ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(『神様』がテーマの作品例)小説投稿サイト時空モノガタリ未発表作品(3)/視点

 (番外編)未発表作品/視点

 

出版社の編集長に直接会って話したいと言う男。クオリティの低い原稿と共に現れ、上手く編集長に会うことは出来たが、男の目的とは一体何なのか……。

 

視点

 

「あのー。神様視点って分かります?」

 出版社の編集長は、少々困った表情で私に問いかけた。

「はあ、何となく」と私は答えたが、正直なところあまり自信が無かった。

この問いに至るまでに、やたらと専門用語を列挙していた編集長は、きっと私を説き伏せたいに違いない。

「あまり理解できてないようだから言いますけど、神様視点ってのは、主人公が見たり聞いたりしてない第三者の視点から、その内面を描いたりする事で、要するに『神様』みたいに何でもお見通しの視点から物語を書くって言う意味ですよ」

「はあ……」

「貴方が持ち込んだ原稿の中身は、全体的にその傾向がありますね。私は少し読んだだけで、そういうのが全部わかるんですよ」

 編集長は『小説の事なら何でもお見通し』の視点から言葉を放った。会話の中で私が曖昧な反応を示した言葉について、こうやってひとつずつ説明を加えてくる。しかし、私にとってそれは、あまり意味のない事だった。私の目的は編集長と話す事なのだから。

「とにかく、今日のところはこれでお引取り願えませんか。私も色々と忙しい身なんでね」

 そう言って編集長は私に帰るよう促した。私が用意した原稿が、あまり良くなかったかもしれない。編集長に会う事ばかり考えていた為、肝心な原稿が中途半端な物になってしまったようだ。

 しかし、このまま帰る訳にはいかない。この編集長に、どうしても私の頭の中にある事を伝えたかったので、尚も私は食い下がった。

「いえ。まだ肝心なお話が……」

「だから、さっきも言った通り、才能無いと思いますよ。大体、小説の基本が全く出来てないし、視点だって理解してないでしょう?」

「ですが、重要なのはその部分じゃなくて」

「いえいえ。これってとても重要な事なんです。小説という物はね、視点によってどれだけ読者を物語の中に引き込むだとか、作品は全部で何枚ぐらいを想定してるとか、展開はどの辺りにするとか、登場人物の性格はどんなタイプにするとか、必要な要素は沢山あるんですよ」

「それはそうかもしれませんけど」

「それにしても、よくこんな方法で原稿を持ち込もうと思いましたね」

「ですから重要なのは、私が編集長にお話するって事でして」

「そう、そこが一番の問題点。出版社に電話して、何か理由をつけて原稿を見てもらおうって人、たまにいるんですよ」

「いえ、私はそんなつもりじゃなく」

「はいはい、確かにそんなつもりじゃないですよね。貴方の場合は原稿を見せる事じゃなく、話で何とかしようと思っていた。だったら、もっとタチが悪いですよ。

「タチが悪いだなんて……。むしろ私はいい事をしようと思って」

「いい事? 電話口でいきなり『編集長に大事な話がある』なんて言っておいて? 正直こっちはいい迷惑ですよ」

「ええ。それは確かに言いましたけど……」

「ほら。そんでもって名前を聞いたら、ウチで本を出してる作家さんとそっくりな名前だったんで、電話に出た若い子が聞き間違っちゃって、私はすっかりその人かと」

「ええ。それは申し訳ないと思っています」

「だけどね、私もスケジュール空けちゃったから、人違いでもいいから、サービスで原稿を見てあげようと思ったんですよ。そしたら、こんな感じだったでしょう。正直がっかりですよ」

「いえ。ですから、これには深い訳が」

「いいんですよ、もう言い訳とかは。とにかくウチは原稿の持ち込みは受付けてないし、ましてや私が直接素人の原稿を見る機会なんて本当は無いんですよ。今日の貴方はとてもラッキーだったのに。でも残念でしたね。千載一遇のチャンスを逃しましたね。せめて原稿のクオリティがもっと高ければねえ。いいお話も出来たかもしれなかったんですがね。ホント残念ですよ」

「やっぱり、お話は聞いて貰えませんか」

「貴方もしつこい方ですね。すみませんが、後の予定がつかえてますんで、これで失礼しますね」

 そう言って、編集長は部屋を出て行ってしまった。その場に一人きりになってしまった私は、仕方なく出版社を後にする事にした。

 私には見えていた。今日、編集長が命の危険にさらされるのが。しかし、彼は私から直々にその情報を得るという、千載一遇のチャンスを逃したのだ。

 視点の話をしていた様だが、一体どこが間違いだったのだろう? 何でもお見通しなのは、私にとってごく普通の視点なのに。

 

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