ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

驚愕!人を欺くイリュージョニスト#イリュージョン

新作ショートショート/テーマ(仕事)

 

イリュージョニストの仕事

 

 

ー人を欺くのが仕事だぞー
 私はもう一度自分に言い聞かせてみた。しかし、これはあくまでいい意味での『欺き』であり、マジックでの『意外な結末』を意味している。
 大がかりな『イリュージョン・マジック』の世界において、私は既に『世界的イリュージョニスト』としての地位を確立している。しかし今回、その私を『本当に欺く者』が現れたと言う事だ。
 脱出マジックの開始時、私の両手にかけられた手錠が外れないのである。
ー本物だー
 この手錠は『アーミー・ショップ』などで売られている、要は『仕掛けのない手錠』で、アシスタントの女性がこれをかけた時、今思えばいつもと違う音がした様に思うし、手に触れた感触も違っていたかもしれない。誰かの企てによって予め手錠がすり替えられたのだ。
 私には何人かの弟子がいた。これまでトラブルの類は一切無かったし、『独立』の気配を感じさせる者も居ない。正直なところ、周囲に敵が居るとは思えなかった。
「一体、誰なんだ!」
 私は思わず声を上げた。しかし、今は犯人探しどころではない。どうにか脱出方法を考えなくてはならないのだ。
 特製『イカダ』で作られた『海上ステージ』の上に建つ『プレハブ小屋』の中に私は居た。両手に手錠をかけられた状態で、等身大の黒い巾着袋に入っている。唯一『顔』だけが出ている姿は『大きなイモ虫』の如く、全く身動きがとれなかった。
 三十秒後にはメインステージと、この海上ステージを繋ぐ『架け橋』が爆破される。更に三十秒後には、この小屋も爆破されるのだ。
「今回は『火薬』の量を増やしてよ。そうだな、いつもの倍ぐらい、なんてね……」
 普段から私がよく言う冗談だったが、今回は本当に火薬の量を増やしていると聞いた。もしもそうだとすれば、『あの一言』は自殺行為に他ならない。
ー小屋ごと私も吹き飛んでしまう!ー
 とりあえず拳をすぼめてみるが、こんな方法で手錠が抜ける筈もない。それどころか、もがいた事で余計に強く締まった様だ。手錠は絞める方向には進むが、外れる方にはロックがかかる仕組みになっている。
「誰がこんな物を考えたのだ!」
 叫んだところで事態は好転しない。とにかく『脱出』しなければ……。
ードッカーンッ‼︎ー
 一度目の爆破音が聞こえた。いつも以上に衝撃が強い。間違いなく火薬の量は増えている。
 既に『架け橋』は無く、粉々で海に浮かんでいる筈だ。これらの残骸を効率よく回収する為、海の中には『網』が沈めてある。
 もう時間が無かった。海上ステージに繋がる『架け橋』は、中央と両端の三箇所同時爆破によって完全に水上ステージからの経路が断たれる。残された移動手段は『海中』だけだが、それをボンベ無しで泳ぎ切るにはあまりに遠い。
 この脱出不可能であると思われる『追い込まれた世界での成功』にイリュージョンの価値がある。
 問題は『二度目の爆破』である。それは今、私が脱出できずに居るこの場所だ。ここはお客から最も離れており、尚且つ『海上』にある。そうした条件とステージの『クライマックス』と言う事もあり、爆破の規模はこちらの方が大きい。その時ここは『木っ端微塵』になるだろう。
 一度目で『架け橋』を爆破した後、お客は用意されたバスで『メインステージ』から『サブステージ』へと移動する。
 この『サブステージ』は『海上ステージ』の反対側に位置しており、お客は倍ほど遠い位置に移動して私の登場を待つ。通常『サブステージ』には『コース料理』が用意してあり、イリュージョンのクライマックスを迎えた後、その感動の中で美味しい料理を堪能しながら、そこは『パーティー会場』となり、ステージの成功を皆で祝うのだ。
 しかし、もう時間が無かった。二度目の爆破まであと僅かだ。お客は案内された『サブステージ』で、絶対に不可能な筈の『イリュージョン』の成功を、そこで待っている。いつもなら既に移動を終えた私が、お客達の『熱』を感じている頃だ。しかし、今日の私はそこに居ない。
ーそれにしても、誰が私を『欺いた』のだー
 このイリュージョンが失敗に終われば、これまで私が築き上げた『世界的イリュージョニスト』の名に傷が付く。この事態は何とか避けたかった。
ードッカーーーンッ‼︎ー
 二度目の爆破音は、いつもに増して激しいものだった。プレハブ小屋は宙を舞い、そこに残る筈の『イカダ』は原型を留めなていなかった。
 スタッフに案内されたお客達が、サブステージの中でクライマックスの瞬間を待っている頃だ。私の登場シーンは、いつも以上に意外性のあるものを用意していたが、それを披露できそうになかった。
 その頃、サブステージの中には一人のお客も居なかった。
「ねえ、一体いつまで待たせる気!」
「そ、それが……」
「もう『最後の爆破』は終わったんだ! なのにクライマックスが見れないってどう言う事なんだ!」
「す、すみません! どうしても入り口のドアが開かないんです‼︎」
 サブステージの外に列を成したお客達は、いつまで経っても開かないドアを、願う様な気持ちで見つめるしかなかった。やがて一人、二人と帰り始め、全てのお客が『クライマックス』を見る事なく、この場を去った。
 この問題を受けて、今回のマジックショーの企画会社は、全てのお客にチケット代を返金する事態となった。
 過日、私のイリュージョンは『セキュリティ装置の異常による問題』として扱われ、その責任を取る形で私はこの世界から引退したと伝えられた。
 私に万が一の事態が起こった場合、サブステージの入り口は自動ロックがかかり、私が居なければ解錠できない。この仕掛けは、私以外に誰も知るものは居なかった。
 自分の名誉は自分で守る。如何なる時でも『常に周囲の人々を欺く』のが我々『イリュージョニストの仕事』なのだ。

 

 

 

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