R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(『ネットニュース』がテーマの作品例)新作ショートショート(13)/ごくありふれた殺人

 新作ショートショート(13)/テーマ(ネットニュース)

 

 

 

ごくありふれた殺人 

 

 

 

 スマートフォンの検索サイトを開くと、自動的に流れるネットニュース。ワタナベが何気なく読んでいた記事を、会社の同僚であるコジマが横からすうっと覗き込んで来た。
「どうした? 何か面白いニュース?」
「いいや、よくある事件だよ。マンションの部屋の中で人が殺されていたのを、会社の人が訪ねてきて見つけたってやつ」
「ああ、よくあるね。だから、どれがどの事件の事だか、後で聞いても分からない時があるよ」
「そうなんだ。最近は殺人事件が多すぎるから……」
 仕事帰りの電車の中、二人の会話は周囲のそれに紛れている事だろう。だからと言って、ワタナベはあまり物騒な話を電車の中でするのは気が進まなかった。
「でも、赤の他人にとってはどれも同じ事件の様に思えるかもしれないけど、家族や親戚にとっては特別な事件だよね。当たり前の話だけど」
 尚もコジマは話を続ける。仕方なくワタナベは、その話に付き合う。
「ああ、もちろんそうだろう。だって自分の大事な人が殺されたんだ。特別に決まってるだろうね……」
「そうだよなあ。君はさあ、もし自分の大事な人が殺されたとしたら、どんな気持ちになる?」
 コジマが話題を掘り下げてくる。この手の話が苦手なワタナベは、何とか流れを変えようと考える。
「なあ、あまり物騒な話、やめにしないか? ほら、ここって電車の中だし……」
「別に誰も聞いてやしないよ。いいから続けよう」
「いや、俺はもういいよ。あんまりしたくないんだ、こう言う話」
 コジマの目をじっと見ながら、ワタナベは言った。そしてコジマは黙った。
 コジマはワタナベより一年ほど後に入社した後輩だが、年齢は三つほど上だった。しかし、どこか幼い部分もあって、普段の会話は同い年の友人の様だ。
 部署が違ったので、仕事上のやり取りはないが、家からの最寄り駅がたまたま同じだったので、電車で乗り合わせる事があり、自然と話す様になった。声をかけて来たのはコジマの方だ。
 コジマは時々、周りの空気が読めない事がある。自分が興味のある話になると、まるで周囲が見えなくなるのだ。その影響もあってか、友達も殆どいない様子だった。
 実はワタナベにも、似た様な部分がある。何かに没頭する傾向があって、特に女性関係は苦手だった。
 自分の事をするのに精一杯で、相手の気持ちに対して鈍い部分がある。ルックス的には女性受けする方だったが、いつも決まって長続きしなかった。プライドの高さも邪魔をしていたに違いない。
 ワタナベ自身も、今の会社に特別親しい友人は居なかった。自宅の方向がコジマを除く周囲の人達と、まるで離れた場所にあったし、そもそも人付き合いが苦手だった。
 もしもコジマが声をかけてこなかったら、二人の関係も無かったに違いない。
 コジマは電車の中で、例の話題に触れてこなかった。言葉数が急に少なくなった。もしかしたらワタナベの態度に、少し気を悪くしたのかもしれない。
 ほどなくして、二人が降りる駅に着いた。ここの改札を抜けると、コジマとは駅で別れて、互いに反対の方向に向かうのだ。いつも通りワタナベが南に向かうと、コジマも後に続いた。
「あれ? どうしたんだい?」
 いつもと違うコジマの行動に、ワタナベが尋ねる。
「今日はこっちに用があるんだ」
「へえ、そうなの?」
「買いたい物があってね」
 コジマが名を挙げたコンビニは、北側には無かった。今日はそこで限定スイーツを買うそうだ。
「男なのに『スイーツ』かよ」
「ああ……」
 この辺りは未だ田んぼや畑が幾つかあって、コンビニまでの道のりは薄暗い。
「妹がさあ……。好きだったんだよ。『スイーツ』」
 次の瞬間、コジマがワタナベの首を締めつけてきた。
「やっと掴んだんだ。妹を殺った犯人の証拠!」
 ワタナベは薄れゆく意識の中、当時の出来事を思い返した。
 隣街に住んでいた時、偶然電車で見かけた女性に心を奪われ、同じ駅で降りた。普段は降りないこの場所で、不慣れな女性の誘い方は相手を警戒させ、結果的に大声を上げられた。
 慌てて黙らせようと、夢中で口を押さえた。気付けば女性はぐったりしていた。ワタナベは気を失っただけだと思い、その隙に逃げた。
 次の日、ネットニュースで女性が死んだ事を知った。
ーコジマの妹だったと言う事かー
 女性とワタナベには接点が無く、事件は未解決のままだった。
 コジマは更に強くワタナベの首を圧迫してくる。
 ワタナベが殺された場合、コジマとは繋がったとしても、その妹とは繋がらない。
 今日、新たに起こりつつある『ごくありふれた殺人』は、後日溢れ返るネットニュースの中を、静かに流れてゆくに違いない。

 

 

 

 

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