ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(#驚きの擬似体験!感覚がリアルに!『夢』がテーマの作品例)新作ショートショート(29)/Real Dream

新作ショートショート/テーマ(夢)

 

Real Dream

 

 

「夢を見た時に、実際にその事を体験した様な感覚になる事はありませんか?」
 フジモトはたまたま目にしたチラシでこの場所を知った。雑居ビルの五階にあるこの会社は、あるサービスを提供している。
「ああ、それはあるね……。何か物に触れたりすると、本当に触った感じになったり……」
 決して広くないフロアは、客同士が全く顔を合わせなくて済む様、しっかりと区切られ、完璧な防音対策で隣部屋への音漏れも無かった。フジモトが入った個室の中では、男性スタッフと二人きりだ。
「そうでしょう! この装置は、それを擬似的に作る事が出来るんですよ」
「へえ、そんな事できるんだ!」
 個室に響き渡るほどの大声で会話する二人。しかし、周囲の客には全く聞こえていない。
「例えば自然に夢を見た時にでも同じ様な感覚にはなりますが、普通に人は、自分が望んだ夢を見る事が出来る訳ではありませんよね? しかし、この装置なら可能です。どうです? 実際に体験してみませんか?」
「ああ、是非やってみたいものだね」
「ではどうぞ、こちらにお掛け下さい」
 フジモトはスタッフに言われた通り、高級なマッサージチェアの様なイスに、深々と腰掛けた。
「ちなみに料金は?」
「一回千円です」
「たった千円? そんなに安いんだ!」
「ええ。我々のサービスは『夢を売る事』です。少しでも多くのお客様にそれを提供出来る様、日々、企業努力を重ねた結果でございます」
「ほお、それは素晴らしい」
「では早速、始めてみましょう」
「じゃあ、お願いするよ」
 出不精のフジモトは、旅行など全く無縁だった。しかし、実際に自分の目で見たい物があった。それは『サグラダ・ファミリア』だ。
「とりあえず、バルセロナに……」
 フジモトは見たい夢の詳細をスタッフの男性に告げた。イスの横に設置された機械のスイッチ類を幾つか操作すると、鈍い動作音と共にイスが小さく振動し、やがてフジモトは眠りについた。
 次の瞬間、これまで写真でしか見たことがない、あの『世界遺産』が目の前にそびえ立っていた。
「おお、これは!」
 スペインのバルセロナにある『サグラダ・ファミリア』は、世界的建築家である『ガウディ』の最高傑作だ。写真の中でさえ、強烈な存在感をアピールするあの建物たちが、フジモトを飲み込みそうな勢いで迫って来る。
 全てが『現実世界の出来事』としか思えない。たまらなくなったフジモトは、その中へと入る。
「な、なんてこった……」
 フジモトは声が出なかった。曲線に次ぐ曲線が織りなす造形が、この世の物とは思えない美しさを放ち、ステンドグラスを透過した光は『神の色』をしていた。
 記憶にある『あの建物』の、外観であれば、現物がリアルで迫力があるのは当然だ。しかし、中の光景となると、まるで『別世界』だが、まさに今それを『体感』出来ているのだ。
 本来これは現地でなければ不可能な事だ。しかし、このサービスは、それをリアルに再現している。
「す、素晴らしい……」
 フジモトはこのサービスをすっかり気に入ってしまった。
「つ、つぎは『パイロット』になりたい! 子供の頃からの夢だったんだ!」
「かしこましました」
 フジモトの口調は無邪気な子供の様で、興奮を抑えられないのは明らかだ。
「つ、次は!」
 このサービスについてまだ半信半疑だった時には、騙されたと思って一つだけ頼むつもりだったが、実際に良さを知ってしまった途端、次から次へとリクエストを繰り返し、簡単にそれを止める事が出来なくなっていた。
 ここに来てから、一体どれ程の時間が経過しただろう。フジモトの体感では、おおよそ一時間。中には長い夢もあったから、大体そんなものだろう。あまりの楽しさに、気付けば何度もリクエストしてしまった。しかし、得られた満足感はとても価値のあるものだ。
 フジモトは満面の笑みを浮かべながら、椅子から立ち上がり、ゆっくりと会計に向かった。
「いくらかな?」
「合計で、一万円でございます」
「ああ、そんなにリクエストしちゃったんだね……。でもいい体験が出来たよ。どうもありがとう」
 フジモトは清々しい顔で雑居ビルを後にした。
 フロアに残ったスタッフは、次の客を迎える準備を始める。
 先ほどフジモトに要した時間は、僅か五分。十回分のサービスを受けた記憶を、まとめて脳内にインプットするのに、これは平均的な時間である。
 短時間で多くの収益を得ているこのサービスは、『全国制覇の夢』を『リアルに実現』しようとしている。

 

 

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