情報の開示
小説を書く上で、物語に必要な情報を開示してゆく必要がありますが、どんなタイプの作品の時に、どのタイミングで何を伝えるのか。今回は実際の作品でご説明したいと思います。
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【CONTENTS】
ハロウィンの夜
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①時期(0文字目)
ハロウィンの夜(タイトル)
この作品のプロセス公開時にも説明していますが、『タイトル』は作品にとって、とても重要なものです。
今回はタイトルで物語の時期を明らかにしているのと同時に、これがハロウィンに関するお話だと言う事がわかります。
このタイトルによって、これ以降の文字は全て本文に使える訳ですね。後は場所や人物についての情報、そして状況を明らかにしてゆけば良いのです。
②場所(183文字目)
「ハロウィンなんて、厄介なものが流行ってしまったものだな。年々参加する人数が増えてるそうだし、コスチュームやメイクもどんどんリアルになってきてるそうじゃないか」
ハロウィンの仮装パーティーの会場ですね。はっきりとそういう風には書いていないのですが、会話の流れからそれを読者の方に伝えると言う方法で良いと思います。
③人物(278文字目)
ベテランの刑事は目撃者と名乗る連中に聞き込みを続けてきたが、あまり有力な情報が得られなかった。そんな中で唯一、途中から男性の事をずっと見ていたという青年が現れたので、話を聞くことにした。
物語の始めから会話をしていた人達が、一体誰なのかと言う問題がここで明確になります。
先行して会話の部分がある程度伝えられ、後からそれが誰であったのかと言う書き方もパターンとしてはよくあります。
④状況(328文字目)
「男性の腹にナイフが刺さっていて、おまけに出血まであったのに、事件的な疑いを持たなかったのかな?」
詳しい状況は、この部分ではっきりとします。それ以前にあった会話の説明にあたる部分ですが、それを説明的にするのではなく、登場人物の会話からうまく伝えると言うのも、書く上での重要なテクニックになります。
【この物語について】
登場人物を含めた情報は、端的に表した時に比べて三倍ほどの文字数を使っています。これは、二人の人物の会話によって状況を明らかにするタイプの物語だからです。
単純計算では二人なので二倍になりそうですが、実際には事実を知っている人から情報を引き出す形になるので、おおよそ三倍前後が妥当な文字数だと思います。
この物語は刑事と目撃者との会話が殆どで場面転換がありません。 このタイプの物語の場合、展開方法が悪いと読者の方を退屈させてしまいがちです。それを避ける為の方法として、展開スピードを緩やかにして、会話の中身をユーモラスにするのも一つです。
ただし無理に緩やかにしてしまうと、かえってもたついた感じになってしまい、余計に退屈な作品になります。有効な方法として二者による会話を取り入れましたが、言葉の掛け合いで注意しなければいけないのは、聞き手の人物にオウム返し(または同等)の様なセリフを吐かせない事です。
会話文は常に先へ先へと進む内容にして、どんどん新しい情報を開示してゆかなければなりません。その事を意識すれば、テンポが良く退屈しない展開にする事が出来ると思います。
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サクラ
①②時期/場所(117文字目)
日曜日である今日、大型ショッピングモールのイベント会場の付近で、ユカはそっと待機していた。
この文章で、日曜日にショッピングモールのイベント会場に主人公がいると言うことがわかります。
ここでは、季節や時間といった部分については触れていませんが、物語に季節的な要素がどこにも必要なく、また時間に関しては、ショッピングモールの通常営業時間内でイベントが行われる時間を、読者の方が容易に思い浮かべる事が出来る場合は省略していいと思います。
小説を書く上において、特に文字数が限られている場合は、不要な部分は極力削ったほうがいいでしょう。
③人物(70文字目)
大事な出番の前、ユカの頭の中に芸能事務所の社長の声が響いた。
主人公のユカは芸能関係の仕事をしているということがわかります。
④状況(148文字)
視線の先には『サクラ』の依頼主である餅屋の主人の姿があった。
餅屋の主人にユカが『サクラ』を依頼された事がわかります。
【この物語について】
こちらの作品は『ハロウィンの夜』の半分くらいの文字数での情報開示となっています。基本的には情報開示を早めにしておき、その後の物語に文字数を使う構成にしています。
端的に表現した場合に比べ五十文字ほど多く必要になったのは、『サクラ』に関する説明的な部分があったからです。読者の方が突然『サクラ』と聞いたときに、今回の物語にある『サクラ』の意味として受け取る可能性が低く、やはり説明が必要になります。
そして、『サクラ』についての説明にあたる部分ですが、こちらはセリフから始まる展開にしています。これは説明的な流れを避ける為の工夫です。
『説明的』に感じない様にする為には、セリフを使うのが効果的です。つまり、登場人物が他の誰かに説明している構成にすればいい訳です。そうする事によって、読者の方は自分が説明を受けているのではなく、誰かが説明を受けている場面を客観的に見ている構図になり、物語に入り込みやすくなる訳です。
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ANSWER
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①~④時期/場所/人物/状況(101文字目)
アキコが二十歳ぐらいから知るショッピングセンターは、オープンから既に三十年は経つだろう。ここにはしばらく来なかったが、最近また利用するようになったのは、十年以上連れ添った夫と別れた事がきっかけだった。
この作品の場合、時期、場所、人物、状況、四つの要素が全てここまでで分かります。
物語の構成上で、特に意図することがない場合はこの形が理想的だと思います。
【この物語について】
この物語を創作した時、元々の原稿量は規定の二千文字に対して三百文字ほど多くありました。作中で最も重要な部分はショッピングセンター内での子供とのやり取りです。その話をベースとして伏線などの仕掛けが展開してゆく訳ですが、今回の物語は構成上ある程度の原稿数を必要としました。したがって、何処をどう削るのかと言う問題が出てきた訳です。
有効な方法の一つとして、情報の開示ペースを早くするのはとても効果的だと思います。単純に後の文章をそれらの展開に充てる事が出来ますし、読者の方の理解ペースも早くなるので、これは削れる個所を増やせる条件にもなる訳です。
気になった方は、これまでに読んだ事のある小説などで、情報の開示がどのように進んでゆくのか、それはどんなタイプの物語なのか、ご覧になられると参考になると思います。
次回は、ショートショート『虹色』の創作プロセス公開です。
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