋の中で一緒に過ごしている感覚になるそうだ。
 アキヒコは早速、この事を彼女であるメグミに相談してみた。
「バーチャルパートナー? ふーん、それって事前に二人の相性が良いかどうかを試せるって訳ね……。まあ、いいわ。とにかくやってみましょう」
 メグミには少しの躊躇が感じられた。アキヒコはその理由が、二人の間に少なからず不安を感じているからだと思った。しかし、それはアキヒコも同様で、普段の仲の良さがある一方で、些細な事でケンカをしてしまう、そんな日常が大きな亀裂を産んでしまうのではないかと言う、そんな不安があったからである。
 アキヒコには、既に結婚生活十年を迎える先輩がいて、その人のアドバイスで、結婚までに『同棲』はしておいた方が良いと言われた。これは要するに、恋人同士とは交際中でも別々に暮していると、結局は『見えない一面』があり、これが生活を共にした途端に露呈し始める。この問題が軽度ならいいが、『重度』な事があると言うのである。先輩夫婦は、結婚に至るまでの同棲期間が一年近くあって、互いに良いも悪いも受け入れる事が出来そうなので、めでたくゴール出来たという事である。
『バーチャルパートナー』のシステム導入は実に簡単だ。予め決まった項目に情報を入力しておくだけで、後は実際に本人のとった行動や言動が徐々にシステムに反映されてゆく。
 先ずは導入前の二週間でデータを収集し、これらを基本として人間像を形成する。その後は学習を繰り返し、リアルな『パートナー』が用意されるのだ。
 システムを利用する期間はユーザーが決める事ができ、一日単位で『解約』も出来る。利用者は自分達が納得のいった時点で、いつでも『リアル』な世界に戻って、実際のパートナーと暮らせばいいのだ。
「あなたって、やっぱり『片づけ』が下手よね……」
 『バーチャルなメグミ』は毎日のように小言を漏らす。正直なところ、それは気になるが、これはどの家庭にもある事だろう。それよりも、『バーチャルなメグミ』が働き者である事に関心した。家事に料理にと家中を動き回り、細かい所にもよく気が付く。こうしたきめ細かい部分が『小言』に繋がってしまうのであれば、それも仕方のない事だろう。
 パートナーが『バーチャル』であるがゆえ、全ての行動が『映像』の中なので、掃除については『汚れ』はそのままだが、作った料理は『味覚センサー』によって『味』を体感出来る。『バーチャルなメグミ』の作る料理の味は絶妙で、これほど料理上手だとは思わなかった。
 アキヒコ達はこのシステムの契約期間を『二ヶ月』とし、満了時にお互いの気持ちを確認し合う事にした。『バーチャルなメグミ』とは、やはりケンカをする事があった。しかし、これまでとは違って、仲直りが早かった。これは同じ空間に居る事で、悪い空気を早く払拭しようという気持ちが働くからだろう。新たな発見が色々とあって、システム導入による収穫はとても大きかった。
「これならやっていけそうだ」
 アキヒコは思った。メグミとの問題は『些細な事が原因のケンカ』ぐらいで、他に生活する上での問題は特に無さそうだ。むしろ彼女の気配りの良さや、料理上手な面は、アキヒコが惚れ直す要因となった。アキヒコの中では、メグミとの結婚は決定的だった。後は契約の『二ヶ月』が満了するのを待つだけであった。
 契約から二ヶ月。このシステムは終了だ。アキヒコは『現実のメグミ』に会い、二人が別々に使用していた3Dグラス等、レンタルしていた機器を返却し、契約を解除した。メグミの話では『バーチャルなアキヒコ』は、とても良かったそうだ。
 アキヒコはこの日を待っていた。ついに『現実のメグミ』にプロポーズをするのだ。用意しておいた『婚約指輪』を手に、アキヒコが言う。
「メグミ、僕と結婚して欲しい」
 メグミはひと呼吸おいて返事を返す。
「やっぱり……。それは出来ないの」
 その日、アキヒコはメグミからはっきりとした理由を聞く事が出来なかった。『とにかく無理』との一点張りだった。
 過日、メグミが同時にもう一台の『バーチャルパートナー』を試していた事、そして、その『現実の相手』と婚約をしたと言う話を、アキヒコは知人から聞いた。

 

 

 

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(小説のアイデアを探せ!『予言』がテーマの作品例)新作ショートショート(26)/予言する男

新作ショートショート/テーマ(予言)

 

 

予言する男

 

 男は子供の頃から超能力や霊感などに興味があり、そして自分には『予知能力』があると強く信じていた。身近なところでは天候などを時々友人に告げ、相当な確率で的中していると本人は語っていた。しかし、友人達は皆共通して、男の予言を直接聞いた事がなかった。だから、男を知る人達は、実際に男が事前に『予言』をしていて、本当に『的中』させているのかについて、とても疑わしい気持ちを持っていた。
 男は社会人になっても、同様の事を繰り返した。結局、周囲の誰もが男の『予言』について信じていなかった。
 ある日、会社の帰りに数人の同僚たちと最寄り駅まで歩いていた時、突然大雨が降り出した。最近よくある『ゲリラ豪雨』である。皆が一斉に雨を凌げる場所を求めてあたふたとする中、男だけは落ち着いて『折り畳み傘』を広げ、悠々と歩き始めた。そして男は言った。
「今日は突然の雨が降るって、今朝ちゃんと予言したんだ」
 そう言って皆にスマホの画面を見せ、今朝撮ったと言う『予言の動画』を見せた。確かに日付は合っているし、時刻は朝の七時頃で、本当に予言していたのかもしれない。しかし、ここに居る同僚の中には日中顔を合わせた者も居たが、事前に『予言』を聞いてはいなかった。結局のところ、今回の場合も『事後報告』となった為、『予言』に関する信頼を得るに至らなかった。
「キミの『予言』が本当だったとして、ボクは何か精度のいい『天気予報アプリ』でも入れてるんだと思うけど?」
同僚の一人が言った。
「そんなもの使ってないさ」
「いいや、何か『カラクリ』がある筈だ」
「そんな事はないさ。それに『天気予報アプリ』なんて言ったけど、色んなのを調べてみればいい。今日の雨は、どのアプリでも的中出来なかった筈だよ」
 それを聞いた同僚が、ムキになってしばらく色んなアプリを調べてみたが、それらしい予報は全く見つからない。それでも納得のいかない同僚は言う。
「キミの傘は『折り畳み傘』だろ? そんなのは常に鞄に忍ばせておけば、予言も何も関係ないじゃないか!」
「おいおい、よく見てくれよ。ボクは確かに普段から『折り畳み傘』を持っているよ。だけど、これは今回の『豪雨』に合わせてわざわざ『大きい折り畳み傘』に替えておいたのさ。ほら、いつも持ってるのはもっと小さいだろ?」
「普段キミがもっている傘なんて、いちいち見てないから、それが本当かなんて判断出来ないよ」
 夜になって、今回の『ゲリラ豪雨』はニュースで取り上げられるほど予想外の雨だった事が分かった。それでも男の『予言』が周囲の人々から信じられる事は無かった。それは男の予言がいつも『事後報告』だった事と、『予言』の前後で男の周辺に大した変化が起こらない事ばかりだったからである。
 例えば今回の『豪雨』だ。男が上手く傘で雨を凌げただけで、それ以外の変化は何もない。たまたま当日に同僚も一緒に居たが、これが目撃者も無く、数日後に聞いた話だったとしたら、事実かさえも分からないし、この時の傘にしても、男が普段から常に持ち歩いていた方の傘かもしれない。今回も男の『予言』を信じる者は一人も現れなかった。
 結局、男の『予言』は信頼性の無さから、誰かに何かを警告したとしても、注意を払うような人は現れないのである。
「今度さ、ついに我が家に大金が舞い込むんだ」
 過日、男は同僚達がいる前で珍しく『予言』をした。少なくとも、ここに居る数人の同僚達は、『事前』に『予言』を聞いたのが初めてである。皆は一瞬『オヤ?』っと言う表情になったが、それ以上の反応はしなかった。そして、少しの間を置き、先日の豪雨でツッコミを入れた同僚が口を開いた。
「キミが前もって『予言』をするなんて珍しいな。少なくともボクが聞いたのは初めてだし、他の皆も、きっと同じだと思う」
「ああ……。そうだったかな」
「そうさ、いつでもキミは『事後報告』だからね。ところで『大金』って、一体どれぐらいの金額が入るんだ?」
「はっきりは言えないけど……」
「分からないんだろ? 結局、『事後』にならないと」
「そ、そんな事ないさ。す、数千万円だよ……」
「『数千万円』だって? こりゃ、傑作だ! じゃあ、それが入ったら、ここに居る皆に豪勢な飯でもおごってくれよ」
「そうしたいところだけれど……。多分無理だと思うよ……」
 その言葉を聞いても、皆は無反応だった。ここに居る誰もが、男の『予言』が当たる事に期待などしていない。
「ほら、もう直ぐだ! と、とにかくキミ達、危ないから早くボクから離れて!」
 男が急に大声で言った。しかし、その言葉を聞いても、誰一人として、男から離れようとする者は居なかった。
 その直後、皆が歩いていた横の建設中のビルから、大きな『落下物』があった。それは男を含む同僚たち全員に覆い被さるほど大きな物で、その下敷きとなって全員が命を落とした。
 過日、男の妻に『数千万円』の『保険金』が舞い込む事になった。

 

 

 

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