ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(『話を聞かない人』がテーマの作品例)小説投稿サイト時空モノガタリ未発表作品(2)/消去ボタン

 (番外編)未発表作品/消去ボタン

ファミリーレストランの奥にある喫煙席で、何やら怪しい男が二人で機械の様な物を見ながら話し合っている。彼らは一体何者なのか。

 

消去ボタン

 

 

 

 ファミリーレストランの一番奥にある喫煙席で、今日この場所に最もふさわしくないと思われる二人組の男が座っていた。

 初夏だと言うのに、外は既に真夏の日差しで、毎年最高気温を記録する地域では、去年の記録を塗り替えるほどの暑さだった。

 その為、世間の人々は半袖姿で過ごす中、上下黒ずくめのスーツ姿の二人は、明らかに周囲から浮いている存在だった。

 奥側のゆったりした席で反り返っているのがボスで、突き出た腹をさすりながら、目を細め、煙草をふかしている。浅黒い顔にヒゲを蓄え、いかにもそれらしい風貌だった。

 一方の子分は、それとは対照的な青白い肌に細身のスタイルで、気が弱そうなルックスは、子分以外の何者でもなかった。

 二人に挟まれたテーブルの上には、電子工作でよく見かける様な、アルミケースを加工した装置が置かれていた。

 中央部分に大きな押しボタンがあり、側面からは筒状の部品が二センチほど突き出ただけの、極めてシンプルな代物だった。ボスはそれを手に取り子分に話かけた。

「お前、よくぞこいつを手に入れてくれたもんだ。大した手柄だぞ」

「ありがとうございます」

「俺たちの組織の中で、ハードな仕事が一番似合わないお前の扱いには、正直困ってたんだが……。研究所に潜り込ます手があったとはなあ」

「ええ。周囲の人達からも、白衣がよく似合うと言われました」

「ああ、俺もそう思うよ。まるで本物の研究者のようだ。それはそうと、この装置があれば、本当に気に入らないヤツを消す事が出来るんだろうな」

「ええ、真ん中にあるボタンを押すだけで。向こうではそのボタンの事を『消去ボタン』って呼んでましたね」

「『消去ボタン』? 随分シンプルな名前だな。それより、効果の方は確かめてきたんだろうな」

「ええ、もちろんです。先端にある筒を相手に向けてボタンを押せば、そこから光線が出るんです。ただ、その時に注意しないといけない事が……」

「おいおい、そんな説明は要らないぞ。こんな簡単な装置の使い方ぐらい、見れば分かるってもんだ。それより、こいつを早く試してみたいんだがな」

 ボスが人の話を聞かないのは、いつもの悪い癖だった。無理に説明しようとすると、かえって面倒な事になる。仕方なく子分は説明を後回しにして、自分の大事な用件を先に伝える事にした。

「ええ。それは構いませんが、今回の手柄で来月から給料上げてもらえるんでしょうね」

「給料だと? 大体、その言い方が気に入らねえな。一般企業じゃあるまいし」

「要はお金の事ですよ。半年もあんな所にこもって頑張ってきたんです。この装置を手に入れたら、すぐに上げてくれるって話だったじゃないですか」

「すぐにって、お前。ベースアップなんてもんは、一般企業じゃ年に一回ぐらいのペースが基本だろ?」

「そんな。さっき一般企業じゃないって……」

「まあ、そう焦るなって。ちゃんと効果を確認したら、そのうち上げてやるからよ。お前が言う『給料』ってやつを」

 ボスの言い回しでは給料アップは期待出来そうになかった。これまで何度も裏切られている。子分は不信感でいっぱいになった。子分の気持ちなどお構いなしに、ボスは問題の装置に手を伸ばした。

「さてと……。さっきから店の隅っこで騒いでるガキどもで、まずは効果を試してみるか」

 そう言ってボスは、コーナー席ではしゃぐ女子高生グループの、一人をめがけて『消去ボタン』を押した。しかし、狙った相手の横に居た女子高生が消えた。

「あれ? ズレてるじゃねえか。お前、ちゃんと調整も出来てない装置をつかまされたんじゃないのか!」

「ま、待ってくださいボス。その装置の使い方はそうじゃなくって……」

「うるせえ、やっぱりお前は役立たずだ!」

 そう言ってボスは子分に装置を向けた。

「ダメです! ボス、そんな事しちゃ!」

「うるせえ! 照準がズレてたって、至近距離じゃ大丈夫だろう。お前みたいな役立たずなんか消えちまえ!」

 ボスは子分に狙いを定め、『消去ボタン』を押した。

 ボスが聞かなかった重要な説明とは、装置が向けられた人が消えて欲しいと思った相手に効果が現れるという事だった。

 そして、子分に不信感を抱かれていたボスは、その場から消えた。

 

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