R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の創作プロセスを公開しています

(初心者必見! 小説の書き方は作品から学ぼう!)番外編/創作プロセス公開済み作品集(3)

創作プロセス公開済み作品集(3)

この作品集は既に創作プロセスを公開したものですが、当ブログでも作品を読んでいただける様に編集したものです。

【CONTENTS】

 

『アイちゃん』のプロセス公開はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

イベント会場でコンパニオンの様な仕事している『アイちゃん』。でも、『アイちゃん』って本当の名前じゃないんですよね……。

 

アイちゃん

 

「アイちゃん」

 小学生ぐらいの女の子が声をかけてきたので、私はニッコリと微笑んだけど、その後は何もしなかった。そもそも『アイちゃん』は、私の本当の名前ではない。

 会社の人に同行して、コンパニオンの様な格好で笑顔を振りまきながら、パンフレットを配るのが私の主な仕事だ。

 これまで小さなイベント会場にしか行った事がなかったが、今日は国内でも有数の大きな展示会場に来ている。異業種のメーカーが一斉に新製品の発表をするとあって、平日にも関わらず大勢の人達で賑わっていた。

 来場者の多くは企業の人達で、業務の一環として訪れている。この会場は入場時に企業か一般かを申請して、それぞれ紙製のプレートを首からさげなければならない。

 企業のプレートの文字はオレンジ色で書かれていて、名刺を貼り付ける枠が設けてある。出展企業側はこれを頼りに営業トークを考える。もちろん各社は新規の有効なマッチングを望んでいる。

 一般客のプレートの文字は青色で、さっきの女の子もこちらの方だ。名刺を貼るような枠は無かったが、女の子のプレートには空白部分に『サヤカ』と書いてあった。一緒に来た親が書いた様だが、その姿は無かった。

「アイちゃんかあ」

 でっぷりとお腹の出た中年男性が呟いた後、私の前で立ち止まる。ジロジロと顔を眺めた後、ゆっくりと名刺を所定の場所に差出した。受け取った名刺を直ぐにスキャンするのも私の仕事だった。

『スギタ商事、営業本部長』と書かれていた。スキャンした文字はデータに変換され、瞬時に照合した結果が出た。既存の取引先ではないようだ。私は用意した『総合』と『新製品』、二冊のパンフレットを手渡した。

「ご来場いただきありがとうございます。こちらが弊社のパンフレットでございます」

「ふむ……。ありがとう」

 そう言いながら、中年男性はもう一度私の顔をじっと眺めてから去って行った。

 パンフレットは一般客なら『総合』のみ、既存客なら『新製品』のみ、新規の企業なら両方を渡す決まりになっている。

「このパンフレットも結構お金がかかっているからね」

 社長の言葉だった。宣伝とは言え無駄な経費は出来る限り削減しなければならない。そのため相手によって渡すパンフレットを決めているが、一般客に総合パンフレットを渡すのは、プライベートで来た人が後日、自社での導入を検討してくれる事が多いからだった。

 この仕事もすっかり慣れたが、やはり気になるのは『アイちゃん』だ。私の本当の名前ではなく、愛称? ニックネーム? まあ、そんなところだ。これだけ毎日この名前で呼ばれていると、本当の名前を忘れてしまいそうになる。

 以前、仕事の最中に具合が悪くなって診てもらった時に、本当の名前で呼ばれたが、自分の事だと気付かず返事が遅れた事があった。その時は会場内の倉庫の様な場所を借りたが、今回は各ブースに少しスタッフ用のスペースがあって、もしも具合が悪くなっても診てくれる人がそこに居るそうだ。

 今日は朝から五時間も休まず働いている。体が熱を帯びてきているように感じた。次の瞬間、急に何も見えなくなった。

 再び何かが見える様になった時、目の前にいつも私を診てくれる人がいて、私に向かって何か言っている。

「HP-04S」

 一瞬、何の事だか分からなかった。

「HP-04S!」

 人型パンフレット配布ロボット、四号機スペシャル。顔には人工皮膚を用いて、豊かな表情を作る事が出来る。最新の人工知能を搭載し、記憶・判断・学習において、もはや人間に迫る能力を持つと評される。

 所定の位置に置かれた名刺を自動でスキャンし、データベースと照合する機能も新たに追加され、パンフレット配布だけの集客ロボットから、データベースを用いた顧客管理やパンフレット配布の絞り込みによる経費削減など、付加価値を生み出し多くの予約注文を抱えている。

「HP-04S!!」

「は、はい」

 私はハッとして呼びかけに答えた。メンテナンスの時は本当の名前で呼ばれ、その反応によってある程度故障の状態を判断する。三回呼びかけても反応がない場合は重度の故障が考えられるため、精密検査が必要となる。その場合しばらく仕事が出来なくなるが、今回はきっと大丈夫だろう。

 一つ前の三号機と比較して、よりしなやかな動作が出来るよう、人間よりも腕の関節数を増やした事が特徴的で、末尾には『S』が付けられ『スペシャル』の他に『スムーズ』『スキャン』の三つの意味を持つ。

 人工知能の『AI』から、そのまま『アイ』と社長から名付けられ、一号機から私達の愛称はずっと『アイちゃん』だ。

 これだけ毎日『アイちゃん』と呼ばれると、私は本当の名前を忘れてしまいそうになる。

 

 

 

 

 

『超予測変換』のプロセス公開はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

最近普及し始めたスマートフォン用アプリの『超予測変換』。そのアプリを使って小説を書き始めた主人公は、次々と作品を仕上げてコンテストに応募し、入賞作品も徐々に出始めるが……。

 

超予測変換

 

 最近はスマートフォンの性能も随分と良くなった。普及率もどんどん上がり、持たない人が少数派に追いやられるばかりだ。使えるアプリも増え続け、便利な世の中になったものだと思う。

 ワープロの様な文字編集専用のテキストエディタなどは、小説を書く人によく利用されるようだ。それらと連動する文字の変換機能も重要な性能で、特に『予測変換』などは入力がスムーズに行えるようになって便利である。

『超予測変換』は最近普及し始めた無料のアプリで、画面の一部に常時広告が表示されているが、基本的な機能は普通に使う事が出来る。スマートフォンの基本的な変換機能を更にアシストするらしい。

 人工知能によって学習を重ね、そのユーザーに合った仕様に成長してゆくので、それぞれ予測される文字も異なり、それも面白い。

 趣味で小説を書いている私は、早速このアプリを試す事にした。

『超』が付くほどの変換機能とは一体どの様な物なのかと、最初はそれほど期待もせず使ってみたが、ある程度経ってそれがとても素晴らしいものだと感じた。

 最初は人工知能も学習前なので、私が何を書くか分からない。だから先ずは予測変換に頼らず、自分の頭で考えた小説を書く事から始めた。

 すると、どうだろう。数行目からは小説で使えそうな言葉を上手く用意してくるではないか。私がその中から物語にふさわしいものを選んでゆくだけで、いつの間にか一編の短い小説が出来上がっていた。

 このアプリのお陰で小説が次々と書けるようになった。執筆ペースが上がったので、それらをコンテストに応募する事にした。

 そして中には入賞する作品も出始めた。アプリの学習が優秀なのは言うまでもないが、それを使う私の方もコツを掴んできたようで、作品のレベルは徐々に上がり続けた。

 毎月決まって応募するようになったネット上のコンテストがある。ここでは毎月課題が一つ出され、それに合った作品を募集している。出される課題は様々で、それを難しいと思うかどうかは書く人によって違ってくる。

 今回の課題は『五〇四号室』だった。なかなかアイデアが出ない。しかも、その番号は偶然にも私が住んでいる部屋と全く同じだった為、余計な情報を盛り込んでしまいそうで、書く事を妨げる材料の一つになった。

 今回は全面的にアプリに頼ろうと思い、とりあえずタイトルを『五〇四号室』として、何かヒントを探る事にした。すると色んな変換候補が表示された。このアプリの表示部分は通常の二倍ほどあって、それらの中から『その男は』を選んだ。

 通常はここで再び何かのキーをタップしない限り候補は出てこないが、このアプリは次々と候補が出る仕組みになっている。物語として繋がりそうな言葉を順番に選んでいった。


”その男はマンションの部屋に一人で住んでいた“


 書き出しはありきたりだった。しかし、肝心なのはこれからだ。次に出てくる候補によって話の展開は随分と変わる。何が出てくるかも大事だが、それをどう選ぶかも作者の腕の見せ所だ。私は次々と言葉を並べて話を進めていった。話が中盤にさしかかった頃の物語は次の様になっていた。


”警察から逃げた強盗犯は各地で空巣や引ったくりを繰り返し、徐々に逃走経路が明らかになる一方で、未だ逮捕には至っていない“


 何処かで聞いたような話だったが、気にせず言葉の選択を繰り返した。いつもこうして書き進めるが、この作業中は読者の様な気分になる。それは自分で話を書いている感覚が薄いせいだ。全て自分で考えたのでは、こうはならないだろう。

 ここまでの話はこうだった。警察から逃げた強盗犯が各地で犯行を繰り返し、今は主人公の住んでいる地域をウロウロしている。逃走に必要な金を得る為、周辺を物色しているのだ。狙っているのはセキュリティのあまい場所ばかりだ。

 一方、主人公の男は作家を夢見て、日々スマートフォンで小説を書いている。二人には接点は無く、これからの展開が楽しみだった。


“マンションにはオートロックはなく管理人も居ない”


 ワンルームマンションにはよくある事で、私の住むマンションもそうだった。

 

“五階の奥の部屋へと犯人は進んで行き、犯人は鍵のかかっていないドアを開けて部屋の中の男にナイフで襲いかかった”

 

 まるでこの部屋の事の様だったが、鍵はいつもかけてある。

 でも待てよ。今日はコンテストの締切が近く、急いで書き始めたから鍵は......。

 次の瞬間、リアルに私の部屋のドアが開き、背中を激しい痛みが襲った。

 

 

 

 

『五点着地』のプロセス公開はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

戦隊ヒーローの一員だった主人公は、メンバーの中で一番人気が無かった。現状では先々自分が俳優としてやってゆく自信が持てず、先輩に相談を持ちかけるが……。

 

五点着地

 

「先輩、それをマスターすれば本当に大丈夫なんですか?」

「ああ。絶対とは言えないけど、今のままじゃダメなのは間違いないね」

「そうですか......」

 戦隊ヒーローのメンバーであるトモヒロは、五人中の五番人気、四番目は紅一点のチカちゃんだった。

「アクションがイマイチな女子より人気がないの?」

 トモヒロの彼女が放った一言は、彼に大きなダメージを与えた。まるで怪人達のボスキャラ並だ。

「ヒロインって結構人気が出るものなんだ。小学生ぐらいの男子って、強さに憧れる一方で既に『男』の部分を持ってるんだよ」

「へえ、そうなの? 私は貴方に『男』を全然感じないけど……」

 自分を理解してくれない彼女に少し苛立ちを覚える。だからと言って彼女に戦いを挑むのはあまりに危険だ。それは戦隊ヒーローならではの勘だった。

 トモヒロは今の番組をきっかけに、本格的な俳優業へのステップを夢見ていたが、放送も終了間近と言うのに、トークやバラエティ番組に呼ばれた事は一度もなかった。

 先々のスケジュールも白紙に近い。俳優業に反対している彼女に、仕事を続ける相談など出来る筈もなかった。仕方なく相手に先輩を選んだが、決してベストな選択でない事は分かっていた。

「俺たちの時代は適当に小芝居やってりゃ、変身後はスタントマンがカッコよくアクションやるから、子供達は同じ人だって信じ込んでたよ。その辺のカラクリが分かる頃には番組も観ないしね」

「当時はあまりアクションは無かったんですか?」

「殆どね。変身前は普通の人間の設定だし。でも変身ポーズだけはカッコ良くやる練習してたよ。なあなあ知ってる? 当時は仮面に似せたお面がよく売れたんだぜ!」

「はあ……」

「今は変身ベルトもカラーで光るみたいだし、武器もテレビとそっくりのが売ってるよ」

「先輩の時代の変身ベルトって、風車みたいなのがグルグル回るやつですか?」

「ん? それはバッタを模した一号とか二号とかの話だろ? 俺たちは五人組戦隊モノの後継者なんだから、お前が知らなくてどうする! まあ、人数は増えたり減ったりしたけど」

「もちろん先輩は一番人気だったんですよね?」

「俺は……。五番人気だよ」

「ええ?!」

「あのさあ、当時は三枚目のキャラってのもあったから、それを誰かがやらなきゃ」

「じゃあ、その役を買ったって事ですか?」

「そ、そうだな。あの役はヒーローなのにちょっと小太りなんだよ。俺ってさあ、体重自由に操れる方じゃん」

「え? 初めて聞きましたけど」

「ほら、いつだったか病院で会った事があっただろう? あの時、俺すっごく痩せてなかったか?」

「それは多分、病気のせいで……」

「何言ってんだ! 退院してから半年後ぐらいに会った時、また体重増やせてたろ?」

「それは単に体重が戻っただけじゃ……」

「お前は何も分かってないね。更に三ヶ月ぐらい後に会った時には、もっと体重を増やせたんだぜ!」

「それって完全にリバウンドじゃ……」

「とにかく俺みたいに努力してりゃ、その内いい事があるって話だよ」

「はあ、そうですか……。ところで最初の話って何でしたっけ?」

「最初? えーと……。『五点着地』の話かな?」

「ええ。それです。その技の効果って……」

「五点着地ってさ、高い所から落ちた時なんかに、転がりながらスネから肩までの五ヶ所を使って、衝撃を和らげるテクニックなんだ。それをスタント無しでお前がやるんだよ。視聴者だって映像見てりゃ、ガチのアクションだと気付いて、人気も回復するさ」

「要は力を分散するって事ですよね?」

「そうだよ。だから一ヶ所ずつの衝撃は大した事がないんだ」

 トモヒロは考えた。今日の話のポイントは何? そして着地点は何処?

 戦隊ヒーローをステップに本格的な俳優を目指したいと言っているのに、なぜ今更アクションをなんだ? 残りの放送分も既に収録済みと伝えた筈だ。

 先輩の話はいつもこうだ。ひょっとして、これが五点着地? 要点が分散され、何のインパクトも相手に与えない。

 ついでに言うと、先輩は戦隊ヒーロー以来テレビの仕事は無く、アルバイトで食い繋いでいる。一度もおごってもらった事はなく、いつも気付けば伝票を手にレジで勝手に『別会計』と告げている。こんな人になってはいけないのだ。

「先輩、今日のコーヒー代は僕が払います!」

 トモヒロは不意に立ち上がり、テーブルから伝票を拾い上げた。

「あっそう? いやー悪いねえ。まあ今日の授業料だと思えば安いもんだろ?」

 既にレジへと向かっていたトモヒロに、その言葉は届いていなかった。

 トモヒロはようやく自分の着地点を見つけた気がした。

ー戦隊ヒーローは卒業しようー

 喫茶店の前で先輩にお礼を言った後、トモヒロは最寄りのハローワークを目指した。

 

 

 

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