ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(売れる小説を書くためのヒント)コラム/人称の問題(後編)

コラム/人称の問題


今回比較する作品ですが、『習慣』は『一人称』で『ごくありふれた殺人』は『三人称』です。そして、後者は三人称でも『単一視点』である為、違いが少し分かりにくいかもしれませんが、順番に解説したいと思います。

 

【CONTENTS】

 

ショートショート『ごくありふれた殺人』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

ショートショート『習慣』の全文はこちら↓↓↓

rhirasawanb.hatenablog.com

 

それぞれの『文』と特徴

 

【一人称】
 モリタは以前のものより頑丈そうになった車のドアを開け、『マエダさん、どうぞ』と、私を迎え入れた。

主人公:私(マエダ)
一人称なので主人公は、私(僕など)になります。基本的に『私』が見聞きした事しか書けない訳ですが、この場合の内面描写は読書の方に最も近く、主人公の心境に共感を得やすい書き方です。


【三人称】(単一視点)
 スマートフォンの検索サイトを開くと、自動的に流れるネットニュース。ワタナベが何気なく読んでいた記事を、会社の同僚であるコジマが横からすうっと覗き込んで来た。

主人公(ワタナベ)
三人称ですが、単一視点である為、『ワタナベ』が見聞きした事しか書けません。
また、視点を置いている主人公『ワタナベ』は、自分の事を『私』や『僕』と書けないのですが、立ち位置の表現は必要です。それは何かの動作等で可能になります。

 

会社の同僚であるコジマが横からすうっと覗き込んで来た。

『ワタナベ』からの視点では『コジマ』の動作に対して『受け身』な表現になる為、前述の様な描写になるのです。

 

『覗き込んで来た』→『覗き込んだ』

この様に書くと、視点の置かれている位置が曖昧になります。

 

それぞれの『視点』

 

【一人称】
モリタは考え事をしていた私の様子を伺いながら、タイミングを見計らって話して来たようだ。

 

『私』(主人公)の視点から、『考え事をしていた』は判断が出来る内容です。
しかし、『タイミングを見計らって話して来た』は推測なので、最後に『ようだ』となる訳です。
表現としては前者の方が強く、後者の方が弱くなります。例えば物語の中で、作者が強く訴えたい内容に触れる部分がこの位置あり、視点を置いた人物のセリフや行動によってそれらを表現したいのであれば、他の部分を調整してでも『一人称』を優先させるべきでしょう。

 

【三人称】(単一視点)
コジマは電車の中で、例の話題に触れてこなかった。言葉数が急に少なくなった。もしかしたらワタナベの態度に、少し気を悪くしたのかもしれない。

 

『ワタナベ』(主人公)の視点から、コジマの『言葉数が急に少なくなった』は確認出来る内容です。しかし、『少し気を悪くした』は推測なので、『かもしれない』が後に続く訳ですね。前述の内容と同じく、表現としては『弱い』ものになります。
後で触れますが、この作品ではこれらの問題以上に『オチ』に重点を置いた為、三人称で書くことに決めたのです。

 

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メリットとデメリット

 

メリット
【一人称】
視点を置いた人物が読者に近い為、リアリティや感情移入と言った面の効果が出やすい。

 

私はもう一度、後部座席側のドアを開けて上着を取り、モリタに礼を言ってから別れた。その時、少し急いでいる旨を伝える事を忘れなかった。そして車を離れ、直ぐに早足で歩き出す。モリタが内ポケットに財布を入れたまま上着を脱ぐのは、以前からの私が知る『習慣』だった。

ここは『オチ』に関する重要な部分なのですが、主人公のとった行動等が、この視点からしか描けない事と、ここに至るまでの二人の関係性を、この視点から伝える事で、『オチの効果』を狙っているのです。

 

【三人称】
視点の移動が可能。主人公以外の人物から内面を描く事が出来るので、その方面の制約が少ない。

 

ほどなくして、二人が降りる駅に着いた。ここの改札を抜けると、コジマとは駅で別れて、互いに反対の方向に向かうのだ。いつも通りワタナベが南に向かうと、コジマも後に続いた。

この作品に視点移動はありませんが、三人称で描く事によって『引きの画』と言うイメージが作れます。『オチ』は『フェードアウト』や『エンドロール』の様な印象になるイメージで描いています。これも『三人称』であるからこそで、一人称でも書けた作品を三人称にした大きな理由なのです。


デメリット
【一人称】
視点を置いた人物以外の内面描写が出来ない為、他の人物の内面はあくまで『推測』としての書き方になる。その為、リアリティに欠ける場面も出てくる。

 

モリタの表情が一瞬曇った。同じ職場にいた頃、少なくともモリタは自分が周囲の誰よりも優秀だと思っていた様だし、他人が自分より上に来るのを極端に嫌う傾向があった。
 それからしばらくの間、会話が途切れた。しかし、モリタが再び話し始めた。こちらが気持ちを察するのを警戒したに違いない。

モリタは主人公のマエダが独立したのだと思い、それに嫉妬心を抱きます。少なくとも彼は自分の方が周囲の誰よりも優秀であると思っているからです。このような感情を描く場合、本来であれば嫉妬心を抱いている本人の内側からふつふつと湧き上がる状態がリアルで良いのだと思います。しかし、この物語は一人称で書かれている為、それが出来ないのです。その結果、視点を置いている主人公から見た相手の表情や態度から受ける印象に対する『推測』となってしまうのです。『推測』である以上、実はそれが間違いである可能性もあると言う事です。


【三人称】
視点移動による描写によって、複数の人物の内面を描く事が可能だが、書き方を工夫しなければ、読者の混乱を招く。また、視点が単一の場合は一人称に比べ、読者との距離が遠く感じる為、感情移入しやすい書き方の工夫が必要。

 

「そうだよなあ。君はさあ、もし自分の大事な人が殺されたとしたら、どんな気持ちになる?」
 コジマが話題を掘り下げてくる。この手の話が苦手なワタナベは、何とか流れを変えようと考える。

この物語は主人公の『ワタナベ』の視点で書かれていますが、この様なやり取りの場合、読者の方は混乱しかねない流れです。あくまで視点が『ワタナベ』にある事を示す工夫としては、以下のような書き方をしています。

 

コジマが話題を掘り下げてくる

この部分の『掘り下げてくる』は受け身です。つまり、コジマのセリフを受けている相手に視点がある事になります。

 

この手の話が苦手なワタナベは、何とか流れを変えようと考える

『◯◯と考える』の様な書き方は、本人の『意思決定』です。つまり、この部分も『ワタナベの意思決定』なので、やはり視点は主人公である『ワタナベ』にあると言う書き方になるのです。

 

 

そして最後に

 

人称の問題は、単に書きやすさだけで選ぶものではなく、その物語の『構成』や『意図』を十分考慮して決めるのが良いでしょう。作者として、読者に伝えたい・訴えたい事が何であるのかを考えた時、おのずとその方向性が決まってくる筈です。

それらを考慮したうえで、最も適していると思う『人称』を選んで書き進めるのが最も良い方法であると思います。


次回は、ショートショート『習慣』の創作プロセス公開です。

 

 

 

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